審査要旨 | | 本論文は,低質木材資源をローラーで押しつぶして得られる網状連続シート,いわゆるゼファー(Zephyr)シートを幅方向に細かく裁断して得られるゼファー細断束(Zephyr strand)を用いる新しい構造用木質材料の開発に関するものである。すなわち,長いゼファー繊維の特徴をそのまま生かしつつ,フォーミングの自動化が可能となることを想定した細長いゼファーストランドをエレメントとしたゼファーストランドボード(ZSB)製造の有効性の検討を目的とした。また,板状材料のみでなくゼファーストランドを平行に積層して作る軸材料,ゼファーストランドランバ-(ZSL)の製造および性能実験も試みた。本論文は9章より構成されている。 第3章ではZSBの基本的材質を考察したが,このときゼファー細断束の幅を変化させ,その材質に及ぼす影響に注目している。樹種はヒノキ,接着剤にはフェノール樹脂(含脂率10%)を用い,フォーミングは各層間に繊維方向(長さ方向)が直交するように配向させた。次のような結果が得られた。 幅10〜30mmのゼファーストランドで製造したボードの性能はワン・ピースのゼファーシート(370mm×370mm)で製造したボードと同じ性能を有した。また,ゼファーストランドボードの曲げ性能は優れており,合板と同程度であった。しかし,断面が大きく,棒状であるゼファー形状の影響でエレメント間の接着性能が良くないことが分かった。 第4章ではゼファーストランドの長さ及びそれらの配置がボード性能に及ぼす影響を調べた。ボードの曲げ性能はストランドの長さとほとんど関係なく,剥離強さと寸法安定性はストランドの長さが短くなるほど大きかった。短いストランドが長いストランドより良い接着性能をもつためと考えられる。ストランドの幅の重なりによるボードの中での密度の変動は重なりの部分が大きいほど大きかった。 第5章ではエレメントとなるゼファーの製造条件,すなわちローラーによる圧縮条件がボード性能に及ばす影響を検討している。 次に第6章においてはパーティクルボード用チップを混合することによるボード材質の向上を試みている。すなわち,長さ370mm,幅30mm以下のゼファーストランド(樹種:ヒノキ)の全乾重量に対して0,15,30,50,65,80,100%の割合で細かいチップを混合してボードを製造し,チップの混合率がボードの材質に及ぼす影響を検討した。その結果,ゼファーストランドにパーティクルボード用チップを30〜50%混合することによってZSBの性能を総合的に向上せしめることが可能なことが認められた。細かいチップがゼファーストランド間に入り込み,結合力を増大するためである。 第7章ではイソシアネート樹脂接着剤によるZSBの性能を検討した。低密度ボード(0.40と0.50g/cm2)の曲げ性能と剥離強さがフェノール樹脂接着剤よりかなり高くなった。イソシアネート樹脂接着剤の空隙充填性と同樹脂が低圧締力においても優れた接着性能を発揮するためと考えられる。 第8章では低比重樹種であるポプラの単板を原料にして製造したゼファーをエレメントとした構造用板材料および軸材料の製造を試みた。ポプラの単板で造る通常の合板及びLVLとその性能を比較考察した。その結果.ポプラ単板のゼファーから製造したZSBおよびZSLの曲げ性能は同一密度でポプラ合板,ポブラLVLより大きかった。また,剥離強さもかなり大きく,パーティクルボードの値に比べて2倍以上であった。ローラー圧縮によって単板が部分的に圧密化されるとともに空隙が生じ低比重で強度の大きい材料が得られることが分かった。 以上要するに,本論文はローラー圧縮によって得られるゼファーシートを幅方向に細かく裁断して作るゼファーストランドをエレメントとする新しい材料の有効性を明らかにしたものであり,学術上,応用上貢献するところが少なくない。よって審査員一同は博士(農学)の学位を授与する価値があることを認めた。 |