学位論文要旨



No 111284
著者(漢字) 金,柔姃
著者(英字)
著者(カナ) キム,ユジョン
標題(和) 低質木材原料をローラー圧潰して作るゼファーストランドをエレメントとする新しい構造用木質材料の開発に関する研究
標題(洋) A Study on Structural Wood-Based Materials Made from Zephyr Strands Obtained by Crushing Low-Quality Wood with Rollers.
報告番号 111284
報告番号 甲11284
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第1575号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 林産学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大熊,幹章
 東京大学 教授 岡野,健
 東京大学 助教授 有馬,孝礼
 東京大学 助教授 小野,拡邦
 東京大学 助教授 太田,正光
内容要旨 【緒言】

 本論文は、低質木材資源をローラーで押しつぶして得られる網状連続シート、すなわちゼファー(Zephyr)を幅方向に細かく裁断して得られるゼファー細断束(Zephyr strand)を用いる新しい構造用木質材料の開発に関するものである。

 ゼファーは木質材料を構成するエレメントとしては木材繊維が軸方向に長く連続しているという特徴から、これらを用いて製造するボードが、合板に匹敵する性能を保持することが予測されるが、大きなゼファーシートをフォーミングのラインの中で動かすことが難しいこと、また、厚くて棒状であるゼファー形状によりエレメント間の接着性能の低下、表面平滑性の低下、さらにローラー圧潰によるゼファー内の破壊の影響で剥離強さと耐水性が小さいなどの問題点がある。

 そこで、本研究では長いゼファー繊維の特徴をそのまま生かしつつ、フォーミングの自動化が可能となることを想定した細長いゼファーストランドをエレメントとしたゼファーストランドボード(ZSB)製造の有効性を検討するとともに、上記した問題点を解決し、ZSBの性能向上することを目的とした。また、板状材料のみでなくゼファーストランドを平行に積層して作る、いわゆる軸材料の製造および性能実験も試みた。

【ZSBの基本的材質とゼファー細断束の幅が材質に及ぼす影響】

 370mm X 370mmのボードを製造したがこの際、ワン・ピース(one piece)のゼファーシート(Zephyr sheet、幅370mm)とゼファーシートの幅を10-30mm、50mm、70mmに裁断したゼファーストランドをエレメントとしてボードを製造して各種試験を行い、材質を比較検討した(長さは全て370mm)。樹種はヒノキ、接着剤にはフェノール樹脂(含脂率10%)を用い、フォーミングは各層間に繊維方向(長さ方向)が直交するように配向させた。製造条件は最大圧力26kg/cm2で熱圧時間トータル15分である。

 製造されたボードについてはJIS-A 5908のパーティクルボードの規格に準じた材質試験を行った。次のような結果が得られた。

[結果及び考察]

 (1)幅10-30mmのゼファーストランドで製造したボードの性能はワン・ピースのゼファーシート(370mm X 370mm)で製造したボードと同じ性能を有した。

 (2)ゼファーストランドボードの曲げ性能は優れており、合板と同程度であった。

 (3)しかし、ゼファー形状の影響でエレメント間の接着性能が良くないことと、また、ローラー圧潰によりゼファー内の損傷のため剥離強さと耐水性が低い問題点が見られた。

【ゼファーストランドの形状及び配置がボード性能に及ぼす影響】

 長さ70mm、150mm、200mmに規制したゼファーストランドの形状及び一つの層におけるストランド相互の配置状態がボード性能に及ぼす影響について検討した。ボードの製造条件などは上記と全く同じである。

[結果及び考察]

 (1)ボードの曲げ性能はストランドの長さとほとんど関係なく、ほぼ同程度であった。ストランド端部のオーバーラップの効果のためと考えられる。

 (2)剥離強さと寸法安定性はストランドの長さが短くなるほど大きかった。短いストランドが長いストランドより良い接着性能をもつためと考えられる。

 (3)ボード中の密度の変動は0.70g/cm2の高密度ボードの場合、ストランド端部のオーバーラップがない370mmのもので製造したボードが最も小さかった。その他、ストランドの長さ70、150、200mmのもので製造したボードでは長さが長いほど密度の変動が大きかった。

 (4)ストランドの幅の重なりによるボードの中での密度の変動は重なりの部分が大きいほど大きかった。

【ゼファーの製造条件がボード性能に及ぼす影響】

 ZSBの剥離強さが小さく、吸水による厚さ膨張率が大きい原因としてゼファー製造時に受けるローラー圧縮によってゼファー内部に生じた圧潰が挙げられる。そこで、ゼファー製造の際、板をローラーの中で通す条件を様々に変化せしめてゼファーを製造し、これらを用いてZSBを造り、ローラー圧潰が製造したボード性能に及ぼす影響を検討した。

 [実験]試験材料は長さ800mm、幅110mmの板目板厚さを7mm、10mm、14mmの3類(樹種:ヒノキ)を用いた。また投入側ローラーの間隔を変え、これらの条件によって異なる荷重を受けたゼファーストランドでZSBを製造した。接着剤にはフェノール樹脂(含脂率10%)を用いた。

[結果及び考察]

 (1)ボードの曲げ性能と厚さ膨張率がローラー圧縮によって影響され、ローラーの圧縮力(荷重)が大きくなると両性能は低下した。

 (2)剥離強さはローラー間を通過せしめる回数によって影響された。特に、木破率を調べると、回数による影響が明確に認められた。

【パーティクルボード用チップの混合による材質向上】

 ZSBの剥離強さと耐水性を向上させるためにゼファーストランドに細かいパーティクルボード用チップを一定の割合で混合してボードを製造し、チップの混合率がボードの材質に及ぼす影響を検討した。すなわち、長さ370mm、幅30mm以下のゼファーストランド(樹種:ヒノキ)の全乾重量に対して0,15,30,50,65,80,100%の各段階になるようにパーティクルボード用チップ(樹種:ラワン)を混合した。フォーミングはまずチップを散布し、この上にゼファーストランドを平行に並べ、この上にチップをのせるというように交互に繰り返して重ねた。接着剤にはフェノール樹脂(含脂率10%)を用いた。

[結果及び考察]

 (1)高密度ボード(0.68と0.80g/cm2)の剥離強さがチップの混合率50%から急激に増加した。

 (2)2時間煮沸処理後の曲げ残存率がチップの混合率30%から高くなり、約60-90%程度で、Pタイプパーティクルボードと同程度を示した。

 (3)ボードの表面特性はチップの混合率の増加とともに向上された。

 結論として、ゼファーストランドにパーティクルボード用チップを30-50%混合することによってZSBの性能を総合的に向上せしめることが可能なものと認められた。

【イソシアネート樹脂接着剤によるZSBの性能向上】

 ZSBの剥離強さと耐水性をさらに向上させるために、イソシアネート樹脂接着剤を適用してボード製造することを試みた。すなわち、長さ370mm、幅30mm以下のゼファーストランド(樹種:ヒノキ)を原料とし、接着剤にはイソシアネート樹脂(含脂率8%)を用いた。

[結果及び考察]

 (1)ZSBの耐水性の向上にかなり効果的であり、吸水による厚さ膨張率が10%程度で、JISの基準値12%以下を十分にクリアーした。また2時間煮沸処理による曲げ強度残存率はボード密度によらず、50-60%を示し、低圧による良い接着性能を示した。

 (2)低密度ボード(0.40と0.50g/cm2)の曲げ性能と剥離強さがフェノール樹脂接着剤よりかなり高かった。イソシアネート樹脂接着剤の空隙充填性と低圧力において優れた接着性能の発揮のためと考えられる。

【ポプラ(Poplar)の単板から製造したゼファーストランドを用いたZSBおよびゼファー積層材(ZSL)の特性】

 低比重樹種であるポプラの単板を原料にして製造したゼファーをエレメントとし、構造用板材料および軸材料としてZSBとゼファー積層材の製造を試みた。ポプラの単板そのままを用いた通常の合板とLVLを製造し、その性能を比較考察した。すなわち、厚さ2.5mmのポプラ単板をローラーに通して作ったゼファーシートより、長さ370mm、幅30mm以下のゼファーストランドを切断してとり、これらを用いてZSBとゼファー積層材を製造した。接着剤にはフェノール樹脂(含脂率10%)を用いた。ZSBの製造条件は上記と全く同じであり、ゼファー積層材の最大圧力は41kg/cm2である。

[結果及び考察]

 (1)ポプラ単板のゼファーから製造したZSBの曲げ性能は同一密度でポプラ合板より大きかった。

 (2)特に剥離強さはかなり大きく、パーティクルボードの値に比べて2倍以上であった。薄い単板を原料にしたゼファー材質の均一性がゼファーストランド間に優れた接着性能を与えるためと考えられる。

 (3)ゼファー積層材の曲げ性能はポプラLVLよりかなり高く、構造用LVLのJAS基準値100Eをクリアーした。さらに単板では製造できない0.70g/cm2の高密度ボードの製造が可能であった。

