学位論文要旨



No 111747
著者(漢字) 蒋,関魯
著者(英字)
著者(カナ) ショウ,カンロ
標題(和) 大型三軸試験によるレキの変形・強度特性
標題(洋) Small strain behaviour and deformation and strength characteristics of some gravel by larger triaxial tests
報告番号 111747
報告番号 甲11747
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3545号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 山崎,文雄
 東京大学 助教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 古関,潤一
内容要旨

 ロックフィルダム、海中ケーソンのマウンドなどの粒径の大きい粒状材料、いわゆる粗粒材料を用いた巨大構造物は、日本だけでなく世界でもこれまでに数多く建設され、今後もそうであると言えよう。一方、鉄道道路の高架構造物や橋台なと、変形に対して厳しい基準が設けられている構造物にも、盛土材として粒度調整砕石を用いた補強土橋台など土構造物が採用されている。しかし、自然地盤及び人工地盤は、その堆積及び建設過程と応力履歴に起因して異方的な応力状態にあり、また構造物の建設等によって地盤内に生じる応力は、地表面付近における低拘束圧の状態から、大規模構造物基礎周辺における高拘束圧の状態まで極めて広い範囲である。レキを用いたロックフィルダムのような巨大構造物にも、このような状況を持つことである。これらの巨大レキ質地盤やレキを用いた構造物の変形量や安定性を正確に評価するためには、材料としてのレキの変形・強度特性を正確に評価することが必要条件のひとつとなる。さらに、粗粒材料を試験し、その結果を設計と施工に役立てるためには、例えば、次のような粗粒材料特有の技術課題がある。(1)現地の材料の粒度分布を考慮した上で、どのように供試体の粒度分布を決めたら良いか。特に、供試体寸法に比較して、原位置での粒径が大きい場合に問題になる。(2)現地の材料の力学特性を再現するためには、どのような供試体の作製方法が良いか。また、どのような応力経路及びどのようなひずみ履歴を与えるのが良いか。

 材料実験(三軸試験によって得られる試験)自体の精度を向上させたことよって、個人的な誤差は少なくなった。特に強度特性の面では、より正確的な精度でデータが得られている。しかしながら、測定すべきひずみの範囲が弾性状態の0.001%以下からピーク応力状態の10%程度までと106のオーダの範囲と極めて広く、かつ材料の強度が相対的に小さい粗粒土の材料実験は信頼性のある結果が非常に少ない。更に、一般的な応力経路・ひずみ経路における微小ひずみレベルでの変形特性はいまだに調べていない。また、弾性変形係数(ヤング率、ポアソン比)のせん断変形による軸ひずみのみならず側向ひずみを非常に広い範囲に亘って精密に測定した損傷と異方応力状態による異方性についての研究はない。特に、繰返しひずみ履歴による弾性変形係数に対する誘導異方性の研究はない。

 一方、各種解析法の適用性を知るには、変形係数の全体像を知る必要がある。その変形係数の全体像を知るためには、微小ひずみから破壊までの連続的範囲における法則性とそれに及ぼす繰返し載荷の有無・載荷のパターン・回数・載荷の速度・応力経路などの影響を、最低限知る必要がある。

 以上の問題を踏まえて、本研究は次の研究を行った。その結果は次の通りである。

 1)従来の試験方法では、ベディングエラーとMembrane penetrationによるひずみ測定誤差はかなり大きい。したがって、それらの方法により得られた変形特性の値には、信頼性はない。また、0.01%以下でのひずみレベルでの繰返し試験においても、ひずみ片振幅は変形特性に及ぼす影響がある。微小ひずみレベルでの繰返し試験における変形特性(等価ヤング率、等価ポアソン比)に及ぼす載荷速度の影響は、ほとんどない。

 2)三軸圧縮の場合、拘束圧が高いはどせん断応力レベルに伴うEsec/Emax、Etan/Emaxの低下率が高い

 3)等方圧密状態では、等価ヤング率Eeq(d SA=10-5)は、平均主応力m(mvh)の関数Eeq(d SA=10-5)/f(e)=a(m)moである。三軸せん断状態(三軸圧縮、三輪伸張)でも、等価ヤング率は基本的に軸応力の関数Eeq(d SA=10-5)/f(e)=a(m)mである。しかし、軸応力vが等方応力状態から離れていくと、Eeq(d SA=10-5)/Eeは低下していく。三輪伸張状態でのEeq(d SA=10-5)/Eeの低下率は三軸圧縮状態のそれよりも大きい。この起因は、供試体が軸方向に締め固めたためか損傷の発生とその蓄積は三軸伸張が三軸圧縮より起きやすいと思われる。三軸繰り返し試験での等価ヤング率は、三軸せん断試験での等価ヤング率とおなじように軸応力の増減に伴って増減する。しかも、三軸繰り返し試験の圧縮段階における等価ヤング率は三軸圧縮試験における等価ヤング率と共に応力の関数である。すなわち、Eeq(v)mで表せることができる。両方の乗数mもほぼ同じである。また、三軸繰り返し試験の伸張段階における等価ヤング率は三軸伸張試験における等価ヤング率と共に応力の関数である。すなわち、Eeq(v)m。両方の乗数mもほぼ同じである。さらに、等価ヤング率は、同じ応力レベルでも、過去に受けたせん断ひずみが大きいほど減少している傾向が見られる。

 4)三軸せん断状態(三軸圧縮、三軸伸張)での等価ポアソン比は基本的にはただ主応力比の関数(vh)eq=a(v/h)mであり、拘束圧の影響はほとんどない。三軸繰返し試験における等価ポアソン比も、三軸圧縮・三軸伸張試験における等価ポアソン比と同じようにただ主応力比の関数であり、拘束圧力の影響はほとんど受けない。

 5)三軸試験でのレキの強度は拘束圧hが大きいほど大きくなる。最大摩擦角maxhが大きいほど減少する。一方、三軸繰返し試験での強度は拘束圧の増加に伴って、増加する。しかし、最大内部摩擦角は、本研究の拘束圧範囲(0.1<h<2.5kgf/cm2)においては、ほとんど変わらない。また、最大内部摩擦角は、h<1.0kgf/cm2の範囲においては拘束圧が小さいほど三軸繰返し履歴による影響がかなり大きい。しかし、拘束圧は1.0kgf/cm2超えると、この影響はほとんど見られない。この起因は、レキに対して内部粘着力を0に扱ってきたが、ある含水比を持つレキは内部粘着力が小さくても、実際にある。繰返し履歴によりこの粘着力を破壊する。強度特性として、この粘着力は、拘束圧の小さい場合は拘束圧の大きい場合より働く役割が高い。その反映は拘束圧の小さい場合での繰返し三軸試験による強度(いわば、最大摩擦角)は三軸圧縮試験のそれより急に小さくなる。

 6)三軸圧縮試験での圧密時の応力経路は、異方圧密を行うとせん断時の等価ヤング率、接線ヤング率及び割線ヤング率に与える影響はほとんど無い。また、強度特性にはほとんど影響を及ぼさない。

 7)広範囲応力状態において微小ひずみレベルでの変形特性は次である。振動締固めで作製したレキの三軸試験での塑性及び弾性変形特性は、強い構造異方性がある。微小ひずみレベルでの鉛直弾性直ひずみに対する等価ヤング率は、主として軸応力の関数であり、拘束圧の影響はほとんど無い。同様に水平弾性直ひずみに対する等価ヤング率は、主として水平応力の関数であり、軸応力の影響はほとんど無い。従って、主応力比v/hが増加すると(Eeq)v/(Eeq)hが増加するという応力状態依存異方性がある。また、微小ひずみレベルでの等価ポアソン比は、軸応力や拘束圧には依存せず、主にv/hの関数である。

 8)拘束圧、応力経路、応力・ひずみ履歴が主応力比一塑性主ひずみ増分比の関係(Stress-dilatancy relation)に及ぼす影響は検討された。応力経路は、主応力比-塑性主ひずみ増分比の関係(Stress-dilatancy relation)に及ぼす影響はあまり大きくない。拘束圧、応力・ひずみ履歴は主応力比-塑性主ひずみ増分比の関係(Stress-dilatancy relation)に与える影響がある。

審査要旨

 粒度分布の良いレキ質土は、フィルダム・盛土・構造物基礎等で広く用いられている。従来の基本的設計方法は極限釣合い法であり、ピーク強度特性(内部摩擦角と粘着力係数)が用いられる。近年、作用荷重による地盤・盛土の変形とそれに関連した構造物の変位を予測することも重要である建設例が増えてきた。その場合、動的・静的載荷時、あるいは急速・緩速載荷時、繰返し・単調載荷時の変形特性の関連を明らかにする必要もある。しかしながら、これまでのレキの材料実験は強度を測定するのが主目的であり、この場合必要となる広いひずみ範囲での変形特性を系統的実験で明らかにした研究はほとんど無い。

 本研究は、良く締め固めた良配合の砂岩砕石のレキ2種類を用いて、応力とひずみの測定誤差を極力排して、0.001%以下のひずみレベルでの変形特性から強度特性までを系統的三軸試験によって明らかにしようとしている。

 第1章は序論であり、研究の位置づけ・背景・目的をとりまとめたものである。

 第2章では、用いたレキの粒度分布等の物理的性質をまとめている。

 第3章は、実験装置と実験方法をまとめたものである。従来から砂の供試体に対して用いてきた供試体側面に鉛直に配置した一種のクリップゲイジである局所変形測定装置を用いて微少な軸ひずみを正確に測定する方法を採用しているが、今回の研究では断面積23cm×23cm高さ57cmの大型直方体を振動締固めにより作成し、側方ひずみも8つの局所変形測定装置を用いて測定しているところに特長がある。

 第4章では、実験方法とデータの整理方法を示している。特に、微小ひずみでの変形特性の異方性を調べるために、広い拘束圧の範囲で三軸圧縮・伸張応力状態で広く応力比を変化させた応力状態で、側圧h一定のもとで軸圧vを微小に変動させた繰返し載荷とv一定のもとでhを微小に変動させた繰返し載荷を自動制御により行い、鉛直方向と水平方向のヤング率とポアソン比を独立に測定する方法を開発している。また、三軸圧縮試験と三軸伸張試験、および繰返し三軸試験の途中で微小振幅の除荷・再載荷を行うことにより、せん断中の弾性的変形特性の変化を調べる方法の有効性を示している。

 第5章では、従来のひずみ測定方法における誤差を確認するとともに、小さなひずみレベルでの変形特性に及ぼす載荷速度と軸ひずみ振幅の影響を調べ、0.001%以下のひずみ振幅ではほぼ弾性的変形特性を示し載荷速度の影響は非常に小さいが、軸ひずみが0.001%を越えると非線形性が顕著になってくることを示している。

 第6.7章では、三軸圧縮試験と三軸伸張試験の結果をまとめている。側圧一定のもとでも、vの増加(あるいは減少)とともに軸方向の弾性的変形に対するヤング率Evが増加し(あるいは減少し)、弾性軸ひずみ増分により生じる弾性側方向ひずみ増分に対するポアソン比vhが増加すること(あるいは減少すること)を示している。しかし、この試験だけではこれらの弾性変形係数がvとhのどのような関数であるかは分からないとしている。また、拘束圧hが低いうちは締固めの影響が残っていて過圧密土の変形・強度特性を示すが、hが1.0kgf/cm2よりも大きくなるにつれて正規圧密土的変形・強度特性を示すようになることを示している。また、大きな繰返し載荷により締固めにより形成された構造が破壊され、低圧でも正規圧密土の強度特性になることを示している。

 第8章では、異なったv/hの比で行った異方圧密の影響を調べている。これは、通常の三軸試験ではv/h=1.0の等方圧密をしているが、盛土・地盤内では異方正密が一般的であるからである。その結果、異方圧密からh一定の三軸圧縮試験に移った直後には異方圧密履歴の影響が残っているが、その後の変形・強度特性にはその影響がほとんど無くなることを示している。

 第9章では、広い圧力範囲でv/hの比で等方・異方圧密を行い、弾性変形特性の応力状態依存性を詳細に調べている。その結果、弾性軸ひずみに対するヤング率Evはv0.52に比例して増加してhには独立であり、弾性側方ひずみに対するヤング率Ehはh0.52に比例して増加してvには独立であることを示している。これは、異方応力状態ではレキは必然的に異方弾性特性を示すことを意味している。また、等方応力状態でもEvはEhの約2倍であるという強い構造異方性があることも示している。更に、ポアソン比vhは個々のvとhの値には依存せず(v/h)0.26の関数であり、この特性は軸対称異方弾性体が満たすべき条件に合致していることを議論している。また、三軸圧縮試験・三軸伸張試験・繰返し載荷三軸試験の途中で微小な除荷・再載荷を与えることにより測定した弾性ヤング率Evは、せん断ひずみが大きくなるほど、等方・異方正密中に十分クリープ変形を生じさせて構造を再安定化させて測定した弾性ヤング率よりも相対的に低下し、同時にポアソン比vhは相対的に増加することを示し、これらは構造が損傷を受けるためであると議論している。

 第10章は、塑性軸ひずみ増分と塑性側方ひずみ増分と主応力比の間には、一義的な関係があることを示している。

 第11章は、結論である。

 以上要するに、本研究は現場で良く用いられる良く締め固めた良配合の砕石のレキの変形・強度特性を系統的な三軸試験により詳細に調べたものであり、新しい事実を示すとともに実際問題に適用できる法則性を示している。したがって、土質工学の分野の研究と技術の進展に貢献する所が大であり、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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