コンクリートの中性化は、鉄筋の腐食を引き起こし、コンクリート構造物の劣化の原因となり得るきわめて重要な問題である。これまでコンクリートの中性化深さと中性化速度の関係については多数の研究が実施されているが、長期的な炭酸化によるコンクリート強度特性の変化やその程度については未だ不明な点が多い。また、コンクリートの細孔構造および細孔径は、コンクリート強度のみならずその後の炭酸化の進行にも影響するものと考えられる。従って、炭酸化によるコンクリート強度特性の変化性状を解明するためには、まず炭酸化によるモルタル中の細孔構造の変化を明らかにする必要がある。本研究は、以上のことを考慮して、炭酸化がモルタルの細孔構造および強度特性に及ぼす影響を実験的に明らかにしたものである。 第1章は序論であり、本研究の目的と位置づけを明らかにしている。 第2章は実験の概要を説明したもので、実験に使用した材料、配合、打設、養生方法、試験方法について記述している。なお、本研究では普通ポルトランドセメントを高炉スラグで置換する場合の上限を75%としている。 第3章は炭酸化に伴う細孔構造の変化について論じている。実験結果から、細孔構造は初期養生条件、セメントの種類、炭酸ガス濃度によって大きな影響を受け、それぞれの影響は独立ではないことを明らかにしている。即ち、普通ポルトランドセメントを用いた場合には炭酸化は初期水中養生期間にかかわらず細孔量を減少させ、この傾向は炭酸ガス濃度が高いほど顕著となるが、高炉スラグで置換した場合には、特に初期水中餐生期間が短いと細孔量の減少は小さいことを示している。また、炭酸化はただ単に細孔量を変化させるだけでなく、卓越細孔径をも変化させ、十分な養生期間を施したモルタルは、炭酸ガス濃度が高いほど、また高炉スラグ置換率が高いほど卓越細孔径が大きくなることを明らかにしている。これらのことから、耐久性の高いコンクリートを製造するためには、高炉スラグを用いる場合には、十分な初期養生が不可欠であることを提言している。 第4章は炭酸化(中性化)深さについて論じている。一般に用いられている「炭酸化深さは暴露期間の平方根に比例する」という考えは基本的に適用できるが、炭酸化速度は炭酸ガス濃度、細孔構造や強度によっても影響を受け、より広範なデータを網羅するためには著者の提案する「修正平方根式」の方が妥当であることを明らかにしている。 第5章は炭酸化によるモルタルの強度変化について論じている。実験結果より、強度に影響を及ぼす主たる要因は、初期養生期間、セメントの種類、炭酸ガス濃度、炭酸ガス中への暴露期間であり、強度増加ばかりでなく強度低下をも起こすことを明らかにしている。普通ポルトランドセメントの場合、炭酸化はある程度まで細孔量を減少させ、マトリックスの強度も増進するが、さらに炭酸ガス中での暴露期間を継続するとCSHとの炭酸化により強度は逆に低下する。この現象は普通ボルトランドセメントを高炉スラグで50%置換した場合により顕著となるが、75%置換をした場合には著しい変化は認められないことを明らかにしている。その原因は、DTAの結果等から、炭酸化が進行すると高炉スラグが反応するために必要な水酸化カルシウムが不足するために強度が発現せず、マトリックス強度そのものが小さくなるためであることを明らかにしている。 第6章は炭酸化に伴う弾性係数の変化について検討しており、特に高炉スラグ置換率が高いほど弾性係数は小さくなることを明らかにしている。 第7章では、第6章までの実験結果を説明するために、炭酸化に伴う細孔構造の変化に関するモデルを提案している。即ち、周囲に十分水が存在する場合には炭酸ガスと反応した炭酸カルシウムはより小さな細孔の空隙を充填し、より大きなシリカゲルの空隙が残存する。しかし、その後水分の蒸発等で周囲に十分な水が存在しない場合には、炭酸カルシウムはより大きな細孔の空隙で結晶化する。このため、細孔の卓越細孔径は暴露初期ではより大きな径が卓越し、その後細孔量も減少すると説明している。 第8章は、結論であって、本論文で得られた成果をまとめている。 以上を要約すると、本研究はコンクリートの炭酸ガスの浸透による内部組織の変化を低炭酸ガス濃度環境から高濃度環境まで明らかにするとともに、従来あまり注意が払われなかった炭酸化に伴うマトリックスの細孔構造、強度、弾性係数がどのように、またなぜ変化するかを明らかにしているものである。本研究は、より耐久的なコンクリート構造物を建設するすることが重要視されている今日、コンクリート工学の発展に寄与するところ大である。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |