銀河団は銀河が100〜1000個集まってできているシステムである。その中ではメンバーの銀河どうしの衝突がおこり、そのことが各々の銀河の進化に影響を与えていると考えられる。例えば、銀河団内の楕円銀河には共通に見られる構造があることが知られているが、このような共通の性質・構造は銀河どうしの衝突を考えることによって説明できる可能性がある。楕円銀河に共通する構造がどのようにして形成されたのかは、ひとつの銀河をひとつの孤立系とみなして考えている限りわからなかった。なぜなら、楕円銀河は無衝突系であり、それを孤立系と見た場合には、宇宙年齢の間に、銀河を初期条件によらない平衡状態に進化させるようなメカニズム(統計力学でいうところの緩和過程)が見つからないからである。しかし、ひとつの銀河を孤立系とみなさず、銀河どうしの衝突を考慮にいれると楕円銀河に見られる共通の性質・構造を説明できる可能性がある。例えば、楕円銀河の表面輝度分布は全て同じ分布に従うように見えるが、これは銀河が衝突などの強い場の振動をうけると形成されるものであることが明らかにされている。このときには、銀河が開放系であることが本質的な役割をはたす。我々は本研究において、共通の性質のひとつである、Faber-Jackson関係も銀河どうしの衝突を考えることによって自然に説明できることを示す。 本研究において、我々は、銀河どうしの衝突によって各々の銀河の質量とエネルギーがどのように変化するかを調べた。銀河どうしの衝突には大きく分けるとふたつある。ひとつは合体にいたる衝突であり、もうひとつは合体にいたらない衝突である。本研究では、合体にいたらない衝突の場合について調べた。合体する場合については、近年比較的研究がすすんできているが、合体しない衝突についてはほとんど調べられていない。しかし、合体にいたらない衝突においても、各々の銀河は潮汐力をうけ構造が変化する。しかも、合体に至らない衝突の頻度は合体の場合にくらべ大きい。銀河団の中にあるほとんどの銀河は、このような衝突の影響を受けていると思われるので、この影響を調べることは、銀河の力学進化を考える上で重要である。 衝突による各々の銀河の質量とエネルギーの変化は、衝突のパラメーター(衝突速度V、impact parmeter )、及び、銀河の構造によると予想される。我々は、ふたつのモデル銀河を用いて、いろいろな衝突速度とimpact parameterの組合せについて数値実験を行ない、質量とエネルギーの変化を調べた。銀河モデルとしては、球対称等方的なプラマーモデルとハーンキストモデルを用いた。銀河の質量をM、特徴的な半径を0とおくと、それぞれの密度プロファイルは次のように表される。 これらは、中心にコアを持ち外側では密度が-aで表されるハローを持ったモデルである。 我々は、まず、直接N体計算を行ない、ふたつの球対称な銀河モデルの衝突を数値実験した。衝突によって、どのように質量とエネルギーが変化するかを、衝突のパラメータVとを系統的に変えて調べた。その結果、質量とエネルギーの変化量の間には、衝突のパラメーターにほとんどよらずに、次のような関係が成り立つことがわかった。 この結果は、同じ銀河モデルであれば、衝突のパラメータにほとんどよらずに質量とエネルギーの変化に比例関係があることを示している。 次に、我々は、この比例定数がどのように決まるかを以下のようにして考察した。ひとつの銀河全体での衝突による質量とエネルギーの変化|M|と|E|について、次のふたつの仮定をする。まず、質量の減少は、ハローにいる粒子がはぎとられることによっておこるとする。ふたつめに、エネルギーの変化は、残った粒子が受けとったエネルギーの総和であるとする。剥がされる粒子は、もともとエネルギーが0に近い粒子なので、剥がされるときにエネルギーを持ち去らないと考えて良いからである。銀河どうしがインパクトパラメータ、相対速度Vで衝突する場合について、インパルス近似を用いて見積もると、一つの銀河全体での質量の変化とエネルギーの変化の関係は次のように書ける。 ここで、0とはそれぞれ銀河の特徴的な半径と速度分散であり、定数cは銀河モデルの構造(中心集中度、及び、速度の非等方性)によって決まるパラメータである。このパラメータを解析的に精確に見積もることは難しいが、おおよそ、〜100のオーダーの値になると考えられる。さらに、ハーンキストモデルとプラマーモデルの場合には、だいたい同じくらいの値をとると予想される。この結果を数値計算の結果と比べてみると、両方のモデルについてc1.5とすると、数値計算で得られた結果と一致する。このことから、上の式は、質量とエネルギーの変化の関係を正しく表していると考えられる。 最後に、このような衝突が実際の銀河団の中の銀河の進化にどのような影響を及ぼすかについて考察する。銀河団の中の銀河が、このような衝突を何回も経験しているとする。このような環境の中では、銀河のハローは〜r-4となるよう発達することが知られている。したがって、各銀河はハーンキストモデルに近い構造をするようになると考えられる。以上から、銀河どうしの衝突がよくおこるような場合には、各銀河の質量とエネルギーの間にはE〜M1.5の関係が成り立つようになると予想される。これを、質量と速度分散の関係に書き直すと、〜M0.25となる。Funato et al.(1993,PASJ,45,289)は銀河団の進化を個々の銀河をN体で表したモデル銀河団の直接N体計算を行なった。その結果、銀河団が進化するにつれてメンバーの銀河の質量と速度分散の間には、初期条件によらずに〜M0.25という関係が成立していくことを示した。しかし、どうしてこのような関係が発達するのかはよくわからなかった。一方、衝突などによる強い潮汐力を受けた銀河はかならず-4のハローを持つように進化することが知られている(e.g.Jaffe,1987)。このことと、今回の我々の結果から、Funato et al.(1993)が得た関係は銀河どうしの頻繁な衝突の結果であるということができる。一方、現実の銀河団内にいる楕円銀河については、速度分散と明るさLの間に〜L0.25という関係があることが知られている(Faber-Jackson関係)。これも、銀河団の中で銀河が頻繁に衝突して楕円銀河が形成されたこと、及び、M∝Lを仮定すると、今回の我々の結果から自然に説明できる。これらの結果は、楕円銀河はハーンキストモデルに近い構造(〜-4で表されるハローを持つ)をしていること、銀河団内では銀河どうしの衝突が頻繁におきていること、そのような衝突によって楕円銀河が形成・進化してきたこと、を強く示している。 |