トリグリセリドが血小板に及ぼす影響を血小板膜流動性の変化と血小板脂質組成の変化の2点から検討し、下記の結果を得た。 1.ヒト血小板を仔牛血清アルブミン溶液中に懸濁したトリグリセリドと37℃でインキュベートし、血小板膜流動性と血小板膜脂質組成の変化を見た。インキュベート開始後30分間で、膜流動性に反比例するアニントロピー値は低下し始め、2時間後に前値の60-80%まで低下(膜流動性の増加)した。トリグリセリドを加えないで併行して行った実験では、血小板膜流動性の変化は見られなかった。次に、23人のボランティアから採取した血小板を同様条件下で、トリグリセリドと6時間インキュベートし、血小板膜流動性と血小板膜脂質の変化を測定した。インキュベート前と比べて、インキュベート後に膜流動性の著明な増加が認められた。以上の結果がらin vitroでのトリグリセリドによる血小板膜流動性の上昇することが示された。 2.トリグリセリドとのインキュベートによる膜脂質変化を検討すると、血小板膜トリグリセリドは前値の2倍近くまで有意に増加し、リン脂質は25%の有意の増加が認められた。コレステロールは増加傾向を示したが、有意差は認められなかった。また、膜流動性の決定因子の一つである膜コレステロール/リン脂質比を求めたが、トリグリセリドとのインキュベート前後で有意の変化は認められなかった。この事実からトリグリセリドが血小板膜コレステロール/リン脂質比の変化を介さずに直接血小板膜流動性を変化させる可能性があることが示された。 3.in vivoでのトリグリセリドの血小板膜流動性への影響を見るため、ウサギ6羽に20%イントラファットを(トリグリセリドとして1500mg/kgの濃度で)動注し、血小板膜流動性の変化を調べた。イントラファット動注2時間後に採取した血小板膜の流動性は有意な増加(アニソトロピーの低下)を示していた。 最後に、ボランティア15名から空腹時と食事2時間後に採血し、ウサギの実験と同様に、血小板膜流動性の変化を調べた。血小板膜流動性は有意の増加を示した。なお、食事前後での血漿中のトリグリセリド、コレステロール濃度を同時に測定したところ、トリグリセリドのみ有意の増加が認められた。 以上の実験結果からin vivoでも高濃度のトリグリセリドの存在は血小板流動性を上昇させることが示された。 以上、本論文はトリグリセリドの血小板膜流動性への影響を調べることにより、初めて高濃度のトリグリセリドが血小板膜流動性を有意に上昇させることを明かにし、また血小板コレステロール/リン脂質比を介さずに直接血小板膜流動性を変化させる可能性があることを示した。本研究は高トリグリセリド血症の血小板機能への影響に関して、新たな視点を提示し、今後の脂肪製剤の臨床応用にも有用であると思われ、学位の授与に値するものと考えられる。 |