本研究は、プリン代謝酵素、アデノシン・デアミネース(ADA)のマウスにおける組織特異的機能を明らかにし、また、ヒトADA欠損症のモデルを構築することを目的として、ADA欠損マウスの作成を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.マウス胚幹細胞操作によりADA欠損マウスが作成された。 2.変異マウスにおいてADA転写産物、酵素活性を測定した結果、変異マウスはADA-nullであることが示された。 3.ADA欠損マウスは周産期致死であり、出生直前に子宮内にて死ぬことが示された。 4.ADA欠損マウス胎児には体重減少、肝臓の異常が認められた。変異マウスの肝細胞は形態に異常をきたし、また、肝機能検査により、ADA欠損マウス胎児における肝機能の低下が示された。 5.解剖学的、組織学的には肝臓以外に特に異常は認められなかった。 6.16.5日胎児肝単核細胞をフロー・サイトメトリック解析により分析したところ、変異マウスにおいてT細胞が少し減少していた。しかしながら、ヒトADA欠損症にみられる重度のリンパ球減少症は認められなかった。 7.10.5日から17.5日にかけてADA欠損マウス胎児、胎盤におけるADAの基質と産物をHPLCにて測定したところ、発生に伴う著しい基質の蓄積、産物の減少が明らかとなった。 以上の結果より、本研究においては下記の考察、結論を得ている。 1.ADAの欠如がマウスプリン代謝に与えたインパクトが大であったという事実は、発生期マウスにおいてADAが触媒する反応は非常に活発であり、また、その反応の欠如をバックアップするシステムが欠けていることを意味し、ADAのマウスプリン代謝における重要性が結論づけられた。 2.ADA基質、及び、その代謝産物dATPの蓄積が肝障害の経過、周産期致死への発展と相関することから、プリン代謝異常が肝障害、致死性の要因であると考察された。 3.母胎による胎児内ヌクレオシド、ヌクレオチドのクリアランスが不十分であったことから、胎児自身によるADA産生の重要性が結論づけられた。また、発生初、中期に母胎の子宮内脱落膜でADAが高度に発現している間、胎児のプリン代謝は正常であったことからも、発生期マウス胚を取り巻く組織、脱落膜、胎盤等における高レベルのADAが胎児内に蓄積するADA基質の代謝に寄与していると考察された。 以上、本研究では、ADA欠損マウスの作成、及び、その病理、プリン代謝に関する分析より、マウスにおけるADAの重要性を明らかにし、発生期のマウス胚を取り巻く組織における高レベルのADAの機能に関し考察を与えており、また、ヒトADA欠損症の病理分析のためのモデルの構築を達成した。本研究において作成されたADA欠損マウスは、マウスにおけるADAの組織特異的機能のさらなる解明、さらには、ヒトADA欠損症の病理分析、治療法の発展等に大きく貢献すると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |