CAEシステムは、製品の開発・設計において、工学的手法による解析・シミュレーションをコンピュータで支援したり、あるいはそのコンピュータ・ツールとして設計に利用される。設計エンジニアが利用している現行のCAE環境をみると、エンジニアは、データブックや便覧等を参照しながらシミュレーション用のデータを入力し、そのグラフィック表示をみながら設計変数を変更して最適点を見つけ出している。しかし、将来のCAEとしては、設計対象の仕様・目的と初期設計(形状・性能)を与えるだけで、無数に考えられる設計のバリエーションの中から適切なものを自動的に見つけ出せるシステムが望ましい。 現在、汎用CAEコードがいくつか開発、市販されており、これを利用するエンジニアが多い。しかしながら、これらの汎用コードは、その機能の豊富さが逆にユーザの理解を難しくし、また入力データ作成の際には膨大なマニュアルを調べなければならない。また、自由曲面を含む3次元任意形状に対して、解析者が望むような質の高いメッシュが得られないのが現状であり、連成現象設計のような設計変数に対する物理量の分布が複雑となる場合は、既存の汎用コードでは専門家達の試行錯誤により作業を行っている場合がほとんどである。 本論文では設計作業の効率化を目指して、連成現象を考慮しながら、自由曲面を含む3次元複雑形状に対する寸法決定のための満足化設計を支援する自動CAEシステムを構築するための研究を行っている。 第1章は序論であり、上に述べた研究の背景を総括的に述べている。 第2章では、あいまい知識処理手法と計算幾何学手法を用いた自動要素分割システムについて述べている。特徴としては、ユーザーがわずかな入カデータの操作を行うだけで自由曲面を含む複雑形状内の節点密度を自在に制御でき、しかも数万節点規模の大規模メッシュを高速に生成できる。 第3章では、自動有限要素解析システムについて述べている。汎用CADシステムDESIGNBASEの幾何モデラー、あいまい知識処理手法と計算幾何学手法に基づく自動要素分割モジュール、構造・熱伝導・静電磁場・振動(固有値)解析などが可能な汎用有限要素解析コードMARCの統合化された自動解析システムを構築している。特に、境界条件・物性値を幾何モデルに対して直接付加する機能を導入している。その結果、複雑形状の実構造物機器に対して、わずかな操作を行うだけで有限要素モデル(メッシュ及び境界条件など)を完全に自動的にしかも高速に生成できるようにしている。 第4章では、全領域探索法によるデザインウインドウの自動探索について述べている。自動有限要素解析システムによって得られた解析結果を階層型ニューラルネットワークに学習させ、学習終了後のネットワークを、有限要素法アナライザーとして利用している。具体的には、ニューロアナライザーは満足設計解の存在領域として定義されるデザインウインドウを高速に探索するために利用している。 第5章では、構築したCAEシステムの適用例その1として、自動有限要素解析システムに、四面体特異要素と応力拡大係数の解析機能を導入し、わずかな操作のみで、複雑形状内の3次元き裂の応力拡大係数を効率的に解析できるシステムについて述べている。 第6章では、構築したCAEシステムの適用例その2として、複合現象が強く現れるマイクロマシンの自動評価について述べている。解析結果の出力形式は設計パラメータの設計可能空間を視覚的に表現する多次元デザインウインドウである。本論文で提案しているデザインウインドウ探索技術は、上記の自動解析システムを用いて設計パラメータに関するバラメトリックな解析を行い、その結果を階層型ニューラルネットワークの学習を通して多次元情報としてコンピュータ内に蓄えるものである。ユーザの選択に応じて、その中の任意の3パラメータについてのデザインウインドウをデイスプレイ上に瞬時にグラフィックス表示できる。これにより、設計者は設計可能性を視覚的に把握することができるようにしている。 第7章は結論であり、本論文の研究成果をまとめている。 以上を要するに、本論文では、次世代の統合化CAEシステムを実現するために、設計対象の仕様・目的と初期設計(形状・性能)を与えるだけで、無数に考えられる設計のバリエーションの中から適切なものを自動的に見つけ出せるシステムについて述べている。これらの利点は、工学分野のエンジニア及び設計分野の設計者において、設計支援の実用化を促進するうえで、工学に貢献するところが少なくない。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |