学位論文要旨



No 111716
著者(漢字) 伯野,史彦
著者(英字)
著者(カナ) ハクノ,フミヒコ
標題(和) 分裂酵母においてras1情報伝達系に関わる遺伝子群の解析
標題(洋)
報告番号 111716
報告番号 甲11716
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3080号
研究科 理学系研究科
専攻 生物化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,正幸
 東京大学 教授 池田,日出男
 東京大学 教授 竹縄,忠臣
 東京大学 教授 深田,吉孝
 東京大学 教授 福井,泰久
内容要旨

 分裂酵母においてras1破壊株は接合不能、胞子形成率の著しい低下、細胞形態異常という特徴的な3つの表現型を有する。現在までにras1破壊株の胞子形成率の低下を抑圧する遺伝子として、byr1、byr2が単離され、それらにspk1遺伝子を加えた3つの遺伝子の産物がRas1の下流でMAPキナーゼカスケードを形成している。また、ral1/scd1とcdc42sp、またはral3/scd2とcdc42spを同時に過剰発現することによりras1破壊株の丸い細胞形態の一部が抑圧されることが示されており、Ral1、Ral3、Cdc42spは細胞形態および接合に必要なカスケードを形成している。しかし、ras1破壊株の接合不能の表現型を抑圧する遺伝子は単離されておらず、Ras1のもつ機能のうち接合に必要な機能は域値の高い機能であると考えられる。Ras1の下流で接合に関わる遺伝子の解析を目的に、細胞形態、胞子形成能は正常だが接合に欠損をもつras1変異アリルras1-S40株につき、その低接合率の表現型を多コピーで抑圧する遺伝子として、新規の遺伝子mra1を単離した。mra1遺伝子を破壊したところ、細胞は致死となり、mra1は生育に必須な遺伝子であった。その際、死んだ細胞の形態に異常はなかった。このためmra1は細胞形態の維持には必要ないと思われる。PCRをもちいてmra1にランダムに変異の導入されたmra1変異ライブラリーを作製し、接合に必要な機能を欠いた変異アリルの単離を試みた。この結果、Mra1のもつ生育に必須な機能は保持したまま接合不能性を示すアリルmra1-1、-3、-7を得た。また生育能を失ったアリルmra1-12も同時に単離した。mra1-1、-3、-7はras1-S40株の接合不能を抑圧する能力を失っていたが、mra1-12は野生型mra1と同程度に抑圧できたため、Mra1は生育に必須な機能と接合に必要な機能とをあわせもつタンパク質であると考えられた。Mra1のもつ接合に必要な機能を解析する目的で、Ras1の下流で働くカスケードとの遺伝学的関係を調べた。mra1の過剰発現はbyr1、byr2、spk1欠損株の接合不能および胞子形成不能の表現型を抑圧することはできなかった。また逆にbyr1およびbyr2の過剰発現は接合不能なmra1アリルの表現型を抑圧することができなかった。このようにmra1とMAPキナーゼカスケードとの間に強い遺伝学的関係も見いだすことはできなかった。また、ral1、ral3の接合不能の表現型をmra1は抑圧することができなかった。さらにmra1の破壊された株の死んだ細胞は細胞形態に異常がみられなかったため、mra1はral1、ral3などからなる接合および細胞形態の維持に必要なカスケードとも直接関係はないと考えられる。このようにMra1にはRas1の下流で機能している既知の2つのカスケードとは遺伝学的相互作用を見いだすことはできず、Ras1の下流には接合の推進に必要な第3のカスケードが存在し、mra1はそのカスケードの活性化に関わっている可能性も示唆される。またゲノムプロジェクトによると、出芽酵母およびイネにはMra1と非常に高い相同性を示す、未知のタンパク質が存在する。出芽酵母には完全に発現を抑えることが可能なGAL1-GAL10プロモーターがあり、生育に必須な機能をもつ遺伝子の解析により適していると思われる。出芽酵母でのMra1ホモログの機能、さらに分裂酵母でのMra1のもつ生育に必須な機能を予測する上でも、この生物を用いた解析が必要であると考えられる。

