本論文は5章からなる。第1章はこれまでの他の研究者による研究の紹介、第2章は実験方法、第3章は研究結果、第4章は結果に基づく考察、第5章は本研究のまとめについて述べられている。 第1章は、本研究の対象であるカーボナタイトについてその岩石学的特性や成因についての諸説、地球科学的な意義についての紹介がされ、それぞれの問題点などが指摘されている。カーボナタイトは、炭酸塩鉱物を多く含む火成岩であるが、その起源については明らかになっていない点が多い。ストロンチウム、ネオヂウム、鉛同位体比や安定同位体比などからは、カーボナタイトマグマはプレートと共に沈みこんだ堆積物をその源とする説、中央海嶺玄武岩などと同様の源を考える説、海洋島と同様の源と考える説など諸説がある。またカーボナタイトについてこれまで得られている希ガス同位体比はその報告例がかなり限られていることを指摘し、希ガス同位体比をカーボナタイトに適用してそのマグマ源の特性を探ろうとする本研究の意義を強調している。 第2章では、本研究で用いたカーボナタイト試料についての採取地を含む記載、カーボナタイト中の希ガス同位体比測定についての具体的な実験方法と分析条件、カーボナタイト中のウラン、トリウム、カリウムの放射化分析による実験方法などについて紹介している。 第3章では、本研究によって得られた個々の分析値について詳細に検討している。本研究ではカナダ及びブラジル産の5箇所のカーボナタイトを試料として用い、それらの噴出年代も27億年前から1億1000万年前までにわたる5種類の時期の試料を用いた。カーボナタイトから分離した燐灰石、かんらん石、輝石、石灰石など合計8種類の鉱物を試料として、He,Ne,Ar,Kr,Xeのすべての希ガス同位体比を測定した。大気中の希ガスによる二次的な汚染を避けるため、段階加熱を行ってその影響を取り除いている。その結果、本研究で用いた各種鉱物の中で、燐灰石のみがカーボナタイト生成時のマグマ源の希ガス同位体比を維持している可能性があることを明らかにした。燐灰石では、用いた5個の試料のうち3個が、カナダとブラジルという異なった場所でしかも異なった時期に噴出したにも係わらず、その40Ar/36Ar及び129Xe/130Xe比の高温段階の成分がそれぞれ約6000、7.3-7.4となり、大気の値の約300、約6.5とは異なる一定の値を示した。燐灰石中にはほとんどカリウムは含まれていないので40Kからの放射性起源同位体40Arの付加はほとんどなく、40Ar/36Ar比はそれらが生成された時期におけるマグマ源の値を示していると考えられる。また129Xe/130Xe比が大気の値より高いのは、地球形成期に存在したと推定されている消滅核種129I(半減期:1700万年)からの壊変生成同位体である129Xeの付加によるためと推定される。このことは、このマグマ源が大気からのXeの影響をほとんど受けていないことを示しており、始源的希ガスを保持している場所であることを示唆している。他の試料は変質や大気からの影響を受けた結果を示し、カーボナタイトのマグマ源の希ガス同位体比の特性を推定するためには不十分な結果しか得られなかった。 第4章では、カーボナタイト中の燐灰石から得られた40Ar/36Ar及び129Xe/130Xe比の値と、これまでに報告されてきているカーボナタイトに関連した試料の3He/4He比が中央海嶺玄武岩の値より高いことを根拠に、希ガス同位体比からみる限りカーボナタイト中の希ガスを含む揮発性元素はブリューム源から由来しているということを推定している。この際、本研究で見いだされたカーボナタイトに関する希ガス同位体比は:中央海嶺玄武岩のマグマ源物質中の希ガスと海水中の希ガスの混合では説明し難いことを示した。 第5章は、本研究におけるカーボナタイトに関する希ガス同位体比測定の結果と、それから推定されたカーボナタイトに関する揮発性元素がブリューム源に由来することを結論している。 上述したように、本研究は希ガス同位体比を用いてカーボナタイトに関する揮発性元素の源が始源的な特性を有するブリューム源と同様であることを初めて明らかにして、その地球科学に対する寄与は大きい。よって本審査委員会委員一同は、全員一致で本論文が本学の博士(理学)の学位を授与するに値するものと認定した。 なお本研究の一部は、比屋根肇氏、K.Bell氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 |