(4)質的調整済みの価格指数 医療において、質を表す指標としては、どんなことあるか、医療サービスの供給過程(process)におけるインプットの変化と供給活動の結果(outcome)であるアウットプットを表す変数以外に、最近では患者側からの評価や病院の機能評価なども行われてはいるが、しかしながら、データとして入手できるものは、インプットの変化を表す変数としては、100床当たり医師・看護婦などの医療従事者数、人口10万対医療従事者数、人口10万対病床数などとアウットプットを表す変数には、日数、1件当たり平均受療日数、患者1人当たり平均在院日数、乳児死亡率、周産期死亡率などが挙げられる。
しかしながら、平均受療日数や平均在院日数などは定量的データではあるが、その方向性が不透明である。また、医療のアウットプットとして、乳児死亡率、周産期死亡率がよく使われるが、これらの死亡率は医療に関連するアウットプットで、もっぱら医療の進歩のみによるとは限らない。本研究では、上記の変数以外に、100床当たり資本保有額、技術進歩を表す時間変数も用いた。
ヘドニック接近法による質的調整済み価格指数の算定には、半対数回帰(semilog multiple regression)モデルを用いて、質的変化を推定した後で行った。従属変数である医療価格としては、1件当たり医療費および診療1回当たりの医療費を対数変換をし、推定を行った結果、質的指数(index of quality:IOQ)は1982年を1とした場合、1992年には1.165となって、約10年間で16.5%の質の向上があった。
ヘドニック接近法による質的調整済み価格指数は、実質価格上昇率を質的指数で割れば計算ができる。質的調整済み医療価格の年平均増加率は1.59%にすぎなかった。また医療価格の上昇率のうち質的向上による上昇分が約52.8%を占め、残りの47.8%が実に、価格上昇によるものであった。
結局、80年代における、総医療費増加額のうち、価格による上昇は、1/4程度にすぎないことになる。
つぎに第3章の"病院の費用関数を推定"においての結果をまとめると以下の通りである。
(1)医業収益比率と、総費用のうち人件費が占める割合との関係では、人件費の割合が高くなるに従って、医業収益比率は低くなっていた。一方、医業収益比率と医薬品及び材料、経費が占める割合との関係では、これらの費用の割合が高くなるにつれて、医業収益比率も高くなる傾向がみられた。
以上のような医業収益比率と諸費用との関係では病院の規模の差による影響を考慮しなければならないため、病院の規模をコントロールした上で、医業収益比率と諸費用間の関連を調べたところ、病院の規模と医業収益の比率とは若干の正(+)の関連はみられるが、規模の相違が医業収益比率と諸費用間の関係を変化させることはなかった。
以下の結果は推定されたトランスログ多財生産費用関数(translog multi-product cost function)のパラメーターに基づき、計算されたものである。
(2)投入要素の偏代替弾力性
偏代替弾力性が正(+)であれば、要素間の代替関係を表し、負(-)の値をとると、要素間に補完関係があることを示す。看護職と准看護職、准看護と事務及びその他職とに代替の関係が見られた。特に、比較的専門性がおちる准看護職と事務及びその他職の間に代替関係がみられることが特徴である。要素間の補完関係も見られたが、補完関係はおもに医師と他の職種との関係、すなわち、医師と看護職、医師と准看護職に見られた。
(3)投入要素の価格弾力性
要素需要の自己価格弾力性はすべて負の値をとっている。各投入要素の価格弾力性を計算したところ、事務及びその他職0.6-0.86、医師0.66-0.92、看護婦0.68-0.98、准看護婦0.68-0.94で、すべての要素が価格非弾力的であることがわかる。各要素の価格の変化による可変費用(総費用のうち、固定費用を差し引いた費用)への影響力にはそんなに大きな差は見られなかった。
(4)規模の経済(economies of scale:ECA)
産出を入院と外来の延べ患者数とした場合、ECAの計算値は、推定された費用関数において、iの合計で0.902となる。一般に、ECA>1であれば規模の経済、ECA<1であれば規模の不経済があると解釈されるから、規模の経済が働いていないことになる。しかしこの結果はcase-mixや医療の質を考慮しなかったことで、もし医療の質を考慮すれば、結果が変わる可能性は十分ある。
(6)限界費用
入院患者数別及び外来患者数別の限界費用は、ともに逓減しているが、外来患者の限界費用の低減率が入院の方より、大きかった。これは、各病院が外来部門を維持している理由ではないかと思われる。言い換えれば、外来患者の数を伸ばす方が入院患者を伸ばすことより費用の節減につながるからだと解釈できる。
(7)範囲の経済(economies of scope)
病院において、入院と外来を一緒に行うことによる費用の節約の程度は別々に生産を行うときと比べ、約25%すくなくなっている。
病院は多種のサービスを生産しているmultiproduct firm型であるから、病院の規模の拡大は規模の経済よりは範囲の経済により、むしろうまく説明できるかもしれない。