学位論文要旨



No 111502
著者(漢字) 董,麗芬
著者(英字)
著者(カナ) ドン,リーフェン
標題(和) 三角形潜堤による波浪変形に関する研究
標題(洋) Study on Wave Transformation over Submerged Triangular Breakwaters
報告番号 111502
報告番号 甲11502
学位授与日 1995.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3506号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡邉,晃
 東京大学 教授 玉井,信行
 東京大学 教授 虫明,功臣
 東京大学 助教授 河原,能久
 東京大学 助教授 Dibajnia,Mohammad
内容要旨

 本研究では三角形潜堤の波浪制御構造物としての特性を調べることを目的とした.そのために,潜堤付近での波浪変形を解析するための数値モデルを,微小振幅波理論(線形波理論)・非線形波理論のそれぞれをもちいて開発した.これらの数値モデルの妥当性を検証し,併せて潜堤上の波浪変形の様子を観察するために室内実験を行った.

 線形波理論を用いると,比較的小さな潜堤の回りの波浪変形を多成分の速度ポテンシャルを仮定することにより解析的に表現することができた.これにより,潜堤付近の波の反射率・透過率を解析的に求められた.また,比較的大きな潜堤付近の波浪変形については数値解析により求めた.様々な入射波条件・潜堤の形状に対して,反射率・透過率を求めた.

 線形波理論による反射率・透過率の妥当性を検証するために室内実験を行った.長さ6m幅2.9m水深0.25mの水槽を用いて,三角形潜堤のみを5つ設置した場合と,三角形潜堤と長方形潜堤を組み合わしたものを5つ設置した場合の両方について規則波を用いて実験を行った.この結果,透過率の計算結果は実験結果とほぼ一致していることが確認できた.

 緩い傾斜の付いた三角形潜堤上の波浪変形を平面2次元で解析するために,非線形緩勾配波動方程式を用いた.この基礎方程式を離散化して数値的に解くためにADI法を用いた.このとき,岸側の開境界条件にはSommerfeldの放射条件を用いた.また,沖側の境界条件は多重反射波と入射波の重合場と仮定して導いた.この方法を用いて,様々な入射波条件の下での潜堤上での時系列波形を計算した.

 また,非線形波の入射波条件に対応する場合においても実験を行った.この結果,水面波形の計算結果と実験結果の良好な一致を確認した.このことは,線形の入射波とSommerfeldの放射条件を用いることにより,極浅海域および浅海域において,合理的かつ信頼に値する解が得られることを表している.

 本研究での数値計算結果および実験結果により,浅海域において潜堤上を波が通過すると波の屈折現象により,潜堤上および潜堤背後において高周波成分波が発生することが確認された.この高周波成分波をうまく利用することにより,三角形潜堤を用いて波の波高のみならず波向なども制御できる可能性が示唆される.したがって,三角形潜堤は海岸工学において効果的な波浪制御構造物として機能することが期待される.

審査要旨

 本論文は、波浪制御構造物の一つとして三角形平面断面の潜堤による波浪変形を対象として、それを精度よく評価予測するための数値計算モデルの開発ならびに水理模型実験を行った研究成果をとりまとめたものであり、7章より構成されている。

 第1章「序論」では、本研究の背景として、沿岸域における波浪制御の重要性について述べてのち、最近考案着目されている三角形平面断面の潜堤による屈折を利用した波浪制御の原理を説明し、次いで本論文の対象範囲等を示している。

 第2章「既往の研究のレビュー」においては、旧来型の矩形断面潜堤および三角形断面潜堤に関する既往の理論的ならびに実験的研究を総合的にレビューし、三角形潜堤の特長についてあらためて述べるとともに、これまでの研究では特に理論的研究において波の非線形性の扱いが不十分であったと結論づけている。

 第3章は「三角形潜堤上の線形波の変形」と題する。上記のように波の非線形性が重要であるとは言いじょう、三角形潜堤による波浪変形の概略を簡便に把握するためには線形理論による扱いの有効性も充分に存在するとの観点から、先ず本章では線形波を対象とした理論展開を行った。入射波・反射波・透過波の速度ポテンシャルの一般的表示を定め、境界条件を考慮しながら、いわゆる境界接続法を応用して支配方程式を求め、更にその解から反射率や透過率を定める方法を示している。更に潜堤と入射波の相対的規模に応じて、潜堤の平面スケールが比較的小さい場合は純解析解を求めうるが、潜堤規模が大きい場合には数値計算を行う必要がある場合があると結論づけ、各々の場合に解を求める手法を示すことに成功している。

 第4章は「三角形潜堤上の非線形波の変形」と題する。本研究では検討の結果、磯部(1994)により提案された強非線形波動方程式を基礎方程式として用いることとした。この方程式を平面二次元の場に拡張し、更に本研究で対象とする三角形断面潜堤に対応する境界条件を充分に検討した後、基礎方程式ならびに境界条件式を差分方程式に変換した。この際、試行計算と詳細な吟味の結果、いわゆるADI法を採用するのが、計算効率ならびに計算の安定性の点から最も有利であるとの結論を導いている。またたとえ非線形波の変形を扱う場合であっても、入射波条件としては線形理論で与えても充分な精度が得られるケースが多いことを見いだした。

 これらの理論的研究に引き続いて、第5章「波浪変形の水理実験」においては、三角形潜堤による波浪変形の現象をあらためて実際に観察すること、ならびに上記の理論計算モデルの妥当性を検証するためのデータを取得することを目的として、線形波ならびに非線形波のそれぞれを対象として行った水理模型実験について説明している。線形波の条件に対しては各種諸元の同一形状を有する複数の三角形潜堤が連続して存在する場合を対象とし、他方、非線形波の条件に対しては三角形潜堤が折り返して連続的に設置された場合に対応する実験を行い、それぞれ各種入射波条件に対して潜堤周辺の水位変動の計測を詳細に行った。

 第6章「結果および考察」では、線形波ならびに非線形波のそれぞれに対して、潜堤周辺の波高分布および透過率に関して、主に実験結果と理論計算結果の比較に基づいて考察を行った。その結果、線形波については潜堤背後の透過率の分布が、相当程度の精度をもって、線形理論によっても推定可能であることが示された。また、非線形波に関しては、対象としたほぼ全ての条件に対して、潜堤背後の複雑な波高分布ならびに波の分裂現象まで含めて、充分な精度で本研究で提案した数値計算モデルにより再現可能であることが明らかとなり、本モデルの妥当性が示された。更に一般には三角形潜堤上での砕波がない限りは、それのみで実用上充分に小さい透過率を得ることは困難であり、三角形断面の沖側にある程度の長さの矩形断面を付加した潜堤とすることが必要であることも明らかとなった。

 第7章「結語」では、本研究で得られた主要な結論をまとめるとともに、将来の研究への提言についても言及している。

 以上を要するに、本論文は、波浪制御構造物としての三角形平面断面潜堤による波の変形に関して、信頼性の高い実用的な数値計算モデルを提示したものであり、海岸工学上貢献するところが大きい。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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