学位論文要旨



No 111462
著者(漢字) 渡邉,正和
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,マサカズ
標題(和) 昼間側沿磁力線電流系の構成
標題(洋) Constitution of Dayside Field-aligned Current System
報告番号 111462
報告番号 甲11462
学位授与日 1995.06.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第2972号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 寺沢,敏夫
 東京大学 教授 飯島,健
 宇宙科学研究所 教授 西田,篤弘
 東京大学 教授 鶴田,浩一郎
 東京大学 助教授 山本,達人
内容要旨

 沿磁力線電流は磁気圏からエネルギー・運動量・電場を電離圏に運ぶ重要な担い手であり、1970 年代から数多くの衛星観測がなされてきた。沿磁力線電流の大規模構造としては午前側および午後側に現われるregion 1/region2電流系が知られているが、これらがぶつかりあう真昼の部分は複雑なパターンを示す。これまでの研究の中で、真昼付近の電流系は惑星間磁場(IMF)に大きく支配されていることがわかっているが、ソース領域も含めたグローバルな空間分布はいまだに不十分な理解にとどまっている。そこで本論文においては、低高度極軌道衛星の磁場および粒子データを用いて、昼間側の大規模電流系とそのソース領域のグローバル構造について、以下のIMF条件下において調べた:(1)IMF |By|>>0,Bz<0(2)IMF By=0,Bz=0(3)IMF By=0,Bz<0。そして最後に以上の結果を総括して、昼間側の電流系がどのような要素から構成されているかを考察した。

 (1)まず第一に、同時の低エネルギー降下粒子(0.03-30keV)と磁場データを用いてIMF Byの依存性について調べた。最初に粒子スペクトルから5つのプラズマ領域を決定した。(1)Inner plasma sheet:夜側から回ってきた1keVより高いエネルギーのイオンが認められる低緯度側のplasma sheet(2)Outer plasma sheet:高緯度側の残りのplasma sheet(3)Cleft:低緯度境界層と考えられる領域(4)Cusp:Magnetosheath の粒子が直接入ってきている領域(5)Mantle:高緯度境界層(プラズママントル)と考えられる領域、の5つである。次にこれらの領域に沿磁線電流を重ねて、その対応関係を調べた。結果のまとめを図1に示してある。プラズマ領域・沿磁力線電流ともにBy<0北半球およびBy>0南半球で同じパターンを、By>0北半球およびBy<0南半球で同じパターンを示す。プラズマ領域のBy依存性としては以下のものがある。By<0北半球By>0南半球の場合で説明する(図1(a))。(1)cuspが午前側に移動する。(2)mantleが午後側に伸びる。(3)午後側のcleftはかなり広い領域で観測されるが、午前側のcleftはごく限られた狭い領域でしか観測されない。(4)午前側のplasma sheetが昼間側および極方向にふくらむ。以上のうち、(2),(3),および(4)は本研究において初めて見い出された。電流との対応をみると、cuspおよびmantleに現われる沿磁力線電流の流れの向きはIMF Byの極性が変わると逆向きになる。一方、cleftおよびouter plasma sheetにはいわゆるregion1電流系と同じ向きの沿磁力線電流が、inner plasma sheetにはregion2電流系と同じ向きの沿磁力線電流が対応しており、これらにはIMF Byの依存性がない。したがってcuspおよびmantleに現われる電流系は真昼近くの固有のものである。ここではその高緯度側をregion0電流系、低緯度側をmidday region1電流系と呼ぶ。次に、region0およびmidday region1電流の強度を調べて見ると、両者が均衡を保っている例がかなりあり、両者が磁気圏側で結ばれている可能性を示唆する。その一方で、均衡が保たれていない例がかなりあり、その場合には必ずregion0電流が卓越する。またregion0電流系はかなり広い地方時に渡って広がっている(図1参照)。これらの事実はregion0電流系にはmidday region1電流系とは独立な生成機構が存在することを意味する。以上に加えて、cleftに現われるregion1電流の強度を午前側と午後側で比較してみると、By<0北半球およびBy>0南半球の場合、午後側cleftに付随するregion1電流のほうが(流れの向きはregion0電流と反対)、午前側cleftに付随するregion1電流(流れの向きはregion0電流と同じ)よりも大きいことがわかった。これらを総合すると、region0電流のmidday region1電流と結び付いていない部分は午後側cleftに現われるregion1電流系と磁気圏側で結び付いていると結論される。(By>0北半球By<0南半球の場合には以上の関係は逆になる。)そこでregion0とmidday region1電流系の生成機構として推察されるモデルを3つ提唱した(図2、By<0北半球の場合)。それらのうち2つ((a)および(b))はregion0とmidday region1をそれぞれ慣性電流および圧力勾配電流によって直接結ぶもので、残りの1つ((c))はregion0と午後側cleftのregion1を主に渦の効果によって結ぶものである。

図1 |By|>>0,Bz<0の時のプラズマ領域と沿磁力線電流系関係を表したもの。略号は、それぞれ、PS=plasma sheet,R0=region 0,R1=region 1,R2=region2を表す。図2 |By|>>0,Bz<0の時のregion0電流とmidday region1電流の生成機構を表す模式的図。By<0北半球の場合で描いてある。(a)午前側からくるプラズマ流が減速されることによってregion0とmidday region1を生じる機構、(b)午前側に向く圧力勾配によってregion0とmidday region1を生じる機構、(c)磁気圏尾部のプラズママントルにおいて生じる渦(磁力線のねじれ)によってregion0を作る機構。

 (2)第二に、惑星間磁場の影響が最小になり地磁気活動度が極めて弱くなる場合(IMF By=0,Bz=0,Kp=0)を調べた。まず図3にグローバルなプラズマ領域を示す。プラズマ領域は、低エネルギー降下粒子(0.03-30keV)でみると、inner plasma sheetおよびcuspは認められるものの、高緯度領域のプラズマはよく知られているcleft・mantle等に分類できない領域が現われる。ここではこれをboundary plasma regionと呼ぶ。図3には別の衛星で得られた、高エネルギー粒子(>30keV)の情報も加えてある。Background boundaryとは30keV以上の捕捉電子(ピッチ角90°)のフラックスが極冠域の背景強度に落ちるところである。Isotropic energetic ion regionとは30-80keVの等方的なイオンフラックスが観測される領域である。完全に同時のデータではないので厳密な比較はできないが、background boundaryは昼間側から午前側・午後側にかけてのかなり広い範囲でinner plasma sheetとboundary plasma regionの境界にほぼ一致している。Background boundaryはかつて1960年代にopen/closed境界の指標として導入されたものであるが、より現代的な解釈は、磁力線の形が双極子的な領域から尾部的な(より夜側に引き伸ばされた)領域に遷移する境界である。昼間側においては、background boundaryに至るまで>30keV電子のフラックスは捕捉的であり、かつこれより高緯度側で30-80keVイオンが等方的になることから、昼間側ではbackground boundary(すなわちinner plasma sheetとboundary plasma regionの境界)を境にして、磁力線が双極子的領域から尾部的領域に不連続に変わっていると考えられる。一方、昼間側の電流系は図4の様になっている。午前側午後側とも3層構造(region2+region1+region0)が現われる。Region0とregion1はboundary plasma regionに対応しており、特徴的なことは両者が電流強度において完全に均衡を保っていることである。これは磁気圏側でも両者は結び付いていることを示唆する。なお電流強度は高度 800kmにおいて約150nTと極めて小さい。沿磁力線電流の空間分布から南北両半球ともいわゆるtwo-cell型の対流が起こっていると推察され、地上で観測される磁場変動もこれを支持する。このtwo-cell型の対流はいわゆる太陽風と磁気圏の粘性的相互作用によって引き起こされていると考えるのが妥当であり、従って、region1電流は低緯度境界層にその源をもつと推察される。以上の事実から、region0とregion1を低緯度境界層において結ぶ機構のモデルを提唱した(図5)。この生成機構はIMF By=0,Bz=0が長時間続き、磁気圏が極めて静かな場合でも存続する最も基本的な構成要素である。

図3 By=0,Bz=0の時のグローバルなプラズマ環境のまとめ。図表図4 By=0,Bz=0の時の昼間側沿磁力線電流系とプラズマ領域の関係。略号は、それぞれ、PS=plasma sheet,BPR=boundary plasma region、を表す。 / 図5 By=0,Bz=0の時の昼間側region1/region0電流系を生成する機構の模式図。低緯度境界層には太陽風との相互作用により反太陽向きの力Fが働く。この力により磁力線を横切る向きにダイナモ電流が流れ、低緯度境界層の内側にregion1をつくる。一方磁気圏境界面側では一部は磁力線閉領域に、一部は磁力線開領域にregion0をつくる。

 (3)第三に、(1)および(2)の自然な拡張として、惑星間磁場は南向きであるがBy成分が弱い場合を調べた。(1)と同様に5つのプラズマ領域を定めた。電流のパターンとしては(2)の場合と変わらないが、特徴的なことはregion1が発達し電流強度においてregion0を凌駕することである。Region1のソースはcusp・mantle・cleftに渡っている。磁力線閉領域のregion1は低緯度境界層のダイナモに加え、高緯度境界層のダイナモで作られると考えられる。また開領域のregion1については、磁力線再結合により(1)と全く同様な機構により午前側と午後側のregion1同士を結ぶ機構が考えられる(図6(a)および(b))。一方、region0は開領域に現われる。Region0は、そのソース電流がダイナモとなるためには、磁気圏側で必ずregion1と結び付いていなければならない。図6(c) の様に、一旦カスプ領域に入った太陽風は、磁気圏を障害物と感じて、その流れは朝方側と夕方側に分かれる。この分岐した流れによってregion0と開領域のregion1を結ぶ機構が考えられる。また、これと同時に(2)で提唱したregion0と閉領域のregion1を低緯度境界層で結ぶ機構も存在すると推察される。

図6 By=0,Bz<0の時の開領域のregion0電流とregion1電流の生成機構を表す模式的図。(a)および(b)は図2の(a)および(b)の変形である。(a):プラズマ流が減速されることによって午前側region1と午後側region1を生じる機構、(b):太陽方向を向く圧力勾配によって午前側region1と午後側region1を生じる機構。(c)はカスプ領域に入った太陽風が磁気圏を障害物と感じて朝方側および夕方側に分かれて流れ、午前側・午後側それぞれにおいてregion0とregion1を結ぶ機構。

 以上の3つの研究結果を総括的に解釈する(図7)。(a):IMF ByおよびBz 成分がともに小さく、かつ地磁気活動が極めて弱い場合には、低緯度境界層においてregion0とregion1を結ぶモードが存在する(モード1)。(b):IMFが、By 成分は小さいままで南を向くと、磁力線閉領域では低緯度境界層のダイナモ(モード1)に高緯度境界層のダイナモ(モード1*)も加わる。また磁力線開領域では、磁力線再結合によりカスプに侵入した太陽風によって、region1同士を結ぶもの(モード2)およびregion1とregion0を結ぶもの(モード2*)が現われる。(c):さらにIMF By成分が強くなると、(b)で現われたモード2およびモード2*は変形されて緯度方向に閉じる様になる(モード2**)。更にBy効果によってregion0と午前側午後側どちらか一方の低緯度境界層のregion1を結ぶダイナモが作られる(モード1**)。これによってモード1は消滅する。

図7 昼間側電流系の構成。(a):IMF ByおよびBz成分がともに小さく、かつ地磁気活動が極めて弱い場合、(b):IMFが、By成分は小さいままで南を向いた場合、(c):IMFは南向きで、更に By 成分が大きくなった場合(By<0北半球の場合が示してある)。
審査要旨

 本論文は,低高度極軌道衛星による磁場および粒子データを用いて行った昼間側地球磁気圏の沿磁力線電流系に関する研究成果で,全五章より成る.第一章は,沿磁力線電流の研究の歴史的背景と本研究の意義および独自性を述べたものである.成果の主たる部分は第二章と第三章に示されており,第四章は補足的部分で,第五章は全体の要約である.以下に,本研究の要旨を述べる.

 昼側磁気圏のプラズマ分布は夜側磁気圏(プラズマシート)で形成されたものに加えて,昼側で太陽風・磁気圏の直接的相互作用によって侵入した太陽風起源のプラズマも存在しており,大規模沿磁力線電流系とそのソース領域のグローバル構造については,これまでケーススタディ的研究を別にしては,磁場とプラズマの同時観測に基づく総合的研究はほとんどなく,現象論的にも十分な解明はなされていなかった.

