本研究は、慢性腎不全に合併する骨代謝疾患のうち最も頻度の多い二次性副甲状腺機能亢進症の進行機序を明らかにするため、血液透析患者16人より手術的に摘出した過形成副甲状腺20腺の組織型の違いにおける活性型ビタミンD(1,25(OH)2D3)受容体の分布を免疫組織化学的に検討し、下記の結果を得ている。 1.組織学的にも臨床的にも、より重症の二次性副甲状腺機能亢進症を反映すると考えられている結節性過形成14腺では、より軽症であると考えられているび慢性過形成6腺より1,25(OH)2D3受容体の免疫組織染色陽性細胞率が有意に減少していた。このことは副甲状腺における1,25(OH)2D3受容体の減少が二次性副甲状腺機能亢進症の進行に寄与する可能性が示唆された。 2.患者Aからは2腺の結節性過形成副甲状腺と2腺のび慢性過形成副甲状腺が、また患者Bからは1腺の結節性過形成と1腺のび慢性過形成が得られた。このような同一体内に存在する副甲状腺でも、結節性過形成はび慢性過形成より1,25(OH)2D3受容体染色陽性率は減少傾向がみられた。このことから、副甲状腺における1,25(OH)2D3受容体染色陽性率の差が、患者間の条件の相違ではなく、過形成副甲状腺の組織型の相違による事が示された。 3.観察している副甲状腺細胞が実質細胞である事を確認するために、同一切片上で1,25(OH)2D3受容体抗体との反応の後、副甲状腺ホルモン抗体と反応させ、免疫組織化学的に二重染色を行った。その結果、1,25(OH)2D3受容体染色が陽性の細胞にも陰性の細胞にも、染色された副甲状腺ホルモンが細胞質に認められた。したがって、1,25(OH)2D3受容体染色陽性率の差は間質細胞の分布の差によるものではない事が示された。 4.び慢性過形成の副甲状腺の切片で、結節を形成しつつあるような像が認められた。その結節形成部分では1,25(OH)2D3受容体染色陽性細胞がほとんど認められず、結節形成以外の部分に1,25(OH)2D3受容体染色陽性細胞の局在が認められた。このことは、1,25(OH)2D3受容体染色陽性細胞の分布の不均一性を示すとともに、結節形成が1,25(OH)2D3受容体含量の低い細胞で構成されていく可能性を示唆した。 5.副甲状腺における1,25(OH)2D3受容体染色陽性率とその副甲状腺の重量は負の相関関係が認められた。したがって、副甲状腺の1,25(OH)2D3受容体染色陽性細胞の減少は副甲状腺細胞の増殖に関与している事が示唆された。 以上、本論文は慢性腎不全に合併する二次性副甲状腺機能亢進症において、副甲状腺における1,25(OH)2D3受容体の減少が二次性副甲状腺機能亢進症の進行因子の一つと考えられ、副甲状腺の増殖に関与する事を明らかにした。本研究は、これまで未知であった二次性副甲状腺機能亢進症の過形成副甲状腺の組織型の相違による1,25(OH)2D3受容体陽性細胞の分布の相違を初めて示すとともに、二次性副甲状腺機能亢進症の進行機序の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |