学位論文要旨



No 111517
著者(漢字) 李,準晟
著者(英字)
著者(カナ) リ,ジュンソン
標題(和) 3次元複雑形状の自動CAEシステム
標題(洋) Automated CAE System for Three-Dimensional Complex Geometry
報告番号 111517
報告番号 甲11517
学位授与日 1995.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3521号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 矢川,元基
 東京大学 教授 中島,尚正
 東京大学 教授 岩田,修一
 東京大学 助教授 古田,一雄
 東京大学 助教授 吉村,忍
 東京大学 助教授 奥田,洋司
内容要旨 1.はじめに

 最近、高性能ワークステーションの普及とともに、3次元有限要素法解析が設計レベルで頻繁に行われるようになってきた。特に製造業界では、設計時間の短縮・設計作業の原価低減・製品品質の向上等を目的としたCAD/CAM/CAEシステムとよばれるコンピュータ支援システムが非常に重要な位置を占めるようになった。有限要素法が極めて有効な数値解析手法として広く用いられている理由の一つに任意形状の領域の解析を容易に行えることが挙げられる。しかし、メインプロセスに比べてプレプロセスへの負荷は増大しており、その効率化が大きな課題となっている。矢川らはあいまい知識処理手法と計算幾何学手法を用いた自動要素分割システムを開発し、要素分割作業の大幅な効率化を達成した。しかし、実用機器のCAE(Computer-Aided Engineering)作業全体の効率化をはかるためには解析条件の入力作業を簡略化し、さらにプレ・メイン・ポスト処理の一連の流れを自動化することが必要不可決となる。

 CAEシステムは、製品の開発・設計において、工学的手法による解析・シミュレーションをコンピュータで支援したり、あるいはそのコンピュータ・ツールとして設計に利用される。設計エンジニアが利用している現行のCAE環境をみると、エンジニアは、データブックや便覧等を参照しながらシミュレーション用のデータを入力し、そのグラフィック表示をみながら設計変数を変更して最適点を見つけ出している。しかし、将来のCAEとしては、設計対象の仕様・目的と初期設計(形状・性能)を与えるだけで、無数に考えられる設計のバリエーションの中から適切なものを自動的に見つけ出せるシステムが望ましい。

 現在、汎用CAEコードがいくつか開発、市販されており、これを利用するエンジニアが多い。しかしながら、これらの汎用コードは、その機能の豊富さが逆にユーザの理解を難しくし、また入力データ作成の際には膨大なマニュアルを調べなければならない。また、自由曲面を含む3次元任意形状に対して、解析者が望むような質の高いメッシュが得られないのが現状であり、連成現象設計のような設計変数に対する物理量の分布が複雑となる場合は、既存の汎用コードでは専門家達の試行錯誤により作業を行っている場合がほとんどである。

 本研究では設計作業の効率化を目指して、連成現象を考慮しながら、自由曲面を含む3次元複雑形状に対する寸法決定のための満足化設計を支援する自動CAEシステムを構築した。即ち、満たすべき個々の要素技術を統合化し、一連の流れを自動化した。

2.システムの概要

 本システムの処理の流れを図1に示す。汎用CADシステムDESIGNBASEの幾何モデラー、あいまい知識処理手法と計算幾何学手法に基づく自動要素分割モジュール、構造・熱伝導・静電磁場・振動(固有値)解析などが可能な汎用有限要素解析コードMARCの統合化された自動解析システムを構築した。さらに満足解の存在領域(デザインウインドウ[Design Window:DW])を自動的に探索する機能を導入し、自動解析システムと統合化した。解析結果の出力形式は設計パラメータの設計可能空間を視覚的に表現する多次元DWである。本研究で提案しているDW探索技術は、上記の自動解析システムを用いて設計パラメータに関するパラメトリックな解析を行い、その結果を階層型ニューラルネットワークの学習を通して多次元情報としてコンピュータ内に蓄えるものである。ユーザの選択に応じて、その中の任意の3パラメータについてのDWをデイスプレイ上に瞬時にグラフィックス表示できる。これにより、設計者は設計可能性を視覚的に把握することができる。

図1 本CAEシステムの流れ2.1 自動解析システム

 このシステムでは、ユーザーがわずかな入力データの操作を行うだけで自由曲面を含む複雑形状内の節点密度を自在に制御でき、しかも数万節点規模の大規模メッシュを高速に生成できる。3次元複雑ソリッド構造物の自動要素分割を実現し、これに境界条件を効率的に付加する機能を導入し、構造物の自動解析システムを構集した。本システムの処理の流れは、(a)形状(幾何モデル)定義、(b)幾何モデルに対する境界条件・物性値の指定、(c)節点粗密情報の指定、(d)節点生成、(e)要素生成、(f)要素のゆがみの補正、(g)メッシュへの境界条件の付加、(h)解析、となる。このうち、(a),(b),(c)はユーザーによって幾何モデルになされる対話的な作業であり、他は全て自動的に処理される。

2.1.1 形状(幾何モデル)定義

 幾何モデルは、有理Bezier曲面及び有理Gregoryパッチの自由曲面表現が可能であり、形状処理のためのライプラリー関数を豊富に有する汎用CADシステムDESIGNBASE Ver.3の幾何モデル定義機能を用いた。

2.1.2 幾何モデルへの境界条件・物性値の指定

 境界条件・物性値は解析コード特有のデータフォーマットを考慮しながら要素面や辺、節点などに直接指定しなければならない。これに対して、本システムでは、生成される要素分割を意識せずに物性値や境界条件をユーザーが幾何モデルに対して直接指定できるようにした。すなわち、まず、幾何モデルを構成する頂点、稜線、面(ないしパッチ)をマウスでクリックすることにより指定する。ここで面の場合には、それを構成する稜線上の3点をクリックすることにより指定する。次に、指定された幾何モデルの構成要素に付与する境界条件の種類と数値を入力する。ここでは、スカラー、ベクトル量の指定やDirechlet型、Neumann型の境界条件も指定できる。また、応力解析、熱伝導解析、静電場解析のいずれの境界条件にも対応できる。

2.1.3 節点粗密情報の指定

 幾何モデル内に生成する節点の粗密情報を指定する。本システムでは、複数の節点密度分布関数(局所的な応力集中に対応する分布、有限領域内を一様に分割するための分布、全領域を一様に分割するための分布など)があらかじめシステム内に登録されている。ユーザーは問題に応じてそれらを選択し、それらの配置位置を指定する。すると、あいまい知識処理手法により自動的に幾何モデル全域にわたる節点密度分布が計算される。

2.1.4 節点生成

 2.1.3節で定義される節点密度分布を満足する節点群が、計算幾何学手法の一つであるバケット(Bucket)法を用いて、総節点数に比例する速度で自動的に生成される。このプロセスでは、節点を幾何モデル表面及び内部のみに生成させるために、DESIGNBASEの形状演算ライプラリが利用される。

2.1.5 要素生成

 生成された節点群を計算幾何学手法の一つであるデラウニー法を用いて結ぶことにより、ゆがみの少ない4面体要素が総節点数に比例する速度で生成される。なお、凹形状の幾何モデルにおいては、形状外部にも要素が生成されるため、最後に、要素の重心をもとに内外判定を行い、外部に生成された要素を除去する。

2.1.6 要素のゆがみの補正

 ラプラシアン平滑化を数回行うことにより表面近傍に生成される要素のゆがみを補正する。この方法は、ある節点の座標をそれに隣接する節点で構成される多面体の重心の座標に更新するものである。平滑化処理は通常、数回の反復で十分である。

2.1.7 メッシュへの境界条件の付加

 要素及び節点はそれぞれが所属していた元の形状要素(頂点、稜線、面)を情報として保持するデータ構造とした。このため、2.1.2節の作業でユーザーにより形状要素毎に指定された境界条件や物性値は、自動的に要素の頂点(節点)、辺、面へ割り振られる。この結果、有限要素解析コードのための入力データ、すなわち有限要素モデル(=メッシュ+境界条件・物性値)が生成される。

 本システムは、原理的に任意の有限要素法解析システムに対応可能であるが、今回の研究では、一例として、汎用解析コードMARCに実装された1次及び2次の四面体要素に対応するデータを出力できるようにした。

2.2 デザインウインドウ(DW)

 満足解の存在領域として定義されるDWの探索をCAEの中で行うには、探索点の設計成立状況を実際に有限要素法(FEM)解析を行って判定することになる。しかしながら、このようなFEMに基づく直接的な探索は、3次元複雑形状を解析する場合には1回の解析時間が長くなるため実用的でない。そこで離散的なサンプル解析結果を学習させるだけで未知の探索点についても妥当な物理量を推定できる階層型ニューラルネットワークをFEMアナライザの代わりに利用することによって、DWの効率的な探索が可能となるニューロに基づく探索法を採用した。

2.2.1 ニューラルネットワーク

 本研究では、フィードフォワード型の3層からなる階層型ネットワークを採用した。階層型ネットワークとは、ユニットを層状にグループ化し、信号が入力層から出力層へ1方向にのみ伝達し、層内結合がないネットワークのことである。

2.2.2 学習アルゴリズム

 学習アルゴリズムとしては、教師信号と出力信号の2乗誤差が最小になるように、最急降下法を用いて出力-中間層間と中間-入力層間の結合係数およびオフセットを順次決定していく誤差逆伝播学習則を採用した。

2.2.3 階層型ニューロに基づくDW探索

 ニューロに基づく探索は図2に示すように三つのフェーズから構成される。すなわち、第一フェーズにおいて、ニューロに学習させるサンプルデータを作成する。そこでは、設計変数の許容空間に格子上に発生させた離散的な設計変数の組に対して、実際にFEM解析を行い、最大応力などの物理量を求める。第二フェーズでは、作成した学習データをニューロに学習させる。ここでは設計変数をニューロの入力信号とし、物理量を教師信号として学習させる。第三フェーズで、学習済みニューロをFEMアナライザとして利用し、DW探索法に基づいてデザインウインドウを求める。探索法としては設計変数の許容空間上に発生させた全ての格子点について設計条件を満足しているか調べる全領域探索法を用いた。

図2 ニューロに基づくDW探索の原理

 ニューロに基づく探索でも、FEMに基づく直接的な探索と同様に、ある程度はFEM解析する必要がある。しかしサンプル解析なので、解析数は全領域探索法で必要となる探索点数と比較してはるかに少なくてすむ。さらに、ニューロに基づく探索は、学習に時間がかかるものの、一度学習が終了してしまえば、積和演算だけで高速に物理量を推定できる。その結果、FEMに基づく直接な探索では多大な時間を要する全領域探索でさえ、ニューロに基づく探索では実用的な時間で行うことが可能である。

3.実行例及び考察:マイクロウォブルアクチュエータを例として3.1 有限要素法解析

 典型的な連成現象問題であり、物理量の実測が難しく、CAEへの要求度が高いマイクロマシンの評価に本システムを適用した。図3に対象とした静電型マイクロウォプルアクチュエータを示す。このアクチュエータは、平面リング(ロータ)が3本の曲げバネを通して中央部で支持されているのが特徴である。動作原理としては、周辺の電極(ステータ)を順次励起して行くと、平面リングが励起された電極に順次吸引されながらころがり回転する。励起を止めると、バネによって平面リングは元の状態に戻る。自動解析としては、本マイクロウォブルアクチュエータを実現する上で必要と思われる次の性能評価を行った。

図3マイクロウォブルアクチュエータの構造

 (1)ロータの面内変形挙動解析、(2)自重を考慮したロータの面外たわみ解析、(3)ロータの固有値解析、(4)ロータとステータの間の静電場解析、(5)ロータの復元現象の解析

 まず、(2)の自重によるたわみの量を調べた結果、たわみ量は10-2nmのオーダであり、ロータとステータのアライメントを壊すようなたわみは生じなかった。また(3)の固有値解析の場合も必要とされる固有振動数(10kHz以上)が得られた(Mode I:46.2kHz,Mode II:101kHz)。ロータの復元現象-ある角度まで回転させた状態で拘束を外す-の解析を行い、まわりに配置されたステータには衝突しないことわかった。したがって、(1)と(4)に焦点を絞り、弾性変形限度内での本アクチュエータの稼動条件の検討を行った。(1)の変位制御による静応力解析から得られた起動トルクは0.42x10-9Nmであった。(4)の解析では、ロータとステータの間の空気部分と絶縁膜が解析対象となる。電極が励起されロータとの接触が起こり、次の電極が励起されロータの引っ張りが生じる時の静電場解析より、起動トルクを求める。静電場の漏れ部分を考慮せずに得られた2次元解析解と、漏れ部分を考慮した3次元FE解から得られた起動トルクと駆動電圧の関係をそれぞれ図4に示す。これらの解析結果から、電場の漏れを考慮した3次元FE解に基づく結果のほうが起動トルクが1/4程度に小さいこと、また、上記の静電型マイクロウォブルアクチュエータを駆動するためには、170V以上が必要とされることがわかった。

 図5には全解析の過程においてかかった時間を示す。ユーザ自身が行う幾何モデルの定義に10分-40分(この部分はDESIGNBASEの幾何モデリングの習熟度に依存し、習熟度が増せば数分の1に減る)、節点粗密情報及び境界条件の指定に数秒から数十秒かかり、その後は完全に自動的に行われる。したがって、本システムを用いると、ユーザーは幾何モデル作成に係わるだけで、あとはほとんど自動的に最終的なデータまで作成し、解析ができる。本システムはC言語を用いて書かれており、現在、汎用的なワークステーションの一つであるSUN Sparcstation 10 (1CPU,50MHz)に実装されている。

図表図4起動トルクと駆動電圧の関係 / 図5所要時間
3.2 デザインウインドウの探索

 設計変数とその範囲に対しては構造-電場を考慮し、次の通りとした。

 (1)ロータの厚み: 2.0-2.5m、(2)ロータの本体の幅:20-30m、(3)ロータとステータとの間隔:2-5m、(4)絶縁体(Insulator)の厚み:0.2-1.8m。

 用いた階層型ニューロの各層のユニット数は、入力層が4ユニット、中間層が10ユニット、出力層が面内変形挙動解析による起動トルクと静電場解析による起動トルクを出力する2ユニットである。一般に学習データ数が増えるとニューロの推定精度が向上するが、ここでは簡単のためにニューロの学習パターンについては設計変数4つについて、それぞれの最大値、最小値、中間値の81個とそれらに対応した2つの起動トルクを学習パターンとして採用した。汎化能力検証用未学習パターンについては、許容空間上からランダムに選定された10個を採用した。ニューロの結合係数は過剰学習を防止するために汎化能力検証用未学習パターンに対する平均推定誤差が0.005で最小になった時の200,000回学習後のものを採用した。

 4つの設計変数の探索ステップをすべて15分割にして、65,536個の空間上の探索点をニューロに基づく全領域探索法によって評価した。一例として、稼動可能(静電力による付加トルクが、ロータの起動トルクを上まわる条件)な形状に関する3次元デザインウインドウを図6に示す。左上の図からは電極に100Vで励起してもマイクロウォブルアクチュエータは回転しないことがわかる。しかし、右上図にみられるように120Vで励起すると設計変数の選び方により運転可能となることがわかる。ニューロに基づく探索法の採用により、FEMに基づく探索では膨大な時間を要する全領域探索でさえ、実用的な時間で行うことができた。

図6 3次元デザインウインドウ
4.おわりに

 汎用CADシステムの有する幾何モデラーおよびあいまい知識処理手法と計算幾何学手法の適用により、自由曲面を有する3次元複雑形状に対して、節点密度分布を自在に制御したメッシュを生成できるようになった。さらに、境界条件を幾何モデルを通して指定する機能を付与することにより、幾何モデルの生成に要する労力のみで容易に完全な有限要素法モデルを作成できるようになった。

 汎用CADシステムの幾何モデラー、あいまい知識処理手法、計算幾何学手法、汎用解析コードを有機的に融合することにより、幾何モデルに対するわずかな操作のみであとは自動的に解析できる実用的なシステムを開発した。さらに満足化設計の効率化のために、ニューラルネットワークを採用したデザインウインドウの効率的な自動探索手法を導入した。上記の要素技術を統合化したCAEシステムを従来総合的なCAE評価が困難であったマイクロマシンに適用し、本システムの有効性と実用性を確認した。

審査要旨

 CAEシステムは、製品の開発・設計において、工学的手法による解析・シミュレーションをコンピュータで支援したり、あるいはそのコンピュータ・ツールとして設計に利用される。設計エンジニアが利用している現行のCAE環境をみると、エンジニアは、データブックや便覧等を参照しながらシミュレーション用のデータを入力し、そのグラフィック表示をみながら設計変数を変更して最適点を見つけ出している。しかし、将来のCAEとしては、設計対象の仕様・目的と初期設計(形状・性能)を与えるだけで、無数に考えられる設計のバリエーションの中から適切なものを自動的に見つけ出せるシステムが望ましい。

 現在、汎用CAEコードがいくつか開発、市販されており、これを利用するエンジニアが多い。しかしながら、これらの汎用コードは、その機能の豊富さが逆にユーザの理解を難しくし、また入力データ作成の際には膨大なマニュアルを調べなければならない。また、自由曲面を含む3次元任意形状に対して、解析者が望むような質の高いメッシュが得られないのが現状であり、連成現象設計のような設計変数に対する物理量の分布が複雑となる場合は、既存の汎用コードでは専門家達の試行錯誤により作業を行っている場合がほとんどである。

 本論文では設計作業の効率化を目指して、連成現象を考慮しながら、自由曲面を含む3次元複雑形状に対する寸法決定のための満足化設計を支援する自動CAEシステムを構築するための研究を行っている。

 第1章は序論であり、上に述べた研究の背景を総括的に述べている。

 第2章では、あいまい知識処理手法と計算幾何学手法を用いた自動要素分割システムについて述べている。特徴としては、ユーザーがわずかな入カデータの操作を行うだけで自由曲面を含む複雑形状内の節点密度を自在に制御でき、しかも数万節点規模の大規模メッシュを高速に生成できる。

 第3章では、自動有限要素解析システムについて述べている。汎用CADシステムDESIGNBASEの幾何モデラー、あいまい知識処理手法と計算幾何学手法に基づく自動要素分割モジュール、構造・熱伝導・静電磁場・振動(固有値)解析などが可能な汎用有限要素解析コードMARCの統合化された自動解析システムを構築している。特に、境界条件・物性値を幾何モデルに対して直接付加する機能を導入している。その結果、複雑形状の実構造物機器に対して、わずかな操作を行うだけで有限要素モデル(メッシュ及び境界条件など)を完全に自動的にしかも高速に生成できるようにしている。

 第4章では、全領域探索法によるデザインウインドウの自動探索について述べている。自動有限要素解析システムによって得られた解析結果を階層型ニューラルネットワークに学習させ、学習終了後のネットワークを、有限要素法アナライザーとして利用している。具体的には、ニューロアナライザーは満足設計解の存在領域として定義されるデザインウインドウを高速に探索するために利用している。

 第5章では、構築したCAEシステムの適用例その1として、自動有限要素解析システムに、四面体特異要素と応力拡大係数の解析機能を導入し、わずかな操作のみで、複雑形状内の3次元き裂の応力拡大係数を効率的に解析できるシステムについて述べている。

 第6章では、構築したCAEシステムの適用例その2として、複合現象が強く現れるマイクロマシンの自動評価について述べている。解析結果の出力形式は設計パラメータの設計可能空間を視覚的に表現する多次元デザインウインドウである。本論文で提案しているデザインウインドウ探索技術は、上記の自動解析システムを用いて設計パラメータに関するバラメトリックな解析を行い、その結果を階層型ニューラルネットワークの学習を通して多次元情報としてコンピュータ内に蓄えるものである。ユーザの選択に応じて、その中の任意の3パラメータについてのデザインウインドウをデイスプレイ上に瞬時にグラフィックス表示できる。これにより、設計者は設計可能性を視覚的に把握することができるようにしている。

 第7章は結論であり、本論文の研究成果をまとめている。

 以上を要するに、本論文では、次世代の統合化CAEシステムを実現するために、設計対象の仕様・目的と初期設計(形状・性能)を与えるだけで、無数に考えられる設計のバリエーションの中から適切なものを自動的に見つけ出せるシステムについて述べている。これらの利点は、工学分野のエンジニア及び設計分野の設計者において、設計支援の実用化を促進するうえで、工学に貢献するところが少なくない。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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