球面からリー群への調和写像は、物理学の方面からの刺激もあり、近年活発に研究されるようになった。それらの多くは、ツイスター理論や可積分系の理論を用いて、調和写像の構成を行うというものである。 Uhlenbeckは、そのなかでも先駆的な研究を行った。つまり、2次元球面からユニタリ群への調和写像に対しある線形微分方程式系を対応させ、その方程式系の解がツイスターリフトとなるようなツイスター理論を作った。またそれにより調和写像の構成やその空間の代数的考察を行った。このとき調和写像の空間にある階級付け(uniton number)が生まれることがわかるのであるが、この論文ではこの階級付けがどのような微分幾何学的意味をもつのかを考察した。 まず調和写像の説明を行う。(M,g),(N,h)をリーマン多様体とする。滑らかな写像:M→Nがharmonicとは、がエネルギー汎関数 の臨界点であることである。 をリーマン面、U(n)をユニタリ群 とする。また、ループ群U(n)と写像:U(n)→U(n)を、次で定義する。 U(n)は無限次元リー群でKahler多様体であることがわかっている。任意に調和写像:→U(n)をひとつ固定し、次の線形微分方程式系 を考える。 定義(Uhlenbeckによる。1989年) に対し、(1)の解が存在するとき、をのextended solutionという。 この時、変数をS1に制限することにより、をからU(n)への写像と思うことができ、更に(1)の形よりはU(n)への正則写像となる。が単連結であれば、(1)の積分可能条件が実はの調和性と同値になる。=S2の時は、更に次のことがわかっている。 事実1(Uhlenbeckによる。1989年) :S2→U(n)を調和写像とする。このときに対し、次をみたす(1)の解が存在する。 (i)はに関し、あるkが存在しての形に展開される。 (ii)、但しQはU(n)のある定数元。 (iii)。 に対し、はの基点での値の選び方だけ自由度がある。 定義(Uhlenbeckによる。1989年) 調和写像:→U(n)で、そのextended solution 2が事実1(i)の様にに関し有限項に展開されるとき、kの最小値をの(最小)ユニトン数((minimal)uniton number)、そのときまたはそのをk-ユニトン(k-uniton)という。 そこで次が問題となる。 問題:最小ユニトン数はどんな幾何学的意味を持つのか。 それについて知られている事実を述べる前に、次のことに注意する。Grt(Cn)でグラスマン多様体、つまりCn内のt次元部分空間全体のなす空間を表す。Grt(Cn)は計量まで込めて自然にU(n)に埋め込めることが知られている。その埋め込み方は、V∈Grt(Cn)に対しを対応させるものである。(但し、VはCnから部分空間Vへの直交射影。)ところで、調和写像とこの埋め込みの合成はやはり調和写像なので、Grt(Cn)への調和写像はU(n)への調和写像で特に像がGrt(Cn)に含まれるもの、と思うことができる。 事実2(Uhlenbeckによる。1989年) S2からU(n)への調和写像の最小ユニトン数はn-1以下である。また、0-ユニトンの空間はリーマン面からU(n)への定数写像の空間に一致し、1-ユニトンの空間は、U(n)の定数元の左からの作用を除いてリーマン面からグラスマン多様体Grt(Cn)への正則写像と反正則写像の空間に一致する。 また、調和写像の最小ユニトン数が2となる十分条件が知られている。 定義(Erdem-Woodによる。1983年) 滑らかな写像:→Grt(Cn)が等方的(isotropic)であるとは、任意のの正則座標(U,z)、x∈U、a,b∈Nに対し、 が成り立つことである。但し、、(はGrt(Cn)のtautoligical束)である。 事実3(Bergvert-Guest、酒川による。1992年) 等方的でかつ正則でも反正則でもない調和写像:→Grt(Cn)U(n)は2-ユニトンである。 この事実の系として、Segalの結果、つまり射影空間CPn-1に像をもつ正則でも反正則でもない調和写像は2-ユニトンであるという結果もでる。 この論文では逆に、特にS2からU(4)への調和写像でGrt(C4)に像をもつ調和写像のクラスをユニトン数で分類した。事実2により、この場合の最小ユニトン数は0、1、2あるいは3のどれかである。この論文の主定理を述べ、続けて主定理に現れる言葉の定義、解説を行う。以下、グラスマン多様体への写像と、を同一視する。また、直交する束同士のWhitney和をで表す。 主定理 S2からGr2(C4)U(4)への調和写像全体の空間は、等方性とユニトン数により次のように分類される。 i)等方的な場合; 1)0-ユニトンは定数写像のみである。 2)1-コニトンは正則あるいは反正則写像のみである。 3)2-ユニトンは、次のうちのどれかとなる。 ・CP2への非正則・非反正則な調和写像fと、S2上の自明直線束cが存在して、と分解される写像。 ・Frenet pair。 ・Frenet pairを1回froward replacementして得られる写像で、非正則・非反正則なもの。 ・等方的なmixed pair。 ・等方的なmixed pairを1回forward replacementして得られる写像で非正則・非反正則なもの。 4)3-ユニトンはない。 ii)等方的でない場合; 1)0,1-ユニトンはない。 2)2-ユニトンは等方的でないmixed pairのみである。 3)3-ユニトンは、等方的でないmixed pairを1回forward replacementして得られる写像のみである。 まず、からGrt(Cn)への調和写像の中では簡単な構成法でつくることのできる、Frenet pairとmixed pairの定義を行う。とを、からグラスマン多様体への写像で、とが直交するものと仮定する。の切断である第2基本形式、を、の切断sに対し で定義する。(但しはからへのエルミート射影。)、とおく。が調和写像である必要十分条件は(または)が正則(または反正則)切断であることである。正則切断に対しては、唯一の正則部分束で、の高々孤立点上のファイバーを除いてImage of と一致するものが存在する。同様にも定義できる。とおき、のガウス束と呼ぶ。G’()が定義するからGrt’(Cn)への写像も調和写像となるので、順にG(k)():=G’(G(k-1)())(k>0)と定義でき、(k番目の)ガウス束と呼ぶ。同様に、、G(-k)():=G"(G(-k+1)())(k>0)と定義する。 定義(Bustall-Woodによる。1986年) f:→CPn-1を正則写像、g:→CPn-1を反正則写像とする。とおくとは調和写像となるが、これをFrenet pairと呼ぶ。また、かつのときとおくとは調和写像になるが、これをmixed pairと呼ぶ。 ここでついでに、主定理の中に現れる等方的なmixed pairとはどのようなものであるか述べておく。 命題 Mixed pair :S2→Gr2(Cn)が等方的である必要十分条件は、 である。 Forward replacementとは、次のような調和写像の空間内の変換である。 定義(Burstall-Woodによる。1986年) :→Grt(Cn)を調和写像とする。の正則部分束でを満たすものに対し、とおくと、F(,)はからあるグラスマン多様体への調和写像となる。からF(,)をつくる手順をforward replacementと呼ぶ。同様に、上の定義でを反正則部分束、∂を用いているところをすべてに換えて得られる写像をB(,)と書き、からB(,)を得る手順をbackward replacementと呼ぶ。 主定理の証明のあらすじを述べよう。途中のほとんどの計算は、一般のリーマン面から一般のグラスマン多様休Grt(Cn)への調和写像に対して成り立つ。 S2からU(n)への各調和写像に対し、extended solution であってを満たすもの(normalized extended solution)が唯一存在し、しかもこののkが最小ユニトン数となることが知られている。よって、ユニトン数を求めるのに、各調和写像のnormalized extended solutionを具体的に求めればよい。ところで次が知られている。 事実4(Burstall-Woodによる。1986年) 調和写像:S2→Gr2(Cn)に対し、次のような調和写像の列0,…,N:S2→Gr2(Cn)が存在する。 (1)0=、Nは正則写像、Frenet pairまたはmixed pairである。 (2)i-1はiからforward replacementまたはbackward replacementで得られる。 まず実際に、Frenet pairやmixed pairのextended solutionを求めると、そのtop termが2となることから、事実2とも合わせてこれらが2-ユニトンであることがわかる。それから、事実3より、等方的な調和写像のユニトン数はわかっていた。よって我々は、Frenet pairが等方的であること、等方的調和写像をforward replacementしたものは等方的であることを、Salamonによって導入されたflagのdiagrainという概念を使って証明する。等方的でないmixed pairをforward replacementしてできる調和写像のextended solutionは、一般的にforward replacementに対応しextended solutionがどのように変化するか具体的に記述する事により求めることができるが、こうやって求めたものは、normalized extended solutionとは限らない。よって、それに適当なU(n)の元をかけて実際にnormalized extended solution を構成する。このときののtop termが3であることがわかるから、ユニトン数3がわかる。調和写像の行き先の多様体がGr2(C4)のときには、事実4に現れる調和写像の列の長さNがN=0または1となること、更にそのとき1はFrenet pairまたはmixed pairになり、0は1からforward replacementにより得られることを、やはりdiagramを使って示すと、主定理の証明が終わる。 主定理の系としては次がわかる。 系 S2からGr2(C4)への調和写像でユニトン数が2であるものは、等方的調和写像あるいはmixed pairに限る。 これは、S2からGr2(C4)への調和写像に話を限定したときには、事実3で得られた結果以外にユニトン数が2のものはmixed pairしかないことを示している。 |