学位論文要旨



No 111476
著者(漢字) 劉,玉付
著者(英字)
著者(カナ) リュウ,ギョクフ
標題(和) 連続繊維強化セラミックスの高靱化機構の解析
標題(洋)
報告番号 111476
報告番号 甲11476
学位授与日 1995.09.21
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3494号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 香川,豊
 東京大学 教授 中桐,滋
 東京大学 教授 岸,輝雄
 東京大学 教授 渡邊,勝彦
 東京大学 助教授 酒井,信介
内容要旨

 本論文は連続繊維強化セラミックス(以後、CMC)の高靭化機構を基礎的に検討したもので8章からなっている。本論文の研究を通して明らかとなったことを要約すると以下のようになる。

 第1章ではCMCの種類・特徴・破壊特性を概説するとともに,構造用CMCにおける界面特性,繊維のブリッジングによる高靭性化機構に関する研究の現状と問題点を指摘し,従来の研究の限界を示すとともに,本研究の位置付けを明らかにした。

 第2章ではCMCにおける繊維の界面はく離の発生およびブリッジングの必要条件について,2次元の境界要素法(BEM)の弾性モデルを新たに作製し,それを用いて繊維とマトリックス間の界面はく離の生じる過程,繊維のブリッジングの必要条件および界面はく離挙動を定量的に明らかにし,次の結論が得られた。(1)マトリックスき裂の応力拡大係数KIは繊維とマトリックス間の界面との距離に大きく依存し,界面近傍でKIの急減・急増の特異な挙動を呈し,マトリックスき裂が界面付近で加速・減速・停留挙動を示すことを明らかにした。(2)ブリッジング効果は界面はく離挙動に大きく依存するので,CMCのような脆性マトリックス基複合材料の強度評価には界面はく離に対する考慮が重要である。(3)界面はく離の生成条件を検討するとともに界面はく離を想定し,その界面き裂の応力拡大係数を解析し,界面はく離が成長する限界長さが求められる可能性が明らかになった。(4)繊維,マトリックスおよび界面の破壊クライテリオンを導入し,ブリッジング効果および破壊プロセスのシミュレーションの一例を示し,R曲線に及ぼす界面力学特性の値を定量的に示すことができた。

 第3章では円筒型軸対称モデルを用いて接触界面はく離部の詳細な有限要素法(FEM)解析を行い,従来の研究では明らかにされていなかった重要な基礎問題について考察した。特に,(1)円筒複合材料モデルにおける繊維とマトリックスの界面およびはく離き裂先端近傍の力学条件,(2)はく離き裂先端の熱応力および負荷応力の特異性,(3)圧縮熱応力による繊維とマトリックスの界面接触条件,(4)はく離界面の摩擦力のエネルギー解放率への影響など,の諸問題点を解明した。その結果,界面に作用する圧縮熱応力,界面はく離に対する条件,界面の接触による滑りと固着,はく離した界面先端部での応力特異性などを総合的に組み込んで評価することができた。また,解析結果を用いて過去の同類の解析の混乱を整理しつつ,得られた解析結果をCMCへ適用する場合の意義を明らかにした。その結果,以下の結論が得られた。(1)円筒状軸対称プルアウトモデルにおいて,応力とひずみの連続条件を明らかにした。従来の代表的研究は必ずしもこれらの条件を満足しているわけではなく,その適用限界があることが明らかになった。(2)(1)で述べた条件を完全に満足し,さらに,本研究のはく離した界面の接触条件を考慮したFEMの弾性解析により,界面はく離き裂先端の熱応力および負荷応力による特異応力場を示し,これらの特異応力場およびはく離界面の摩擦力を考慮したはく離き裂のエネルギー解放率を求め,はく離部分の固着・滑り条件・領域の負荷応力とはく離長さによる変化を定量的に明らかにした。(3)以上に求めたはく離き裂のエネルギー解放率の意義を考察し,物理的根拠を持はく離長さの決定法を提案した。また,この決定法により,プルアウト試験片の界面のはく離と滑り過程を考察し,従来の研究の限界を明らかにした。

 第4章では第3章で確立した円筒型軸対称モデルのFEM解析手法を用いてパラメトリックな計算を行った。すなわち,FEMの解析結果を用いて,熱応力,はく離した界面の摩擦係数,材料定数などのパラメータがCMCの界面はく離へ及ぼす影響を定量的に明らかにした。さらに,従来からCMCの界面特性の実験測定や材料全体の静的強度,疲労強度の評価に用いられているLameの解を基にしたHutchinsonとJensenの結果と比較しながら本解析の有効性を実証し,Lameの解を基にした従来の解析手法適用時の留意点を明確にした。具体的には次の結論が得られた。(1)界面はく離が圧縮熱応力,繊維の体積含有率,マトリックスと繊維のヤング率および界面はく離摩擦係数に大きく影響されることが明らかになった。界面はく離長さは圧縮熱応力および繊維とマトリックス間のヤング率の比が小さいほど,繊維の体積含有率が大きいほど,界面はく離長さが小さくなる傾向にある。(2)各種パラメータの繊維端部とマトリックス端部の変位の差への影響を定量的に検討した。(3)荷重-変位のシミュレーションを行い,繊維とマトリックスの熱膨脹係数の差がある値以上になると熱応力だけでCMCの界面はく離が不安定に起こる現象が生じる。繊維とマトリックスの熱膨脹係数を適切にマッチさせることが重要であると考えられる。(4)従来の研究との比較・検討を通じ,その厳密性が欠くことを定量的に示し,本研究の妥当性を確認した。

 第5章では界面はく離き裂のエネルギー解放率と限界はく離長さの評価を行った。すなわち,一本の繊維に注目した軸対称モデルについてHutchinsonとJensenが導いた応力・変位のLameの解を基にして,複合材料製造時の圧縮熱応力および界面はく離の滑り摩擦力も考慮した界面はく離のエネルギー解放率を閉じた形の式として導出するとともに,それに及ぼす各種因子の影響を明らかにした。このエネルギー解放率の式ははく離長さの2次関数となり,繊維,マトリックスの材料定数,繊維の体積含有率,熱ひずみないし熱応力,滑り摩擦力および負荷応力の関数として表せる。エネルギー解放率の式ははく離長さの増加とともに,減少している段階しか物理的意味を持たなく,また,従来の同種の解析式を含んだ一般的意味を持ち,第4章のFEMによる数値解とも定性的に一致した。界面の臨界はく離エネルギー解放率および繊維の破断強さの破壊クライテリオンを導入し,界面はく離が進展する限界長さを決定する手法を提案した。この方法により求めた複合材料の限界界面はく離長さは,既存の文献に報告されている測定結果と良く一致することを確認した。

 第6章では第5章の解析手法のR曲線のシミュレーションへの応用を試みた。すなわち,CMCの無限体中のペニーシェイプき裂を想定し,このき裂の進展により生じる繊維のブリッジングをき裂面を閉じる力として作用する均質材中のき裂モデル(結合力モデル)に置き換え,この結合力の応力-開口変位の関係として第5章で示した界面はく離を有する繊維の軸対称モデルの解を用いて,ブリッジング効果を界面はく離の影響も考慮して定量的に解析する方法を開発した。さらに,繊維およびマトリックスの破壊クライテリオンを導入し,CMC中のき裂進展のシミュレーションを行い,R曲線を求めた。また,R曲線に及ぼす界面はく離および熱応力,せん断滑り摩擦力などの影響を明らかにした。その結果により臨界エネルギー解放率,界面せん断摩擦力および繊維の体積含有率が大きいほど,また,熱応力が小さいほど,繊維の破断でこれらのパラメータが逆の傾向をとれば,マトリックスの破壊で最終破壊にいたることが明らかになった。R曲線の傾斜が大きくなるが,臨界エネルギー解放率値などのパラメータの最適化により破壊抵抗値が最大になる条件が存在することが明らかになった。これらのパラメータの最適化により破壊抵抗値が最大になる条件が存在することがわかった。これらの結果は複合材料の材料設計に重要な示唆を与えるものと思われる。

 第7章では有限体の場合の繊維のブリッジング効果の解析を行った。新たに開発したBEMおよび影響関数法を用いて,き裂の寸法・試験片形状・荷重形式にかかわらず,き裂の応力拡大係数,開口変位とブリッジング応力との間の関係式の一般的な構築方法を提案した。その結果をSiC繊維強化Al2O3マトリックス複合材料で片側切り欠き試験片のブリッジング効果の解析に応用した。

 第8章では本研究で得られた結果をまとめた。

 以上のように,本論文では連続繊維強化セラミックスの高靭化機構発現に及ぼす構成素材,界面特性の影響を明らかにするとともに,これらの値を用いた無限体,有限体試験片から得られるR曲線挙動を定量的に求めることを可能にしたものである。

審査要旨

 本論文は「連続繊維強化セラミックスの高靭化機構の解析」と題し、8章から構成されている。近年、繊維強化セラミックスの研究開発の進歩につれて高靭化機構の解明と定量的評価の確立が急がれている。本論文は繊維強化セラミックスの高靭化機構について理論的な立場からそれらの評価、解析を試みたものである。

 第1章では繊維強化セラミックス(CMC)について概説するとともに、構造用CMCにおける界面特性、繊維のブリッジングによる高靭性化機構に関する研究の現状と問題点を指摘し、従来の研究の限界を示すとともに、本研究の位置付けを明らかしている。

 第2章ではCMCにおける繊維の界面はく離の発生およびブリッジングの必要条件について、2次元のBEMの弾性モデルを新たに作製し、それを用いて繊維の界面はく離の生じる過程、繊維のブリッジングの必要条件および界面はく離挙動を定量的に明らかにした。

 第3章では円筒型軸対称モデルを用いて接触界面はく離部の詳細なFEM解析を行い、従来の研究では明らかにされていなかった重要な基礎問題について考察した。その結果、界面に作用する圧縮残留応力、界面はく離に対する条件、界面の接触による滑りと固着、はく離した界面先端部での応力特異性などを総合的に組み込んで評価することができた。また、解析結果を用いて過去の同類の解析の混乱を整理しつつ、得られた解析結果をCMCへ適用する場合の意義を明らかにした。

 第4章では第3章で確立した円筒型軸対称モデルのFEM解析手法を用いてパラメトリックな計算を行った。すなわち、FEMの解析結果を用いて、残留熱応力、はく離した界面の摩擦係数、材料定数などのパラメータがCMCの界面はく離へ及ぼす影響を定量的に明らかにした。さらに、HutchinsonとJensenの結果と比較しながら本解析の有効性を実証し、Lameの解を基にした解析手法適用時の留意点を明確にした。

 第5章では界面はく離き裂のエネルギー解放率と限界はく離長さの評価を行った。すなわち、一本の繊維に注目した軸対称モデルについてHutchinsonとJensenが導いた応力・変位のLameの解を基にして、接合時の圧縮残留応力および界面はく離の滑り摩擦力も考慮した界面はく離のエネルギー解放率を閉じた形の式として導出するとともに、それに及ぼす各種因子の影響を明らかにした。また界面の臨界はく離エネルギー解放率および繊維の破断強さの破壊クライテリオンを導入し、界面はく離が進展する限界長さを決定する手法を提案した。

 第6章では第5章の解析手法のR曲線のシミュレーションへの応用を試みた。すなわち、CMCの無限体中のペニーシェイプき裂を想定し、このき裂の進展により生じる繊維のブリッジングをき裂面を閉じる力として作用する均質材中のき裂モデル(結合力モデル)に置き換えた。この結合力の応力-開口変位の関係として第5章で求めた界面はく離を有する繊維の軸対称モデルの解を用いて、ブリッジング効果を界面はく離の影響も考慮して定量的に解析する方法を開発した。さらに、繊維およびマトリックスの破壊条件を導入し、CMC中のき裂進展のシミュレーションを行いR曲線を求めた。また、R曲線に及ぼす界面はく離および残留応力、せん断滑り摩擦力などの影響を明らかにした。

 第7章では有限体の場合の繊維のブリッジング効果の解析を行った。新たに開発したBEMおよび影響関数法を用いて、き裂の寸法・試験片形状・荷重形式にかかわらず、き裂の応力拡大係数、開口変位とブリッジング応力との間の関係式の一般的な構築方法を提案した。その結果をSiC繊維強化Al2O3マトリックス複合材料で片側切り欠き試験片のブリッジング効果の解析に応用した。

 第8章では本研究で得られた結果をまとめている。

 以上を要するに本論文は、繊維強化セラミックスの高靭化機構について詳細に検討し、繊維によるクラックブリッジング機構、クラックブリッジング機構を用いた高靭化の定量的解析、無限有限体での高靭化の定量的評価を行い、複合材料開発の基本的指針を与えるものであり、複合材料工学に関する学問分野の進歩発展に寄与するところが大きい。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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