学位論文要旨



No 111728
著者(漢字) 近藤,真理子
著者(英字)
著者(カナ) コンドウ,マリコ
標題(和) アフリカツメガエル初期胚のアクチビンレセプタータイプI、IIのクローニングとその解析
標題(洋) MOLECULAR CLONING AND THE ANALYSIS OF ACTIVIN RECEPTORS IN XENOPUS LAEVIS
報告番号 111728
報告番号 甲11728
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3092号
研究科 理学系研究科
専攻 生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 塩川,光一郎
 東京大学 教授 嶋,昭紘
 東京大学 助教授 藤原,晴彦
 東京大学 助教授 朴,民根
 東京大学 講師 広野,雅文
内容要旨

 アクチビンはTGF-スーパーファミリーに属する、様々な生理活性を持つタンパク質因子である。アクチビンには赤芽球分化をおこす作用の他、ツメガエル初期胚においては中胚葉を誘導する活性を持つことが報告されている。アクチビンを含むTGF-スーパーファミリーの因子に対するレセプターについてはいくつかの高親和性のものの存在が知られている。そしてリガンドがファミリーを形成しているように、レセプターもTGF-レセプタースーパーファミリーを形成している。

 私は両生類胚の形態形成機構の解析の一環としてこのアクチビンレセプター分子に興味を持ち、その機能を明らかにすることを最終目的としてツメガエル尾芽胚cDNAライブラリーよりスクリーニングを行い、アクチビンレセプタータイプIIとIのクローニングを行い、その発生における発現等を解析した。

1.activin receptor typeIIのクローニング

 まず、すでに単離されていたマウスactivin receptorIIAの一部をPCRで増幅し、それをプローブとしてツメガエルactivin receptorIIA、IIB、IIB’のクローンの単離に成功した。これらは510-514アミノ酸からなるタンパクで、タイプIIAとIIB、IIB’は互いに高いホモロジーを持ち、細胞外リガンド結合部位、膜貫通部位、細胞内セリン/スレオニンキナーゼ部位をもつ膜貫通型のタンパク質をコードしていた。これらの、ツメガエル初期胚発生過程での発現を調べたところ、卵割期胚からオタマジャクシ胚までmRNAの発現が見られた。

 タイプIIAに注目してそのmRNAをin vitroで合成し、ツメガエル2細胞期胚にマイクロインジェクションを行った。その結果2次軸の形成が観察された。activin receptor type IIのectopicな発現によって、本来できない軸の形成が起こることから、生体内ではおそらくactivin-activin receptorによる軸形成機構が働いていることが予想された。

2.activin receptor typeIのクローニング

 次に、ヒトやマウス等でcDNAクローニングされたアクチビンレセプタータイプIのツメガエルホモログのクローニングを行い、2つのクローンを単離した。このプローブとしてはマウスTsk7L(Ebner et al、1993)の一部を用い、上と同様、スクリーニングを行った。その結果得られたクローンは508と507アミノ酸をコードしており、タイプII同様の膜貫通型で、細胞内セリン/スレオニンキナーゼを持つタンパク質であった。これらの初期胚発生過程のmRNAの発現量を解析したところ、卵母細胞から発現が検出され、嚢胚で最も多く発現し、その後減少することが明らかになった。

 さらにそのmRNAの発現場所をwhole mount in situ hybridizationで解析した。mRNAは胞胚の動物極半球で発現がまず観察され、その後嚢胚や神経胚では背側前方で発現がみられた。尾芽胚では神経管や脳、目や耳胞のまわりで発現がみられた。このことと、すでに他で報告のあったactivinやactivin receptortypeIIの発現様式から、ダイマーを形成してシグナル伝達の機能を持つと考えられるタイプI、タイプIIレセプターおよびそのリガンドであるactivinとがどれもツメガエル初期胚に同じ時期にmRNAとして存在し、おそらくタンパク質として中胚葉誘導が起きる時期に機能していることが示唆された。

 また、生体内でのtype I receptorの機能を解析する試みとして、dominant negative receptorとして機能することが予想されるmutant receptorのmRNAをin vitroで合成し、2細胞期胚にマイクロインジェクションを行った。具体的には、kinase domainを欠いたtruncated receptorのmRNAをインジェクションした。その結果、頭部の形成に異常のある胚が多くみられた。このことから、このdominant negative receptorが生体内で正常なreceptorの機能を阻害していることが考えられる。さらに、この異常が本来正常なreceptorが発現している領域でおこっていることからも、実際にクローニングしたreceptorが機能を持つものであることが強く示唆される。

