埋立地や軟弱地盤での圧密沈下の予測は、構造物設計上の重要な問題である、とくに長期の圧密挙動を的確に捉えることは、圧密沈下の予測手法が発達した今日でもなお至難の技である。大都市周辺の軟弱地盤や軟岩地盤に関しては、地質的、工学的に多くの調査結果が蓄積されているが、とくに工学的には通常の圧密試験による短期的な挙動をとらえたものが大部分である。本研究はこれらの、過去の多くのデータを時系列で整理・分析して、圧密現象のトレンドを見いだし長期圧密の予測をおこなうという、ナチュラルアナログ的観点からのものである。ここでいうナチュラルアナログとは、地層中に記憶された過去の自然現象に関する諸情報を分析して、長期にわたって緩慢に変化する自然現象の規則性を見いだすことである。 対象地域として東京湾周辺の埋立地域や湾央地域を選び、これらの地域でボーリングデータを地盤図から抽出・整理して、地盤の長期圧密特性を検討した。とくに東京湾の埋立地域は、人工的な改変が著しい所なので、地質、土質データだけでなく、人工改変に関するデータとあわせ検討した。 地質データとしては、地層の形成過程/堆積環境、海水面変動、地質年代などを、また土質データは、資料の採取深度、間隙比、粒土組成、土被り有効応力、降伏圧密応力、間隙水圧などを収集検討した。人工改変の影響については、埋め立てや諸構造物による荷重変化や地盤改良、地下水汲み上げによる地下水位の変化や地盤沈下についての情報を整理・分析した。 ケーススタデーは、人工改変のある地域(埋立地A、B、C)および人工改変による乱れの無い地域(湾央部D)を選び、1938年から1992年までのデータベースを作成し、長期圧密現象の分析・検討をおこなった。 各地域の土質パラメータはばらつきが大きく、そのままではトレンドの予測は困難である。そこで本研究では、基準となるパラメータとして、液性限界(WL)を指標として、同じ材料特性をもつデータのみを抽出するという操作をおこなうことにより、ばらつきの減少をはかった。このようにして、間隙比に対する土被り有効応力または降伏圧密応力を時系列でプロットして、分析・解析をおこなった。 以上から次の結論が得られた。 (1)東京湾周辺地域で、地層形成過程が明かで、地層は比較的均質、かつ自然状態では正規圧密過程にあったと予想される、下部有楽町層を対象に、地質、土質物性、人工改変に関するデータを、出版年度の異なる各種地盤図を中心に収集し、時系列変化の分析が可能なデータベースを作成した。 (2)地層物性のばらつきを小さくする手法として、地質時代が同じで、同じ材料特性のデータのみを抽出することによって、地層の材料特性に関するばらつきを大幅に改善することができた。 (3)モデル地域として、東京湾の埋立地(AからC)と湾央部(D)を選定し、この内材料特性の指標WLがそれぞれ50%と100%のデータについて、1938年から1992年の間の長期の圧密特性・圧密挙動の変化を分析して、圧縮指数と間隙比の時間変化を捉えることができた。 (4)室内試験で得られる短期の圧密特性は、ナチュラルアナログ的な手法で得られた長期のそれとは大きく異なった。 (5)限られた事例ではあるが、ナチュラルアナログ的な手法によって、長期の圧密特性の変化、圧密挙動のトレンドを見いだすことができたということは、この種の長期予測をおこなう上で、これが一つの有力な手法に発展することが期待される。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |