小長井、田村らは粗い粒子から成る土木構造物の動的破壊挙動を検討するため、レーザー援用トモグラフィー(LAT)と呼ばれる可視化模型実験法を開発した。このLATを細粒から成る模型の挙動解析に用いることは、この手法の適用範囲を大きく広げることにつながる反面、様々な技術的課題を克服することが前提になる。例えば平均粒径が1〜2mm以下の粒子から成る地盤模型内部の個々の粒子を可視化し追跡することはきわめて困難であり、また現実的ではない。そこで粒子を集合体として扱うため、応力、ひずみ、間隙水圧の計測が必要になり、さらに自然砂とは異なる粉砕ガラスの土質力学的性質をも把握しなければならない。本論文ではこれらの技術的課題を整理し、個々の課題に対して可能な解決法を提示し、拡張されたLAT(ELAT)を構築する。またこのELATを砂状模型内の埋設構造内部の応力検出、円柱基礎の支持力実験などに適用し、可視化された情報の検討を行なうとともにELATに関連し、今後さらに解決しなければならない課題を示す。 本論文の第1章では、上記の目的を、また第2章では既往の研究に触れている。さらに第3章ではLATの基本原理を述べている。 第4章では、ELATにおける応力、ひずみの検出方法について検討している。縮小模型内にセンサーを埋設することは模型内の応力、ひずみに少なからぬ影響を与えるため、光学的な応力検出方法が検討された。ELATで用いるレーザー光は模型内でシート状の散乱光を発生する。この散乱光は偏向度の高い平面偏光であることが確認された。このためこの散乱光シートを模型内の偏光光源として光弾性手法によって応力情報を検出することが理論的に可能となる。しかしながら光源が平面偏光であることから一般に用いられる円偏光と異なり、主応力方向の情報をもたらす等傾線と主応力差の情報をもたらす等色線が重なって現われ、これが光弾性縞の解析を困難にする。しかしながら、模型前面に置いた平面偏光板およびレーザーの入射角をともに操作し、2つの異なる画像を重ね合わせることで等傾線を除去することが可能になる。これらの手法は、ガラス粒子模型内に埋め込まれたエポキシ棒を用いてその妥当性が検証された。この手法を埋め込まれた構造模型のみならず粒状材料内部の応力検出に用いるためには光弾性感度の高い粒状材料を用いる必要がある。ガラス粒子は一般にきわめて光弾性感度に乏しいため透明な数種のプラスチック粒子が代用材料として検討されたが、脈理、泡、失透部分を多く含むため、満足な結果が得られていない。この点は今後の研究課題である。 ひずみの検出を行なうためには模型内部に標的を置くことが一つの有効な手段である。標的としては物理的な標的と光化学的な標的を置く手法が検討された。物理的な標的には鉛の散弾、ガラス粒子、ガラス粉末層などが可能なものとして考えられ、それぞれの長所と短所が検討された。ガラスの微粉末は模型を構成する粒子に比べはるかに表面積が大きいため光を大きく散乱し、このため可視化に優れた材料であることが確認された。光化学的な標的として硫化亜鉛粉末などの螢光を用いることが検討された。この粉末をわずかに模型に加えよく混ぜ合わせた上、室内を暗くしレーザーを照射することで模型内に螢光によるグリッドを描くことができる。この手法はグリッドを描く工程で模型を乱すことがなく、優れた方法であるが反面、硫化亜鉛は緑色(514.5nm)の光での励起効率が悪く長時間の計測には不適である。より光の波長が短くなると著しく効率が増加するが、この場合にはガラス粒子と液体の屈折率がこの波長域で異なってくるため、レーザー光をまっすぐ透過させることができなくなる。また間隙水の挙動を調べるため、耐溶剤性のセンサーを用いるとともに流動光弾性の適用の可能性についても検討した。 第5章では自然砂とは異なる粉砕ガラスの土質力学的特徴を10ケースの平面ひずみ試験結果をもとに論じている。LATではガラス粒子を液浸することを前提としているが、この液体はメンブレンを溶かすため、これらの試験は乾燥した試料を用いて行われた。平面ひずみ試験での側圧3は、自重場でのLAT実験条件を考慮して0.05〜0.8kgf/cm2としている。豊浦砂、レイトンバザード砂などと比較してきわだった特徴は、低拘束圧下(3=0.05kgf/cm2)での著しい内部摩擦角maxの増加である(SLB砂の1.45倍)。この拘束圧下ではmaxとともに終局強度resも著しく増加しており、いわゆるsaw-bladeモデルを念頭におくと、maxの増加は主にresの増加に起因していると考えられる。一般に自然砂ではこのresは砂固有の定数であり、多くの砂でほぼ30°程度の値をとることを考えると、ガラス粒子のresが拘束圧で大きく変化することは低拘束圧下で模型実験を行なう上で、きわめて注意すべき現象である。ガラス粒子においても拘束圧が大きくなるとresは30°程度に減少する。これはガラス粒子表面の微小なかつ鋭利な角が非常にもろく、拘束圧の増加で容易に破砕されるために生ずる現象と考えられる。微小ひずみ(0.0016%)下でのせん断弾性定数は粒径が小さくなるにつれ増加する傾向がある。このような高拘束圧下では、ガラス粒子の応力、ひずみ曲線はピーク強度をすぎる前後からすべりの不連続性を反映する細かい変動を繰り返すようになり、これも粒子表面の鋭利な角の破砕を示す現象と考えられる。 一連の実験で観察されたせん断層の幅は粒子径の約20倍程度であり、この幅も龍岡が指摘するように模型のサイズを検討する上で重要である。 第6章では、ELATを埋設された梁状構造内部の応力検出と、円柱基礎の動的支持力実験に適用し、可視化された情報の解析と検討を行なっている。埋設された梁状構造直上に円柱フーチングを置き、これを地盤模型内に貫入させることで発生する応力を可視化した。貫入量が増えるに従い、支持反力も増加し、埋設構造内の応力レベルも断続的に増加していく様子が実時間で観測された。埋設梁内部の中立軸が次第に下方に移動したが、これは断続的なすべり、接触を繰り返す過程で、梁に曲げに加え圧縮応力が働いたためと考えられる。 図表図1 粉砕ガラス中に埋設された構造物モデル中の応力フリンジの可視化 / 図2 粉砕ガラスでできたモデルを用いた支持力試験における変形の可視化(平均粒径0.47mm) 動的支持力実験では、密な浸水砂上に円柱基礎を置き、その支持力を3つの異なる載荷速度について計測した。またELATのみならず小名浜砂をも用いた対応実験を行い、自然砂との挙動の違いを検討した。ELATおよび自然砂いずれの実験でも載荷速度の増加は支持力の増加をもたらしたが、自然砂の場合大きな負の間隙水圧が寄与していると考えられる反面ガラス粒子(ELAT)では間隙水圧の変動は大きくない。ELATで観測された模型断面では、載荷速度の大きい方が全体的な体積増加が大きく、荷重を伝達する粒子骨格の形成に大きな変化が生じたものと考えられる。 第7章では以上の研究成果をまとめるとともに今後ELATを用いる上での課題と提案をまとめている。 Filename: JAPABSTR.DOC Template: 標準.DOT Author: Peter Rangelow LastSaved: 95/09/11 10:26 Revision#: 9 Page: 1of3 Printed: 95/09/11 10:35 |