学位論文要旨



No 111603
著者(漢字) 金,宰輝
著者(英字)
著者(カナ) キム,ゼフィ
標題(和) 価値の構造と機能 : 日韓の価値構造と消費行動
標題(洋)
報告番号 111603
報告番号 甲11603
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(社会心理学)
学位記番号 博人社第147号
研究科 人文社会系研究科
専攻 社会文化研究専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 池田,謙一
 東京大学 教授 藪内,稔
 東京大学 教授 鈴木,裕久
 東京大学 教授 山口,勧
 東京大学 助教授 岡,隆
内容要旨

 現在価値研究は大きく分けて二つの方向で進行しているといえる。一つは、価値の構造に関心を持って、それの究明に注意を向けている研究と、もう一つは、それらの価値が行動にどのように影響されているか、すなわち価値の機能的な側面に関心を持って進んでいる研究である。

 さらに、価値の構造への関心は、個人の普遍的価値への関心と、社会的あるいは文化的価値への関心とに分けることができる。社会的あるいは文化的価値への関心は、個人的価値の構造に対する成果がある程度蓄積されている最近の傾向である。社会や文化が価値に影響する最も重要な要因として認められていることから、こうした社会的・文化的価値への関心は当然ともいえるだろう。

 本論は、「価値の構造と機能」の両方へのアプローチである。それは価値の本質を知るために、またおのおのの価値のもつ意味や構造を明確にするためには、その価値の機能的な役割を検討すべきであることを示している。さらに、本論は、社会的・文化的価値により関心を持っている。具体的には、「日本と韓国という二つの文化(國)の社会的価値を比較する」ことによって、両国の共通の普遍的価値の構造が明らかになるが、その普遍的価値は両国の人々(個人)のもつ価値構造である。また、両国の共通の価値あるいは固有の価値が「その人の社会的行動にどのように影響しているか」を検討することによって、それらの価値が持つ意味をより明らかにすることが可能となる。これらが本論文の最も大きな目的である。

 次に、本論は、価値の変化を究明しようとする目的をもっている。政治・経済をはじめ多くの分野において、日本と韓国はそれぞれ大きな社会的変化を経験してきた。その社会的変化は、本論が追求する価値(価値変化)に現れていると想定でき、その価値の変化は再びわれわれの行動様式に反映されると考えられる。日韓の価値がどの方向に向けて変化しており、それらの変化が両国においてどう異なっているか、それがわれわれの行動(主に消費行動)にどのように反映されているか、などについて究明するのが本論の目的である。

 最後に、本論は、価値の機能的役割に着目し、実際価値がわれわれの行動に影響するか、またはどのように影響するかを究明する。価値の機能の中最も重要な機能である「行動をガイドする機能」は、その理論的仮定は充実しているものの、実際に検証されているものは数少ない。価値が行動をガイドする最も根源的な指針であるとすれば、価値は行動と様々な経路をもって行動に影響すると考えられる。たとえば、価値が行動に直接に影響したり、態度などの媒介変数を経て影響したりすると考えられる。また、どの価値が行動との関連が高く、どの価値が低いのかなどである。実際これらについては合意された知見がほとんどない。本論では、これらについての答えを提供しようと思う。

審査要旨

 本論文は、価値の構造と機能について日本と韓国のランダムサンプリング調査の結果をもとに二文化比較を行い、新しい洞察をもたらそうとして書かれた。

 第1部「価値の本質」では、従来なされてきた広範な議論を検討しつつ、欲求と規範意識とを包括する上位概念として価値を定義し、これに基づいて価値の構造について議論を進めた。第2部「価値の類型と社会的価値」では、価値の測定に関する長年の議論がレビューされ、その過程の中で、著者独自の測度が模索された。結果として著者は「混合法」に基づいて価値の測定を目指した。

 第3部「日韓の価値調査」は実証調査である。日韓の比較を行うことの意義の検討から始まり、東京とソウルでの調査実施、両地域の比較のためのデータの検討、価値の測度の作成を通じて、文化比較を可能にした。

 結果として、目的価値より手段価値で両国に差が大きいこと、脱物質主義的価値が日本により高いこと、さらに韓国の方に規範意識が高いことが判明し、これらのことが持つ儒教文化的な背景が考察された。さらに、価値と社会的行動への志向との関連性、すなわち価値の行動ガイド機能を検討するため、消費態度を一例として、それが価値と密接な関係を持つことが実証された。

 本論文に問題ありとすれば、仮説の立て方の散漫さ、価値測定の測度としての混合法の説明不足、実証的分析の言葉足らずなどが挙げられる。

 しかし、これらいくつかの問題点にも拘わらず、本研究は体系的な価値の比較調査を実現し、歴史的文化的に近いとされる日韓の間での価値の差異を明示し、それに関連する要因を適確、精密に実証した点で高く評価されよう。これによって著者が研究者として十分な能力を有することが示されているので、本論文は博士(社会心理学)の学位を授与するに値するものと考えられる。

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