本研究はバソプレシン(AVP)のV1受容体の2種類の拮抗薬、すなわち非ペプチド性のOPC-21268とペプチド性のd(CH2)5Tyr(Me)AVPの作用機構について培養ラット腎糸球体メサンギウム細胞に於いて比較検討したものであり、以下の結果を得ている。 1。OPC-21268とd(CH2)5Tyr(Me)AVPはメサンギウム細胞への3H-AVPの結合をAVPと同様に濃度依存性に阻害した。 2。OPC-21268はAVPによるメサンギウム細胞の細胞内Ca2+上昇を濃度依存的に抑制し、この効果は細胞の薬剤による前処置(5分間)では増強しなかった。 3。d(CH2)5Tyr(Me)AVPもAVPによる細胞内Ca2+上昇を濃度依存的に抑制したが、この場合は薬剤による前処置(5分間)にて抑制効果が明らかに増強した。 4。細胞の薬剤による処置後、細胞を洗浄することにより、OPC-21268の細胞内Ca2+上昇の抑制効果は消失したが、d(CH2)5Tyr(Me)AVPの場合は消失しなかった。 5。d(CH2)5Tyr(Me)はメサンギウム細胞のcAMP濃度を有意に上昇させたが、OPC-21268やAVPにはそのような効果を認めなかった。 以上、本論文はOPC-21268は拮抗的V1受容体拮抗薬であるが、d(CH2)5Tyr(Me)AVPは同時にアデニル酸シクラーゼを活性化することでV1受容体を介する細胞内Ca2+上昇を非可逆的に抑制する可能性を示した。V1受容体は腎血行動態、血圧調節や血小板機能制御など重要な生理作用に関連することが示唆されている。それらの乱れとして惹起される様々な病態への臨床応用が期待されているAVPのV1受容体拮抗薬に関するこれらの知見は、V1受容体の脱感作機構の解明に重要な示唆を与えるばかりか、臨床的意義もあると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |