学位論文要旨



No 111347
著者(漢字) 槇,政彦
著者(英字)
著者(カナ) マキ,マサヒコ
標題(和) 線維性骨異形成と骨線維性異形成の病理学的、免疫組織化学的及び組織計測的検索並びに核DNA量測定による比較検討
標題(洋)
報告番号 111347
報告番号 甲11347
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1001号
研究科 医学系研究科
専攻 第三基礎医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 森,茂郎
 東京大学 助教授 村上,俊一
 東京大学 助教授 長野,昭
 東京大学 助教授 中村,耕三
 東京大学 講師 松本,俊夫
内容要旨 緒言

 線維性骨異形成(fibrous dysplasia(以下FD))は単発性あるいは多発性に骨を侵し幼若な類骨の形成を伴う線維性組織の増生より成る。一方、骨線維性異形成(osteofibrous dysplasia(以下OF))は線維性組織及び骨/類骨より成る。両者の鑑別点は、OFにおいて骨/類骨が骨芽細胞に囲繞されている点とされている。しかし日常の診断においては、骨芽細胞の囲繞のある骨梁と囲繞のない骨梁が混在していることなどにより、しばしば鑑別が困難である。本研究では、FDまたはOFと考えられる例を骨梁周辺の骨芽細胞の有無によって、FD、OF及びFDかOFか紛らわしいものの3群に分けた。このFDとOFの両者を、病理学的、免疫組織化学的及び組織計測的検索並びに核DNA量測定により比較検討し、その新たな相違点を浮きぼりにした。また、この相違点を使ってFDかOFか紛らわしいものの再検討を行い、FDかOFかの鑑別を行った。

材料と方法

 1955〜92年に東京大学医学部附属病院において切除され十分な組織学的検索を行い得た118症例のFD及びOFを検索対象とした。検体は手術後通常の10%ホルマリンにより固定した後、脱灰しパラフィン包埋を行った。

 病理学的検索:4m厚の切片を作製しH&E染色を行った標本を用いた。

 免疫組織化学的検索:上皮性細胞のマーカー(AE1、AE3、KL-1、EMA、CAM5.2)及び増殖細胞のマーカー(PCNA)に対する抗体を用い、ABC法にて検索を行った。

 組織計測的検索:線維芽細胞様細胞密度は、光学顕微鏡400倍視野下にweibel test plateを用いて直接的に計測した。骨粱面積率、線維芽細胞様細胞の核面積及び核真円度は、画像解析システム(Image Command 5098,Olympus)を用い、各々測定した。

 核DNA量測定:FDとOF各3症例につき、CAS200 DNA Stain Kitを用いて核DNA染色を行い、CAS200Image Analyzerにて核DNA量の計測を行った。

 FDかOFかの鑑別:紛らわしい症例について、新たに明らかとなった相違点を用いて鑑別を行った。

結果

 病理学的事項:AFIPの診断基準とCampanacciの論文に基づき再検討した結果、FDの定型に近いもの95例、OFの定型に近いもの17例とし、残りの6例は鑑別困難例とした。

 FDの定型に近いもの95例中23例(24.2%)の骨梁周辺に骨芽細胞が少数認められた。ただし反応性のものが大部分で、OFとは鑑別が容易である。また破骨細胞が59例(62.1%)に、泡沫細胞が13例(13.7%)に、軟骨島が10例(10.5%)にみられた。

 FDの組織型は、骨梁の形状により大きく5型に分かれた。すなわち、海綿状骨型(32例、33.7%)、Chinese alphabet状骨型(31例、32.6%)、短楕円形の小骨梁が散在する型(21例、22.1%)、骨梁が平行に並ぶ骨型(5例、5.3%)、小円形の骨梁が多数みられる型(6例、6.3%)の5型である。年齢が高くなるにつれて、海綿状骨型はChinese alphabet骨型へ、さらに短楕円彫小骨梁型へ順次その頻度が移行する傾向が認められた。このような5つの亜型分類はOFにはみられない。

 OFの定型に近いもの17例の全例に骨芽細胞が認められた。また、破骨細胞が全例に、泡沫細胞が1例(5.9%)にみられ、軟骨島は認められなかった。Adamantinomaの芽と称されている上皮性細胞の集塊が1例(5.9%)に認められた。

 臨床的事項:FD95例のうち69例が単骨性病変であり、主として上顎骨(20例)及び大腿骨(16例)にみられた。OF17例のうち16例が脛骨に発生していた。年齢別では、どちらも10才代にピークが認められた。男女比はFDで男:女=51:44であり、OFでは男:女=6:11であった。

 免疫組織化学的事項:脛骨のFD8例にはAE1及びAE3陽性細胞は認められなかった。OFの症例のうち15例中12例(80.0%)がAE1陽性、13例(86.7%)がAE3陽性であった。KL-1、EMA及びCAM5.2はOFにおいて全例陰性であった。OFの骨梁周囲の細胞はPCNAが陽性でありFDでは陰性であった。

 組織計測的事項:線維芽細胞様細胞密度については、FDがOFに比べ高い傾向にあった(P>0.05)。骨梁面積率については、FDがOFに比べ有意に高かった(P<0.01)。線維芽細胞様細胞の核面積と核真円度については、OFがFDよりも有意に大きく円形に近いことが明らかとなった(P<0.01)。

 線維芽細胞様細胞核中のAgNOR数の計測:平均値はFD=1.318(n=12)、OF=1.599(n=12)で、OFの方が多い傾向が認められた。

 核DNA量について:FD、OFともに2Cと4Cのピークが認められた。OFの方が4Cのピークの占める割合が大きい傾向が認められた。

 鑑別診断:Case1発生部位を重視してFDである。;Case2高い骨梁面積率と骨芽細胞の囲繞のない部分が広いことからFDである。;Case3発生部位、高い骨梁面積率、軟骨島の出現よりFDである。;Case4Adamantinomaが合併していた極めて希少な症例であるが、骨芽細胞の囲繞のない部分が広いことからFDとする。ただしOF的骨梁もあり、両病変の共存の可能性も否定しえない。;Case5骨梁面積率の低さからOFとする。;Case6高い骨梁面積率、軟骨島の出現、上皮性マーカーのないことなどはFDを示唆するが、その多い骨芽細胞より、OFとせざるを得ない。

考察と結論

 FDとOFの病理組織像について:FDの骨梁5型中の3型は年齢とともに移行していくが、これは直接化生による骨梁形成の後に骨梁が改築されることを示唆している。OFにおいてはこのような所見はみられず、鑑別には骨梁の形状も考慮に入れる必要が示唆される。

 臨床的事項:FDとOFでは発生部位に違いがあり、両者は独立した別な疾患であることが示唆される。

 免疫組織化学的所見について:近年OFにAE1及びAE3陽性の細胞が出現することが報告されているが、FDにはそのような細胞が出現しなかった。またFDがPCNA陰性であったのに対し、OFは骨梁周辺細胞がPCNA陽性であったことから、OFの骨芽細胞及び線維芽細胞様細胞が増殖性が高いことが示唆される。

 組織計測的事項について:骨粱面積率:同年齢ではFDの方がOFよりも骨梁面積率が高い。これは、結合組織の直接化生によるFDの骨形成は、骨芽細胞を動員しての高分化な形でのOFの骨形成よりも、容易に多量の類骨を形成しうるためと考えられる。

 線維芽細胞様細胞のAgNORについて:OFの増殖能がFDより高いことが示唆される。

 核DNA量について:OFは、FDより4CのDNA量を持つ細胞が多いことから、増殖性の病変であることが示唆される。

 鑑別診断について:上記の結果及び考察から、両者の新たな鑑別点として有効なものとしては、軟骨島の有無、骨梁の形状、発生部位、cytokeratin陽性細胞の有無、PCNA陽性率、骨梁面積率、細胞核面積及び核真円度などがあることがわかる。これらの新たな鑑別点をも使い、FDかOFか紛らわしいものの再検討を行い、妥当な結果が得られたところであり、その有効性が確認された。(以上)

審査要旨

 本研究は、日常の病理組織診断においては必ずしも明確に区別され得ていない線維性骨異形成(fibrous dysplasia(FD))と骨線維性異形成(osteofibrous dysplasia(OF))について、骨芽細胞の有無以外の相違点を新たに明らかにするため、FDまたはOFと考えられる症例をFD、OF及びFDかOFか紛らわしいものの3群に分けた上で、病理学的、免疫組織化学的及び組織計測的検索並びに核DNA量測定による解析を試みたものである。

 1-1病理学的事項:AFIPの診断基準とCampanacciの論文に基づき、118の症例中、FDの典型例95例。OFの典型例17例とし、残りの6例は鑑別困難例とした。

 FD95例中23例(24.2%)の骨梁周辺に骨芽細胞が少数認められた。ただし反応性のものが大部分で、OFとは鑑別が容易である。また破骨細胞が59例(62.1%)に、泡沫細胞が13例(13.7%)に、軟骨島が10例(10.5%)に見られた。

 FDの組織型は、骨梁の形状により大きく5型に分かれた。すなわち、海綿状骨型(32例、33.7%)、Chinese alphabet状骨型(31例、32.6%)、短楕円形の小骨梁が散在する型(21例、22.1%)、骨梁が平行に並ぶ骨型(5例、5.3%)、小円形のせ梁が多数見られる型(6例、6.3%)の5型である。年齢が高くなるにつれて、海綿状骨型はChinese alphabet骨型へ、さらに短楕円形小骨梁型へ順次その頻度が移行する傾向が認められた。このような5つの亜型分類はOFには見られなかった。

 OF17例の全例に骨芽細胞が認められた。また、破骨細胞が全例に、泡沫細胞が1例(5.9%)に見られ、軟骨島は認められなかった。Adamantinomaの芽と称されている上皮性細胞の集塊が1例(5.9%)に認められた。

 1-2臨床的事項:FD95例のうち69例が単骨性病変であり、主として上顎骨(20例)及び大腿骨(16例)に見られた。多骨性病変は26例であった。OF17例のうち16例が脛骨に発生していた。年齢別では、どちらも10才代にピークが認められた。男女比はFDで男:女=51:44であり、OFでは男:女=6:11であった。

 1-3免疫組織化学的事項:脛骨のFD8例にはAE1及びAE3陽性細胞は認められなかった。OFの症例のうち15例中12例(80.0%)がAE1陽性、13例(86.7%)がAE3陽性であった。KL-1、EMA及びCAM5.2はOFにおいて全例陰性であった。OFの骨梁周囲の細胞はPCNAが陽性でありFDでは陰性であった。

 1-4組織計測的事項:線維芽細胞様細胞密度については、FDが186.412±79.407個、OFが143.824±54.991個であり、FDがOFに比べ高い傾向にあった(P>0.05)。骨梁面積率については、FDが42.114±13.904%、OFが16.606±7.865%であり、FDがOFに比べ有意に高かった(P<0.01)。線維芽細胞様細胞の核面積はFDが18.422±4.752m2で、OFが24.992±6.164m2であった。核真円度については、FDが0.571±0.052であり、OFは0.74±0.037であった。OFがFDよりも有意に大きく円形に近いことが明らかとなった(P<0.01)。

 1-5線維芽細胞様細胞核中のAgNOR数の計測:平均値はFD=1.318(n=12)、OF=1.599(n=12)で、OFの方が多い傾向が示された。

 1-6核DNA量について:FD、OFともに2Cと4Cのピークが認められた。3例のFDにおける2Cと4Cの細胞数(%)は、それぞれ60.10%と1.55%、66.67%と1.71%、82.69%と1.28%であった。OF3例における2Cと4Cの細胞数(%)は78.76%と4.42%、82.64%と3.31%、71.29%と1.98%であった。OFの方が4Cのピークの占める割合が大きい傾向が示された。

 2鑑別診断:FDとOFの典型例をもとにした1の解析により、新たな鑑別点として、軟骨島の有無、骨梁の形状、発生部位、cytokeratin陽性細胞の有無、PCNA陽性率、骨梁面積率、細胞核面積、細胞核真円度などが示された。これらの新たな相違点をもとに、FDかOFか判断の困難な例を検討し、下記の結果を得ている。

 Case1発生部位を重視してFDとした。

 Case2高い骨梁面積率と骨芽細胞の囲繞のない部分が広いことからFDとした。

 Case3発生部位、高い骨梁面積率、軟骨島の出現よりFDとした。

 Case4 Adamantinomaが合併していた極めて希少な症例であるが、骨芽細胞の囲繞のない部分が広いことからFDとした(ただしOF的骨梁もあり、両病変の共存の可能性も否定しえない)。

 Case5骨梁面積率の低さからOFとした。

 Case6高い骨梁面積率、軟骨島の出現、上皮性マーカーのないことなどはFDを示唆するが、その多い骨芽細胞より、OFとした。

 以上、本論文は線維性骨異形成と骨線維性異形成の症例の解析から、両者の新たな相違点として骨梁面積率などがあることを明らかにするとともに、これを従来の骨芽細胞の有無による方法のみでは明確にしえなかった症例に適用し、鑑別し得た。

 本研究が明らかにした新しい鑑別法と従来の骨芽細胞の有無による方法とを併用することにより、線維性骨異形成と骨線維性異形成の鑑別、ひいては病理の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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