学位論文要旨



No 111781
著者(漢字) 魯,志雄
著者(英字)
著者(カナ) ノ,ジウン
標題(和) 実験と放射・対流連成シミュレーションによる不均 : 放射空間の温熱環境解析と評価に関する研究
標題(洋)
報告番号 111781
報告番号 甲11781
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3579号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 村上,周三
 東京大学 教授 松尾,陽
 東京大学 教授 安岡,正人
 東京大学 教授 鎌田,元康
 東京大学 助教授 加藤,信介
内容要旨

 合理的な室内の環境計画を行うためには、人体と環境との熱輸送性状の詳しい分析に基づいた室内温熱環境の評価手法が役に立つ。従来、周囲壁面温や室内空気温度が不均一な室内環境と人体の熱輸送性状を解析する際、対流熱伝達の解析が相対的に困難なため、放射熱伝達に関しては比較的詳細に行われているが、対流熱伝達に関しては室温一定や対流熱伝達を一定値に仮定するなど簡易な解析に留まることが多かった。本論文はこれに対し、人体モデルと環境との熱授受を対流、放射ともにシミュレーションにより詳細に解析することにより、各熱負荷や吹出気流等の空調要素が人体からの放熱特性に与える影響を解析し、合理的な室内の空調設計を可能とする手法を提案している。解析は精密な模型実験、並びに乱流モデルに基づく対流シミュレーションと壁間の放射熱伝達シミュレーションを達成させる手法により行っている。本論文は、解析の対象として、アトリウム、あるいは居室、オフィス等のペリメータゾーンのように、室内の放射・対流場の不均一性が大きく顕在化すると予想される温熱空間に的を絞り、解析の有効性を検証している。精密実験により放射・対流連成解析の予測精度の鍵となる対流熱伝達率の値を様々な角度から吟味し、この検証された対流熱伝達率を用いて精度の確認された放射・対流連成シミュレーションにより解析を行っている。このような解析の際、人体の取り扱いが重要な問題となる。本論文は、人体と周囲との熱輸送性状を構造的に解析するため、放射放熱特性、対流放熱特性のいずれも損なわないよう注意を払いながら、人体形状を単純化して解析を行っている。この解析により、頭部、腕部、脚部等の人体モデル各部位と環境要素との熱輸送特性を詳細に分析している。これら解析手法を様々な冷暖房制御システムを採用した温熱空間に対して適用し、この解析がこれら空調システムの性能評価に有効であることを明らかにしている。

 論文は、序編以下、本編(1〜3編)、結編(4編)よりなる。

 第1編では、「大規模ガラスホール内部の温熱・空気環境調整に関する模型実験」として、対流熱伝達のみを考慮する模型実験を行い、大空間での不均一対流場の形成性状を把握し、その制御システムに関して検討している。

 第2編では、「床暖房居室の温熱・空気環境に関する研究」として、鉛直壁面一面がガラス窓である住宅居室空間に対し、その温熱環境を実験、シミュレーションにより解析している。検討は、窓から大きな冷放射の影響により形成される不均一放射環境での顕熱輸送性状を人体モデルを含んで行い、このように不均一温熱環境に晒された人体モデル各部位での放熱特性を解析している。実験では、室内各面及び人体モデル周辺での温度境界層を細かく測定し、各壁面での局所対流熱伝達率を計測・評価している。また、各壁面表面での放射、対流熱伝達のバランスから対流熱伝達量を求め、これより対流熱伝達率を算出して局所対流熱伝達率と比較・検討している。

 第3編では、新しい空調制御システムとして除湿型放射冷房パネルシステムを用いる冷房方式を検討している。冷房パネル冷房方式と通常の吹出冷房及び両者の併用方式により空調される室内の温熱環境を人体モデルを含む熱輸送解析により解析し、これらシステムの得失を検討している。検討では、最も効果的な除湿型放射冷房パネルの配置計画を探るため、室内の各種のパネル配置が室内温熱環境に与える影響についても検討を行い、最適なパネル配置を提案している。また、これら空調システムの解析の他、温熱環境解析の基礎となる人体モデルの表面積、姿勢などの違いが解析結果に与える影響を検討している。

