ロックフィルダム、海中ケーソンのマウンドなどの粒径の大きい粒状材料、いわゆる粗粒材料を用いた巨大構造物は、日本だけでなく世界でもこれまでに数多く建設され、今後もそうであると言えよう。一方、鉄道道路の高架構造物や橋台なと、変形に対して厳しい基準が設けられている構造物にも、盛土材として粒度調整砕石を用いた補強土橋台など土構造物が採用されている。しかし、自然地盤及び人工地盤は、その堆積及び建設過程と応力履歴に起因して異方的な応力状態にあり、また構造物の建設等によって地盤内に生じる応力は、地表面付近における低拘束圧の状態から、大規模構造物基礎周辺における高拘束圧の状態まで極めて広い範囲である。レキを用いたロックフィルダムのような巨大構造物にも、このような状況を持つことである。これらの巨大レキ質地盤やレキを用いた構造物の変形量や安定性を正確に評価するためには、材料としてのレキの変形・強度特性を正確に評価することが必要条件のひとつとなる。さらに、粗粒材料を試験し、その結果を設計と施工に役立てるためには、例えば、次のような粗粒材料特有の技術課題がある。(1)現地の材料の粒度分布を考慮した上で、どのように供試体の粒度分布を決めたら良いか。特に、供試体寸法に比較して、原位置での粒径が大きい場合に問題になる。(2)現地の材料の力学特性を再現するためには、どのような供試体の作製方法が良いか。また、どのような応力経路及びどのようなひずみ履歴を与えるのが良いか。 材料実験(三軸試験によって得られる試験)自体の精度を向上させたことよって、個人的な誤差は少なくなった。特に強度特性の面では、より正確的な精度でデータが得られている。しかしながら、測定すべきひずみの範囲が弾性状態の0.001%以下からピーク応力状態の10%程度までと106のオーダの範囲と極めて広く、かつ材料の強度が相対的に小さい粗粒土の材料実験は信頼性のある結果が非常に少ない。更に、一般的な応力経路・ひずみ経路における微小ひずみレベルでの変形特性はいまだに調べていない。また、弾性変形係数(ヤング率、ポアソン比)のせん断変形による軸ひずみのみならず側向ひずみを非常に広い範囲に亘って精密に測定した損傷と異方応力状態による異方性についての研究はない。特に、繰返しひずみ履歴による弾性変形係数に対する誘導異方性の研究はない。 一方、各種解析法の適用性を知るには、変形係数の全体像を知る必要がある。その変形係数の全体像を知るためには、微小ひずみから破壊までの連続的範囲における法則性とそれに及ぼす繰返し載荷の有無・載荷のパターン・回数・載荷の速度・応力経路などの影響を、最低限知る必要がある。 以上の問題を踏まえて、本研究は次の研究を行った。その結果は次の通りである。 1)従来の試験方法では、ベディングエラーとMembrane penetrationによるひずみ測定誤差はかなり大きい。したがって、それらの方法により得られた変形特性の値には、信頼性はない。また、0.01%以下でのひずみレベルでの繰返し試験においても、ひずみ片振幅は変形特性に及ぼす影響がある。微小ひずみレベルでの繰返し試験における変形特性(等価ヤング率、等価ポアソン比)に及ぼす載荷速度の影響は、ほとんどない。 2)三軸圧縮の場合、拘束圧が高いはどせん断応力レベルに伴うEsec/Emax、Etan/Emaxの低下率が高い 3)等方圧密状態では、等価ヤング率Eeq(d SA=10-5)は、平均主応力’m(’m=’v=’h)の関数Eeq(d SA=10-5)/f(e)=a(’m)moである。三軸せん断状態(三軸圧縮、三輪伸張)でも、等価ヤング率は基本的に軸応力の関数Eeq(d SA=10-5)/f(e)=a(’m)mである。