学位論文要旨



No 111495
著者(漢字) 孫,翼
著者(英字)
著者(カナ) ソン,イー
標題(和) 数え上げ幾何学と位相的シグマ模型
標題(洋)
報告番号 111495
報告番号 甲11495
学位授与日 1995.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第2976号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 加藤,光裕
 東京大学 教授 荒船,次郎
 東京大学 教授 藤川,和男
 東京大学 教授 柳田,勉
 東京大学 教授 米谷,民明
内容要旨

 この論文では位相的シグマ模型の代数幾何的側面について研究した。位相的シグマ模型とは,2次元Riemann面から,複素多様体Mへの写像を記述するN=2超対称性をもつシグマ模型のRiemann面上のスピンに,U(1)カレントJの半分を足し引きする(twistする)操作をして得られる模型である。また、twistのしかたで二種類の模型が得られ、A-モデル,B-モデルとよばれている。特に,target space MがCalabi-Yau多様体(C1(M)=0)の場合,もとのN=2超対称シグマ模型は共形不変性を持ち,理論はN=2超共形代数に支配される。この代数は,4つの超電荷G±,及び,二つのU(1)カレントJ,を持ち,次の関係式を満たす。

 

 (但し,HL(HR)は,left-moving(right-moving)ハミルトニアン)この時,Gの巾零性から,Gのコホモロジーを考えることができ、特に次の2通りの同値でない超電荷の組み方がある。

 

 このコホモロジーは理論のground statesを張り,M上のシグマ模型の場合調和形式の理論を通じてQ1コホモロジーは,Hp(M,∧qT*M)( Hp,q(M)),つまりMのDe Rhamコホモロジーに,またQ2コホモロジーは,Hp(M,∧qTM)従ってM上の複素構造の変形のコホモロジーに一致する事が示される。特にA-twistを取ることはBRST電荷としてQ1を選びB-twistはQ2を選ぶことに対応する。ここで,M上のQ1コホモロジーとM上のQ2コホモロジーが一致するようなCalabi-Yau多様体の対が存在し,対応するM上のA-モデルの相関関数とM上のB-モデルの相関関数の間にも関連がつけられるという仮説が提唱されている。

 私はこの論文で、シグマ模型の相関関数をCP1→Mの正則写像の交差点数として解釈した。また、重力と結合した場合には、相関関数は挿入されたオペレーターのポアンカレ双対を通る有理曲線の数を数えている。重力と結合した、small phase space上の位相的シグマ模型に対して、結合則を使って、CP3,CP4、Gr(2,4)の相関関数を実際に計算した。この場合は自由エネルギーに対する、一連の過剰の微分方程式系を得た。自由エネルギーの展開を、位相的振幅の生成母関数と仮定し、位相的選択則を課して、この方程式の一次の項を用いて写像度に関する再帰関係式を導いた。全ての写像度dについて、相関関数がこの関係式から決定される事が分かった。CP3についてはd=6まで、CP4はd=4、Gr(2,4)はd=4まで計算した。さらに、計算した写像度までの過剰方程式系の両立条件を証明した。特に、Gr(2,4)の場合に相関関数の間に興味深い対称性が存在することを発見した。即ち、二つの演算子Ow3とOw4の入れ換えに対して相関関数が不変となっている。ここで、Ow3とOw4は、Gr(2,4)のShubert cycleの1,12に対応している。これは、代数幾何学的に1,12とが区別できないことから考えると自然である。

 位相的シグマ模型の研究において、最近になって重要な進展がもたらされた。Wittenによって可換ゲージ対称性をもつある種のN=2超対称模型(gauged linear sigma model(GLSM))の低エネルギー極限として、特殊なtarget spaceに対応する位相的シグマ模型が得られることが示された。このGLSM模型の特徴は,モジュライ空間がtoric varietyになることであり、インスタントンの補正を厳密に足し合わせる事が出来る。GLSM模型の手法を用いて、2パラメターの場合に一般化し,その相関関数を計算した。Target spaceがCalabi-Yauの場合の相関関数と,ミラー対称性の方法を用いて計算した結果のleading termとが一致した。更に,Puncture方程式とDilaton方程式と堀方程式を位相的弦理論に於いて証明した。江口-梁模型ではVirasoro拘束条件のうち半分しか存在しない。このことはcontact代数の性質に依っていると考えられる。

審査要旨

 本論文の構成は、次の通りである。まず、第1章の序の後、第2章でtopological sigma modelの一般的説明、特に、N=2超対称sigma modelから2種類のtwistによって、いわゆるA-model,B-modelと呼ばれる2種類のtopological sigma modelを構成する方法が解説されている。第3章では、ゲージ化された線型sigma modelについてのreviewおよびそのlow-energy limitを利用してのnon-linear sigma modelへの応用が述べられている。特に2-parameter caseへの応用は当論文で初めて実行された。

 第4章がメインパートで、ここでは、A-modelにおけるcorrelation functionを、CP1からsigma modelのtarget space多様体へのholomorphic mapのintersection numberとして捉える事によって求める事に成功している。具体的にはCP3,CP4およびGr(2,4)に対して実行し、前二者に対してはこれ迄他の方法で得られていた結果を再現し、後者に対しては初めて結果を与える事に成功した。第5章では、関連する話題として、最近のEguchi-Yangによるtopological CP1 modelに対する結果を考察している。第6章は結果のまとめで、Toric幾何学に関するものを含む四つのAppendixが最後に付けられている。

 この論文の最も重要な結果は、4章におけるcorrelation functionの計算である。重力と結合した場合、correlation functionは挿入されたoperatorのポアンカレデュアルを通る有理曲線の数を数える事になる。本論文では、重力と結合したsmall phase space上のtopological modelに対して、operatorの結合則を利用して一連の自由エネルギーに対する過剰微分方程式系を導出し、自由エネルギーの展開を位相的振幅の生成母関数と仮定した上で、位相的選択則を課して、この方程式の一次の項を用いて写像度に関する再帰関係式を導いた。この関係式によってcorrelation functionが決定される事がわかり、具体的にCP3については写像度6まで、CP4およびGr(2,4)については写像度4まで求める事に成功した。さらに計算した写像度までの過剰方程式系の両立条件も証明している。

 topological sigma modelのcorrelation functionの決定は、超弦理論における湯川結合の決定(Calabi-Yauの場合)や、非臨界弦理論の研究に重要な役割を果たすものである。また、数学的にも位相幾何学に対して新しい有力な道具として最近の発展は目覚ましいものがある。本論文の結果は、これらの研究に対して方法論的にcorrelation functionの一つのシステマテイックな決定法を与えると同時に、具体的にもGr(2,4)等の場合に新しい結果を与えており、十分評価されるべき仕事であるといえる。

 なお、本論文第4章の内容は、秦泉寺雅夫氏との共同研究であるが、特にCP4,Gr(2,4)の部分については、論文提出者が主体となって具体的計算及び分析を行ったものであり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 よって審査員一同は、本論文が博士論文として合格の評価をされるべき業績と判定した。

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