 ras1情報伝達系で機能する因子の同定を目的に、接合不能で細胞形態が丸くなる突然変異体ral1〜ral4が先に単離されている。上述のように、ral1およびral3遺伝子は性格付けがなされ、その産物はRas1の下流で細胞形態維持に必要なカスケードを形成していると考えられている。またral2遺伝子は活性型Ras1変異であるras1val17との遺伝学的解析からRas1の上流で機能していることが示唆されているが、その遺伝子産物の詳しい機能は分かっていない。ral4遺伝子の実体は全く明らかになっていないため、本研究ではral4変異株から原因遺伝子のクローニングを試みた。クローニングされた遺伝子から予想されるアミノ酸配列は出芽酵母Pmt1〜Pmt4と高い相同性を示した。Pmt1は、Dol-P-Manからタンパク質のSerまたはThr残基に最初のManを付加する反応を触媒するタンパク質として単離された。このためこの反応を触媒する酵素が欠損した細胞ではタンパク質のO-glycosylationすなわちO-Mannose付加は起きないと思われる。接合の際の細胞同士の結合に関わるアグルチニンは出芽酵母では高度にO-glycosylationされることが知られているため、分裂酵母のアグルチニンをコードすると考えられているmap4遺伝子を用いてRal4の活性を検討した。map4にHA-Tagを付けた遺伝子を作製し、野生型株およびral4破壊株におけるMap4の見かけ上の分子量を調べた。ral4破壊株において明らかに分子量の減少したMap4がみられたため、Ral4はタンパク質のO-glycosylationに必要なO-Mannosyltransferase活性をもつことが強く示唆された。次にral4遺伝子とras1遺伝子との遺伝学的関係を調べた。活性型ras1アリルであるras1Val17は接合フェロモンに対して超感受性となり接合管を伸ばす。このアリルの富栄養培地上での細胞形態は正常であることが知られている。ral4ras1Val17の二重変異株を作製し、その表現型を調べた。この株は富栄養培地上で細胞形態に異常はなく、また窒素源の枯渇した胞子形成培地上では接合フェロモンに超感受性となって接合管を伸ばしていた。このように2つの表現型において二重変異株は活性型Ras1であるras1Val17と同じ表現型を示していた。このことから、Ral4はRas1の上流で機能している、すなわちRas1の完全な活性化にはRal4の機能が必要であることが示唆された。この結果よりRal4はRas1の活性化に必要な遺伝子産物またはRas1自身をO-glycosyl化することによって活性化しているという可能性が考えられる。そこでRas1、Ral2に関してMap4と同様の実験を行い、Ral4によるO-glycosylationの有無を調べた。この2つのタンパク質に関して、野生型株とral4破壊株とで、見かけ上の分子量の変化はみられず、またSte6、およびGap1についても野生型株でみられたタンパク質の見かけ上の分子量は遺伝子配列から予想される分子量と一致していた。このようにRal2、Ste6、Gap1.Ras1はRal4の基質ではないと思われた。Ral4はRas1の活性化に必要な未同定のタンパク質をO-glycosylationすることにより機能を与えているのかもしれない。あるいは、O-glycosylationされるタンパク質は細胞外に分泌されるものや細胞壁に局在するものが多いことから、ral4破壊株ではRas1が移行するのに必要な正常な膜が形成されず、Ras1が正しく膜移行できないために丸い細胞形態を示したのかもしれない。

 分裂酵母ではGEFと相同性のあるタンパク質をコードするste6およびGAPと相同性のあるタンパク質をコードするgap1が単離されており、遺伝学的解析の結果もそれらがRas1の活性を制御していることを支持している。ras1破壊株は接合不能、胞子形成率の著しい低下、細胞形態の異常という3つの特徴的な表現型を示した。しかし、Ras1の活性を正に制御すると思われるste6遺伝子の破壊株は、接合不能であるが胞子形成能および細胞形態は正常であった。これはSte6が唯一のRas1の活性化因子であると考えた場合、矛盾が生じる。ral2遺伝子破壊株は接合不能で細胞形態は丸く、ras1破壊株と同様の表現型を示す。また遺伝子解析はRal2がRas1の活性化因子であることを示している。そこでRal2によるRas1の活性化制御の機構を調べる目的で、Ras1活性制御因子であるSte6およびGap1のRal2との相互作用を調べた。two hybrid systemと細胞内での免疫沈降法を用いてそれらが、直接の相互作用するか検討した。two hybrid systemを用いた実験によりRal2とGap1およびRal2とSte6の相互作用が観察された。また免疫沈降法を用いた実験によりRal2とGap1の直接の相互作用がさらに確認された。しかしRal2とSte6の相互作用は免疫沈降法では実験の感度の問題もあり、検出することはできなかった。さらにRas1の活性制御因子の機能を解析するため、これらの活性制御因子を競合してしまうために優性に接合が阻害されるようなras1変異アリルの単離を試みた。接合フェロモンに非感受性となるために接合不能となるアリルが二種類得られ、gap1破壊株との遺伝学的解析によりRas1の上流で活性を正に制御している因子を競合するアリルであることが示された。接合不能となるが細胞形態には異常を示さないアリルはJungらにより確認されたSte6を競合するアリルと同一であった。もう一方のアリルは優性に接合、胞子形成を阻害し、さらに細胞形態をras1破壊株のように丸く太くする表現型を示した。この株の変異アリルによる機能欠損はral2またはste6を過剰に発現させることにより抑圧されなかった。しかしral2およびste6を同時に過剰発現することにより接合不能および胞子形成不能の表現型が抑圧された。さらに野生型株およびras1破壊株にral2およびste6を同時に過剰発現した細胞の表現型から、このアリルはRal2とSte6を同時に競合したアリルであると考えられた。これはRal2とSte6が協同してRas1の活性化に寄与していることを支持するものであり、さらにRal2とSte6が直接結合している可能性を強く示唆するものである。これらの結果から考えられる一つのモデルは、Ral2はSte6とともにRas1を活性化する機能と、Gap1を不活性化する機能とを同時にもつというものである。この場合、ral2破壊株ではSte6は活性が低く、さらにGap1は活性化されており、接合不能となることが予想される。しかしこのモデルにおいては次のような矛盾点が存在する。gap1過剰発現株の接合不能をral2の過剰発現が全く抑圧できないこと、またste6破壊株は細胞形態には異常がないがral2破壊株は細胞形態が丸くなることである。Ral2にはSte6と協同して行う機能以外にRas1を直接活性化する機能があるのかもしれず、今後さらに検討の必要がある。

審査要旨

 分裂酵母は動物がん遺伝子rasに相同な遺伝子ras1をもつ。ras1破壊株は接合不能、胞子形成率の著しい低下、細胞形態異常という特徴的な3つの表現型を有する。ras1破壊株の胞子形成率の低下を抑圧する遺伝子として、byr1、byr2が単離され、それらにspk1遺伝子を加えた3つの遺伝子の産物がRas1の下流でMAPキナーゼカスケードを形成していることが示されている。また、ral1/scd1とcdc42sp、あるいはral3/scd2とcdc42spを同時に過剰発現することによりras1破壊株の丸い細胞形態の一部が抑圧されることが示されており、Ral1、Ral3、Cdc42spはRas1の下流で細胞形態および接合に必要なカスケードを形成している。しかしRas1の果たしている生理機能がこれら2つのカスケードの制御のみであるかはまだ大いに疑問の余地が有る問題であり、申請者はこの点の解明を目指して研究を行った。本論文は3章からなる。

 申請者は第1章において、Ras1の下流で接合に関わる遺伝子の解析を目的として研究を行っている。これまでにras1破壊株の接合不能の表現型を抑圧する遺伝子は単離されておらず、Ras1のもつ機能のうち接合に必要な機能は域値の高い機能であると考えられてきた。申請者の所属する研究室では、細胞形態、胞子形成能は正常だが、接合に欠損をもつras1変異アリルras1-S40が分離されていた。申請者はこの株の低接合率の表現型を多コピーで抑圧する遺伝子として、新規の遺伝子mra1を単離した。mra1遺伝子を破壊したところ、細胞は致死となり、mra1は生育に必須な遺伝子であった。その際、死んだ細胞は形態に異常は示さず、mra1は細胞形態の維持には必要ないと思われた。申請者はPCRをもちいてmra1にランダムに変異の導入されたmra1変異ライブラリーを作製し、接合に必要な機能を欠いた変異アリルの単離を試み、Mra1のもつ生育に必須な機能は保持したまま接合不能性を示すアリルmra1-1、-3、-7を得た。また生育能を失ったアリルmra1-12も同時に単離した。mra1-1、-3、-7はras1-S40株の接合不能を抑圧する能力を失っていたが、mra1-12は野生型mra1と同程度に抑圧できたため、Mra1は生育に必須な機能と接合に必要な機能とをあわせもつタンパク質であると考えられた。

 次いで申請者はMra1のもつ接合に必要な機能を解析する目的で、Ras1の下流で働くカスケードとの遺伝学的関係を調べた。mra1の過剰発現はbyr1、byr2、spk1欠損株の接合不能および胞子形成不能の表現型を抑圧することはできず、逆の抑圧も見られなかった。このようにmra1とMAPキナーゼカスケードとの間に強い遺伝学的関係は存在しなかった。また、ral1、ral3の接合不能の表現型をmra1は抑圧することができず、mra1の破壊された株の死んだ細胞は細胞形態に異常がみられなかったため、mra1はral1、ral3などからなる接合および細胞形態の維持に必要なカスケードとも直接関係はないと考えられた。申請者はこれらの観察から、Ras1の下流には接合の推進に必要な第3のカスケードが存在し、mra1はそのカスケードの活性化に関わっている可能性も考えられるとしている。またホモロジー検索により、ゲノムプロジェクトで出芽酵母およびイネにmra1と非常に高い相同性を示す機能未知の遺伝子が存在することが分かり、この遺伝子が一般的な機能を担うものであることが示唆された。

 第2章で申請者はral4遺伝子の性格づけを行った。当該研究室では先に、ras1情報伝達系で機能する因子の同定を目的に、接合不能で細胞形態が丸くなる突然変異体ral1〜ral4が単離されていた。そのうちral1およびral3遺伝子の産物は、上述のように、Ras1の下流で細胞形態維持に必要なカスケードを形成していると示された。またral2遺伝子は活性型Ras1変異であるras1val17との遺伝学的解析からRas1の上流で機能していることが示唆されている。ral4遺伝子の実体は全く不明であったため、申請者はral4変異株から原因遺伝子のクローニングを行った。得られた遺伝子産物の予想されるアミノ酸配列は出芽酵母Pmt1〜Pmt4と高い相同性を示した。Pmt1は、Dol-P-Manからタンパク質のSerまたはThr残基に最初のManを付加する反応を触媒するタンパク質である。この結果から申請者は、Ral4がタンパク質のO-glycosylationすなわちO-Mannose付加に関わっている可能性を検討した。出芽酵母で接合の際の細胞同士の結合に関わるアグルチニンは高度にO-glycosylationされることが知られているため、分裂酵母のアグルチニンをコードすると考えられているmap4遺伝子の産物を用いてRal4の活性を検討した。map4にHA-Tagを付けた遺伝子を作製し、野生型株およびral4破壊株におけるMap4の見かけの分子量を電気泳動により調べた。ral4破壊株においては明らかに分子量の減少がみられ、Ral4はタンパク質のO-glycosylationに必要なO-Mannosyltransferase活性をもつことが強く示唆された。

