審査要旨 | | 近年低価格高性能のパーンナルコンビュータが普及し,また従来のパラメトリックな解析法における種々の制約の問題から,これ以外の解析法に注目が集まっている。水産資源学においても,計算量は多いがより効率的な別の解析法に関心が寄せられることになった。本研究はいくつかのノンパラメトリックな解析法を導入し,これを資源生物学のデータ解析に適用したものである。 1.資源生物学のデータ解析のためのノンパラメトリック技法1.1体長組成データの解析 非線形推定法(移動メディアンの反復計算に基づく)の採用が体長組成の級分けにおけるノイズを減少させる効率的な方法であることが示されている。しかしその実用に際しては級分けの原点への依存性等,解決すべき問題がある。核型推定法によればヒストグラムと頻度多角形における分布ノイズの減少と原点依存性を完全に克服することができ,その上,拡張核型推定法では不便な固定級幅ではなく,データ数に応じた変動級幅の採用が可能である。平均移動ヒストグラムとWARP(級界点の一般加重平均法)はデータの離散化に基づく効率的なアルゴリズムの集合だが,これにより核型推定法がさらに効果的となる。なお,級幅の選定法に関しては,誤差推定を最小にするための,種々の有力な選択規則が開発されている。 多峰性の推定のためにこれまで,単峰性に関するDip統計検定やSilvermanの平滑ブートストラップ多峰性検定が導入されている。これらの方法を前に研究したメキシコ湾北西部で得た汽水ナマズArius melanopusの体長組成データに適用し,少なくとも4つのモードが示されたが,これは前に得た結果と一致する。 1.2ノンパラメトリックな回帰解析法 本研究で検討したノンパラメトリックな解析法には,普通は直接計算するのが難しい複雑な関数を用いる回帰の解析法についても上記の方法と関連したやはり柔軟な計算法が含まれている。離散化したデータにWARP計算法を用いる核型回帰解析法とk-最近隣法とを成長に季節的な停止のあるvon Bertalanffy成長式でシミュレーションで作ったデータに適用を試みた。いくつかの制約関数を加え,誤差を最小にするように級幅を調整する方法を用いることで結果が非常に改善された。 なお,本研究では核型解析法によるすべての計算プログラムを整備した。 2.東京湾のスズキの資源生物学研究への適用 スズキLateolabrax japonicusは日本沿岸の重要な漁獲対象種である。本種についてはいくつもの生物学,生態学の研究が行われているが,年齢と成長について複数の硬組織を用いた比較研究は行われていない。本研究では1993年9月から95年5月までに得た東京湾のスズキ406個体(雄109(標準体長範囲162-664mm,以下同じ),雌 114(155-760),不明183(123-366))を用い,主として年齢と成長について検討した。 解析は主に先に述べたノンパラメトリックな方法を適用した。 2.1体長組成の解析 体長組成を雄,雌,性不明それぞれ別々に解析した。解析にはヒストグラム,頻度多角形,平均移動ヒストグラム,核型推定,の方法で行った。さらに体長分布の構造を級幅選択法のいくつかを適用して検討した。 体長組成についてDIP検定により単峰性は否定され,Silvermanのブートストラップ検定により少なくとも4つのモードが雄,雌ともに確認されたが,さらに1,2のモードの存在する可能性が示唆された。 2.2年齢と成長 鱗,耳石,耳石の切片により年齢を査定し,成長を検討した。3構造の読みの相互の一致率は以下の通り:鱗-無処理耳石 67%,無処理耳石-耳石切片 58%,鱗-耳石切片 65%。鱗と耳石切片は特に高齢魚で一致率が低い。これまでの他の水城での研究と比べて,本研究の年齢別推定体長は若年で大きく,高年齢でやや小さめの傾向がある。本研究の試料の主な部分は未成魚で1,2歳魚である。非線形計算法によってvon Bertalanffyの成長曲線の当てはめを行った。当てはめの方法による差はなかった。 このほか生殖巣,肝臓等の季節変化を検討し,産卵期とそれに伴う栄養状態,摂餌状態等の変化を推定した。 以上,本諭文は資源解析の方法論に新境地を開いたものであり,その東京湾のスズキへの適用も行い,学術上も応用上も貢献するところが少なくない。よって審査員一同は本論文が博士(農学)の学位に値すると判定した。 |