1928年台湾総督府は、果実生産拡大を図るため、果樹園経営計画や果樹の植栽指導に必要な柑橘奨励事業施策を講じた。その後急速にポンカン新植がすすみ、戦争直前の1943年における台湾のポンカン栽培面積は2,448haに達した。さらに台湾経済の高度成長期に当たり、ポンカン栽培は空前のブームを呼び、急速に増植が続いた。その後、栽培面積の増加に伴い、ポンカンの過剰化現象が起きたのである。1989年にはポンカン生産量はピークとなった。巨大な生産過剰と価格の暴落によってポンカン生産農家は約10億円の損失を蒙った。その後も卸売価格の低迷が続き、生産農家の手取価格は近年連続して生産費を下回るようになっている。このことから、今日の農会ポンカン共同販売対策にとって供給調整策と集出荷機能が最も重要な役割を占めていると考える。しかし、現実の農会共同販売目標と成果との間には、大きなギャップが存在している。こうした大きなギャップがなぜ生じるのであろうか。台湾の学界は郭敏學氏を始めとしてまさにこの系統農会に着目して、系統農会の機能分担及び各段階間の連携関係を中心として論議されてきたのである。郭氏が言うには、現在の系統農会の体制の下では、郷鎮農会・県農会の自立的販売機能が失われ、現体制は単なる省農会主導の系統システム体制にすぎないという。そして、系統農会の共同販売活動において、各段階間の補完・補強という機能分担を果たす関係となっていない。そして共同販売対策の目標と成果の間には、大きなギャップが生じるわけである。郭敏學氏は、系統農会の自立性がないということから、台湾農会は農民的な性格を持っていないとしている。しかし、郭敏學氏の議論でもっとも大きな問題点は、農産物価格形成と共同販売対策の内容そのものについて、ほとんどて触れられておらず、系統農会組織の本質のみに限られていることにある。しかも、常識的・記述的な部分も多く、農会の検証は不十分であると言わざるをえない。また、農会の本質を客観的に議論するうえで多少の解明であっても、既述したように共同販売の目標と成果とのギャップを全面的に解明することはできない。 本論文は、農業経営学の視点を踏まえて、生産農家価格同題を、農会共同販売におけるポンカンの流通過程の検討を通じて生産農家価格形成の実態をもとに分析する。またポンカン市場の構造的な問題を生産段階をも踏まえて把握し、さらにポンカン供給調整策である出荷調整の把握と検討によって、農会の共同販売対策目標と成果との間でなぜ大きなギャップが生じるのかを解明することを本論文の課題とする。 第一章、「台湾におけるポンカンの市場構造と商品特性」は、まずポンカン生産の現状とポンカンの市場構造について分析した。 台湾ポンカンの市場構造については、集出荷業者の占有率と品質差別化とにわけて考察した。現在台湾におけるポンカン生産の集中度からみると、上位3県で70.0%で、上位5県で88.1%である。こうした数字でみる限り、もし上位5県の主産地が結集し統一的な行動をとることができれば、市場における価格形成に影響を与えると考えられる。しかし、現実には、出荷調整計画と実績とのギャップが非常に大きいので、農会を始め農民団体が市場の総出荷量に占める割合は約40%にすぎない。したがって系統農会は安定的・継続的出荷調整を確保しなければならない。また、ポンカン品質差別の問題については、事例を取り上げて農会別・個人別の市場価格の格差が存在することに言及した。このことから、多様化する市場へ対応するにあたって、農会の販売対策に一つの方向を示した。 第二章、「台湾農会における共同販売対策の展開」は、まず農会の共同販売の目標と原則を検討した。しかし、1988年より連続4年間でポンカン生産費は生産農家の手取価格を上回り、農家は大きな損失をこうむった。このように、農会の販売目標と大きなずれをみせていることを明らかにした。そして農会の販売目標を実現するために、農会の販売対策の展開について考察した。 第三章、「ポンカンの生産者価格形成の問題点と卸売市場分析」は、ポンカンを対象に、市場別・等級別により農会共同販売を通じて卸売価格と生産者手取価格形成の実態を具体的に把握することにあった。生産者手取価格を高くする方策には、流通総経費を節約すると同時に、各県農会が等級・階級別によってそれぞれ有利な販売を表示する市場の出荷に向わなければならないことを明確にした。