本研究はヘム生合成系の中間代謝産物の1つであるデルタアミノレブリン酸(ALA)を血漿および全血中で測定する方法を開発し、その鉛曝露指標としての有用性についても検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.測定法の概要は蛍光誘導体化したALAを高速液体クロマトグラフィーで蛍光検出するものであるが、誘導体化の際の反応効率と回収率を検討した結果、10lの除蛋白上清中のALAを、pH3.8、最終濃度25mMの酢酸緩衝液中で蛍光誘導体化する方法を確立した。この方法は全血、血漿の両者に適用可能であり、回収率はほぼ100%、検出限界も2g/lと非曝露者の測定にも十分な感度であった。また本法は100lという微量サンプルで実行でき、CVも良好でオートサンプラーを用いたルーチン化も可能であることが示された。 2.鉛作業者および非曝露者のそれぞれについて、血漿中ALA(ALA-P)および全血中ALA(ALA-B)の両者を測定して比較した。この際、各人についてALA-P由来のALA-Bを意味する"ALA-B(P)"、すなわちALA-B(P)=ALA-P(100-Hct)/100を求め、測定によるALA-Bと比較した。その結果、鉛作業者・非曝露者共にALA-B(P)/ALA-Bの平均はほぼ1となり、しかもその比は血中鉛濃度(Pb-B)が上昇しても有意な変化を示さなかった。これにより血中ALAはPb-Bレベルとは無関係にそのほとんどが血漿中に存在することが示された。 3.鉛作業者においてALA-P、ALA-Bを測定したところ、Pb-B、デルタアミノレブリン酸脱水酵素活性(ALA-D)、および尿中ALA(ALA-U)との相関係数において両者に差はなかった。また両者はPb-B40g/dl未満の作業者におけるPb-Bとの相関においてALA-Uよりも優れていた。さらに少ない人数ではあるが、15g/dl未満の作業者においても、この両者はPb-BおよびALA-Dと相関を示した。これによりALA-PおよびALA-Bは低Pb-Bから高Pb-Bまで利用可能な、鉛のヘム生合成系への非顕性影響を示す指標となりうると考えられた。 以上、本論文は血漿および全血中のデルタアミノレブリン酸(ALA)の測定において、両者を簡便に感度よく測定する方法を開発した。本研究はこれまで確証のなかった血中でのALAの分布を明らかにし、かつ両者の鉛曝露指標としての利用可能性も示したことから、学位の授与に値するものと考えられる。 |