審査要旨 | | 本論文は6章からなり,第1章は,超新星爆発に関する序論,第2章は,超新星爆発の機構の記述及びそれに関する数値計算の現状とその問題点特に対流の取り扱い,第3章は,その問題の解を目指した3次元数値計算の遂行とその結果の議論,第4章は,非等方ニュートリノに関する2次元数値計算による詳細な考察,第5章は,本論文の数値計算に用いられた計算方法の記述,第6章は,本論文の結論である. 超新星爆発は,重い星が最後に起こす大爆発のことである.1987年に,16万光年離れた大マゼラン星雲で起こった超新星SN1987Aでは,ニュートリノから電波まで広範な技術を駆使した観測が行われた.その結果,重い星が起こす超新星爆発の本質は,星の中心部分が重力崩壊を起こし,その時に解放される重力エネルギーの一部によって星が粉々に吹き飛ばされるということが明らかになった. しかし,爆発の理論的な考察は,爆発機構が余りにも複雑なために高度な数値計算による以外に方法がない.過去,数グループが,この野心的な数値計算に挑戦したが,十分な量の爆発エネルギーを得ることができず,爆発を理論的に再現することが難しかった.その原因は,数値計算に導入する物理量が不十分であったこと,及び数値計算の方法に問題があったことが挙げられる.現在,精力的に研究されているのが,爆発に際して起きる対流などの不安定性の取り扱いと,それを引き起こす物理的な原因の解明である. 本論文は,超新星爆発の機構の解明のために,3次元数値計算方法を初めて開発・実用化し,等方的ニュートリノ放出のもと,ニュートリノによる物質加熱と同時に,密度揺らぎを人工的に与えることによって引き起こされる対流不安定性が,超新星爆発にどのような影響を及ぼすかを考察した.この結果,物質混合などの一部の観測結果には好都合な結果が得られた.爆発エネルギーが対流によって効率よく外部に輸送されるかどうかに関しては,爆発エネルギーが確かに増加することが見いだされたが,明確な結論は得られなかった.しかし,現象論的な対流不安定性は,その背後にある物理過程がよく分からないという困難さがある. そこで,本論文は,現象論的な対流不安定性とは別に,ニュートリノの非等方的放出を考え,その結果ニュートリノによる物質加熱も非等方的になり,局所的に効率のよい加熱が起こると共に,大きな対流不安定性が得られるとの予想のもと,3次元数値計算を行った.予想通り大きな対流不安定性が得られた.しかしながら,爆発エネルギーに関しては,3次元数値計算は現在の計算機の能力では性能的に問題があることがわかったので,ニュートリノの非等方的放出を導入した,改良された2次元数値計算を行った.その結果,顕著な爆発エネルギーの増加を示すことができたのである. それでは,非等方的ニュートリノ放出を起こす原因はなんだろうか.本論文は,爆発を起こす重い星がもっていた角運動量によって,中心部分の小さなニュートリノ放出部分が高速回転を行い,結果としてニュートリノ面が回転楕円体となってしまい,回転軸方向にニュートリノ放出の極大が起こるとしている.実際,回転による非等方性の大きさは,数値計算に導入した非等方性を自然に説明できる量であった. 以上のように,本論文は,(1)3次元数値計算を超新星爆発機構の研究に初めて導入したこと,(2)詳細な2次元数値計算により,非等方性ニュートリノ放出による物質加熱が超新星爆発機構として有望であり,また非等方性ニュートリノ放出は,ニュートリノ放出球の高速回転によって自然に生じることを示したこと,の二点により,超新星爆発機構の解明に大きな貢献をしている. 審査員全員は,本論文が学位論文として十分な内容をもつものであり,論文提出者が,物理学特に宇宙物理学に博士(理学)の学位を受けるにふさわしい十分な学識をもつものと認め,合格と判定した. |