学位論文要旨



No 111504
著者(漢字) ワイルド クリストフ ジャン
著者(英字) Wilde, Krzyztof Jan
著者(カナ) ワイルド クリストフ ジャン
標題(和) 回転補助板を用いた長大橋梁のアクティブ空力制御
標題(洋) AERODYNAMIC CONTROL OF LONG-SPAN BRIDGES BY ACTIVE SURFACES
報告番号 111504
報告番号 甲11504
学位授与日 1995.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3508号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 東原,紘道
 東京大学 助教授 神田,順
 東京大学 助教授 山崎,文雄
 東京大学 講師 木村,吉郎
内容要旨

 明石海峡大橋などの長大吊橋では風の作用,とくにフラッターが上部工の安全性を支配する.本研究は,橋桁の両端下にとりつけた2枚の補助板をアクティブ制御することにより,吊橋フラッターを制御する方式を解析的に検討したものである.

 第1章ではこの分野におけるこれまでの研究成果,本研究の重要性を述べている.第2章では,アクティブ空力振動制御を行うに際し,きわめて有効である,非定常空気力の有利関数近似について調べている.非定常空気力は周波数に依存するため,時間領域での解析ができない.そこで非定常空気力を有利関数近似し,拡張変数(extended variables)を導入し,橋桁の空力振動を表す方程式を定係数の常微分方程式で表す.この方法が橋桁断面においても有効で拡張変数を2ないし3個を導入することで解決することを示した.

 第3章ではこの時間領域で表示された運動方程式を用いて,橋桁の両端下に付けた橋幅の約10分の1の幅を持つ補助板のねじれ運動によるフラッター制御効果をLQ制御を用いて展開している.解析の結果,少ない補助板の動きでフラッターの発生の効率よく行えることを示している.補助板の空気力としては平板空気力を用いているが,その空気力に誤差があった場合,具体的には30%程度の誤差があると制振性能が急激に劣化することをパラメトリック解析により明らかにしている.

 第4章では,実際には,風が時間と友に変化することに着目し,局所時間平均風速に応じたゲインを設定する変動ゲインを求めている.変動ゲインを用いると,広い風速域にわたって効率より制御が可能なことを示している.

 第5章では補助板の回りの流れが橋桁の影響を受け,平板空気力とは異なることが予想されるので,空気力の推定を行いながら制御する適応制御に対する検討を行った.制御系における拡張変数については計測不可能であることを考慮した適応制御法を展開し,変動強制ガスト外力が検出できれば,適応制御も十分使える方法であることを示した.

 第6章では本研究のまとめと主要な結論を述べている.

審査要旨

 超長大吊形式橋梁の建設計画が世界のいくつかで発表されているが,中央支間が2500mを越えると,橋桁の形状の工夫などの従来の方法ではフラッター発現風速を設計風速以上にすることは極めて困難である.また機械式のパッシブ,アクティブ振動制御の適用も,フラッターの励振力がきわめて強いため,実用的範囲を超える.

 そこで本研究では,橋桁の両端に設置された小さな補助翼をアクティブに制御し,補助翼がうける空気力を制振力として利用する方式を対象として,その理論的検討を行っている.なお,補助翼を使ったフラッター制御を実験的に扱った論文はあるが,そこで用いられている制御則は直感的なものであり,理論的に扱った研究はこれまでには行われていない.

 空気力を受ける橋梁の運動方程式では,フラッターを生じさせる自励力の係数が振動数依存となるが,著者は有理関数近似を用いて補助変数を導入し,定係数の常微方程式の形とすることを提案している.代表的な橋桁に適用した結果,2〜3つ程度の補助変数の導入で十分精度のよい近似となることを示している.

 次に,補助変数を加えた運動方程式を用い,アウトプットフィードバック制御による最適制御の定式化を行い,制御ゲインを求めている.アウトプットフィードバックを用いたのは補助変数が近似のために導入されたものであって,物理量ではないため測定不可能であるからである.その最適制御により,小さい補助翼の動きでフラッターが防止できることをパラメトリックな解析により明らかにしている.なお,制御ゲインは風速ごとに変化なくてはならないが,これに対し,変動ゲイン制御を導入し,広い風速範囲に亘って安定かつ効率の良い制御則を提示している.

 次に,補助翼回りの空気の流れが橋桁に影響されて,補助翼に作用する空気力が理論解(Theodersen解)と異なることを想定し,風上側,風下側の補助翼の空気力に誤差があったとしたときの検討を行い.風下側補助翼の空気力では25%,風上側ならば35%の誤差を越えると系が不安定に近くなることを明らかにした.

 最後に補助翼における空気力に誤差がありうることに鑑み,空気力を同定しながら,制御を行う方式すなわち適応制御を検討している.その際,補助変数のみからなる方程式と,空気力と橋桁の変数からなる方程式にブロック化して,後者の運動方程式のみのパラメーターを固定する特殊な方法を提案し行っている.その結果,適応制御を用いることにより,空気力の誤差に対する系の安定性(ロバスト性)が大きく向上しうることを明らかにした.しかし,この方法を適用する際には時々刻々のバフェッティングカも知る必要があり,それをどのように観測するかの問題が残っている.

 本論文は,補助翼をアクティブに制御して,超長大橋のフラッター安定性向上させる策を系統的に扱ったはじめての論文である.実用化に際しての問題の多くは解決されていないが,理論的な側面をいろいろな角度から検討しているという意味で工学的に価値の高いものといえる.

 よって博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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