脳神経細胞の発生・生存を担う種々の栄養因子、例えばnerve growth factor,basic fibroblast grwoth factor,brain-derived neurotrophic factor等が、発見されている。特に最近、免疫細胞に対する分化誘導・生存を促進するcytokinesも中枢神経系の発生、機能に貢献しているかもしれないという証拠が現れ、特に、脳における神経-免疫相関に対するinterleukinsの役割が最大の関心事になってきたが、interleukinsの脳神経細胞の生存・再生に対する役割に関しては全く研究が行われていなかった。今回の内容はinterleukin-2,3および6の胎生ラット脳より得た培養神経細胞の生存、再生時の形態変化(突起伸展、分岐等)、再生時に最長突起の成長円錐をレーザーで焼き切った後の形態変化、に対する影響を研究したものである。 胎生(16日齢)ラット脳の神経細胞の高密度培養(50,000cells/cm2)ではinterleukin-2は大脳皮質、海馬、中隔野及び小脳の培養神経細胞の生存を高めたが、低密度培養(5,000cells/cm2)では効果が得られなかった。他のinterleukinsには作用は全く認められなかった。低密度培養では神経細胞とグリア細胞の相互作用が少ないので、高密度培養での生存促進作用は神経細胞に対する直接作用ではなく、非神経細胞から何らかの栄養因子の遊離を刺激しているように思われる。 胎生(16日齢)ラット海馬神経細胞を低密度培養で2日間培養した後に薬物を加え、以後の細胞の形態変化をACAS470で観察した。Interleukin-2は10-100ng/mlの濃度で、濃度依存的に細胞体から出ているsprouting数、最大突起の伸展および最大突起に見られる分岐数を顕かに増大させた。Interleukin6は100ng/mlの濃度で最大突起の伸展と細胞体から出ているsprouting数を若干だが有意に増大させたが、最大突起に見られる分岐数には影響を与えなかった。Interleukin3には何らの作用が認められなかった。 胎生(16日齢)ラット海馬神経細胞を低密度培養で2日間培養した後、ACAS470で細胞の形態を観察し、レーザーで最大突起の成長円錐の基部を焼き切り薬物を加え、以後の形態変化を観察した。Interleukin2は最大突起で見られる分岐数を増加させ、分岐の伸展も促進した。Interleukin2は他の切断していないsprouting数およびその伸展を増加させた。しかし、interleukin3および6は損傷を受けた細胞の指標とした形態変化に何らの影響を及ぼさなかった。 胎生(16日齢)ラット海馬、中隔野及び黒質の神経細胞を高密度培養し、細胞内Ca2+の動態、choline acetyltransferase活性及びdopamineの取り込みに対する影響を観察した。Interleukin2,3および6は何らの影響を与えなかった。 Interleukinsのなかでinterleukin2は脳神経細胞の生存を促進し、かつsprouting数、最大突起の伸展や分岐を増加させ、損傷を受けた細胞においてもsprouting数およびその伸展を増加させ、最大突起の分岐数および分岐の伸展を増加させた。以上の結果interleukin2が神経栄養因子として働く可能性が示唆された。本研究は神経-免疫系相関を考える上での基礎的な研究として評価されるとともに、本論文は博士(薬学)に価するものと判定した。 |