学位論文要旨



No 111753
著者(漢字) ピンキャウ,トスポル
著者(英字) Pinkaen Tospol
著者(カナ) ピンキャウ,トスポル
標題(和) 都市内高架橋の交通振動に対するアクティブ・セミアクティブ制御
標題(洋) Active and Semi-Active Control of Traffic-Induced Vibrations in Elevated Highway Bridges
報告番号 111753
報告番号 甲11753
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3551号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 東原,紘道
 東京大学 助教授 小長井,一男
 東京大学 助教授 山崎,文雄
 東京大学 講師 木村,吉郎
内容要旨

 近年,都市内において車両交通量が増加するとともに重量化しており,また新技術の発展に伴って橋梁が軽量かつ柔軟になってきているため,都市内高架橋において,交通振動の問題が深刻になってきている.従来,橋桁の剛性の向上などの構造変更や,パッシブダンパーの設置が解決策としてとられてきたが,構造変更は大がかりになりがちであることや,パッシブ制振法では制振性能に限りがあることなどの問題がある.本研究では,構造変更をすることなしに高い制振性能を得ることが可能な,アクティブならびにセミアクティブ制御方法の交通振動問題への適用を検討している.この問題では,車両と橋梁の間に複雑な動力学的相互作用が存在するため,システム全体としては複雑な挙動を示す時変系となる.そのため,論文の前半において,車両・橋桁系の動特性ならびに制御特性の基本的な把握を行っている.系の数理モデルを構築するにあたっては,解析力学的アプローチを用いることによって,体系的なモデルを提案することができた.制御特性の検討には,アクティブ・マス・ドライバーならびにアクティブ動吸振器の二つの制振装置を用いた.特に,車両の制御性能に及ぼす影響に着目して3種類の制御則を適用し,基本的な特性の整理と考察を行っている.その結果,(i)小さな制御力で制振可能な制御則を構築することが重要であることと,(ii)制御則構築にあたっては車両の状態量を無視しても制御効果に影響が少ないことが分かった.この結果をうけて,論文の後半では,減衰と剛性が可変であるセミアクティブ動吸振器を提案し,その制御則設計法を構築した.制御則構築にあたっては,線形最適制御理論を用いることによって,可変減衰と剛性の定式化を行っている.数値シミュレーションによって,セミアクティブ動吸振器の有効性を示し,種々の条件下での特性を把握した.さらに,車両の状態量が測定不可能であるとして,分散制御理論を用いた制御則を提案した.この方法は,制御則設計が簡便であるため,実用性の高いものと考えられる.この方法についても数値シミュレーションを行い,高い制振性能を有していることを確認した.最後に,可変減衰・剛性の具体的なハードウェア構成の検討を行った.最近発展してきている知能的材料は,この方面への応用に高い将来性を有していることが明らかになった.

審査要旨

 大型車両の重量化,数の増大とともに都市内高架橋の振動レベルが増大し,橋そのものの疲労,近隣建物の交通による振動が問題となっている.これに対し,主にパッシブ系の対策がこれまで検討されてきているが,その効果には限界がある.このような背景の中で,本論文の高架橋の交通振動に対するアクティブ,セミアクティブ振動制御の適用を考究したものである.

 論文は6章から構成されている.

 まず第1章では都市内高架橋の交通振動の現況を述べ,さらにその改善策に関する既往の研究をレビューしている.その中でパッシブ制御の限界性を明らかにするとともに,アクティブ制御,セミアクティブ制御のこの問題への適用性可能性について論じ,その優位性を示している.

 2章では橋桁を表面凹凸のある1次元のはりでモデル化し,ばね-マス系で表した車両通過時の運動方程式を導き,時変形としての固有値特性などを明らかにしている.

 3章では車両一桁連成系のアクティブ制御則の比較検討を行っている.すなわち,桁スパン中央にアクチュエータを置き,アクティブマスダンパーを用いた状態を想定し,3つの制御則を比較している.制御則としては,(1)桁と車両をモデル化しそれらの状態量すべてをフィードバックする完全フィードバック制御,(2)桁の状態量のみをフィードバックする方式,いわゆるアウトプットフィードバック制御,三番目として,(3)モデル化も桁のみで行い,桁の状態量をフィードバックする,3つの制御則の優劣を定量的に求めている.定式化はLQ制御とし,桁の振動を目的関数として採用している.一番目の制御がもっとも制振効果が高いと考えるのが常識と思われるが,3者の間には有意な差がないことを示した.この知見はこれまでの常識を覆すものであり,このことを明らかにした意義は大きい.また,アクティブマスダンパーとハイブリッドタイプを比較し,前者の方が制振効果の高いことをしめしている.

 4章では,TMDのパラメータ,すなわち剛性R,ばね定数Cを可変とするセミアクティブ制御の制御則を検討している.具体的には,ハイブリッドダンパーを参照モデル(reference model)とし,セミアクティブ制御系のR,Cを参照モデルに近くなるように選ぶ制御則を提案している.具体的には瞬間LQ最適制御に則り,最適剛性R(t),最適C(t)の制御則を求め,その特性を明らかにしている.剛性や減衰を変化させるセミアクティブ制御は非線形となるため,制御則の誘導は困難であるが,瞬間LQ最適制御基準を用いて,巧みに導いている.その制御則を用い,単純な-自由度系の制振が極めて高い効率で行えることを明らかにしている.

 5章では,車両一桁系に4章で検討したセミアクティブ制御を適用し,数値シュミレーションを行い,その制御効率の高さを示すとともに,その達成するためのハードウェアについて既往のものも含め具備すべき条件について言及している.

 6章では本論文で得られた知見を述べるとともに,今後の研究展望を述べているとおもわれる.

 このように,本提出論文は交通振動という社会的に重要でかつ複雑な問題に対し,制御方法の方向性を明らかにするとともに,従来にくらべ制振性能が高いセミアクティブ制御方式を開発し,その有効性の高さを明らかにしている点は工学的に高く評価でき,貢献も大きいと判断される.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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