 次にral4遺伝子とras1遺伝子との遺伝学的関係を調べた。活性型ras1アリルであるras1Val17は接合フェロモンに対して超感受性となり接合管を伸ばす。このアリルの富栄養培地上での細胞形態は桿形であることが知られている。ral4ras1Val17の二重変異株を作製し、その表現型を調べた。この株は富栄養培地上で細胞形態は桿形で、また窒素源の枯渇した胞子形成培地上では接合フェロモンに超感受性となって接合管を伸ばしていた。このように2つの表現型において二重変異株は活性型Ras1であるras1Val17と同じ表現型を示していた。このことから、Ral4はRas1の上流で機能している、すなわちRas1の完全な活性化にはRal4の機能が必要であることが示唆された。この結果よりRal4はRas1の活性化に必要な遺伝子産物またはRas1自身をO-glycosyl化することによって活性化しているという可能性が考えられた。しかしながらRal2、Ste6、Gap1、Ras1はRal4の基質ではないことが予備的に示された。

 申請者は第3章でRas1の活性制御に関わる因子の相互作用を検討した。分裂酵母ではGEFと相同性のあるタンパク質をコードするste6およびGAPと相同性のあるタンパク質をコードするgap1が単離されており、遺伝学的解析の結果もそれらがRas1の活性制御因子であることを支持している。ras1破壊株は接合不能、胞子形成率の著しい低下、細胞形態の異常という3つの特徴的な表現型をもつが、Ras1の活性を正に制御すると思われるste6遺伝子の破壊株は、接合不能であるが胞子形成能および細胞形態は正常であった。これはSte6が唯一かつ必須のRas1の活性化因子であると考えた場合、矛盾する。ral2遺伝子破壊株は接合不能で細胞形態は丸く、ras1破壊株と同様の表現型を示す。また遺伝子解析はRal2がRas1の活性化因子であろうことを示している。そこで申請者はSte6およびGap1とRal2との相互作用を、two hybrid system法と免疫沈降法を用いて調べた。two hybrid systemでRal2とGap1、およびRal2とSte6のいずれも相互作用が観察された。免疫沈降法を用いた実験によりRal2とGap1の直接の相互作用がさらに確認された。Ral2とSte6の相互作用は実験の感度の問題もあり、免疫沈降法では検出できなかった。

 さらに申請者は、Ras1の活性制御因子の機能を解析するため、活性制御因子を競合して優性に接合を阻害するようなras1変異アリルの単離を試みた。その結果、接合フェロモンに非感受性となるために接合不能となるアリルが二種類得られ、gap1破壊株との遺伝学的解析により、それらはRas1の上流で活性を正に制御している因子を競合するアリルであることが示された。一方の、接合不能となるが細胞形態には異常を示さないアリルはJungらにより確認されたSte6を競合するアリルと同一であった。もう一方のアリルは優性に接合、胞子形成を阻害し、さらに細胞形態をras1破壊株のように丸く太くする表現型を示した。この株の変異アリルによる機能欠損はral2あるいはste6を過剰に発現させても抑圧されなかった。しかしral2およびste6を同時に過剰発現することにより接合不能および胞子形成不能の表現型が抑圧された。野生型株およびras1破壊株にral2およびste6を同時に過剰発現した細胞の表現型から、このアリルはRal2とSte6を同時に競合したアリルである可能性が考えられた。この知見はRal2とSte6が協同してRas1の活性化に寄与していることを支持するものであり、Ral2とSte6が結合して機能している可能性を強く示唆した。申請者はこれらの結果から、Ral2はSte6とともにRas1を活性化する機能と、Cap1を不活性化する機能とを同時にもつというモデルを提唱している。

 以上、申請者の研究成果は、分裂酵母のRasが関与する情報伝達の制御機構の理解に大きな進展をもたらしたと言うことができ、申請者は博士(理学)の称号を得るに値するものと委員会は全員一致で判断した。なお、共同研究としてなされた部分について、申請者が最も主要に寄与していることを確認済みである。

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