3.activin receptor typeI、IIのキナーゼとしての活性の解析

 タイプI、タイプIIレセプターはセリン/スレオニンキナーゼをコードすることが、そのアミノ酸配列から予想される。また、activinと同じfamilyに属するTGF-に対しては一種類のtype II receptorしか存在しないのにactivinでは2種類が存在している。このことから、activin receptorの二つのタイプ(IIAとIIB)では何か機能的な差が存在するとも考えられる。そこで、activin receptorのkinaseとしての機能を検定した。typeI、IIA、IIB’のキナーゼ領域をGST-fusionタンパクとして大腸菌に発現させ、それを精製してin vitro kinase assayおよびphosphoamino acid analysisを行った。すると、予想通り、typeI、IIreceptorはkinaseとしてin vitroではたらくことが確認された。type I receptorはスレオニン残基にリン酸化がおこる。typeIIAはセリンとスレオニン、両方の残基にリン酸化がおきた。一方、typeIIB’はセリンにはリン酸化がおこらず、スレオニンのみにリン酸が取り込まれた。すなわち、typeIIAとtypeIIB’の高い相同性にも関わらず、これらのキナーゼは異なった基質特異性をもつことが予想され、そのことでこの二つのtypeIIreceptorは異なる役割を持つことが示唆された。

審査要旨

 本論文は3章からなり、第1章は、タイプIIアクチビンレセプタ-cDNAのクローニング、第2章はタイプIアクチビンレセプタ-cDNAのクローニング、第3章はクローニングしたこれらレセプターのキナーゼとしての活性の解析について述べられている。アクチビンはアフリカツメガエルの初期発生において中胚葉誘導作用をもつ重要な分子であるが、論文提出者はそのアクチビンの受容体であるアクチビンレセプターについて研究を行った。

 まず、第1部ではタイプIIレセプタ-cDNAをアフリカツメガエルcDNAライブラリーから分離した。ここではレセプタ-cDNAとしてIIA、IIB、IIB’の3種類が得られた。これらは510-514アミノ酸からなり、互いに高いホモロジーをもち、細胞外リガンド結合部位、膜貫通部位、細胞内セリン/スレオニンキナーゼ部位をもつ。これらのmRNAの発現を調べたところ、卵割期からオタマジャクシ期まで発現がみられた。また、そのmRNAを受精卵に注入したところ、2次軸の形成が起こり、このレセプターの機能が発生において重要であることが示唆された。

 第2部では、タイプIレセプターについて、同様のクローニングと発現研究をおこなった。タイプIレセプターは第1部でクローニングしたタイプIIレセプターとダイマーを作って作用するもので、その意味でこれは重要な研究である。ここでは508と507アミノ酸をコードする2つのcDNAが得られた。これらも基本的にタイプIIレセプターと同様の構造をしていることが判明した。また、そのmRNAの発現を調べたところ、初期発生過程では強く発現しているが、嚢胚期を過ぎると発現量が著しく減少することが明らかになった。さらに、そのmRNAの分布をホールマウントインサイチュハイブリッド形成によって調べると、初期胚では動物半球に、後期胚では背側前方で発現することが分かった。また、このレセプターの細胞内ドメインを欠失したmRNAをつくり、これを受精卵に注入して調べたところ、頭部形成に異常が観察され、正常発生でのその機能が背側中軸構造の形成にあることが考えられた。

 第3部では、以上クローニングしたレセプターの機能を調べる目的で、タイプI、IIA、IIB’の各レセプターをGST-融合タンパク質として大腸菌に発現させ、それを精製してインビトロで自己リン酸化反応を調べた。その結果、タイプIレセブターはスレオニン残基に、タイブIIAはセリンとスレオニンの両方に、タイブIIB’はスレオニンのみに、リン酸化が起きた。これらの結果から、得られたレセブターがそれぞれ異なる役割を果たしながら胚の中軸中胚葉の形成に関与していることが示唆された。

 なお、本論文第1章は田代康介氏ほか6名、第2章は仙波憲太郎氏ほか2名の共同研究者との共同研究のかたちとなっているが、第1第2両章のいずれにおいても論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 したがって、博士(理学)を授与できると認める。

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