学位論文要旨



No 111386
著者(漢字) 椎葉,正史
著者(英字)
著者(カナ) シイバ,マサシ
標題(和) インターロイキン5受容体鎖の細胞分化情報伝達における特異的機能について
標題(洋)
報告番号 111386
報告番号 甲11386
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1040号
研究科 医学系研究科
専攻 第四臨床医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,雅
 東京大学 教授 中畑,龍俊
 東京大学 助教授 横田,崇
 東京大学 講師 奥平,博一
 東京大学 講師 平井,久丸
内容要旨

 インターロイキン5(Interleukin5:IL-5)は幅広い生物活性を有するが、造血系の細胞に作用してその分化、増殖を制御する働きはその中でも中心的な生物活性として知られている。IL-3、GM-CSFも造血系細胞の分化、増殖には重要な働きをしていることが知られおりIL-5、IL-3、GM-CSFでは重複する作用も多く報告されている。一方、マウスで認められるBリンパ球を抗体産生細胞へと分化させる作用をはじめ、IL-5に特異的な生物活性も認められる。つまり、IL-5、IL-3、GM-CSFにはサイトカインの特徴の一つである作用の特異性と重複性が認められる。また、IL-5受容体(IL-5R)、IL-3受容体(IL-3R)、GM-CSF受容体(GM-CSFR)は各リガンド特異的に結合する鎖とそれ自身では結合能を持たないが鎖とともに機能的高親和性受容体を構成する鎖とから成る。鎖(c)はIL-5R、IL-3R、GM-CSFRで共有しており、作用の特異性と重複性を考えた時に、重複性についてはcからの共通な情報伝達経路に起因すると考えられる。しかし作用の特異性については、いかなる機序でそれが規定されているかは不明である。そこで作用の特異性は各サイトカイン特異的に結合する鎖が規定している可能性を考え、IL-5の作用の特異性を決定する鎖の機能について検討した。マウスIL-5(mIL-5)単独でIgM産生細胞へと分化するマウスB細胞白血病株BCL1-B20へmIL-3R、mGM-CSFRを遺伝子導入しmIL-3R、mGM-CSFRを再構築し、これらの受容体から分化誘導の情報が伝達されるかを調べることによって各鎖特異的な機能の有無を検討した。その結果、mIL-5R、mIL-3R、mGM-CSFRのいずれの受容体を介してもBCL1-B20をIgM産生細胞へと分化させる細胞内情報を伝達することが可能であった。つまり、鎖に特異的な情報伝達機構は確認されなかった。

 細胞の増殖と分化の情報伝達の相違について検討するためにmIL-5R鎖の機能領域の同定を試みた。その結果、BCL1-B20をIgM産生細胞へと分化させる情報伝達にはmIL-5Rの細胞膜近傍の領域が重要であることが明らかとなったが、同時にこの領域は増殖の情報伝達にも重要である事が示され、増殖と分化の情報伝達が部分的に重複していることが示唆された。

 以上のことからIL-5、IL-3、GM-CSFの作用の特異性は鎖特異的な機能よって規定されるものではなく、細胞の分化段階に応じた各受容体の発現調節によるものであると推察された。また、mIL-5Rの細胞内領域は情報伝達において不可欠であり、特に細胞膜近傍の領域が増殖のみならず、細胞分化の情報伝達にも極めて重要な機能を担っていることが示された。

審査要旨

 本研究はサイトカインの生物学的な特徴の一つであるその作用の重複性と特異性を規定する機構を解明するためにサイトカインの受容体の特異的機能について解析したものである。マウスB細胞を抗体産生細胞へと分化させる作用はインターロイキン5(IL-5)特異的作用とされ、この作用は、IL-5と受容体を一部共有するIL-3、GM-CSFには認められないと考えられていた。そこでIL-5に応答して抗体産生細胞へと分化するマウスB細胞白血病株BCL1-B20を用いてB細胞の終末分化におけるIL-5、IL-3、GM-CSFの作用を各受容体の鎖の特異的機能を解析する事によって比較検討した。本研究より以下の結果を得ている。

 1.マウスIL-5受容体(mIL-5R)、マウスIL-3受容体(mIL-3R)、マウスGM-CSF受容体(mGM-CSFR)のいずれの受容体を介してもBCL1-B20をIgM産生細胞へと分化させる情報を伝達し、各鎖に機能の相違は認められなかった。抗体産生細胞への分化に伴って観察されるBCL1-B20の形態変化もIL-5刺激と、IL-3、GM-CSF刺激とに差異は認められず、よってこれらの受容体からの情報伝達は共通の機構を介している可能性が考えられる。これらよりmIL-5、mIL-3、mGM-CSFの作用の特異性は鎖特異的な機能に起因するのではなく、細胞の分化段階における各鎖の発現調節によって制御されている可能性が示唆された。

 2.mIL-5Rの細胞内機能領域の同定により、BCL1-B20をIgM産生細胞へと分化させる情報伝達には、mIL-5Rの細胞膜近傍の細胞内領域が必須であることが示された。この領域は情報伝達に重要とされるプロリン残基に富むアミノ酸配列を含み、また、mIL-3R、mGM-CSFRにも保存されていることから、mIL-5R、mIL-3R、mGM-CSFRの細胞膜直下の領域は情報伝達にきわめて重要な機能を担っていることが示唆された。

 3.マウス細胞傷害性T細胞株CTLL-2を用いた増殖の情報伝達における機能領域の同定を試みたところ、BCL1-B20における細胞分化の情報伝達と同様にmIL-5Rの細胞膜近傍の細胞内領域が必須であり、mIL-5Rにおける増殖と分化の機能領域の差異は認められなかった。

 以上、本論文はマウスB細胞の終末分化段階においてもIL-3、GM-CSFによって抗体産生細胞への分化が誘導されることを示し、従来、IL-5特異的作用として考えられていた抗体産生細胞への分化誘導は受容体に特異的な機能が存在するのではなく、各鎖の発現調節によって制御されていることが示唆された。さらに、鎖の細胞内領域のうち、特に細胞膜近傍領域が増殖とともに分化の情報伝達においても極めて重要な機能を担っていることが示された。本研究によって得られた結果はサイトカインの作用の特異性と重複性を理解する上で非常に有意義であり、今後のサイトカインの情報伝達機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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