しかし、軸応力’vが等方応力状態から離れていくと、Eeq(d SA=10-5)/Eeは低下していく。三輪伸張状態でのEeq(d SA=10-5)/Eeの低下率は三軸圧縮状態のそれよりも大きい。この起因は、供試体が軸方向に締め固めたためか損傷の発生とその蓄積は三軸伸張が三軸圧縮より起きやすいと思われる。三軸繰り返し試験での等価ヤング率は、三軸せん断試験での等価ヤング率とおなじように軸応力の増減に伴って増減する。しかも、三軸繰り返し試験の圧縮段階における等価ヤング率は三軸圧縮試験における等価ヤング率と共に応力の関数である。すなわち、Eeq=(’v)mで表せることができる。両方の乗数mもほぼ同じである。また、三軸繰り返し試験の伸張段階における等価ヤング率は三軸伸張試験における等価ヤング率と共に応力の関数である。すなわち、Eeq=(’v)m。両方の乗数mもほぼ同じである。さらに、等価ヤング率は、同じ応力レベルでも、過去に受けたせん断ひずみが大きいほど減少している傾向が見られる。 4)三軸せん断状態(三軸圧縮、三軸伸張)での等価ポアソン比は基本的にはただ主応力比の関数(vh)eq=a(’v/’h)mであり、拘束圧の影響はほとんどない。三軸繰返し試験における等価ポアソン比も、三軸圧縮・三軸伸張試験における等価ポアソン比と同じようにただ主応力比の関数であり、拘束圧力の影響はほとんど受けない。 5)三軸試験でのレキの強度は拘束圧’hが大きいほど大きくなる。最大摩擦角maxは’hが大きいほど減少する。一方、三軸繰返し試験での強度は拘束圧の増加に伴って、増加する。しかし、最大内部摩擦角は、本研究の拘束圧範囲(0.1<’h<2.5kgf/cm2)においては、ほとんど変わらない。また、最大内部摩擦角は、’h<1.0kgf/cm2の範囲においては拘束圧が小さいほど三軸繰返し履歴による影響がかなり大きい。しかし、拘束圧は1.0kgf/cm2超えると、この影響はほとんど見られない。この起因は、レキに対して内部粘着力を0に扱ってきたが、ある含水比を持つレキは内部粘着力が小さくても、実際にある。繰返し履歴によりこの粘着力を破壊する。強度特性として、この粘着力は、拘束圧の小さい場合は拘束圧の大きい場合より働く役割が高い。その反映は拘束圧の小さい場合での繰返し三軸試験による強度(いわば、最大摩擦角)は三軸圧縮試験のそれより急に小さくなる。 6)三軸圧縮試験での圧密時の応力経路は、異方圧密を行うとせん断時の等価ヤング率、接線ヤング率及び割線ヤング率に与える影響はほとんど無い。また、強度特性にはほとんど影響を及ぼさない。 7)広範囲応力状態において微小ひずみレベルでの変形特性は次である。振動締固めで作製したレキの三軸試験での塑性及び弾性変形特性は、強い構造異方性がある。微小ひずみレベルでの鉛直弾性直ひずみに対する等価ヤング率は、主として軸応力の関数であり、拘束圧の影響はほとんど無い。同様に水平弾性直ひずみに対する等価ヤング率は、主として水平応力の関数であり、軸応力の影響はほとんど無い。従って、主応力比’v/’hが増加すると(Eeq)v/(Eeq)hが増加するという応力状態依存異方性がある。また、微小ひずみレベルでの等価ポアソン比は、軸応力や拘束圧には依存せず、主に’v/’hの関数である。 8)拘束圧、応力経路、応力・ひずみ履歴が主応力比一塑性主ひずみ増分比の関係(Stress-dilatancy relation)に及ぼす影響は検討された。応力経路は、主応力比-塑性主ひずみ増分比の関係(Stress-dilatancy relation)に及ぼす影響はあまり大きくない。拘束圧、応力・ひずみ履歴は主応力比-塑性主ひずみ増分比の関係(Stress-dilatancy relation)に与える影響がある。 |