学位論文要旨



No 111438
著者(漢字) 山根,英司
著者(英字) Yamane,Hideshi
著者(カナ) ヤマネ,ヒデシ
標題(和) ×1=0で多重特性的な2階または3階マイクロ双曲型作用素の特異性の分岐
標題(洋) Branching of Singularities for Some Second or Third Order Microhyperbolic Operators Multiply Characteristic at×1=0
報告番号 111438
報告番号 甲11438
学位授与日 1995.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第37号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 片岡,清臣
 東京大学 教授 小松,彦三郎
 東京大学 教授 金子,晃
 東京大学 教授 岡本,和夫
 東京大学 助教授 木村,弘信
内容要旨

 超局所解析における最も基本的な結果として、多重度一定の場合の伝播定理(佐藤-河合-柏原,Hormander)は良く知られている。これらの研究が一段落した後に、多重度が変わりうる場合の研究が次の課題となった。

 特性多様体の成分が横断的に交わっている場合について考えよう。交わりのsymplectic幾何的な性質の違いに応じて、大きく分けて2通りの研究方向が考えられる。

 1つは交わりが正則包含的な場合で、第2超局所解析が有効である。第2超局所解析は、数々の伝播定理を導くのに有効である他、境界値問題や混合問題に幅広い応用を見いだしたこともあって多くの研究者の注目するところとなった。

 もう1つは交わりが包含的でない場合である。そのような方程式のマイクロ関数解の台、あるいは分布解の波面集合は枝のような形になることがある。この現象をbranching of singularitiesという。特異性の分岐という訳が定着している。台の評価を与えるという結果もいろいろあるが、ここでは、台の形を完全に決定するという問題に限って述べる。

 特異性の分岐の研究を2種類に分けることができる。1つはHanges、大阿久に代表されるFuchsianの場合であり、もう1つが、本論文の主題でもある双曲型の場合である。

 双曲型の場合につき、従来の結果の概観を与えよう。ある種の2階双曲型方程式に関して、Alinhac、谷口-戸崎は分岐現象を詳しく解析した。ともに、部分Fourier変換で不確定特異点をもつ常微分方程式に帰着している。天野-中村はm階(m>1)双曲型方程式を扱った点で著しいのだが、その結果は、ある常微分方程式のStokes係数さえわかれば分岐がわかる、というところまでで、Stokes係数はわからないままになっているようである。

 私の博士論文では、ある種の2階または3階双曲型方程式に関して、解の台の分岐を詳しく調べる。背景にはni階方程式に適用可能な一般論があって、それをPART0で述べた。PART1で2階、PART2で3階の場合を扱った。PART1とPART2には共通点が多いので、ここではPART2についてのみ述べる。

 

 というマイクロ微分作用素が、の近傍で定義されているとしよう。ここで。a、bは定数で、ord-l-l-1。-lとxnにつき多項式。より、Pは±x1方向にマイクロ双曲型である。さて、Char(P)は3つの成分{1=x1n}、{=0}、{1=-x1n}からできている。この3つの成分は横断的に交わっている。交わりは{x11=0}∋p。交わりの外ではPは単純特性的でS-K-Kの伝播定理があてはまる。すなわち、解の台は、陪特性帯(x1でparametrizeされる)の和である。交わりのところで分岐が起きるはずなので詳しく調べよう。

 pから出る1=x1n、0、-x1nの陪特性帯をそれぞれb1、b2、b3とし、それらの{±x1>0}との交わりをとする。がPu=0の解だとしよう。ならばuはj-pureだということにする。

 まず分岐についての結果を述べる。

 (a,b)∈C2に関するgenericな条件の下で次がなりたつ。

 解u∈CM,pが±x1>0でj-pureかつu≠0(on)ならばx1>0ではのすべてがuの台に含まれる。(つまり3本に枝分かれする)

 

 しかしいつも3本に枝分かれするわけではなく、non-genericな条件下では異なった現象が起こりうる。実際、-l=0(∀l)、(a、b)∈N×Nのときは次が成り立つ。

 解u∈CM,p

 (ア)±x1>0で1-pureかつu≠0(on)ならばx1>0で上u≠0、上u≠0、上u=0。(つまり枝は2本。)

 (イ)±x1>0で2-pureかつu≠0(on)ならばx1>0で上u=0、u≠0.(つまり枝は1本。)

 (ウ)±x1>0で3-pureかつu≠0(onb31±1±)ならばx1>0で上u=0、上u≠0、上u≠0。(つまり枝は2本。)

 

 この場合はb2が特別であるが、(a,b)の条件を変えると、b1またはb2が特別になる。ひきつづいて、境界値問題とからめた2つの結果を述べよう。

 まず、(はPの解層)がj-pureであるための必要十分条件は、境界値u(±0,x’)、D1u(±0,x’)、u(±0,x’)のみたすべきマイクロ微分方程式系で与えられる。

 次に、(a,b)がgenericな条件を満たすとき、任意に与えられたDirichlet(Neumannでもよい)datumを満たす±x1>0におけるj-pure解が一意に存在する。

 証明の方針を述べよう。±x1>0におけるj-pure解の全体をSol(j.±)と書く。N={x1=0}⊂Mとおく。

 

 なる自然な射影とし、p’=(p)とおく。pureな基本解とでも呼ぶべき次のような写像(j=1,2,3)をつくる。

 

 。さらにu∈CN-p’について(u)(x)の境界値を計算する。(そうするとが同型であることがわかる。)

 分岐に関する結果は、まずpure解の±x1→0の境界値を取って、次にその境界値をgivenとして、±x1>0で境界値問題を解けばよい。他の結果もすぐ出る。

 難しいのはの構成と、uの境界値の計算である。それはsymbol calculusによるのであるが、基礎付けには片岡清臣による分数巾座標変換とmild microfunctionsの理論を用いる。

 P(x,D)においてt=という変換を行なう。(x1=0では特異性がある。)x1D1=2tDt=x1D1(x1D1-1)...(x1D1-l+1)を用いると、(t,x’)変数でも分数巾のない普通の作用素になる。さらに(t,x’)変数について量子化されたLegendre変換を行なうと問題の作用素はQ(,)+摂動という形になる。ここで

 

 である。QはJordan-Pochhammer型といわれるFuchs型作用素の例になっている。Qの(確定)特異点は,0,∞。pureな基本解を作ることは、おおむねQの解であって適当な正則域を持つものを作ることに対応する。それはEuler積分によって可能となる。摂動は逐次近似によって処理する。

 次にuの境界値を求めるには=∞での様子を見ればよい。

審査要旨

 本論文提出者はある種の弱双曲型方程式に対する超関数解の構造と、その解析的特異性の分岐の様子を詳しく調べた。ここで扱われた作用素はちょうど初期面x1=0上でのみ特性根が重なる双曲型作用素、すなわちその主表象p(x,)が

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 で与えられている場合である。ここでx=(x1,x’)∈Rn,=(1,’)∈Rn,=1,2,...,であり,k(x,’)(k=1,...,m)は考えている点(0,;)の付近で定義され、互いに異なる値を持つ、(x,’)の実数値実解析関数である。この形の作用素については階数m=2のときで係数等が特殊な場合、Alinhac,谷口、戸崎、中根らが、また一般のm階のとき天野、中村、高崎らが解の構成および特異性の分岐についての結果を得ている。しかし彼等はすべて問題をある種の、無限遠に不確定特異点を持つm階常微分方程式の解の構造に帰着させているため、m3のときは対応する常微分方程式のStokes係数等が不明であり具体的な例の解析などはなされていなかった。これに対し本論文では片岡による、分数ベキ座標変換とLegendre変換のアイデアを基にしてm=2,3かつ=1の場合の比較的一般の作用素を解析し、特殊関数を使った解の積分表示、分岐条件の具体的表現などに成功した。特にm=3の場合の分岐条件は完全に新しく、極めて興味深い結果である。

 本論文は大きく3部に分かれ、Part0では問題の一般的背景と大まかなアイデアを説明し、Part1では2階を、Part2では3階の場合を解析した。Part0でも述べられているように本論文のアイデアは次の通りである:

 (1)の形の主表象を持つ任意の作用素P(x,∂)に対する方程式P(x,∂)u(x)=0を、x10,x10の半空間にそれぞれ分けて考え、解u(x)についてもそれぞれに台をカットした(x)=u(x)Y(±x1)に分割しておく。このときは確定特異点型境界値問題

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 の作用素はt=0を特異点とする、同様の確定特異点型作用素Q±(t,x’,∂t,∂x’)に変換されるが、その主表象は、tの双対変数ををすると

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 の形になり、tの分数ベキを含むものの、その特性多様体はt=0を別にすればm個に完全に分離する。従って本来の問題は結局、Q±に対応した2つの確定特異点型境界値問題の超局所解析に帰着される。特に(3)の中の1つの因子

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 上にのみ特異性を持つ解をk-pure解と呼ぶが、k-pure解の構成および、そのt=+0上の境界値による特徴付けにすべてが帰着できる。さらにこのような問題を解く方法として河合、柏原による量子化Legendre変換の方法がある。これは(t,x’)の関数を積分変換して正則パラメーターを含む(,x’)の関数を考えることであるが、これはいわば(3)の中で(階数を別にすれば)tとの役割を入れ替えることに当たる。この方法の長所は(3)のような作用素が変換され、本質的にはに関するP1上の確定特異点型常微分方程式になってしまうことである。従って従来の理論のような不確定特異点をもつ方程式は現われず、原理的にも簡単化され、その結果m=3,=1のケースが扱えるようになった。ただし、以上述べたような操作を一般論として展開することは大変難しいが本論文ではいくつか自然な制限条件を課した上で、GaussやPochhammerの超幾何関数を使って、具体的にこのプログラムを実行した。またある程度の摂動項も許すように、いわゆるformal normの方法を応用した摂動計算法を編み出し、摂動項を含んだ場合にもpure解の存在証明等に成功した。これらは今後、より一般の場合を解析する際の良き手本となると思われ、高く評価できる。よって、論文提出者山根英司は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/54483