学位論文要旨



No 111481
著者(漢字) 趙,顯
著者(英字)
著者(カナ) チョウ,ヒョン
標題(和) 岩石の時間依存性挙動と構成方程式に関する研究
標題(洋)
報告番号 111481
報告番号 甲11481
学位授与日 1995.09.21
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3499号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大久保,誠介
 東京大学 教授 小島,圭二
 東京大学 教授 正路,徹也
 東京大学 教授 山冨,二郎
 東京大学 助教授 福井,勝則
内容要旨

 本研究は,実際の岩盤の応力状態である三軸圧縮応力下における岩石の時間依存性挙動と実験の難しい供試体の寸法効果を解明・検討するために,実験ならびに数値実験をおこない,その研究成果を7章に分けて述べた。第1章では,本研究の目的について述べるとともに,従来の研究についてまとめた。2章では実験による三軸圧縮応力下での挙動について述べており,その実験結果による構成方程式の選定を3章に示した。4章と5章では,3章で示した構成方程式を用い,数値実験による圧縮応力下での時間依存性挙動及び寸法効果について述べた。続く6章では,同計算方法を用いて一軸引張応力下における挙動について述べた。最後の7章にて,本研究の成果をまとめた。

 まず,第1章の序論で述べた本研究の目的としては,次の事柄が挙げられる。

 岩石あるいは岩盤の破壊や変形特性を考える場合,時間の影響を考慮する必要性が多いにある。殊に,実際の岩盤は三軸圧縮応力下に置かれており,三軸圧縮応力下における岩石の時間依存性挙動を正確に把握していくことは,岩盤内地下構造物の合理的な設計・施工や長期安定性評価の向上につながると考える。しかしながら,周圧下での時間依存性挙動の解明はまだ明らかにされていない。特に,周圧下でのクリープに関しては不明な点の多いのが現状である。そこで,本研究の一つの目的として,周圧下での岩石の時間依存性についての基礎的検討をおこなった。

 供試体の大きさによって試験結果が異なることはよく知られており,寸法効果と呼ばれている。寸法が異なると強度をはじめとする力学的性質が変わってくるし,試験結果のばらつきの程度も違う。また,小さな試験片を用いて実験室実験をおこない,その結果を用いて岩盤構造物の設計をおこなうには,この寸法効果を十分に考慮する必要がある。このような観点から,寸法効果は応用上重要と見なされ,古くから研究がおこなわれてきたが,しかし,実験的に寸法効果を検討するには限界がある。よって,全く従来の研究のない時間依存性を考慮した計算機シミュレーションより,寸法効果を検討することを一つの目的とした。

 第2章では,三軸圧縮応力下における時間依存性挙動について述べた。まず,三城目安山岩を対象に載荷速度を変えた周圧下での圧縮強度試験をおこない,強度の載荷速度依存性や延性遷移などにおよぼす周圧の影響を検討した。周圧3を0,5,10,20,40MPaと5通り,載荷速度Cを1,10,100,1000/s4通りに変えておこなった実験結果より,周圧が高くなると,強度破壊点以降における応力-歪み曲線の傾きはなだらかとなり,歪みの増加につれて応力が緩やかに低下し,また,最大軸応力1maxの2乗が周圧3に比例して増加することがわかった。周圧下での強度の載荷速度依存性や応力-歪み曲線が一軸圧縮応力下での傾向とほとんど変わらなかった。例えば,載荷速度の速いときの応力-歪み曲線が遅いときのそれを内包しており,また,載荷速度Cと強度(1max-3)の間には次式のような関係が近似できる。

 (1max-3)∝C1/(n+1)

 上式の中のnは時間依存性の程度を示すパラメータであるが,周圧の増加と伴い,強度とnとの関係は次式によって表現できた。

 n/n0=(1max-3)/e

 すなわち,周圧が大きくなるに従い,時間依存性が低減することがわかった。

 岩石の長期安定性に関する従来の研究のほとんどは一軸圧縮下でのクリープ試験に基づいたものであり,周圧下での,ことに,破壊まで考慮したクリープ試験結果はほとんど報告されてない。よって,破壊直前の計測に重点をおいて実施した周圧下でのクリープ試験の結果,次の事柄が周圧にかかわらず成り立つことがわかった。1次クリープは対数則に従っており,3次クリープでの歪み速度は残存寿命に反比例している。また,クリープ破壊直前の応力-歪み曲線上での位置は,強度破壊点以降の応力-歪み曲線上にあること,寿命と最小クリープ歪み速度とは反比例すること,圧縮試験に基づいて計算した寿命の予測値が実験結果とある程度説明できることなどがわかった。一方,周圧の増加にともなって,破壊するまでのクリープ歪みが大きくなること,同じ応力レベルでも寿命は長くなること,また,わずかな応力レベルの差によって寿命が大きく変化することなどが,明瞭に観察された。

 引き続き,河津凝灰岩を対象に周圧20MPa下でのクリープ試験をおこなった。従来より,応力-歪み曲線とクリープ歪みは密接な関係があると指摘されている。周圧20MPa以上での河津凝灰岩は,歪みが増加しても強度破壊点は現れず,応力が増加するのみである。従って,このような性質を表わす岩種及び条件下において,応力-歪み曲線とクリープ歪みの関係を調べるために,多段階クリープ試験をおこなった。その結果,累積クリープ歪みが7〜8%ほど生じても,3次クリープにも入らずにクリープ破壊は起こらなかった。このようにかなりのクリープ歪みが進行しても,それが応力-歪み曲線と交わることができず,破壊が生じてないことから破壊直前でのクリープ歪みが応力-歪み曲線上に乗るという結果が説明できると考える。

 第3章では,本研究で用いた構成方程式について述べた。このモデルは荷重を受け続けると,コンブライアンスが時間とともに次第に増加していくと仮定して導いたものであり,以前大久保らによって開発されたモデルに2章からの実験結果による仮定を若干付け加え三軸圧縮応力まで拡張した。実際の岩石においては,コンブライアンスの増大と永久歪みの増大との両者が観察される。従って,歪みが途中で減少するような場合を扱うには,コンブライアンスの増大と永久歪みを分離して考える必要がある。しかしながら,岩盤内構造物の解析においては,歪みが小さくなることはまれであり,このような場合には,今回採用した構成方程式で十分であると思われる。

 本モデルのパラメータは,一軸圧縮強度e,一軸引張強度t,初期コンブライアンス0,弾性領域でのポアソン比0,一軸応力下でのnおよびmである。これらを変えた計算結果,強度は載荷速度Cの1/(n+1)乗に比例して増加すること,また,クリープ試験では,寿命のクリープ応力依存性などの実験結果を表現することができる。周圧の増加とともに,強度の増加や次第に延性的になることの再現ができる。

 第4章においては,3章で仮定した構成方程式を有限要素法に組み込んで,試験片モデルを対象として数値実験より検討した寸法(要素数の多寡)効果について述べた。まず,一輪圧縮試験に対する計算をおこない,要素数を変えたときの強度の変化を中心に調べ,ついでに,寸法効果に及ぼす周圧の影響を検討した。一般的には,コンブライアンス,ポアソン比も各要素ごとに異なるが,今回の計算においては,強度のみばらつくものと仮定した。また,試験片の不均質を考慮するために,要素の強度の変動係数を変えつつ計算をおこなった。

 その結果,試験片モデルの寸法(要素数)が増大するとともに圧縮強度は低下することがわかった。興味深いことに,ある要素数以上では強度の低下は見られなくなった。また,不均質性が増すほど寸法効果は顕著となることがわかった。このような傾向は,従来の実験結果と定性的に一致するものである。なお,試験片の変形がかなり進んだときの破壊様式を見ると実際の岩石試験片を用いた実験結果とほぼ同様に荷重軸より約30°ほど傾いた破壊面が形成されることが再現できた。

 周圧が増大するにつれて,寸法効果は小さくなると思われるが,今回の計算結果では,寸法効果に対する周圧の影響はさほどなかった。これは,周圧による応力-歪み曲線の変化が比較的に小さいモデルであろうと考えられる。

 第5章では,時間依存性挙動の数値実験について述べた。時間依存性挙動は,岩盤内構造物の長期安定性を検討する際には重要な事項であることを指摘してきたが,それが寸法によりどのように変わっていくかは全くわかっていない。また,今後より大規模で長期にわたる安定性の要求される岩盤内構造物の需要が増すことから,寸法効果を考慮した時間依存性挙動についての検討は避けて通れないものであると考える。よって,4章と同様の計算手法を用いて,強度の載荷速度依存性とクリープ現象が寸法(要素数)によりどのように変化するかを試みた。

 その結果,今回仮定した条件下では,要素数が大きくなると時間依存性が若干小さくなること,また,要素ごとの強度のばらつきが大きくなると,時間依存性挙動の寸法効果が顕著となることがわかった。時間依存性挙動の寸法効果は,周圧が小さいとき顕著で,周圧が大きくなると小さくなることがわかった。

 一方,今回使用した構成方程式は,今回の計算のように,強度破壊点以降での応力-歪み曲線の傾きを決めるパラメータであるmが正値では歪み速度は増加するのみであるので,1次クリープを表現しえないものである。しかしながら,試験片モデルの不均質性を考慮することより,1次クリープを表現することができた。これより,3次クリープが重要しされる現場での適用にもさほど問題はないと考える。

 第6章においては,強度のばらつきを考慮した一軸引張試験の計算機シミュレーションと若干の実験をおこなった結果について述べた。まず,要素間の強度のばらつきの程度(不均質性),要素数(試験片の寸法)を変えて計算をおこない,引き続き,載荷速度を変えた定歪み速度試験のシミュレーションを通じて,時間依存性を考慮した引張応力下での挙動を調べた。

 実験より,試験片の巨視的破断面を観察してみると,かなりの凸凹が見られており,また,応力-歪み曲線では,試験片の変形がかなり進んでも応力は0とはならず,残留強度を持っていることがわかった。これより,岩石試験片の各部が相当に不均質であることが考える。

 不均質性を考慮した計算結果,不均質性が増すと強度は低下するが,強度破壊点以降の応力-歪み曲線の傾きはなだらかになることがわかった。また,寸法効果についての結果としては,一軸圧縮応力下での結果とほぼ同様に,試験片の寸法が大きくなると強度が低下し,その低下の程度は不均質性の大きいほど顕著であった。また,寸法がある程度以上大きくなると,強度はほとんど低下しなくなった。さらに,破壊様式をみると,実験結果をある程度再現できると考える。すなわち,亀裂の進展の仕方は決して単純ではなく,比較的弱い部分を選択するように複雑な経路をたどって進展していく。

 寸法の大小によって,時間依存性がどのように変化するかを検討した。その結果,寸法が増大すると時間依存性は減少することがわかった。殊に,不均質性の大きい場合には,寸法の増大にともなって時間依存性が比較的大きく変わる。しかしながら,一軸圧縮試験を対象とした結果と比較してみると,寸法の大小による時間依存性の変化はかなり小さいことがわかった。

 第7章においては,本研究で得られた結果をまとめておいた。周圧が大きくなるとともに,強度やクリープ歪みは増加するものの,一軸圧縮応力下と周圧下での時間依存性挙動が似通っていることがわかった。クリープ挙動の機構に関しては不明な点が多いが,周圧が高いほど,一種の圧密が進行しやすいこと,少数の破壊面の形成というより,試験片全般にわたって徐々に損傷を受けた部分が広がっていきやすいこと,を指摘しておきたい。

 実際の応用上重要であり,実験の難しい時間依存性を考慮した寸法効果を計算機シミュレーションより再現可能であることを示した。

審査要旨

 本論文は,三軸圧縮応力下における岩石の時間依存性挙動と実験の難しい供試体の寸法効果を解明・検討するために,実験ならびに数値実験をおこなった結果をまとめたものである。本論文は7章よりなるが,第1章では,本研究の目的について述べるとともに,従来の研究についてまとめている。第2章では実験による三軸圧縮応力下での挙動について述べており,その実験結果による構成方程式の選定を第3章に示している。第4章と第5章では,第3章で示した構成方程式を用い,数値実験による圧縮応力下での時間依存性挙動及び寸法効果の検討結果について述べている。続く第6章では,同様の計算方法を用いて一軸引張応力下における挙動について述ている。最後の第7章にて,本研究の成果をまとめている。

 第2章では,三軸圧縮応力下における時間依存性挙動について述べている。まず,三城目安山岩を対象に載荷速度を変えた周圧下での圧縮強度試験をおこない,強度の載荷速度依存性や延性遷移などにおよぼす周圧の影響を検討している。周圧を0,5,10,20,40MPaと5通り,載荷速度を1,10,100,1000/sの4通りに変えておこなった実験結果より,周圧が高くなると,強度破壊点以降における応力-歪み曲線の傾きはなだらかとなり歪みの増加につれて応力が緩やかに低下すること,また,最大軸応力の2乗が周圧に比例して増加することを見いだした。

 岩石の長期安定性に関する従来の研究のほとんどは一軸圧縮下でのクリープ試験に基づいたものであり,周圧下での,殊に,破壊まで考慮したクリープ試験結果はほとんど報告されてない。本研究では,破壊直前の計測に重点をおいて実施した周圧下でのクリープ試験の結果,次の事柄が周圧にかかわらず成り立つことを見いだした。1次クリープは対数則に従っており,3次クリープでの歪み速度は残存寿命に反比例していること,クリープ破壊直前の応力-歪み曲線上での位置は強度破壊点以降の応力-歪み曲線上にあること,寿命と最小クリープ歪み速度とは反比例すること,圧縮試験に基づいて計算した寿命の予測値が実験結果とある程度説明できることなどである。

 引き続き,河津凝灰岩を対象に多段階クリープ試験をおこなった。その結果,累積クリープ歪みが7〜8%ほど生じても,3次クリープにも入らずにクリープ破壊は起こらなかったとしている。このようにかなりのクリープ歪みが進行しても,それが応力-歪み曲線と交わることがないとクリープ破壊は生じないと指摘している。

 第3章では,本研究で用いた構成方程式について述べている。このモデルは荷重を受け続けると,コンブライアンスが時間とともに次第に増加していくと仮定して導いたものであり,以前大久保らによって開発されたモデルに第2章の実験結果による仮定を若干付け加え三軸圧縮応力まで拡張している。実際の岩石においては,コンブライアンスの増大と永久歪みの増大との両者が観察される。従って,歪みが途中で減少するような場合を扱うには,コンブライアンスの増大と永久歪みを分離して考える必要がある。しかしながら,岩盤内構造物の解析においては,歪みが小さくなることはまれであり,このような場合には,今回採用した構成方程式で十分であると思われる。

 第4章においては,第3章で仮定した構成方程式を有限要素法に組み込んで,試験片モデルを対象として数値実験より検討した寸法(要素数の多寡)効果について述べている。検討の結果,試験片モデルの寸法(要素数)が増大するとともに圧縮強度は低下すること,ある要素数以上では強度の低下は見られないこと,また不均質性が増すほど寸法効果は顕著となることを見いだした。このような傾向は,従来の実験結果と定性的に一致するものである。

 第5章では,時間依存性挙動の数値実験について述べている。検討の結果,今回仮定した条件下では,要素数が大きくなると時間依存性が若干小さくなること,また,要素ごとの強度のばらつきが大きくなると,時間依存性挙動の寸法効果が顕著となることを見いだした。使用した構成方程式は,今回の計算のように,強度破壊点以降での応力-歪み曲線の傾きを決めるパラメータであるmが正値では歪み速度は増加するのみであるので,1次クリープを表現しえないものである。しかしながら,試験片モデルの不均質性を考慮することにより,1次クリープを表現することができたとしている。

 第6章においては,強度のばらつきを考慮した一軸引張試験の計算機シミュレーションと若干の実験をおこなった結果について述べている。不均質性を考慮した計算の結果,不均質性が増すと強度は低下するが,強度破壊点以降の応力-歪み曲線の傾きはなだらかになることを見いだした。また,寸法効果についての結果としては,一軸圧縮応力下での結果とほぼ同様に,試験片の寸法が大きくなると強度が低下し,その低下の程度は不均質性の大きいほど顕著であるが,寸法がある程度以上大きくなると強度はほとんど低下しなくなったとしている。破壊様式をみると,実験結果をある程度再現できると考える。すなわち,亀裂の進展の仕方は決して単純ではなく,比較的弱い部分を選択するように複雑な経路をたどって進展していく。

 第7章においては,本研究で得られた結果をまとめてあるが,従来の実験結果の少ない周圧下での時間依存性挙動に関し幾つかの新しい知見を見いだしたことは,高く評価できる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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