学位論文要旨



No 111503
著者(漢字) イラワン,パウラス
著者(英字) Irawan, Dong
著者(カナ) イラワン,パウラス
標題(和) 鉄筋コンクリート構造の3次元解析
標題(洋) Three dimensional analysis of reinforced concrete structures
報告番号 111503
報告番号 甲11503
学位授与日 1995.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3507号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 前川,宏一
 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 小谷,俊介
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 助教授 堀井,秀之
内容要旨

 鉄筋コンクリートの一般化解析法の開発研究には,過去10年において著しい進展を見ることができる。特に2次元鉄筋コンクリートの構成則の解明は,数値構造解析の精度向上に多大な貢献を果たした。そして構造解析の適用範囲は,耐力や静的な荷重―変形関係の予測に止まらず,交番繰り返し荷重をも包含することとなり,動的解析の信頼性を大いに高めた。このような基礎研究の発展により,およそ2次元部材・構造に平面力が作用する場合については,実験に依らなくても精度の高い構造解析上の解を得ることが可能となってきた。

 しかし,対象構造物が3次元的広がりを有し,しかも外力並びに応力の流れが3次元的に分布するような,より一般的な鉄筋コンクリートの構造問題については,2次元において達成された一般化には程遠いレベルにあるのが,今日の技術の現状と言える。本研究の目的は,既往の2次元鉄筋コンクリートの一般化解析法を基礎として,その適用範囲を3次元にまで拡張することにある。本研究では,3次元問題を大きく2つに分類し,それぞれに対して研究を行った。第1は,コンクリートの3次元構成則が構造解析結果に不可欠な要素となる構造工学上の問題である。第2は,構成則については2次元で十分な精度を得ることができるが,応力の流れと対象構造物の幾何形状を3次元的に記述することが不可欠な問題である。

 前者の3次元問題のうち,横補強鉄筋による,鉄筋コンクリート柱・梁部材の強度・変形能に及ぼす拘束効果について研究を行った。横補強筋は,コンクリートの変形に連動して,それによって囲まれるコンクリートに拘束応力を付与する。この拘束応力がコンクリートに3軸応力を発生させ,これがコンクリート部材の圧縮・曲げ強度と変形性能に大きな影響を与える。したがって,コンクリートの3軸構成則の精度が解析全体の信頼性を左右するのである。そこで,既に提案されている弾塑性破壊型の複合コンクリート構成則を3次元有限要素解析法に組み入れ,その精度を部材実験結果を用いて検証を行った。その結果,塑性の進行には時間に依存する効果があり,部材のじん性に及ぼす横補強鉄筋の拘束効果を解析的に評価するには,これを無視することができないことを定量的に明らかにした。一般に,構成則は比較的速いひずみ速度を用い,かつ応力とひずみ分布が一様な場で行われる実験に準拠して決定されるため,構造部材内のコンクリートに展開する真の応力履歴を必ずしも正確に模擬しているわけではないからである。これに対して,塑性進行の時間効果を簡単に考慮する方法を提案し,精度の高い解析結果を得ることが可能であることを解析的に示した。

 検証を受けたコンクリートの構成則を用いて,歪み勾配がある場合のコンクリートの拘束効果,ならびに柱部材軸に沿って配置された軸鉄筋による横拘束効果について3次元解析を行った。従来,実験によってその拘束効果の存在が指摘されていた上記の事項に対しては,解析的な裏付けがなされていなかった。本研究により,ひずみ勾配の効果と軸鉄筋の拘束効果が確かに存在し,これらを定量的に求めることが可能であることが示された。

 後者の3次元問題として,本研究では鉄筋コンクリート3次元シェル要素の開発と検証を行った。鉄筋コンクリート3次元シェル自体は,層状積分法が古くから開発されており,曲げ主体の変形に対しては満足いく結果を与えることが示されている。しかし,交番繰り返し荷重にまで適用範囲を広げたものは過去に無く,したがって,3次元シェル構造の直接積分による動的解析も現実のものとなっていない。そこで,本研究では既に多くの実績を有する,鉄筋コンクリートの2次元平面応力構成則を3次元シェル要素の開発に応用した。ここで,鉄筋の自由のびを付着作用によってコンクリートが拘束するTension-stiffness効果は,薄肉部材においては全断面で有効であること,2方向ひびわれの発生とその正確な剛性評価が不可欠であることをそれぞれ見いだし,併せて定量化を行い,交番繰り返しに応用可能な鉄筋コンクリート3次元シェル要素の開発に成功したのである。

 開発された3次元解析プログラムは,鉄筋コンクリート板の繰り返し面外せん断・曲げ挙動,組合せ面内・面外力を受けるRC板の挙動,ならびにRC箱型ダクトの繰り返し載荷実験によって再度検証を受け,動的解析に対しても十分な精度と適用性を有する要素であることを示している。また,面内圧縮力が卓越するような,幾何学的非線形性が無視できない問題においても,材料非線形と幾何非線形の組合せにより十分な精度を得ることができることが示された。

審査要旨

 鉄筋コンクリートの一般化解析法の研究には,過去10年において著しい進展を見ることができる。特に2次元鉄筋コンクリートの構成則の解明は,数値構造解析の精度向上に多大な貢献を果たした。そして構造解析の適用範囲は,耐力や静的な荷重―変形関係の予測に止まらず,交番繰り返し荷重をも包含することとなり,動的解析の信頼性を大いに高めた。このような基礎研究の発展により,およそ2次元部材・構造に平面力が作用する場合については,実験に依らなくても精度の高い構造解析上の解を得ることが可能である。しかし,対象構造物が3次元的広がりを有し,外力並びに応力の流れが3次元的に分布するような,より一般的な鉄筋コンクリートの構造問題については,2次元において達成された一般化には程遠いレベルにあるのが,今日の技術の現状と言える。本研究は,既往の2次元鉄筋コンクリートの一般化解析法を基礎として,その適用範囲を3次元にまで拡張することを試みたものである。

 第1章は序論であり,本研究の背景と2次元応力場における既往の解析的研究について纏め,研究目的を明示している。

 第2章では,弾塑性破壊型の3次元コンクリート構成則の検証を,横補強された鉄筋コンクリート柱の中心軸圧縮試験結果をもとに系統的に行い,塑性進行特性に載荷速度の影響を考慮しなければならないことを明確にしている。そして,時間に依存する塑性ひずみの進展則を提案し,これが横補強された鉄筋コンクリート柱の体積膨張挙動の予測に不可欠であることを示した。

 第3章において,軸方向鉄筋の拘束効果について解析的検討を与えている。軸方向鉄筋はコンクリートの横方向変形を拘束するのみならず,軸方向の圧縮力をも支持するために,その拘束効果は過去の実験的手法では十分解明されていなかった。軸方向鉄筋の3次元拘束効果は,横補強鉄筋の間隔によって大きく異なることが本章で明らかにされた。

 第4章はひずみ勾配がコンクリートの拘束効果に及ぼず影響について,解析を行ったものである。鉄筋コンクリート梁・柱が曲げを受ける際の軸方向のコンクリート構成則は,部材のじん性評価に深く関与しており,耐震設計においても重要な規定条項である。本研究は,ひずみ勾配によってコンクリートの軸方向応力ひずみ関係が,3次元応力場の効果によって場所ごとに異なることを明らかにした。柱の中心軸圧縮試験結果をもって,コンクリートの各部所の軸方向応力ひずみ関係としてきた従来の設計方法が,必ずしも妥当なものではないことを,本章は示唆している。

 第5章は,面内および面外力を受ける鉄筋コンクリート3次元シェル要素の開発について述べたものである。本章の特徴は,交番繰り返しを含む,任意の荷重履歴に対して適用できる構成モデルと要素を初めて開発した点にある。2方向に導入されるひびわれの開閉を正確に力学的に再現することにより,広い適用範囲を得ることが可能となった。

 第6章は,面内せん断及び面外せん断作用を受ける板要素・箱部材の載荷実験を行い,本論文において開発した3次元数値解析法の妥当性を構造レベルで検証したものである。これにより,交番繰り返しを含む任意の荷重履歴に対して,本解析手法が十分な適用性と満足できる精度を有していることが確かめられた。

 第7章は,面内および面外荷重が複合して作用する鉄筋コンクリート板要素の挙動について,多角的な検証を行ったものである。薄肉部材の場合,幾何学的非線形性が卓越する領域においても,本モデルの高い適用性が示され,耐震解析に必要な復元力特性や残留変形の予測も良好であることが分かった。

 第8章は結論であって,本論文の結論を概括するとともに,工学上の種々の問題に対する応用性と将来の研究方向について言及している。

 以上の通り,本論文は鉄筋コンクリート構造解析法に対して高い一般性と信頼性を与えるとともに,地震による構造物の被害分析,耐震性評価,耐震補強にも応用が可能な体系を構築するに至ったものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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