審査要旨 | | 温室栽培では温室内に到達する日射をできるだけ多くし,さらに植物群落が最大限にそれを利用できるよう工夫する必要がある。 本研究では,中国で代表的な構造の片屋根温室を対象とし,模型実験と数値計算から,(1)基本的日射透過特性,(2)日射透過改善法による効果および,(3)室内植物群落の畝方位と直達光の受光量との関係を明らかにした。 片屋根温室の日射透過特性に関する数値計算の検証のために, 1/30の模型温室を製作して実験した。模型温室の中央部にそれぞれ床面に16個,裏壁に5個,裏屋根に4個の太陽電池を取り付け測定した。 日射の透過特性に関する数値計算は直達日射と天空日射の透過特性に分けて行った。天空日射の数値計算では(1)天球からの天空日射強度は均一で,(2)温室内での反射は無いと仮定した。実測の結果は数値計算結果と概略一致した。 数値計算では中国で片屋根温室が主に利用されている北緯35°〜45°について行った。その結果,(1)冬季だけではなく,春季にも片屋根温室内の栽培面における直達日射日透過率分布の均一性が高く,夏季には,床面の北壁付近と南縁の近くで直達日射日透過率が低下する。(2)室内床面における天空日射透過率は北側ほど低くなり,不均一性が著しい。(3)冬季には,裏壁の内側に到達した直達日射量は比較的大きく,その室内反射日射が利用できることなどが判明した。 片屋根温室内への日射透過率を向上させるための方法として,次の2つの改善策を検討した。(1)裏壁と裏屋根を透明な被覆材にする。(2)裏壁と裏屋根の内側の反射率を高める。あるいは片屋根温室内床面の北側の地帯は作業用歩道であり,作物を栽培しないので,室内の棟真下に反射幕を垂直に設置する。 これらに関して模型温室を用いて実験した。その結果,(1)片屋根温室の裏壁と裏屋根を透明なビニルフィルムにすると,栽培面での直達日射日透過率は夏季において大きく改善された。栽培面での天空日射透過率は約11%向上した。(2)いずれの場合も,反射日射は増加した。特に,裏壁と裏屋根の内側に反射幕を展張するより,室内の棟真下に反射幕を立てた方の効果が大きかった。(3)棟真下に立てたアルミ反射幕の傾斜角を太陽高度に応じて変えることによって,室内栽培面における直達日射日透過率分布の均一性が改善され,栽培面での直達日射日透過率も増加した。 片屋根温室内の畝栽培植物群落の受光特性に関する模型実験では,模型植物群落を模型温室に入れて,畝方位(東西と南北)や葉面傾斜角と群落の直達光受光率との関係を明らかにすることを目的とした。 模型片屋根温室,模型植物ともに実物の1/15の模型を作製した。模型植物は畝栽培キュウリの幾何学構造パラメーターを参考し,葉の形は直軽1.5cmの丸型,株の高さ6.0cm,一株は12葉からなるとした。葉群の方位分布は垂直方向に隣接する2枚の葉の方位角差は90°とし,葉面傾斜角はそれぞれ水平(0°),30°と-45°の3つとした。 植物群落の幾何学構造として,栽培密度は畝間隔5.5cm,株間隔3.3cm,の一条植で,葉面積指数は1.16,植物群落の大きさは東西畝で長さ77cm,幅26cm,総株数は110,南北畝では長さ77cm,幅23.8cm,総株数98であった。観測は室内で直達光条件下で行った。観測の対象地区と時期は,北緯35°,45°,55°の12月21日から,1ヶ月おきに6月21日までの半年間であった。群落の中央部の東西畝の場合に5株,南北畝の場合に4株を観測対象株とし,それぞれの株の上から10枚の葉面の表にサイズ10mm×10mmの太陽電池を取り付け,その受光量を測った。その結果,水平葉面群落の場合(1)北緯35°の冬季においては,東西畝の群落日直達光受光率が南北畝より高かったが,春,夏季では南北畝のほうが高かった。(2)北緯45°と55°では,どの季節にも南北畝の群落日直達光受光率が東西畝より高く,太陽高度の大きい夏場になるほど,両者の差が大きくなった。(3)異なる畝方位において群落日直達光受光率に差があったのは,冬季では午前前半と午後後半の時間帯に,春・夏季では一日中ほとんどの時間帯で群落直達光受光率が異なることによると思われた。 また,傾斜角35°と-45°の葉面群落の場合,(1)冬至と春分において東西畝の群落日直達光受光率が南北畝より高かったが,夏至には南北畝のほうが高かった。(2)冬至において,異なる畝方位での群落日直達光受光率の差は高緯度になるほど大きくなった。(3)傾斜角-45°の葉面では,緯度と季節によらず,南北畝の群落日直達光受光率は東西畝より高かった。 以上要するに,本論文は学術上,応用上貢献するところが少なくない。よって,審査員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 |