 本研究者は,地球を周回する人工衛星(高度約800km)による磁場データと,同時のプラズマ降下粒子スペクトルデータ(イオン,電子ともに0.03〜30KeV)を駆使し,必要に応じて高エネルギー(>30keV)のイオンおよび電子の捕捉粒子(ピッチ角90゜)および降下粒子データをも活用して,昼側磁気圏に存在する沿磁力線電流系とプラズマ特性領域の空間分布の互いの関係が,太陽風・磁気圏相互作用のキーパラメターと考えられている惑星間空間磁場(IMF)に依存しつつ,どのように決定されていくかも突きとめ,沿磁力線電流系の総括的モデルの構築に成功した.

 IMFの南北成分が南向き(Bz<0)で,地磁気活動度が強い場合,昼側磁気圏磁場が太陽風磁場と結合して磁場が開いていると思われる領域には,太陽風起源のプラズマの直接的侵入領域cuspとそれらプラズマの漂流領域plasma-mantleが存在し,これらの区域には固有の沿磁力線電流が随伴(cuspにはmidday region1,mantleにはregion0電流)することを示した.IMFの東西成分Byの極性に依存し,cuspとmantleはそれぞれ真昼を境にして午前側と午後側へ異なった広がりを示し,随伴するmidday region1とregion0電流の流れの方向もByの極性によって反転する.これら昼側磁気圏の磁場の開いた領域に固有な沿磁力線電流系は,太陽風が運んでくるIMFと磁気圏磁場のつなぎかえ(reconnection)に伴って磁気圏遠方のcusp,mantle領域にプラズマ流速の変化あるいは,プラズマ圧力勾配が発生すれば,これら磁場に垂直なストレスを磁力線に沿って電離圏まで伝達する様に,midday region1とregion0電流が連なって形成されることも示した.昼側磁気圏には太陽風との境界付近に位置し,磁場は閉じていて太陽風起源のプラズマの混在している領域,低緯度境界層が存在するが,これが低高度で観測されるプラズマ区域cleftである.cleftもIMF Byの極性に依存して,真昼を境に午前側と午後側へ異なった広がりを示すことを発見し,磁気圏尾部のplasma mantleでプラズマ流の減速が生じてcleftに随伴するregion1電流の一部とmantleに随伴するregion0電流の一部が連結して形成されることも示した.

 惑星間空間磁場の磁気圏への影響が最小となり,地磁気活動度も極めて弱い場合には,低高度では,太陽風起源のプラズマの直接的侵入領域cuspは真昼のごく狭い領域に存在し,大部分のプラズマ区域は磁気圏低緯度境界層に存在すると思われる低温プラズマ(イオン<5keV,電子<1keV)で構成されることが判り,これをboundary plasma regime(BPR)と命名した.高エネルギー粒子(>30keV)の諸特性から,昼側BPRは磁気圏磁場の構造が双極子形状からより夜側に引き延ばされた形状に急変している領域であること,このBPRにはregion0とregion1電流が強度を均衡に保ちつつ存在すること,region0とregion1に挟まれた領域には反太陽風向きのプラズマ対流が存在することを明らかにし,磁気圏磁場の閉じている低緯度境界層の午前側および午後側において反太陽向きのプラズマストレスが生じてregion0とregion1電流が連結して形成されることを示した.

 全体の総括として,昼側磁気圏に存在する沿磁力線電流系の基本メカニズムとして,IMFが強化すると磁気圏磁場との結合に伴って,太陽風起源のプラズマが直接的に侵入し,磁場の開いている磁気圏cusup,mantle域を中心に発生するダイナモが存在すること,このダイナモはIMFのBz,By成分の極性と強さに依存し,同一のIMF条件下では,南北両半球において 一半球では主として午前側に,反対半球では主として午後側に作用する.IMFが極微弱で磁気圏磁場との結合が有効でない場合は,磁場の閉じている磁気圏低緯度境界層に発生するダイナモが存在することを初めて明らかにした.

 以上の研究は,太陽風の磁気圏・電離圏の相互作用の物理学に関して新しい知見を提供するものであり,博士論文として十分の内容を持つものであると評価できる.

UTokyo Repositoryリンク