本研究はscalingの観点から非常に興味が持たれる成長期の哺乳動物(ブタ)の代謝、心機能の体重依存性を実験的に明らかにし、哺乳動物の代謝、心機能の体重依存性の意義を、酸素の利用効率から見た最適モデル解析を通して示そうと試みたものであり、下記の結果を得ている。 1)成長期のブタの基礎エネルギー代謝量の体重依存性は成体の哺乳動物類の場合と同様の0.75乗則を保っていることが示された。また、基礎代謝量に含まれるブタの成長に要するエネルギーの影響はほとんどないか、あったとしてもわずかなものであることが示唆された。 2)成長期のブタの心拍出量、一回拍出量、心拍数、平均動脈圧などの心機能の体重依存性もそれぞれ成体の哺乳動物類の場合と同様の傾向を保っていることが示された。また、新たにEDV、ESV、EFなどの体重依存性も明らかにされた。これらのデータは成体の哺乳動物類の場合と同様の傾向を保っている可能性が高い。 3)文献的に得られた安静時の哺乳動物類における基礎エネルギー代謝に関しては、成長期のブタのデータと同じ傾向を示していることが確認された。運動時のエネルギー代謝は、以前は体重に関して0.75乗則を保つと考えられていたが、運動時はほぼ体重に比例することが示され、このデータの信頼性が高いことがその他の報告からも示唆された。 4)文献的に得られた安静時の哺乳動物類における心拍出量、平均動脈圧に関しては、成長期のブタのデータと同じ傾向を示した。運動時の心拍出量の体重依存性についてはこれまでに十分な報告はないが、今回ほぼ体重に比例することが示された。また、運動時の平均動脈圧に関しても報告はないが、今回、体重依存性はなく約145(mmHg)となることが示された。 5)可変弾性モデルが適用される心臓において、外部機械的仕事の酸素利用効率が最高となるなる条件下での安静時の最適動脈圧と最適駆出率を体重依存性がある心機能データを入力して計算すると生理学的値に近い値が得られた。この結果は心機能データの体重依存性がこのような生体の最適条件を維持する様に働いている可能性を示唆している。 6)運動時の心臓については十分なデータがなく検討はできなかったが、運動時に生じる大きな特徴の一つである陽性変力効果を生じさせるカテコルアミンを投与した際のデータを用いて5)と同様の検討を行ない、カテコルアミンを投与時でも心臓は今回検討した最適条件を満たすことが示唆された。 7)最適酸素供給モデルを末梢血管系に適用し、体重依存性がある生理学的な心機能、代謝データを入力して、モデルの効率が最高になる条件を求めると、運動時にモデルによる組織半径等が生理学的なデータと良く一致することが示された。これは心機能、代謝データの体重依存性がこのような生体の最適条件を維持する様に働いている可能性を示唆している。 8)最適熱産生モデルを末梢血管系に適用し、体重依存性がある生理学的な心機能、代謝データを入力して、モデルの効率が最高になる条件を求めると、安静時にモデルによる組織半径等が生理学的なデータと良く一致することが示された。これは心機能、代謝データの体重依存性がこのような生体の最適条件を維持する様に働いている可能性を示唆している。 以上、本論文は今までに知られていない成長期のブタの代謝、心機能の体重依存性が成体の哺乳動物全般のものと同等に扱えることを実験的に明らかにしている。さらに、今までに知られていない代謝、心機能の体重依存性の意義についても扱い、心臓および末梢血管系機能を果たす上で重要な働きをしていることを、酸素の利用効率から見た最適モデル解析を通して示している。以上の成果は哺乳動物類の代謝、心機能の体重依存性に関する生体内部機構解明のために重要な貢献をなすと考えられ、比較生理学的、生体医工学的に大きな価値があると見なせるので、学位の授与に値するものと考えられる。 |