1.緒言 大学病院は、医育機関としての教育・研究・研修施設としての役割と、地域内で最新・最高の医療技術を提供する施設としての社会的期待を担っている。このような環境の中で、近年の大学自己評価などの流れにより、大学病院でもその特性を評価し、継続的な改善を行なう努力が多く行なわれるようになってきた。
しかしながら、各大学病院ごとにこのような努力は可能であっても、複数の病院にわたる客観的かつ相対的な評価は、データの入手可能性の制約からほとんど行なわれなかった。それゆえ、大学病院の持つ特性についての客観的な指標、あるいは病院の特性に基づいた分類については、不明確な部分が多く、これに答えを出すことは長年の課題であった。
本研究では、国立大学病院に対象を限定して詳細な資料を入手・分析することにより病院分類を行ない、その特性を把握することを目的とした。そこで、(1)利用した資料についての探索的データ解析および病院分類に用いる変数の選択、(2)クラスター分析による病院分類と各群の特性の把握、の2段階に分けて統計手法を適用し、その結果、国立大学病院を診療規模、先進性などの特性が異なる4つのグループに区分した。
このような研究の過程と成果は、将来において各種病院の現実に即した全体的/個別的把握と、病院の運営と管理における基本的な意思決定の資料として役立つものと考える。
4.考察 大学病院がどのような特性を持って運営・管理されているか、また対象である大学病院がどのように分類できるかについては興味あるテーマである。しかし、このようなテーマに関連する先行研究はまだ極めて少なく、著者等が行った私立・国立を含む大学病院の収支統計を中心とした経営面からの特性の分析3)4)、あるいは日米の大学病院の比較研究5)6)7)が存在するのみである。しかし、これらの中には本研究で試みたような、多数の大学にわたる包括的なデータに基づいた大学病院の特性とその分類を行なった研究はこれまでに存在しなかった。以下に本研究の結果に基づいて、重要と思われる点について以下に考察を加えてみたい。
4.1.病院群の特徴について 本研究では対象病院を4つの病院群に分類した。これらの病院群は、次のような特徴ををもつと考えられる。
1)病院の規模-病床数、職員数、患者数の集計結果から、病院の規模はA>B>C>Dの順であることが示された
2)立地条件(大都市か否か)-A・B群には大都市にある長い歴史を持つ病院が多い。対してC・D群は比較的小規模の都市にある新しい病院群であった。
3)高度・先進医療への適応度-高額手術割合などに代表される、先進医療への適応度が各群間で異なっていた。これは、診療設備等への投資や研究費の配分などが、(1)および(2)の特性に影響されやすいためと考えられる。
4)患者のcase mixの違い-老人患者の割合や医療上の重症度の指標と考えられた変数に大きなバラツキが見られた。高機能な病院とされている大学病院の中にも、一般の病院に近い医療サービスを提供しているものが存在しているのであろう。
以上のように、医療施設全体と比較すると均質と考えられる大学病院の間にも、特性上の違いが存在し、特にA群の病院は中でも例外的な特徴を示していた。
4.2.変数選択の過程から得られた知見 分類に用いるデータセットの作成に際しては、大学病院の特性を示す変数・指標を4グループに整理し、それぞれのグループの代表となるものを選び出した。このアプローチにより、網羅的に評価項目をリストアップすることができた。しかし、こうして集計した160を超える変数・指標のうち、相関性の検討の結果、33変数だけが結果的に病院分類に利用された。医療施設の分類・評価指標を検討する際にはこうした、変数間の相関関係についての注意が必要であり、今後は評価指標間の関連性に関するデータに基づいた検討を行なうことが重要である。
4.3.対象資料・手法の限界 分類用データセットの作成過程においては、資料の内容的な限界のために分析の対象とすることができなかった指標がいくつか存在した。例えば、X線撮影件数は病床規模との関連が低く、病院群の分類においても適切な説明ができなかった項目であるが、該当する診療機器の保有台数により説明が可能であると推測される指標の1つである。このような点は先端的な性格を持つ他の診療設備に関しても検討が必要とされる。また、患者特性についても、医療圏などを考慮するための情報やCase mix情報を詳細に評価することは不可能であった。こうした側面についての検討は、今後の研究の課題の1つであろう。
この他、今回の対象資料のような2次資料を用いて分類作業を行なう場合には、高等な統計モデルによる仮説をたてて検証することができない。もちろん、分類の詳細性と包括性の間にはトレードオフがあるため、一概にどちらが有益であるかの判断はできないが、今後の研究にあたっては留意すべき事項であろう。
4.3.国立大学病院以外の病院の特性・分類について 本研究で分析した国立大学の特性は、国立大学病院においてのみ評価するのではなく、他の公立・私立の大学病院との比較を行ないながら分析・評価を行ない、将来に向けての大学病院のあり方を考え、現状からの改善の方策を策定する資料となることが期待される。
今後は共通の視点から相互比較できるような病院の特性についての資料が、国立大学病院のみならず、その他の病院についても入手・利用できるようになることが期待される。
4.4.今後への展望 本研究により大学病院間に判別可能な特性の違いがあることが客観的に示された。今後は評価の単位をより細分化し、病院レベルではなく診療科単位での医療サービスの特性の分析・類型化、あるいは検査部、放射線部などの部門に着目した運用・管理の評価へと研究を発展させていくことが考えられる。
また、これまでに述べたような問題点は、病院の運営・管理に関する情報収集の機構が整備されるに従って解決されていくものと考えられる。病院情報システムは、このような機構中で大きな役割を持ってきており、今後は病院内・病院間にわたる情報の流通・利用の面での効率化がいっそう進展することが望まれる。