フランスの液体金属冷却高速増殖炉スーパーフェニックスの試運転に際して、原子炉容器保護のために設置された内部容器が、これを超えて落流する冷却材の溢流によって、内部冷却材のスロッシングを伴って振動する現象が見い出された。このため、このような振動の発生条件についての実験的研究や理論的研究がこれまで精力的に行われてきているが、本論文は、論文提出者が数値流体解析に基づきこの現象の解明に寄与しようと行った研究を取りまとめたもので、英文で記載されており、全6章から構成されている。 第1章は序論で、研究の背景を述べた後、本研究では、現象を2次元体系で模擬した実験でこれと類似の振動の発生を見出しその発生条件を論じている福家・原の研究で使われた体系を、研究対象とするとしている。 第2章は物理成分BFC法について述べているもので、この方法の原理と一般的特徴を述べた後、この方法に基づいて開発されたBELIEFコードを、本研究のために自由液面であるい第1軸のみならず、第2軸である容器壁も移動可能であるように発展させるための理論的考察を述べ、続いて、このようにして拡張された機能を検証するためになされた3つのベンチマーク問題、すなわち、右側可動壁の強制振動に伴う自由表面流体の共振スロッシング現象、ソリトン波の伝播現象、そして初期変位を与えたバネに支えられた容器壁と自由表面流体との連成振動現象の各々についての解析結果を示し、拡張機能が妥当な解を与え、かつ有用であることが示されたとしている。 第3章は、2次元容器における自由表面流体・容器壁相互作用の理論解析をポテンシャル流モデルを用いて行った結果を述べているもので、まず液体流入のない場合について、発生する連成振動の二つの固有周期ならびに振動の成長率を導き、ついで強制循環のある場合についても同様な検討を行っている。そして、数値解析との比較を行って、後者の場合には、循環流のもたらす非線形性がこのモデルを不適切なものにしていることを示したとしている。 第4章は拡張されたBELIEFコードに基づく福家.原の実験体系についての解析結果を述べているもので、溢流の自由表面への突入と堰の振動にもかかわらず、安定した解析結果が得られ、液面形状、振動発生条件についても実験結果を再現できたとしている。 第5章は第4章の解析においてもその成長が確認された堰振動の発生機構に関する考察を述べているもので、溢流を定常成分と揺動部分にわけて解析した結果、揺動部分が振動成長に直接寄与していること、液面に到達する溢流振動成分と堰振動との間に位相差がなくなるような堰高さが振動成長率を最大にすることを見い出し、この最大成長率が第4章で導いたポテンシャル流モデルに基づき求めたものに良く一致することを見い出している。また、溢流の定常成分を変えて循環流の流速を変えると、これが増大するに従って堰振動は抑制される傾向にあることがわかったとし、これらを総合して実験で得られた振動の発生マップの物理的説明が可能になったとしている。 第6章は結論で、以上の成果を要約し、今後の課題を述べている。 以上、本論文は物理成分BFC法に基づくBELIEFコードを二つの可動軸を持つように拡張し、これを用いて実験で見い出された溢流による自由液面流体・容器壁連成振動の発生条件等を数値解析により再現することを可能にし、併せて、この振動現象を理解するためにポテンシャル流れモデルを開発し、振動発生機構について考察を深めたもので、システム設計工学の進展に寄与するところが少なくない。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |