学位論文要旨



No 111540
著者(漢字) ストイニッチ,ネデリコ
著者(英字) Stojnic Nedeliko
著者(カナ) ストイニッチ,ネデリコ
標題(和) 拡張個別要素法を用いた地滑り過程とサンドコーンの振動およびトレンチの添加過程の解析
標題(洋) Analysis of Landslide Process, Sand Cone Shaking and Accretionary Process in Trench by the Extended Distinct Element Method
報告番号 111540
報告番号 甲11540
学位授与日 1995.11.09
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3527号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東原,紘道
 東京大学 教授 南,忠夫
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 助教授 堀,宗朗
 東京大学 助教授 目黒,公郎
内容要旨

 本研究では、いくつかの重要な地盤工学および地質学的調査における問題について、拡張個別要素法および個別要素法を用いて解析を行ったものである。

 その問題は、(1)砂層が混在する粘土層の斜面で発生する地滑り、(2)骨材を用いてモデル化した地震時における砂山の力学的挙動、(3)海洋プレート上の海溝部周辺に堆積した土砂層のせん断クラックと摺曲領域の形成の挙動である。

 本研究では、上述の三者の挙動を研究するために、数値解析的アプローチである個別要素法および拡張個別要素法を用いた。この方法は、物体の破壊過程において細分された粒子の集合体の挙動及び、粒子が連結されている組織の連続体状態から非連続的状態(崩壊)までの挙動をシミュレーションするのに適しているモデルである。

 解析では、それぞれ上述の問題について次のように用いた。1番目の課題である地滑りの発生時の力学的過程と3番目の課題である海溝における堆積土砂層でのせん断の発生過程では、破壊の全過程をモデル化できる点から拡張個別要素法を用いた。2番目の課題である地盤の水平振動下でのサンドコーンの力学的挙動のシミュレーションには、実験との比較の便宜を考慮して個別要素法を用いた。

 まず、砂層が混在する粘土層の斜面で発生する地滑りの問題では、ユーゴスラビアのウービルチ地方で発生した地滑りに関する研究において、多くのデータが蓄積されている。

 そこで、本研究ではこのデータとの比較を考えて、このウービルチ地方と同様の層理と土粒子成分をもつ斜面で発生する地滑りの規模と砂層の存在による影響を特定した。

 解析は、異なる飽和度に相当する3種類の土の粘着力の条件の下で行い、それを実際にウービルチ地方で発生した地滑りのデータと比較した。

 その結果、解析によって得られた斜面崩壊の規模は,実際にウービルチ地方で発生した地滑りの結果と同様、粘土の飽和度の値に比例し,その規模もほぼ一致した。

 また、砂層が混在する斜面は粘土層のみの斜面よりも容易に崩壊することも明らかになった。

 さらに、砂層の地滑りによって影響を受ける領域だけでなく、断層面や地滑り発生後の斜面の構造も予測することができた。

 次に、砂山の地震時における力学的挙動の問題では、数値解析によって得られる崩壊の過程のメカニズムを解明するために、骨材を用いた振動台実験も行った。

 シミュレーションでは、入力地震動として、1993年8月8日の北海道南西沖地震の余震(M=6.5)の南北成分を用いた。また、実験結果との比較を容易にするために、モデル(砂山)を高さ方向に3等分して応答を得ることにした。

 一方実験は、数値解析モデルと同じ骨材で同じ形状であるが多少小さいモデルで行った。ただし、入力地震動(水平変位)として正弦関数を用いた。

 この解析の結果は、つぎの通りである。まず、シミュレーションで得られた3つの高さ領域の加速度・速度・変位の応答値が実験結果の同様な部分の応答値およFEMなどの他のシミュレーション結果と良く一致した。

 さらに、水平変位によって引き起こされる崩壊のメカニズムが、シミュレーションモデルの結果と実験モデルの結果は類似している。例えば、両者において崩壊の発生は、砂山の最上部からである点などである。

 また、砂山の崩壊過程さらに解析した結果、サンドコーン周辺の崩壊危険領域の大きさの特定ができた。

 最後に、海洋プレート上の海溝部周辺に堆積した土砂層のせん断クラックと褶曲領域の形成の挙動の問題である。ここでは、北米の西岸のカスカディア海溝のデータを用いて拡張個別要素法によって解析を行った。

 この問題は解析の難しいとされる部分であるが、境界条件ともぐり込む(海洋)プレートの少々の簡素化によって、モデルの解析が可能になった。

 解析の結果は、次の通りである。まず、海溝の海底土砂の蓄積領域の海洋側の端部、蓄積領域の中央部および海底土砂の海溝最深部での海洋プレートの潜行領域での初期せん断クラックの発達についても、その位置も方向もカスカディア海溝における実際の断層の発達のケースとよく一致する。

 また、断層の形成過程についても他の実在する海溝のそれと類似することが明らかになった。

 以上、個別要素法と拡張個別要素法を用いて、いくつかの地盤工学および地質学的調査における広範囲に及ぶ問題について研究を行った結果、これらの問題に応用できることが確認された。

審査要旨

 本論文は、いくつかの重要な地盤工学および地質学的調査における問題について、拡張個別要素法および個別要素法を用いて解析を行ったものである。

 その問題とは、(1)砂層が混在する粘土層の斜面で発生する地滑り、(2)骨材を用いてモデル化した地震時における砂山の力学的挙動、(3)海洋プレート上の海溝部周辺に堆積した土砂層のせん断クラックと褶曲領域の形成の挙動である。

 本研究では、上述の三者の挙動を研究するために、数値解析的アプローチである個別要素法および拡張個別要素法を用いている。この方法は、物体の破壊過程において細分された粒子の集合体の挙動及び、粒子が連結されている組織の連続体状態から非連続的状態(崩壊)までの挙動をシミュレートするのに適しているモデルであると認められる。

 1番目の課題である地滑りの発生時の力学的過程と3番目の課題である海溝における堆積土砂層でのせん断の発生過程では、破壊の全過程をモデル化できる点から拡張個別要素法を用いている。2番目の課題である地盤の水平振動下でのサンドコーンの力学的挙動のシミュレーションには、実験との比較の便宜を考慮して個別要素法を用いている。

 まず、砂層が混在する粘土層の斜面で発生する地滑りの問題では、ユーゴスラビアのウービルチ地方で発生した地滑りに関する研究において、多くのデータが蓄積されていることに着目し、このデータとの比較を考えて、このウービルチ地方と同様の層理と土粒子成分をもつ斜面をモデルとして、発生する地滑りの規模と斜面内部の砂層の存在の影響を解析している。

 解析は、異なる飽和度に相当する3種類の土の粘着力の条件の下で行い、それを実際にウービルチ地方で発生した地滑りのデータと比較した。その結果、解析によって得られた斜面崩壊の規模は,実際にウービルチ地方で発生した地滑りの結果と同様、粘土の飽和度の値に比例し,その規模もほぼ一致すること、また、砂層が混在する斜面は、粘土層のみの斜面よりも容易に崩壊することも明らかになった。さらに、砂層の地滑りによって影響を受ける領域だけでなく、断層面や地滑り発生後の斜面の構造も予測することができた。

 次に、砂山の地震時における力学的挙動の問題では、数値解析によって得られる崩壊の過程のメカニズムを解明するために、骨材を用いた振動台実験を行っている。

 シミュレーションでは、入力地震動として、1993年8月8日の北海道南西沖地震の余震(M=6.5)の南北成分を用いている。一方実験は、数値解析モデルと同じ骨材で同じ形状であるが多少小さいモデルを用い、入力地震動(水平変位)として正弦波形を用いている。

 この解析の結果、シミュレーションで得られた3つの高さ領域の加速度・速度・変位の応答値が、実験での応答値およびFEMなどの他のシミュレーション結果と良く一致すること、水平変位によって引き起こされる崩壊のメカニズムも、シミュレーションモデルの結果と実験モデルの結果が類似していること、崩壊の発生は、砂山の最上端で生じることなどが明らかになった。また、崩壊過程の詳細な解析によって、サンドコーン周辺の崩壊危険領域の大きさを評価している。

 最後に、海洋プレート上の海溝部周辺に堆積した土砂層のせん断クラックと褶曲領域の形成の挙動の問題では、北米の西岸のカスカディア海溝のデータを対象として、拡張個別要素法によって解析を行っている。この問題の解析は一般に難しいとされている部分であるが、境界条件ともぐり込む海洋プレートのモデル化を行い、数値解析を実現している。

 解析の結果、海溝の海底土砂の蓄積領域の海洋側の端部、蓄積領域の中央部および海底土砂の海溝最深部での海洋プレートの潜行領域での初期せん断クラックの発達について、その位置も方向もカスカディア海溝における実際の断層の発達のケースとよく一致すること、また、断層の形成過程についても他の実在する海溝のそれと類似することが認められ、数値計算によるアプローチが有効なことを示している。

 以上のように、本研究は、個別要素法と拡張個別要素法を用いて、地盤工学および地質学に関わる、動的な破壊を含むいくつかの重要な現象を解析することに成功している。また、本研究の成果は、これらの現象の解明だけでなく、一般性のある解析方法を発展させた意義をもっている。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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