学位論文要旨



No 111775
著者(漢字) 金,在烈
著者(英字)
著者(カナ) キム,ジェヨル
標題(和) 積層平板構造のブラジール現象に関する解析的研究
標題(洋)
報告番号 111775
報告番号 甲11775
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3573号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 半谷,裕彦
 東京大学 教授 高梨,晃一
 東京大学 助教授 桑村,仁
 東京大学 助教授 大井,謙一
 東京大学 助教授 川口,健一
内容要旨

 平板理論の歴史のなかで興味深いことは、最も簡潔で基本的な平板理論であるキルヒホッフ理論が最初に完成されたことである。平板理論の研究は1900年代に入り、3次元弾性理論に基づく理論(厚さの増加)と薄い平板への理論(厚さの減少)に大別されていく。その流れのひとつとして厚肉平板に属する積層構造の挙動が考えられ、種々の理論、また、それに対する精密な理論が数多くある。平板型積層構造としては、積層平板、中空スラブ、平板型多層立体トラス等が上げられる。これらの構造物は異なる各層からなる構造物である。特に、各層の材料定数が顕著に異なる場合、その平板では今までのキルヒホッフ理論とは異なる構造挙動が現れる。たとえば、積層板や中空スラブ、あるいは、平板型二層立体トラス等で、曲げモーメントを作用すると、円管に曲げモーメントを作用するときに生じるブラジール現象に類似の現象が発生する。

 キルヒホッフの薄肉平板の微小変形理論の仮定では"法線の長さは一定(z=0)"を採用し、W(x,y,z)=w(x,y)を前提としている。しかし、ブラジール理論では、基準面の変位w(x,y)が基準面からzだけ離れた点の変位W(x,y,z)には等しくならない。つまり、"法線の長さは一定(z=0)"の仮定が成立しない場合(z≠0)の理論をブラジール理論という。ここで、ブラジール現象を円管をモデルとして説明する。円管に曲げモーメントを作用すると断面の楕円化が生じ、断面の経が変化する。すなわち、変形前直径の円管において変形後は直径(1-)に変化する。ここに、は楕円化による断面の減少比である。断面が減少すると曲げモーメントが減少し、曲げモーメントと曲率の関係が荷重漸減型になる。この曲げ剛性の減少をブラジール効果、あるいは、ブラジール現象といい、曲げ剛性の減少により載荷能力の低下が生じる。

 積層平板において、円管の場合と同様に考えられ、円管を3層の積層平板で想定することができる。つまり、円管の厚み部分を平板の上下部材として、中間部を平板の中間部材としてモデル化する。このようにモデル化した積層平板の場合においてもモーメントが作用すると、円管の場合と同様のブラジール現象が生じる。そのため、積層平板の載荷能力を正確に評価するためにはブラジール効果の解析が必要となってくる。

 本論文は、円管や円筒シェルで扱われてきたブラジール理論を積層平板構造に応用することを目標とする。具体例として純曲げを受ける矩形積層平板、等分布荷重を受ける積層単純梁、等分布荷重を受ける矩形積層平板を対象に、積層平板のブラジール解析の基礎方程式の誘導、非線形方程式である基礎方程式を解く方法、解析結果等を理論的に調べた。本論文は以下の7章からなっている。

 第1章では、本論文の目的と研究の背景、積層平板に関する既往の研究、本論文の構成を述べ、本論文の特徴について概略を説明する。

 第2章では、平板の基礎としてキルヒホッフ理論を中心とした平板の基礎理論を整理した。次いで、積層平板の基礎理論と有限要素解析で利用する直交異方性平板の理論を述べる。異方性構造の特性の一つは等方性構造と異なる剛性を保つことであり、異方性平板と積層平板の幾つかの例を上げて剛性を比較した。

 第3章では、本論文の中心となるブラジール理論について述べた。内容は、(1)ブラジール現象の概説、(2)モデルによるブラジール理論の把握、(3)全ポテンシャルエネルギー最小原理による基礎式の導入、(4)実際の例として円管のブラジール現象、(5)円管の局部座屈、(6)弾性梁の局部座屈等、である。

 2個のフランジを薄紙で結合した模型において、モーメントが最大になる点で、扁平化の状態として、=1/4となること、および、このとき断面2次モーメントがI(1/4)/I(0)=0.562になるので曲げ剛性EI()は無荷重状態時の約56%となっていることがわかる。円管の場合としては、円管に曲げモーメントが作用すると、楕円化が進行するにつれてI()は減少していき、モーメントの最大点においてEI()は無荷重状態時の約86%となっていることがわかる。

 第4章では、ブラジール理論の平板型構造への応用の第一歩として純曲げを受ける3層の積層平板のブラジール現象を解析した。純曲げを受けると平板全体に同じモーメントが作用することになり、モーメントによって生じる縮み量が全平板で同一になる。純曲げを受ける積層平板の場合は、非線形方程式である基礎方程式を解く方法として近似数値解析法を採用した。3層の積層平板のブラジール現象を概略的に調べることを目的とし、正方形平板を近似数値解析した。結果として、3層の積層平板においてモーメントと縮みとの関係、縮みとたわみとの関係、曲げ剛性の変化の様子などを示してある。さらに、正方形以外の場合として、パラメータを変えたときの解析結果を載せた。

 最大縮みになる最大曲げモーメントにおいては、中間材の弾性係数の差によって曲げモーメントの極大値が大きく変化することがわかる。厚さと辺の長さの比が1/10程度で、中間材のヤング率が、上部、下部平板の1/100程度になるとブラジール効果は無視できないものであることを示した。

 第5章では、モーメントが一定にならない場合として等分布荷重を受ける3層の積層単純梁のブラジール現象を解析した。梁が等分布荷重を受けると各点においてモーメントが異なる。そして、基礎方程式は縮み、曲げ剛性およびモーメントの非線形関係になる。解析上の問題として、非線形基礎方程式を解くことにあるが、単純梁の場合は、梁の基礎理論を用いてモーメントを計算することが簡単であり、縮みと曲げ剛性だけの関係式になる。本文では、縮みの関数である曲げ剛性D()との関係を解く方法として、繰り返し収束計算法を採用した。結果として、曲げ剛性、たわみ、縮み量においてブラジール効果を考慮する場合と考慮しない場合を比較した。数値解析の妥当性を検討するため、反復収束計算の様子を述べた。この場合、解析点における剛性の低下率とたわみの増加率は中央部において、曲げ剛性は約14%減少し、たわみも約14%増加している。

 第6章では、等分布荷重を受ける積層平板のブラジール現象を解析した。等分布荷重を受ける積層平板の場合は、純曲げを受ける積層平板の場合とは異なって、平板の各点においてモーメントが異なる値になる。この場合は、前述の2つの場合のように比較的に簡単な解析手法では解くことができない。その理由は、基礎方程式が縮み、曲げ剛性およびモーメントの非線形関係になっていることにある。単純梁の場合はモーメントを直接求めることができるが、等分布荷重を受ける積層平板の場合には、直接、非線形基礎方程式を解く問題になる。本章の場合は、等分布荷重を受ける3層の積層平板のブラジール現象を解析するため有限要素法と繰り返し収束法を採用した。積層平板のブラジール効果を解析するための理論構成と解析法、解析フローをが述べ、結果として、モーメントの収束状況、それに従うたわみと縮みの変化を調査した。

 平板の中心の縮みを100にすると、隅角部が約50〜70%となり、x/a、y/bが0.25の部分が最小の値になって約10%である。ブラジール効果を考慮した場合と、考慮しない場合のたわみを比較すると、約6〜9%のたわみの変化が生じることがわかる。

 第7章では、本論文で得られた結論をまとめて述べた。

審査要旨

 平板型積層構造である積層平板、中空スラブ、平板型多層立体トラス等は異なる構造特性を持つ層からなる構造である。これらの構造において、各層の材料定数が顕著に異なる場合、平板における最も基礎的な理論であるキルヒホッフ理論では扱うことのできない構造挙動が生じてくる。キルヒホッフ理論における中核となる仮定に法線保持と厚さ方向のひずみはゼロであるという仮定がある。本論文におけるブラジール理論は後者の仮定を除いたものである。

 本論文は「積層平板のブラジール現象に関する解析的研究」と題し、ブラジール理論の平板構造への適用を図ったもので、全7章から成っている。

 第1章では、本論文の目的と研究の背景、積層平板に関する既往の研究の整理、および、論文の構成を述べ、本論文の特徴について概略を説明している。

 第2章では、平板の基礎としてキルヒホッフ理論を中心とした平板の基礎理論をわかりやすく整理している。また、積層平板の基礎理論と有限要素解析で利用する直交異方性平板の理論の整理、異方性平板と積層平板における剛性の変化の様子を述べている。

 第3章では、本論文の中心となるブラジール理論について述べている。主な内容として、(1)ブラジール現象の概説、(2)モデルによるブラジール理論の把握、(3)全ポテンシャルエネルギー最小原理による基礎式の導入、(4)実際の例として円管のブラジール現象、(5)円管の局部座屈、(6)弾性梁の局部座屈、を論述している。

 第4章では、ブラジール理論の平板型構造への応用の第一歩として純曲げを受ける3層の積層平板のブラジール現象を解析している。ブラジール理論に基づく基礎方程式は高度な非線形方程式となっている。純曲げを受ける場合には曲げモーメント分布があらかじめ既知であることから、このことに立脚した近似数値解析法を提案している。積層平板のブラジール現象の概略として、モーメントと縮みとの関係、縮みとたわみとの関係、曲げ剛性の変化の様子などを数値解析ている。

 第5章では、任意荷重として等分布荷重を受ける3層の積層単純梁のブラジール現象を解析している。基礎方程式において、縮みと曲げ剛性の非線形方程式を解析する方法として、繰り返し収束計算法を採用している。曲げ剛性、たわみ、縮み量においてブラジール効果を考慮する場合と考慮しない場合を比較し、ブラジール効果の重要性を指摘している。

 第6章では、等分布荷重を受ける積層平板のブラジール現象を解析している。等分布荷重を受ける積層平板の場合は、基礎方程式が縮み、曲げ剛性およびモーメントの非線形関係になっている。本章では、等分布荷重を受ける3層の積層平板のブラジール現象を解析するため有限要素法と繰り返し収束法を採用している。任意荷重を受ける積層平板のブラジール効果を解析するための解析法、解析フロー、結果として、モーメントの収束状況、縮みの分布の様子等が得られている。

 第7章では、本論文で得られた結論をまとめて述べている。

 以上のように、積層構造において各層の材料定数が一定ではない場合、特に、中間部材の剛性が小さい場合においてブラジール現象が発生することを想定し、上部と下部の薄肉部材を弾性係数の小さな材で結合した積層構造でのブラジール現象の効果を調べている。ブラジール理論は円管の曲げ挙動を解析する目的で導入された理論であり、円管以外の構造への適用は非常に少ない。本論文はブラジール理論をはじめて平板構造へ適用したもので、新しい理論構成や数値解析法を提案しており、ブラジール効果の影響を調査した貴重な研究として高く評価される。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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