本研究は、日常の病理組織診断においては必ずしも明確に区別され得ていない線維性骨異形成(fibrous dysplasia(FD))と骨線維性異形成(osteofibrous dysplasia(OF))について、骨芽細胞の有無以外の相違点を新たに明らかにするため、FDまたはOFと考えられる症例をFD、OF及びFDかOFか紛らわしいものの3群に分けた上で、病理学的、免疫組織化学的及び組織計測的検索並びに核DNA量測定による解析を試みたものである。 1-1病理学的事項:AFIPの診断基準とCampanacciの論文に基づき、118の症例中、FDの典型例95例。OFの典型例17例とし、残りの6例は鑑別困難例とした。 FD95例中23例(24.2%)の骨梁周辺に骨芽細胞が少数認められた。ただし反応性のものが大部分で、OFとは鑑別が容易である。また破骨細胞が59例(62.1%)に、泡沫細胞が13例(13.7%)に、軟骨島が10例(10.5%)に見られた。 FDの組織型は、骨梁の形状により大きく5型に分かれた。すなわち、海綿状骨型(32例、33.7%)、Chinese alphabet状骨型(31例、32.6%)、短楕円形の小骨梁が散在する型(21例、22.1%)、骨梁が平行に並ぶ骨型(5例、5.3%)、小円形のせ梁が多数見られる型(6例、6.3%)の5型である。年齢が高くなるにつれて、海綿状骨型はChinese alphabet骨型へ、さらに短楕円形小骨梁型へ順次その頻度が移行する傾向が認められた。このような5つの亜型分類はOFには見られなかった。 OF17例の全例に骨芽細胞が認められた。また、破骨細胞が全例に、泡沫細胞が1例(5.9%)に見られ、軟骨島は認められなかった。Adamantinomaの芽と称されている上皮性細胞の集塊が1例(5.9%)に認められた。 1-2臨床的事項:FD95例のうち69例が単骨性病変であり、主として上顎骨(20例)及び大腿骨(16例)に見られた。多骨性病変は26例であった。OF17例のうち16例が脛骨に発生していた。年齢別では、どちらも10才代にピークが認められた。男女比はFDで男:女=51:44であり、OFでは男:女=6:11であった。 1-3免疫組織化学的事項:脛骨のFD8例にはAE1及びAE3陽性細胞は認められなかった。OFの症例のうち15例中12例(80.0%)がAE1陽性、13例(86.7%)がAE3陽性であった。KL-1、EMA及びCAM5.2はOFにおいて全例陰性であった。OFの骨梁周囲の細胞はPCNAが陽性でありFDでは陰性であった。 1-4組織計測的事項:線維芽細胞様細胞密度については、FDが186.412±79.407個、OFが143.824±54.991個であり、FDがOFに比べ高い傾向にあった(P>0.05)。骨梁面積率については、FDが42.114±13.904%、OFが16.606±7.865%であり、FDがOFに比べ有意に高かった(P<0.01)。線維芽細胞様細胞の核面積はFDが18.422±4.752m2で、OFが24.992±6.164m2であった。核真円度については、FDが0.571±0.052であり、OFは0.74±0.037であった。OFがFDよりも有意に大きく円形に近いことが明らかとなった(P<0.01)。 1-5線維芽細胞様細胞核中のAgNOR数の計測:平均値はFD=1.318(n=12)、OF=1.599(n=12)で、OFの方が多い傾向が示された。 1-6核DNA量について:FD、OFともに2Cと4Cのピークが認められた。3例のFDにおける2Cと4Cの細胞数(%)は、それぞれ60.10%と1.55%、66.67%と1.71%、82.69%と1.28%であった。OF3例における2Cと4Cの細胞数(%)は78.76%と4.42%、82.64%と3.31%、71.29%と1.98%であった。OFの方が4Cのピークの占める割合が大きい傾向が示された。 2鑑別診断:FDとOFの典型例をもとにした1の解析により、新たな鑑別点として、軟骨島の有無、骨梁の形状、発生部位、cytokeratin陽性細胞の有無、PCNA陽性率、骨梁面積率、細胞核面積、細胞核真円度などが示された。これらの新たな相違点をもとに、FDかOFか判断の困難な例を検討し、下記の結果を得ている。 Case1発生部位を重視してFDとした。 Case2高い骨梁面積率と骨芽細胞の囲繞のない部分が広いことからFDとした。 Case3発生部位、高い骨梁面積率、軟骨島の出現よりFDとした。 Case4 Adamantinomaが合併していた極めて希少な症例であるが、骨芽細胞の囲繞のない部分が広いことからFDとした(ただしOF的骨梁もあり、両病変の共存の可能性も否定しえない)。 Case5骨梁面積率の低さからOFとした。 Case6高い骨梁面積率、軟骨島の出現、上皮性マーカーのないことなどはFDを示唆するが、その多い骨芽細胞より、OFとした。 以上、本論文は線維性骨異形成と骨線維性異形成の症例の解析から、両者の新たな相違点として骨梁面積率などがあることを明らかにするとともに、これを従来の骨芽細胞の有無による方法のみでは明確にしえなかった症例に適用し、鑑別し得た。 本研究が明らかにした新しい鑑別法と従来の骨芽細胞の有無による方法とを併用することにより、線維性骨異形成と骨線維性異形成の鑑別、ひいては病理の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |