結晶中の基礎的な電磁相互作用を研究するのに、水晶は最も適した候補一つである。水晶中の高温下(1)及び一軸方向の圧力下(2)等の様々な条件でSR実験を行い理論的考察を加えるミュオニウム四重極相互作用の研究を行った。またミュオン・酸素(OMu)結合の研究もSR法を用いて行った。これらの実験、研究により、物質に於ける水素不純物としてのミュオニウムの四重極相互作用を明らかにした。 正ミュオンは2.2sの平均寿命で崩壊する素粒子であり、陽子と同じ電荷とスピンとを持つが、質量は陽子の約1/9でありその磁気モーメントは陽子の3.18倍である。ミュオニウムは正ミュオンと電子との束縛状態であり中性の水素原子の同位体とみなせる。水晶中では60%のミユオンはミュオニウムの状態をとっている。他のミュオンは反磁性ミュオンの状態をとっている。 水晶結晶中のミュオニウムの超微細相互作用のエネルギー準位は、水晶結晶の軸対称性のため四重極相互作用の影響を受ける。この結果を見るため、まず弱い横磁場中(3G-5G)での、単結晶の三回回転対称軸(c軸)に対する横磁場の角度依存性及び温度変化の精密測定を行った。得られた時間スペクトルのフーリエ変換を図1に示す。高温になるにしたがって四重極相互作用による分岐及び共鳴幅の(緩和による)拡がりが増大している。得られた四重極相互作用による分岐の温度変化は構造転移の直下で最も著しく、相に入ると温度変化しない。この温度変化は図2に見られるように結晶のc/a比を反映している。 図1。様々な角度於ける横磁場ヒストグラムのフーリエ変換スペクトル。 は、水晶のc軸と外部磁場のなす角度を示している。右の測定温度で得られたスペクトルを平行移動して示している。図2。四重極周波数分岐(下図)と、格子定数c/a(上図)の関係を温度の関係として示している。挿入図は、転移近傍に於ける拡大図である。 次に、四重極による周波数分岐の一軸性圧力依存性の測定を行った。弱い横磁場中(5G)及び零磁場中のミュオニウム・スピン回転法を用いて単結晶中のミュオニウム四重極分岐を観測した。 水晶のc軸の方向に圧力と横磁場をかけた場合、四重極周波数分岐が減少した(図3a)。a軸方向に圧力と横磁場をかけた場合は反対の効果が見られた(図3b)。 b軸方向にもa軸方向とも同じような効果が見られたが、a軸方向の周波数分岐の勾配はb軸方向のより小さい(図3c)。零磁場の結果は横磁場と大体一致している。しかしながら四重極相互作用の変化が格子定数c/a比の変化のみによるとすると、圧力による変化は温度変化結果と反対c/a比依存性をもつ(図4)。 図3。水晶中のミュオニウム横磁場測定で得られた四重極周波数分岐の一軸圧力依存性。(a)pllc,(◇)横磁場はa軸方向(TFlla),and(O)1/2(TFllc),(b)plla(×)TFlla,(◇)TFllb,()TFllab,and(O)1/2(TFllc).(c)pllb(×)TFlla,(◇)TFllb,()TFllab,and(O)1/2(TFllc).図4。四重極周波数分岐とc/a比との対応。温度変化の場合を(白四角)及び圧力変化の場合を(黒丸)である。 また、c/a比への依存性を理解するため、超微細相互作用を微視的な半古典的なモデル(microscopic semi classical model)を使って、水晶格子の格子定数及び原子位置パラメーターの文献値を用いて四重極相互作用の温度依存性を計算した(図5)。 図5。四重極周波数分岐観測値と、計算値の比較。低温の零磁場の実験値をMu・超微細周波数のキャリプレーションに用いて、これらの計算において、Mu・の位置はLeonard Jonesポテンシャルから決められた。 モデル計算は測定結果をおよそ説明している。圧力依存性もこのモデル計算で説明できた。これらの結果から水晶の相の構造について従来提唱されている2つのモデルの内、一方のモデル(モゼイク構造)がよりうまく説明でけることが分かった。モデル計算から、水晶では、SiO4正三角錐の間の位置や角度によって四重極周波数分岐が決定されることが判明した。 反磁性ミュオンについてもミュオン・スピン共鳴(muon spin resonance)の実験によって化学シフト(chemical shift)を観測した(3)。測定された結果よりMuはHと同じようにOと結合していることが示された。 (1)W.K.Dawson,K.Nishiyama,K.Nagamine,Phys.Lett.A 198 452(1995). (2)W.K.Dawson,K.Nishiyama,K.Nagamine,Phys.Lett.A,submitted. (3)W.K.Dawson,K.Nishiyama,K.Nagamine,Hyperfine Interactions 86 753(1994) |