 (4)ゼファー積層材の厚さ膨張率は同一密度で通常のLVLとほぼ同程度であった。

【結論】

 大きなゼファーシートを幅方向に細かく裁断して製造するゼファーストランドボード(ZSB)の製造方法が有効であり、またゼファー形状の影響による接着性能が低下する問題点がイソシアネート樹脂接着剤の適用、パーティクルボード用チップの混合によって大きく改良されることが認められた。さらに、ゼファー製造条件を変えることによってゼファーの圧潰の程度を減らすことが可能となることが分かった。特に注目すべきことは低比重樹種のポプラ単板を原料にしたゼファーを用いて製造したZSBとゼファー積層材が構造用板材料と軸材料としての使用が可能となることである。

審査要旨

 本論文は,低質木材資源をローラーで押しつぶして得られる網状連続シート,いわゆるゼファー(Zephyr)シートを幅方向に細かく裁断して得られるゼファー細断束(Zephyr strand)を用いる新しい構造用木質材料の開発に関するものである。すなわち,長いゼファー繊維の特徴をそのまま生かしつつ,フォーミングの自動化が可能となることを想定した細長いゼファーストランドをエレメントとしたゼファーストランドボード(ZSB)製造の有効性の検討を目的とした。また,板状材料のみでなくゼファーストランドを平行に積層して作る軸材料,ゼファーストランドランバ-(ZSL)の製造および性能実験も試みた。本論文は9章より構成されている。

 第3章ではZSBの基本的材質を考察したが,このときゼファー細断束の幅を変化させ,その材質に及ぼす影響に注目している。樹種はヒノキ,接着剤にはフェノール樹脂(含脂率10%)を用い,フォーミングは各層間に繊維方向(長さ方向)が直交するように配向させた。次のような結果が得られた。

 幅10〜30mmのゼファーストランドで製造したボードの性能はワン・ピースのゼファーシート(370mm×370mm)で製造したボードと同じ性能を有した。また,ゼファーストランドボードの曲げ性能は優れており,合板と同程度であった。しかし,断面が大きく,棒状であるゼファー形状の影響でエレメント間の接着性能が良くないことが分かった。

 第4章ではゼファーストランドの長さ及びそれらの配置がボード性能に及ぼす影響を調べた。ボードの曲げ性能はストランドの長さとほとんど関係なく,剥離強さと寸法安定性はストランドの長さが短くなるほど大きかった。短いストランドが長いストランドより良い接着性能をもつためと考えられる。ストランドの幅の重なりによるボードの中での密度の変動は重なりの部分が大きいほど大きかった。

 第5章ではエレメントとなるゼファーの製造条件,すなわちローラーによる圧縮条件がボード性能に及ばす影響を検討している。

 次に第6章においてはパーティクルボード用チップを混合することによるボード材質の向上を試みている。すなわち,長さ370mm,幅30mm以下のゼファーストランド(樹種:ヒノキ)の全乾重量に対して0,15,30,50,65,80,100%の割合で細かいチップを混合してボードを製造し,チップの混合率がボードの材質に及ぼす影響を検討した。その結果,ゼファーストランドにパーティクルボード用チップを30〜50%混合することによってZSBの性能を総合的に向上せしめることが可能なことが認められた。細かいチップがゼファーストランド間に入り込み,結合力を増大するためである。

 第7章ではイソシアネート樹脂接着剤によるZSBの性能を検討した。低密度ボード(0.40と0.50g/cm2)の曲げ性能と剥離強さがフェノール樹脂接着剤よりかなり高くなった。イソシアネート樹脂接着剤の空隙充填性と同樹脂が低圧締力においても優れた接着性能を発揮するためと考えられる。

 第8章では低比重樹種であるポプラの単板を原料にして製造したゼファーをエレメントとした構造用板材料および軸材料の製造を試みた。ポプラの単板で造る通常の合板及びLVLとその性能を比較考察した。その結果.ポプラ単板のゼファーから製造したZSBおよびZSLの曲げ性能は同一密度でポプラ合板,ポブラLVLより大きかった。また,剥離強さもかなり大きく,パーティクルボードの値に比べて2倍以上であった。ローラー圧縮によって単板が部分的に圧密化されるとともに空隙が生じ低比重で強度の大きい材料が得られることが分かった。

 以上要するに,本論文はローラー圧縮によって得られるゼファーシートを幅方向に細かく裁断して作るゼファーストランドをエレメントとする新しい材料の有効性を明らかにしたものであり,学術上,応用上貢献するところが少なくない。よって審査員一同は博士(農学)の学位を授与する価値があることを認めた。

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