学位論文要旨



No 111367
著者(漢字) ジャミール カジ モハメッド アスィフ
著者(英字) KAZI MOHAMMAD ASIF JAMIL
著者(カナ) ジャミール カジ モハメッド アスィフ
標題(和) バゾプレッシンV1、受容体拮抗のメカニズム
標題(洋) MECHANISMS OF VASOPRESSIN V1 RECEPTOR ANTAGONISM
報告番号 111367
報告番号 甲11367
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1021号
研究科 医学系研究科
専攻 第一臨床医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 清水,孝雄
 東京大学 教授 野々村,禎昭
 東京大学 教授 藤田,敏郎
 東京大学 講師 大内,尉義
 東京大学 講師 松本,俊夫
内容要旨

 アルギニンバソプレシン(AVP)V1受容体は血管平滑筋、腎糸球体メサンギウム細胞、肝細胞、血小板及び下垂体前葉に分布している.V1受容体のその特異的アゴニストであるAVPによる刺激は膜結合型ホスホリパーゼCを介して一過性の細胞内Ca2+上昇を惹起する.又AVPは受容体に結合することにより、至適状態においては受容体-リガンド複合体の形でインターナリゼーションされることが知られている.多くのペプチド性のV1受容体拮抗薬が様々な生理的、病的状態でのAVPの役割の検討に用いられてきたが、それらは非経口的投予においてのみ有効で、臨床的には有用とはいえなかった.

 我々は最近開発された経口可能な非ペプチド性のV1受容体拮抗薬であるOPC-21268の培養メサンギウム細胞での薬理学的性質について、広く使用されているペプチド性拮抗薬であるd(CH2)5Tyr(Me)AVPとの比較検討を行なった.

 d(CH2)5Tyr(Me)AVPとOPC-21268は共にAVPによる一過性Ca2+上昇と3H-AVPの結合を阻害したが、その作用は全く異なっており、作用機構の差を示唆した.すなわち、OPC-21268の拮抗作用はAVPと同時に添加しても、5分前に添加しても同様であった.一方、d(CH2)5Tyr(Me)AVPは前添加による方が同時添加によるよりも、その拮抗作用は顕著であったことから、この薬剤はV1受容体結合に対してAVPと拮抗する以外の機序があることが示唆された.

 さらに、OPC-21268添加後、メサンギウム細胞を洗浄することにより、AVP刺激による一過性Ca2+上昇はコントロールのレベルに完全に回復したが、d(CH2)5Tyr(Me)AVPの場合は細胞洗浄によっては回復しなかった.このことは後者の薬剤は非可逆的に受容体へ結合する、あるいわ受容体そのもののダウンレギュレーションを起きおこすのかのいづれかの可能性を示唆している.d(CH2)5Tyr(Me)はメサンギウム細胞のcAMP濃度を有意に上昇させたが、OPC-21268やAVPにはそのような効果を認めなかった。

 以上のように、我々の結果はこれら2つのV1受容体拮抗薬は異なった機構で作用することを示している.すなわち、OPC-21268は拮抗的、可逆的であり、ペプチド性のd(CH2)5Tyr(Me)AVPは非可逆的拮抗様式をとることである.d(CH2)5Tyr(Me)AVPは同時にアデニル酸シクラーゼを活性化することでV1受容体を介する細胞内Ca2+上昇を非可逆的に抑制する可能性を示した。

審査要旨

 本研究はバソプレシン(AVP)のV1受容体の2種類の拮抗薬、すなわち非ペプチド性のOPC-21268とペプチド性のd(CH2)5Tyr(Me)AVPの作用機構について培養ラット腎糸球体メサンギウム細胞に於いて比較検討したものであり、以下の結果を得ている。

 1。OPC-21268とd(CH2)5Tyr(Me)AVPはメサンギウム細胞への3H-AVPの結合をAVPと同様に濃度依存性に阻害した。

 2。OPC-21268はAVPによるメサンギウム細胞の細胞内Ca2+上昇を濃度依存的に抑制し、この効果は細胞の薬剤による前処置(5分間)では増強しなかった。

 3。d(CH2)5Tyr(Me)AVPもAVPによる細胞内Ca2+上昇を濃度依存的に抑制したが、この場合は薬剤による前処置(5分間)にて抑制効果が明らかに増強した。

 4。細胞の薬剤による処置後、細胞を洗浄することにより、OPC-21268の細胞内Ca2+上昇の抑制効果は消失したが、d(CH2)5Tyr(Me)AVPの場合は消失しなかった。

 5。d(CH2)5Tyr(Me)はメサンギウム細胞のcAMP濃度を有意に上昇させたが、OPC-21268やAVPにはそのような効果を認めなかった。

 以上、本論文はOPC-21268は拮抗的V1受容体拮抗薬であるが、d(CH2)5Tyr(Me)AVPは同時にアデニル酸シクラーゼを活性化することでV1受容体を介する細胞内Ca2+上昇を非可逆的に抑制する可能性を示した。V1受容体は腎血行動態、血圧調節や血小板機能制御など重要な生理作用に関連することが示唆されている。それらの乱れとして惹起される様々な病態への臨床応用が期待されているAVPのV1受容体拮抗薬に関するこれらの知見は、V1受容体の脱感作機構の解明に重要な示唆を与えるばかりか、臨床的意義もあると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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