学位論文要旨



No 111524
著者(漢字) V.,アンブモジ
著者(英字) Venkatachalam,Anbumozhi
著者(カナ) V.,アンブモジ
標題(和) 整備水田における局所的土壌・水・作物管理に関する研究
標題(洋) Studies on Site Specific Soil,Water and Crop Management in Land Consolidated Paddy Fields
報告番号 111524
報告番号 甲11524
学位授与日 1995.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第1621号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 農業工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中野,政詩
 東京大学 教授 秋田,重誠
 東京大学 教授 中村,良太
 東京大学 助教授 宮崎,毅
 東京大学 助教授 山路,永司
内容要旨 内 容

 整備された大区画水田においては、少なくとも整備直後には生育が不均一であることが避け難く、この不均一性の解消が課題となっている。そこで本研究では、土壌・用水等のどのような諸条件が不均一性を引き起こしているのかを明らかにし、その対応策を提示することを目的とする。すなわち、選定された圃場において、圃場内部の諸条件および生育の不均一性の実態を調査すること、実験室においてさまざまな条件をシステマティックに設定し最良の生育条件を明らかにすること、およびその最良の条件を圃場レベルで実現するための方策を探ること、以上が本研究の目的である。

 まず第I章では、世界の稲作の現状を振り返ったうえで、その生産基盤である水田の土地生産性とその要素である区画規模・労働生産性とそれに関連する機械化について比較考察を行い、圃場整備の必要性を論じている。

 これを踏まえて第II章では、土地生産性に与える諸要因-潅漑用水の量・湛水深・土質・施肥量について詳細にレビューし、労働生産性を低減させるための機械化や直播技術をレビューした上で、本研究の課題を設定し、構成を述べている。

 第III章から第V章までは、本研究の中核をなす調査および実験の成果である。

 第III章の圃場調査は、臼井圃場、角来圃場、八郎潟圃場の3カ所で行ったが、中心的な圃場は臼井圃場で、ここは盛土によって大区画に整備された2.14haの水田である。まず圃場における不均一性の現状と原因とを明らかにするために、約25m角に設定した格子点24箇所において、幼苗期より追跡調査を行った。1993年は慣行の移植栽培が行われたが、この測定点での収量の不均一性を変動係数で見ると、38.6%であった。ただし24箇所の変動を草丈で見ると、移植直後は変動係数が80%を越えているが徐々に低下し、移植後66日以降は30%強で推移している。この変動の理由を探るため、土壌の各種物理性および化学性、各地点における用水の水質、および微小起伏とそれによる湛水深の差を測定し、それぞれの因子の影響力を検討した。同圃場では1994年度にはより省力的な散布式直播が行われたため、それぞれの位置の持つ諸因子に加え散布密度の影響も考えられ、地点ごとの収量変動係数は61.4%に達した。以上の測定結果を用いて、各種要因の収量に対する影響を検討した。単相関では粘土含量、砂含量、飽和透水係数などと籾重との相関係数の絶対値が比較的大きかったが、それほど明瞭ではない。また比較的近傍で土壌等の条件がほぼ同じと思われる領域で、淘汰および湛水深の影響を見るため、直線区間を設定し、そこでの生長量の比較を行った。種籾の平均間隔が1.5cmという密植状態では苗の淘汰が発生し、湛水深の影響は顕著でないことが明らかとなった。

 そこで第IV章では、諸因子の影響力を明確にするため、ポット栽培等の実験を行った。実験には、1/2000アールのワグネルポット(自然光バイオトロン)、2.4m×1.2mのライシメータ、1.2m×0.6mのミニライシメータ、0.6m×0.4mのボックス(いずれも屋外)を用いた。まず湛水深の管理方法と湛水深の絶対値の影響を見るため18通りのポットを設定した。その結果およそ9cmあたりに最適湛水深が存在することが確認された。潅漑方法別では、生殖生長期以降に湛水深を半減させる水管理が最も高い収量を得、この傾向は特に深い湛水深で顕著であった。つづいて施肥方法を変えた実験でも最適湛水深は存在し、同じく9cmあたりという結果であったが、施肥量が少ない場合には浅い湛水深にピークが移動した。さらに土の硬さと生長量との関係を見る実験において、土壌を緩く詰めた場合、少し固めた場合、かなり固めた場合等を設定して栽培実験を行った結果、明確な関係が見られた。このことより、圃場レベルにおいてトラクタ走行による土の締め固めについては十分な注意を払うべきことが示唆される。

 さらに第V章では、大区画水田において導入の不可欠な直播栽培を前提に、その場合に必要な最適密度を明らかにするための実験を行った。まず直線上の密度を変化させる実験では、播種間隔を1〜10cmに変化させたところ、緩やかではあるがピークが見られた。同様に格子状に配置した実験では、設定が3通りしか行い得なかったが、8cm間隔の場合が最高の収量を示し、最適密度の存在を示唆した。さらにヘリコプタやブロードキャスタ等による播種のように、種籾がランダムに配置されるときの状態を再現したところ、平均密度間間隔の指標では最適状態を示さなかったが、格子状すなわち秩序的な配置に対してランダムな配置では収量が劣ることが明らかとなった。このことより、圃場における散播では播種密度の均質性をいかに保証するかが重要であることを示唆される。

 以上の調査および実験の結果、整備水田には相当の不均一性が存在することが明らかとなったが、それを指摘するだけでは耕作者の利益にはならないので、これを補償する方策を提示する必要がある。そこで第VI章では、不良土に良い土を混ぜる、不良土に良い土を客土する、不良土に多めの施肥を行う、という措置の効果を明確にするための実験を行った。ここで不良土および良い土というのは、仮想的な土ではなく、実際の圃場において生育の良好な場所および不良な場所の土を用いた。土の混合実験では、その混合比率に応じた関係が認められたが、そのグラフ形状は線形あるいは下に凸であり、圃場全体で見れば混合は得策でないことが明らかとなった。一方客土についてはグラフ形状は上に凸であり、その有効性が明瞭であった。ただし圃場において良い土は有限であるので、他の圃場等から優良な土を運ぶべき必要性も同時に示唆された。最後に不良土への施肥の効果であるが、これは明瞭であり、施肥量を十分に施してやれば不良土でも相当の生産を上げることが可能であることを明確に示した。ただし圃場においては不良土の地点をいかに的確に把握するかが課題であろう。

 最終の第VII章では、総括的に考察を行った。本論文では、多くの室内実験、屋外実験を通じて、さまざまな条件を設定した結果、最適な生育条件を明確にし、圃場レベルヘでの対応についても具体的な方向を示すことができた。なお残る今後の課題としては、この成果を圃場スケールで検証することである。

審査要旨

 整備された大区画水田においては,少なくとも整備直後には生育が不均一であることが避け難く,この不均一性の解消が課題となっている。そこで本研究では,土壌・用水等のどのような諸条件が生育の不均一性を引き起こしているのかを明らかにし,その対応策を提示することを目的としている。すなわち,選定された圃場において,圃場内部の諸条件および生育の不均一性の実態を調査すること,実験室においてさまざまな条件をシステマティックに設定し最良の生育条件を明らかにすること,およびその最良の条件を圃場レベルで実現するための方策を探ること,以上が本研究の目的である。

 第I章では,世界の稲作の現状を振り返ったうえで,その生産基盤である水田の土地生産性とその要素である区画規模・労働生産性とそれに関連する機械化について比較考察を行い,圃場整備の必要性を論じている。

 これを踏まえて第II章では,土地生産性に与える諸要因-灌漑用水の量・湛水深・土質・施肥量について詳細にレビューし,労働生産性を低減させるための機械化や直播技術をレビューした上で,本研究の課題を設定し,構成を述べている。

 第III章から第V章までは,本研究の中核をなす調査および実験の成果である。

 第III章の圃場調査は3カ所で行っているが,中心的な圃場は盛土によって大区画に整備された2.14haの水田である。圃場における不均一性の現状と原因とを明らかにするために,約25m角に設定した格子点25箇所において,幼苗期より追跡調査を行っている。不均一性を収量の変動係数で見ると40〜60%に達しており,この変動の理由を探るため,土壌の各種物理性および化学性,各地点における用水の水質,および微小起伏とそれによる湛水深の差を測定し,それぞれの因子の影響力を検討している。単相関では粘土含量,砂含量,飽和透水係数などと籾重との相関係数の絶対値が比較的大きかったことを明らかにしている。

 第IV章では,諸因子の影響力を明確にするため,ポット栽培等の実験を行っている。湛水深の管理方法と湛水深の絶対値の影響を見るための実験によって,およそ9cmあたりに最適湛水深が存在することを確認している。灌漑方法についても,生殖生長期以降に湛水深を半減させる水管理が最も高い収量を得ることを示している。施肥方法を変えた実験でも同様の結果を示している。さらに土の硬さと生長量との関係についても実験を行い,圃場においてトラクタ走行による土の締め固めについては十分な注意を払うべきことが示唆されている。

 第V章では,大区画水田において導入の不可欠な直播栽培を前提に,その場合に必要な最適密度を明らかにするための実験を行っている。直線上の密度を変化させる実験,格子状に配置した実験によって最適密度の存在を示唆している。さらに,格子状すなわち秩序的な配置に対してランダム配置では収量が劣ることを明らかにしている。

 以上の調査および実験の結果,整備水田には相当の不均一性が存在することが明らかとなったが,それを指摘するだけでは耕作者の利益にはならないので,これを補償する方策を提示する必要がある。そこで第VI章では,不良土に良い土を混ぜる,不良土に良い土を客土する,不良土に多めの施肥を行う,という措置の効果を明確にするための実験を行っている。その結果,客土と施肥とが有効であることを示したが,客土においては土の入手が課題とされている。

 最終の第VII章では,総括的に考察を行っており,実験から明らかになった事項を整理し,それを現場の圃場に当てはめる際の留意事項等を考察している。

 以上要するに,本論文においては,多くの室内実験,屋外実験を通じて,さまざまな条件を設定し,最適な生育条件を明確にしていると同時に,圃場レベルヘでの対応についても具体的な方向を示している。このことは学問上の成果を示していると同時に,国際的環境の中で実際の低コスト農業を行う際の指針ともなることが期待できる。

 よって審査員一同は,本論文が博士(農学)の学位を与えるにふさわしいと判断した。

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