本研究はサイトカインの生物学的な特徴の一つであるその作用の重複性と特異性を規定する機構を解明するためにサイトカインの受容体の特異的機能について解析したものである。マウスB細胞を抗体産生細胞へと分化させる作用はインターロイキン5(IL-5)特異的作用とされ、この作用は、IL-5と受容体を一部共有するIL-3、GM-CSFには認められないと考えられていた。そこでIL-5に応答して抗体産生細胞へと分化するマウスB細胞白血病株BCL1-B20を用いてB細胞の終末分化におけるIL-5、IL-3、GM-CSFの作用を各受容体の鎖の特異的機能を解析する事によって比較検討した。本研究より以下の結果を得ている。 1.マウスIL-5受容体(mIL-5R)、マウスIL-3受容体(mIL-3R)、マウスGM-CSF受容体(mGM-CSFR)のいずれの受容体を介してもBCL1-B20をIgM産生細胞へと分化させる情報を伝達し、各鎖に機能の相違は認められなかった。抗体産生細胞への分化に伴って観察されるBCL1-B20の形態変化もIL-5刺激と、IL-3、GM-CSF刺激とに差異は認められず、よってこれらの受容体からの情報伝達は共通の機構を介している可能性が考えられる。これらよりmIL-5、mIL-3、mGM-CSFの作用の特異性は鎖特異的な機能に起因するのではなく、細胞の分化段階における各鎖の発現調節によって制御されている可能性が示唆された。 2.mIL-5Rの細胞内機能領域の同定により、BCL1-B20をIgM産生細胞へと分化させる情報伝達には、mIL-5Rの細胞膜近傍の細胞内領域が必須であることが示された。この領域は情報伝達に重要とされるプロリン残基に富むアミノ酸配列を含み、また、mIL-3R、mGM-CSFRにも保存されていることから、mIL-5R、mIL-3R、mGM-CSFRの細胞膜直下の領域は情報伝達にきわめて重要な機能を担っていることが示唆された。 3.マウス細胞傷害性T細胞株CTLL-2を用いた増殖の情報伝達における機能領域の同定を試みたところ、BCL1-B20における細胞分化の情報伝達と同様にmIL-5Rの細胞膜近傍の細胞内領域が必須であり、mIL-5Rにおける増殖と分化の機能領域の差異は認められなかった。 以上、本論文はマウスB細胞の終末分化段階においてもIL-3、GM-CSFによって抗体産生細胞への分化が誘導されることを示し、従来、IL-5特異的作用として考えられていた抗体産生細胞への分化誘導は受容体に特異的な機能が存在するのではなく、各鎖の発現調節によって制御されていることが示唆された。さらに、鎖の細胞内領域のうち、特に細胞膜近傍領域が増殖とともに分化の情報伝達においても極めて重要な機能を担っていることが示された。本研究によって得られた結果はサイトカインの作用の特異性と重複性を理解する上で非常に有意義であり、今後のサイトカインの情報伝達機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |