学位論文要旨



No 111436
著者(漢字) 中山,能力
著者(英字)
著者(カナ) ナカヤマ,チカラ
標題(和) 対数的スムーズ族に対する隣接輪体
標題(洋) Nearby cycles for log. smooth families
報告番号 111436
報告番号 甲11436
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第35号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 教授 川又,雄二郎
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 助教授 斎藤,秀司
内容要旨

 0.Henselな離散付値体K上の多様体のエタール・コホモロジーにはKの絶対Galois群GK=Gal(Ksep/K)が作用しており,これは数論幾何における基本的な研究対象の一つであるが(但しここでKsepはKの一つの分離閉包である),nearby cycleは,このエタール・コホモロジーを近似するようなspecial fiber上のlocalなobjectであり,やはりGKが作用している.

 本論文の目的は,多様体がlog.smooth reductionをもつ場合にこのnearby cycleを完全に計算することであり,より詳しくは,第一に,この場合のnearby cycleへのGKの作用がtameである(すなわちwild inertia group P⊂GKが自明に作用し,この結果nearby cycleは,tame nearby cycleと一致する)ことを示すこと,第二にtame nearby cycleの各点での茎を記述する公式を得ることである.

 1.前者についてもう少し詳しく説明するために記号を用意する.Kを上のようにし,をK上有限型のschemeとする.便宜上,以下Kの剰余体は分離閉であることを仮定する.AをKの付置環とし,XをのA上の一つのmodel(すなわち,X×ASpec(K)=となるようなA上の有限型のscheme)とする.n1をAで可逆な整数とする.またをKsep内のKの最大tame拡大とする(ここで,mはAで可逆な全ての整数を走り,はAの一つの素元である.),でそれぞれX×ASpec(Ktame),X×ASpec(Ksep)をあらわす.このときXに伴うnearby cycleとは,次の式によって定義されるspecial fiber Xs上の層である.(後の都合のため,tame nearby cycleも同時に定義する.)

 

 ここで,qは任意の整数,iはXs→Xというclosed immersionである.

 さて一般にqへのGalois群の作用の複雑さには,Xのreductionの複雑さが反映することが観察される.例えばもしXがgood reductionをもつ(すなわちXがA上smoothである)ならば,qへのGKの作用は自明であることが,local acyclicityから簡単にわかる.逆にXのreductionが悪いとq,ひいてはのエタール・コホモロジーへのGKの作用は複雑になる.しかしXのreductionがbadではあっても比較的良いreductionである場合には,qにGKの比較的大きい部分が自明に作用する;実際M.RapoportとTh.Zinkとは,以下の(1)(2)の場合に

 (*)qへのPの作用は自明であることを,[RZ]§2,3の中で証明した:

 (1)Xがgeneralized semistable reductionをもち,その重複度が至るところでA上可逆であるとき.

 (2)Xがetale localに,semistable curvesの直積のとき.

 さらに1992年L.Illusieは[I]の中で,

 (3)Xが二つのsemistable familiesの直積のとき

 にも(*)が成り立つことを指摘した上で,(*)は,一般に,log.smooth reductionをもつ場合には正しいことが期待できると述べた([I]4.10).但しlog.smooth reductionをもつとは,Xが localにSpec(A[P]/(-x))上ということである.ここでPは有限生成saturatedな可換半群,はAの一つの素元,xはPの元で,以下の2条件を満たすものである.

 i)Pgp/〈x〉のtorsion partのorderは,X上可逆である.

 ii)任意の∈Pに対し,あるm≧1とb∈Pとがあって,P内でab=xmである.

 例えば,Xがgeneralized semistable family Spec(A[x1,…,xd]/(-))で各jについてmj>0である場合には,Xがlog.smooth reductionをもつことと,(m1,…,md)がA上可逆であることとが同値である.従って特に上の(1)の場合はXはlog.smooth reductionをもつことがわかるが,さらに(2),(3)のいずれの場合でもXはlog.smooth reductionをもつことは簡単にわかる.

 本論文の主定理の特別な場合である次の結果はこのL.Illusieの問題に対して,肯定的な解決を与えるものである.

 Theorem(0.1).上の記号の下で,Xがlog.smooth reductionをもつと仮定する.そのとき自然な射

 

 は任意のqに対して同型である.特にqへのKのwild inertia group Pの作用は自明である.

 Corollary(0.1.1).(0.1)でさらにXがA上properであるとする.そのときPのへの作用は自明である.

 証明は,log.etale cohomologyを用いる.要点は,log.smooth reductionはもちろんgood reductionではないものの,適当なlog.structureをXとAとに付与しlog.schemeとみなすことにより,あたかもgood reductionをもつかのように扱える,ということである.こうして問題をlog.smooth familyについてのlog.etale cohomologyの問題に翻訳することができるが,後者に関しては,あたかも普通のsmooth familyについてのetale cohomologyの問題であるかのように見通しよく議論することができる.

 以下証明の概略を述べる.log.smoothnessは,semistabilityとは異なり,base changeによって保たれる.従って,(0.1)は,次のsimpleなlog.etale cohomologyについての定理から,極限に行くことにより,自然に導ける. Theorem(0.2).上の記号の下で,(X,MX)→(Spec(A),the canonical log.str.)をfs log.scheme間のlog.smoothな射とする.ここで,canonical log.str.とは,Spec(A)の閉点によって定義されたlog.structureである.

 このとき上の自然な射

 

 はquasi-isomorphismである,但しjはその上のlog.str.が自明であるようなXの最大のopen subscheme Xtrivからのopen immersionである.

 (0.2)は,まず,K.FujiwaraおよびK.Katoの結果である,l-進log. cohomologyのlog.blowing-upによる不変性を用いて,generalized semistable reduction X=A[x1,…,xd]/(-)の場合に帰着する.次にこの場合には,T.Saitoの議論により,m1+…+mdに関する帰納法が働く.最後にm1+…+md=1のときは,familyはsmoothであり,通常の cohomologyのsmooth base changeによって証明することができる.(miが一つでも0のときは,Xはもはや,上で説明した意味でのlog.smooth reductionではない.実際我々は,(0.1)よりもさらに一般なstatementを証明することになる,というのは(0,2)ではXtrivであるようなX,すなわち,いわゆるhorizontal log.を許すようなXをも同時に扱うことになるからである.)

 2.さて(0.2)からは,(0.1)とはまた別に,SGA7I3.3-型のの公式を導くこともできる.その公式と先の(0.1)とにより,log.smooth familyのnearby cycleについては十分な理解を得たことになる.

 最後に,(0.2)はlog.etale cohomology論内部の定理としてみても興味深い帰結を有しており,例えば,log.smooth族に対してのrelativeなlog.Poincare dualityなどを,(0.2)を用いて証明することができる.

REFERENCES[I]Illusie,L.,Expose I Autour du theoreme de monodromie locale,preprint.[RZ]Rapoport,M.and Zink,Th.,Uber die lokale Zetafunktion von Shimuravarietaten.Monodromiefiltration und verschwindende Zyklen in ungleicher Charakteristik,Invent.Math.68(1982),21-201.[SGA7]Grothendieck,A.,Deligne,P.and Katz,N.with Raynaud,M.and Rim,D.S.,Groupes de monodromie en geometrie algebriques,Lect.Notes Math.288,340(1972-73).
審査要旨

 etale cohomologyはWeil予想解決のため,Grothendieckにより定義された.一方近年Fontaine-Illusie,加藤らは,スキームにある付加構造をつけたlogスキームを研究するlog代数幾何を提唱し,その重要性が明らかになりつつある.中山能力氏はlogスキームのetale cohomologyについて研究を進め,そのPoincare双対性,proper底変換定理など,それが通常のetale cohomologyと同様のよい基本的な性質を満たすことを示していた.本論文ではさらにnearby cycleの層について考察し、log smoothの仮定のもと,それが扱いやすいものであることを示し,その完全な記述を与えた.これはIllusieの問題を肯定的に解決するものである.

 Nearby cycleとは多様体の退化する族を考えるとき現れるもので,一般fiberのcohomologyを記述する特殊fiber上の層(の複体)である.これはDeligneによるWeil予想の証明の中の本質的な道具であった.semi-stableな退化に対してはRapoport-Zinkが明示的な計算を与えている.

 Kをhenselな離散付値体で剰余体kが分離閉なものとしXをその整数環OK上の有限型スキームとする.射i,jt,を次の図式で定義する.

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 ここでKsはKの分離閉包,Kt=K(1/m,p|m)⊂KtはKの最大tame分岐拡大,pはkの標数,はKの素元である.このときnearby cycleの層qおよびtame nearby cycleの層はそれぞれ

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 と定義される.nはpで割れない整数とする.I=Gal(Ks/K)をKの惰性群,P=Gal(Ks/Kt)をそのp-Sylow部分群とすると,q,はそれぞれI,I/Pの自然な作用をもち,はP-不変部分(q)Pと一致する.Xがproperのとき,これらは次のスペクトル系列

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 により,一般fiberのcohomology Hq(,Z/nZ)を記述する.

 本論文の主結果は,XがOK上log smoothとの仮定の下で,qを示し,さらにそれを具体的に記述することである.XがOK上log smoothとは,Xがetale localにSpec OK[P]/(-x)と同型ということである.ここでPは有限生成な可換半群,はOKの素元,x∈Pで次の条件を満たすものである.

 (1)PgpをPの群化とするときa∈Pgpがある整数m1に対しam∈Pを満たせばa∈Pである.

 (2)Pgp/XZのtorsion部分の位数はpと素である.

 (3)任意のa∈Pに対し,あるm1とb∈Pがあって,P内でab=xmとなる.

 例えばsemi-stableなXはlog smoothであり,このときP=Nd,x=ととれる.

 主定理.XをOK上log smoothとすると,

 (1)

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 (2)Xの各幾何的点yに対し,そこでのstalkは

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 で与えられる.

 (2)の右辺の正確な定義は略すが,例えばX=Spec OK[P]/(-x)のときは,

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 で与えられる.この定理はIllusieの問題の肯定的解決を与えるものである.

 主定理は通常のetale cohomologyについての主張であるが,それは次のlog etale cohomologyについての定理の帰結である.

 定理.XをOK上log smoothとすると,X上のlog etale層(の複体)の標準射

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 は同型である.ここでj*は開うめこみj:XK→Xによるlog etale層の順像である.

 この定理は,通常のetale cohomologyにおけるsmooth acyclicityのlog版である.すなわち,log etale cohomologyを考えるにあたっては,log smooth射は通常のスキームの射としてはsmoothではないのに,smoothなものとみなしてよいことを意味している.

 定理の証明はまずblow upにより,P=Ndの場合に帰着する.次に和:Nd→Nによるx∈Pの像に関する帰納法により,通常のetale cohomologyのsmooth acyclicityに帰着することによってなされる.

 以上のように,中山氏は,本論文においてlog smoothの仮定の下,nearby cycleの層の計算を行いRapoport-Zinkの結果を拡張するとともに,Illusieの問題の肯定的解決を与えた.その証明においては,log etale cohomologyを有効に用い,それ固有の性質を示すとともに,それを用いることにより,通常のetale cohomologyの問題を見通しよく解決した.よって、論文提出者中山能力は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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