 第4編では、全体のまとめを行い、本研究の成果と今後の課題を総括している。

 研究のフローを図1に示す。

図1 研究のフロー
審査要旨

 本論文は、室内の温熱環境を人体と環境との熱輸送性状の詳しい分析から評価し、合理的な環境計画を行う手法を開発するものである。従来、周囲壁面温や室内空気温度が不均一な室内環境と人体の熱輸送性状を解析する際、対流熱伝達の解析が相対的に困難なため、対流熱伝達に関しては室温、対流熱伝達率を一定を仮定するなど簡易な解析に留まることが多かった。本論文はこれに対し、単純な形状に簡略化された人体モデルと環境との熱授受を対流、放射ともにシミュレーションを用いて詳細に解析することにより、合理的な室内の空調設計を可能とする手法を提案している。解析は精密な模型実験、並びに乱流モデルに基づく対流シミュレーションと壁間の放射熱伝達シミュレーションを連成させる手法により行っている。本論文は、解析の対象として室内の放射・対流場の不均一性が大きく顕在化すると予想される温熱空間に的を紋り、解析の有効性を検証している。精密実験により放射・対流連成解析の予測精度の鍵となる対流熱伝達率の値を様々な角度から吟味し、この検証された対流熱伝達率を用いて精度の確認された放射・対流連成シミュレーションにより解析を行っている。人体と環境の熱輸送性状を評価しているため、解析の際に人体の形状モデリングが重要な問題となる。本論文は、この点に関しても多くの注意を払い、人体モデルの頭部、腕部、脚部等各部位と環境要素との熱輸送特性を分析している。これら解析手法を様々な冷暖房制御システムを採用した温熱空間に対して適用し、この解析がこれら空調システムの性能評価に有効であることを明らかにしている。

 論文は、序編以下、本編(1〜3編)、結編(4編)よりなる。

 第1編では、「大規模ガラスホール内部の温熱・空気環境調整に関する模型実験」として、室内の対流熱輸送に着目した模型実験を行い、不均一な熱負荷発生による大空間の対流場の性状を把握し、その制御システムを検討している。特に、日射、自然換気等の有無による居住域温熱環境への影響を解析し、冬期・暖房時、日射はガラス壁からの下降気流の居住域への影響を緩和すること、夏期・冷房時には適量の自然換気は居住域の温熱環境制御に有効であることなどを確認している。

 第2編では、「床暖房居室の温熱・空気環境に関する研究」として、鉛直壁面一面がガラス窓である住宅居室空間に対し、その温熱環境を実験、シミュレーションにより解析している。検討は、窓からの大きな冷放射のある不均一放射環境での顕熱輸送性状を人体モデルを含んで行い、人体モデル各部位での放熱特性を解析している。暖房方式の違いにより、室内の顕熱輸送特性が大きく変化し、人体モデル各部位での放熱特性が大きく変わることを明らかにし、このような分析が不均一な温熱空間での暖房システムの性能評価に有効であることを示している。実験では、室内各面及び人体モデル周辺での温度境界層を細かく測定し、各壁面での局所対流熱伝達率を計測・評価している。また、各壁面表面での放射、対流熱伝達のバランスから対流熱伝達量を求め、これより対流熱伝達率を算出して局所対流熱伝達率と比較・検討している。得られた局所対流熱伝達率と平均対流熱伝達率は既往の経験式とよく対応するものの、コールドドラフトに晒される床面等複雑な流れ性状が生ずる面では工学経験式の適用が難しいことを確認している。これら実験で得られた対流熱伝達率を流体シミュレーションとの比較からチューニングし、シミュレーションで用いられる対流熱伝達率を得ている。

 第3編では、新しい空調制御システムとして除湿型放射冷房パネルシステムを用いる冷房方式を検討している。冷房パネル冷房方式と通常の吹出冷房及び両者の併用方式により空調される室内の温熱環境を人体モデルを含む熱輸送解析により解析し、これらシステムを検討している。その結果、放射冷房パネルは窓面から人体モデルへの熱放射を打ち消すように働くこと、全空気方式では窓面から人体モデルへの熱放射を押さえきれず、相対的に温熱環境が悪くなることを明らかにしている。検討では、最も効果的な除湿型放射冷房パネルの配置計画を探るため、室内の各種のパネル配置が室内温熱環境に与える影響についても検討を行い、最適なパネル配置を提案している。また、これら空調システムの解析の他、温熱環境解析の基礎となる人体モデルの表面積、姿勢などの違いが解析結果に与える影響を検討し、同じ発熱量、同じ対流熱伝達率を与えた場合でも、人体モデルによって結果の評価に差異が生じ、注意が必要となることを明らかにしている。

 第4編では、全体のまとめを行い、本研究の成果と今後の課題を総括している。

 以上を要約するに、本論文では、単純な形状に簡略化された人体モデルを室内に組み込み、放射と対流の影響を同時に考慮して不均一温熱環境の構造を解析、評価している。このような解析、評価手法は温熱環境形成の構造的な解明や室内空調等の温熱環境制御システムの評価にも有効な方法であり、建築環境工学に寄与するところ大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。

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