しかし、系統農会によるポンカン販売は、大都市市場に重点的に集中出荷する傾向が非常に強い。大都市市場への過度な集中が市場での地域間競争を激化させ、農家にとっては、大都市集中出荷だけが必ずしも有利な出荷販売ではない。今後系統農会の共同販売は、大都市出荷を行ないながら、地方市場への分荷をも幅広く行なう必要性がある点を指摘した。また、市場別におけるポンカンの規格別の取引と卸売価格の形成についても分析した。分析を行なってみると、地方市場における下位級品ポンカンの取引が等級間の格差が小さく、比較的高値で売れる場合が少なくない。したがって、農家の手取価格の向上から考える場合にも、農会は大都市市場へ出荷すると同時に、地方市場への分荷・出荷ポンカン販売対応を進めていくことが重要となることを指摘した。 第四章、「ポンカン生産・市場分析と出荷調整計画」は、まず農会のポンカン出荷調整の現状について考察した。 ポンカン出荷調整計画の策定は各県・各郷鎮農会が一律に協調的・統一的行動をとることを前提にして行なわれる。しかし、各県・各郷鎮の市場条件とポンカン生産に関する生産力の格差が存在するため、出荷調整の活動のずれがそこから生じると考えられる。 ポンカン出荷調整計画と実績とのギャップが大きい理由として、(1)出荷調整計画策定の方法に問題がある。(2)「政治農会」体制展開のもとでは、系統農会の運営のあり方に問題がある。台中県における7郷鎮を調査し分析した結果、ポンカンの生産力格差は、県間のみならず郷鎮間にも存在していることを明らかにした。県間、郷鎮間における技術的経済的格差が系統農会の出荷調整の行動に大きなずれを生じさせてきたと考えられる。したがって郷鎮間ないし県間における均質的な生産条件の環境をつくることが不可欠ということを指摘した。また、現行系統農会における出荷調整の機能分担のやり方の特徴と問題点を検討してきた。生産農家→郷鎮農会→県農会という下からの合意・意見に基づく基本体制になっていないために、会員農家が郷鎮農会の販売活動から離脱し、郷鎮農会が系統農会の出荷調整から離れていく傾向が増えていると考えられる。したがって出荷調整計画は、下から上への体制作りがどうしても必要になることを指摘した。 第五章、「台湾農会共同販売の実証的考察-台中県下農会の組織と機能」は、多様化する市場情勢や系統農会の出荷体制の下に作られた農会が果たしてきた共同販売の機能と、農会が有効な販売対策を講ぜられないまま後退してきた機能を明らかにした。 東勢鎮農会はポンカン生産指導と販売対策に対し積極的に取り組んでいた。まずポンカン生産に対する営農指導の徹底については、施肥、防除などの共同指導・設計を通じてポンカン品質の均質化、徹底的な選別・選果とともに、販売対策にとって重要な手段となる規格の統一を行なっていた。これは、東勢鎮農会出荷によるポンカンの等級・階級別比率の推移をみてみると、上位級品の比率がかなり成長していることで明らかになっていた。一方、豊原市農会は、東勢鎮農会に比較して営農指導の格差が大きく存在していて、そのためかポンカンの品質も依然として中・下位級品の割合が大きく占めている。また、農家生産の成果を調査した結果、豊原市の農家間のポンカン単位当り収量の格差は東勢鎮より大きいことを確認した。一方、ポンカン単価については、豊原市の農家間の格差は東勢鎮より大きいことを明らかにした。農会の共同販売の一つ問題として、農家間・地域間の生産力、品質の格差の縮小という課題を改善しなければ、統一意志で安定的・継続的ポンカン出荷が難しいと考えられる。また、販売対策についても、東勢鎮農会は単なる従来系統農会の大都市出荷に頼るのみでなく、出荷市場の分散化と販路拡大という販売対策をとり、販売機能の発揮の効率化を図った。豊原市農会の場合は、大都市市場への一辺倒集中出荷による遠隔地販売をとっている。調査を分析した結果、豊原市農会における農家の手取価格は年々低下の傾向を示していることを明らかにした。一方の東勢鎮農会は、出荷市場の分散化による地方市場への出荷は、農家の手取価格は必ずしも大都市市場への出荷に比べてより低いとは言い切れない。むしろ地方市場への出荷は農家の手取価格が大都市市場への出荷より高い傾向を示すことを明らかにした。出荷市場の分散化と流通販売ルートの拡大など多元化マーケティング活動を展開して、生産に関する営農指導を積極的に行なっている東勢鎮農会の販売事業の実績を、調査を通じて明確した。 |