内容要旨 | | 最近,気象庁により新たな強震記録のデータセットが公表された.本研究ではこのデータセットと東京大学生産技術研究所の耐震防災工学研究室において東京都内の異なる地点で観測した微動観測記録を用い,既往の統計解析および数値解析の研究結果を確認する.また,本研究では,地震動の強度指標の水平面内における換算係数に関する統計解析,地震動の地盤により異なる特性を予測するための微動観測記録の利用,そして提案した数値モデルによる液状化地盤の応答シミュレーションを行う. 本論文では,最初に地震動の強度指標の水平面内における換算係数の推定を行った.地震動の強度指標と加速度応答スペクトルに対して,異なる定義の最大値(2方向の最大,平均,合成した最大)の換算係数は,距離減衰式や被害推定式などにおいて有効利用される.これらの換算係数は,76の自由地盤における気象庁87型加速度計で観測された膨大な記録を用いて導かれる.ここで,87型加速度計による記録は,従来のSMAC型加速度計記録のように計器補正を必要としない. 水平成分の地震動強度指標の最大合成値と加速度応答スペクトルを得るために,水平2成分の記録は時間軸上で合成される.解析から,(2方向の最大/合成値の最大)の比の平均は,加速度記録に関して0.934,速度記録に関して0.926,変位記録に関して0.913となった.最大地震動指標の(平均/合成値の最大)の比と加速度応答スペクトルに対しても,同様な減少傾向を示した.そして,最大地震動指標の方向性を調査した.その結果,最大地震動が主として震央直交方向で生じることがわかった.また,この傾向は地震動のやや長周期成分で顕著である. 次に本論文では,微動観測記録から予測される地盤増幅の研究を行い,地震動と微動の比較を行った.近年,サイトの卓越周期と増幅を決定するために,中村の方法がよく利用されている.この方法は微動の水平と鉛直のフーリエスペクトルの比を用いる.本研究ではこの方法は強震記録に拡張した.そして,微動から得られるスペクトル比と比較した.その結果,この比は地震のマグニチュード,距離,深さに余り影響されないことがわかった.この発見を確認するために,水平と上下の速度応答スペクトルの比を求めた.87型加速度計記録を用いて,様々な減衰比に対する水平および鉛直成分の速度応答スペクトルの距離減衰特性を地震のマグニチュード,距離,深さとの関係で調べた.その結果,水平/上下の比は地震のマグニチュード,距離,深さに依存せず,観測地点の補正係数を考慮することにより,水平/上下のフーリエスペクトル比を推定することができた. また東京都内において,3つのアレー地点と10の点観測地点で,短周期微動観測を行った.このうち6地点では地表および地中に3成分の加速度計が設置されており,残りの7地点では地表に水平成分の加速度計が設置されている.水平と鉛直のフーリエスペクトノレは時間により異なるが,水平と鉛直のスペクトルの振幅比として定義された水平/上下の比は,時間に影響されない統計量となる.この振幅比の特性はレイリー波のものと近似しており,この振幅比のピークの周期は,レイリー波の振幅比およびせん断波に対する伝達関数の卓越周期とよく近似している.このことを確認するために,本研究では2層地盤モデルを用いてパラメータ解析を行い,レイリー波とせん断波に対するピーク周期は,大きなインピーダンス比を持つ地盤では近い値になることを示した.さらに,微動のアレー観測記録の鉛直成分に対する振動数-波数スペクトルを用いて,レイリー波の分散曲線に近い位相速度を得ることができた. 最後に本論文では,鉛直1次元の多方向せん断を考慮できる有効応カモデルにより,1995年兵庫県南部地震の際,液状化記録が得られた地点について解析した.このモデルは2つのサブモデル(変形モデル,過剰間隙水圧モデル)により構成され,変形モデルは,複数の非線形バネを持つ.既往のモデルに対するこのモデルの利点は,このモデルが応力主軸の回転を考慮できるということである. 大阪湾の人工島(ポートアイランド)では鉛直アレー観測が行われており,本研究ではまずサイト応答解析をおこなった.そして,この記録とそこから数キロメートル離れた神戸海洋気象台観測所(硬質地盤サイト)での記録と比較した.また,前述の多方向有効応力モデルを用いて,鉛直アレー記録に基づく応答解析を行った.このモデルは,多方向振動を考慮した地盤の液状化現象をよく説明することができる.入力として最深部のアレー観測記録を用いて解析した結果,観測記録とシミュレーション結果は,波形および応答スペクトルともによく一致した.地盤の動的応答および液状化に関する,水平2成分を考慮することによる影響についても詳しく検討した. |