酸化LDL、老化赤血球などの"変性物質"を認識し取り込む機構がマクロファージ系細胞に存在すること、これら変性物質の認識には多価の陰性荷電が関与することが知られる。これら変性物質を認識するレセプターは一般にスカベンジャーレセプターとよばれ、今日までにI、II型、CD36が構造も含めて同定されつつある。しかし、これだけでは現象的に説明出来ない部分が多く、上記2つ以外の"スカベンジャー"レセプターの存在も予想された。本研究は従来知られるレセプター以外の新規スカベンジャーレセプターがCHO細胞膜上にコレステロール供給を制限した際誘導されること、アフリカミドリザル腎由来の培養細胞、CV-1細胞上に同様のレセプターが発現していること、マクロファージ上に類似のレセプターがあること、酸性リン脂質を含むリポソームの取りこみにこれらレセプターが関与すること、アポトーシスを起こした細胞の取りこみにも関与していること、などを明らかにしたものである。 マクロファージ上のスカベンジャーレセプター解析: マクロファージ上に発現している事が知られるスカベンジャーレセプターI、II型とCD36を発現するCHO細胞株を樹立し、酸性リン脂質を含むリポソーム取りこみを検討した結果、CD36発現細胞でのみ取りこみが観察された。CD36発現細胞によるリポソームの取りこみはマクロファージの場合と異なりデキストラン硫酸では阻害されないことからマクロファージ上にI、II型、CD36以外のスカベンジャーレセプターの存在が示唆された。 CHO細胞上に誘導された新規レセプター: CHO細胞とLDLを除いた培地でアセチルLDL存在下培養し、シンバスタチンでコレステロール合成を抑制し、この条件下生き残る細胞をFACSを用いて濃縮、クローン化した。クローン化した細胞(CHO-AL1)は野性株と異なり、アセチル化LDLを取りこみ、酸性リン脂質含有リポソームも取りこんだ。両者の取りこみは相互に競合した。CD36はアセチルLDL取りこみには関与したいこと、などの事実も考えあわせると、発現しているレセプターはI、II型、CD36いずれとも異なる新規レセプターであると思われる。このレセプターを同定する目的でCHO-AL1株および野性株の表面糖鎖を3H標識し検討したところ、分子量88kのバンドが分離株、CHO-AL1にのみ観察された。このバンドの蛋白質が新規レセプターである可能性が考えられた。 CV-1細胞上の新規レセプター: 様々の培養細胞を検討した結果、CV-1細胞上に恒常的に発現していること、SV-40 LargeT抗原を発現させるとレセプター活性が顕著に抑制されることが判明した。 新規レセプターによるアポトーシス細胞の取りこみ: IL-3依存性ラット肥満細胞株(MKM)をIL-3を除いた培地で培養するとアポトーシスが誘導される。この細胞を、CHO野性株、I型レセプターを発現したCHO株(CHO-SR7)、CHO-AL1株と培養したところ、CHO-AL1細胞のみがMKM細胞をとりこんだ。新規レセプターがアポトーシス細胞とりこみに関っている可能性が示された。 以上、本研究は新しいスカベンジャーレセプターを各種細胞上に発見し、その機能を考察したもので、細胞生物学、病態生化学の発展に寄与するところがあり、博士(薬学)に価すると判定された。 |