学位論文要旨



No 111783
著者(漢字) 金,燦浩
著者(英字)
著者(カナ) キム,チャンホ
標題(和) 技術先端型産業の地方立地に関する研究 : テクノポリス計画の評価を中心として
標題(洋)
報告番号 111783
報告番号 甲11783
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3581号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 教授 森村,道美
 東京大学 教授 小出,治
 東京大学 助教授 西村,幸夫
 東京大学 助教授 高見沢,実
内容要旨

 本論文は次のような基本的な考え方に立脚している。

 先進国であれ、途上国であれ、その方法には相違があっても産業の発展を図るため中央政府が政策を通じて産業経済に介入している。とくに、経済環境の急激な変化に対応するためには企業の努力も大事であるが、政府の役割も一層重要視されつつある。しかしこうした産業開発政策が展開されるのにつれて地域間の発展格差も深刻なものとなってきている。

 こうした地域格差問題の解決に当たって、地域開発の重要性は強調されつつある。一般的に地域開発というのは工業開発を意味しており、既存の地域の中心産業であった農業より生産性の高い工業の開発を通じて地域住民の雇用と所得を安定させることが地域開発の主な目的とされている。

 しかし、産業開発政策というのは生産に必要な施設や資金などを支援して、市場での企業の競争力を上げることを主な目標としている。従って、産業開発が中心となった立地政策は生産により適合である地域にインフラストラクチャー等を支援して生産に有利な環境を造成することである。その結果、企業はより生産環境の良い地域に立地することとなり、そうではない地域との工業開発の格差はますます拡大しつつある。また、既存の工業地域には工場が集積し過ぎているが、依然として企業においては良い生産環境を持つ地域であり、産業の集中によって提供する施設も増加しなければならない。

 これに加え、工業というのは生産する製品を変わってゆく。すなわち、より少ない材料を使ったり、高度な技術を使って、生産費を下げ、より新しい製品を作ることとなる。こうした生産方法と製品の変化は既存の立地要因とは異なる要因を求めることとなる。いわゆる先端産業というのはこのような変化の代表的なものである。一般的に先端産業は立地の制約から相対的に自由になったといわれているが、しかし先端産業であっても立地する地域によって製品の生産に係わる生産費の相違はあるはずである。こうした先端産業に有利な立地を提供することが最近の産業開発政策の目的の一つである。

 その反面、地域開発政策というのは相対的に工業の発展が進まなかった地方への工業の立地を図ることを主な目的としているが、その地方は既存の工業中心地と比べて良い立地ではない。このような地方へ工業を誘導させるためには不利な立地条件を相殺できるような税制・補助金・金融を支援し、工場の立地を促進させるのが地域開発政策である。

 このように産業開発を中心とした場合には企業の求めている地域への支援を行うべきであり、地域開発を中心とした場合には既存の集積されている地域への立地を制限し、地方に立地する企業に限られて支援が行うべきである。すなわち、二つの政策を両立させるのはしばしば困難に見舞われる。

 しかし、テクノポリス計画は先端産業開発という産業開発政策と先端産業の地方立地という地域開発政策が目的として始まることとなった。本文ではこのように両立しにくい二つの目的がテクノポリス計画中でどう溶かれていったかをみて、次のようなことを明らかにすることを具体的な目的としている。

 一番目、テクノポリス計画の推進背景である。

 二番目、テクノポリス計画の成果を評価することである。

 三番目、先端産業の立地要因を探すことである。

 こうした目的に基づいて本論文は四つの章で構成されている。

 第1章「先端産業とテクノポリス」では、テクノポリス計画の背景を調べることを基本として日本で行われた産業開発政策と地域開発政策の流れとその手段となる支援措置を概観することで、テクノポリス計画が創られるまでの政策を確認する。このような政府の政策につれ企業の立地決定に必要な要素を述べる。また、テクノポリス計画の主要対象の一つである先端産業を、指標を用いて定義する。そして、テクノポリス計画の直接的な契機となった70年代の経済環境の変化とそれに対応した企業の行動が地域にどのような影響を与えたかを指標で確認し、これを踏まえてテクノポリス計画の展開を概観する。

 第2章「テクノポリス計画の評価」では、テクノポリス計画の成果を評価することを基本としている。

 その評価基準としてまず、テクノポリス地域での通産業の定めた工業出荷額・粗付加価値額・従業員数・付加価値生産性の伸び率を全国とテクノポリス地域の平均を基準として評価する。また、テクノポリス地域だけではなく、そのテクノポリスが属している県の成果をテクノポリスの成果と比較しながらテクノポリス地域指定がもたらした地域の工業発展に対する成果を評価する。そして、テクノポリス地域及び属している県への工場の立地現況を通じてテクノポリス計画の主な推進戦略である先端産業の工場の誘致がどのような成果を上げたかを確認する。

 第3章「先端産業の立地要因」では、先端産業の立地の地域別分布を確認することで先端産業の立地が生産に必要な生産要素の分布とつながっていることを述べる。また、先端産業の立地特性を投資・取引先・地域指定を考察しながら明らかにする。そして、先端産業の立地地域選定理由と立地地点選定理由の分析を行って、その結果を通産省が先端産業の立地条件として定めたことと比べることを通じて先端産業の地方への立地を促す方策に関して論じる。

 第4章「新潟県の事例研究」では、テクノポリス地域指定の効果を新潟県の事例で確認する。2章と3章での分析結果に基づいて新潟県内の信濃川テクノポリス地域の成果を評価し、それがテクノポリスとしての地域指定によるものか、あるいは他の要因によるものであるかを検証する。また、新潟県への先端産業の立地に影響を与えた要因を検証し、地方への先端産業の立地を進める方策を論じる。

 テクノポリス計画を成功的に遂行させるためには何よりも先端業種が求めている立地条件を把握して、立地条件が不十分な地域にはもっと支援措置を強化させるなど、差別的な政策によって良い立地条件を備えてない地域にも先端産業の工場が立地できるような政策が求められている。

 このような政策をつくるためには先端産業が求めている立地条件を堀探す必要がある。この分析で用いられた資料は通産省で行われた工場立地動向調査であり、1980年から1992年まで立地した3,764件の先端産業の工場を対象とした分析結果、先端業種が立地地域を選定するのにおいて何よりも地域社会との連係を重視していることがわっかた。それから付帯施設の利用、工業用水の確保、原材料の確保、製品出荷地への近接の順となっている。また、立地地点選定理由は地域釈迦との連係、インフラの整備、原材料の確保の順となっている。

 分析結果をテクノポリス計画を打ち立てるとき通産省から提示された地域指定条件と比べた結果、通産省の提示した地域指定基準より労働力の確保、市町村の斡旋、地元であるという理由の割合が大きく、先端産業の地方への誘致のためには何よりも地域の協調が必要であることを示している。このように先端産業はインフラストラクチャーのような既存の産業の立地において重要視されていた立地条件とは異なる立地条件を求めており、これが先端産業を地方に立地する可能性を高くすることである。すなわち、既存の工業地帯と比べて劣悪なインフラストラクチャーを持っている地方において先端産業がインフラストラクチャーの制約から比較的に自由になったのは地方の誘致努力によって他の産業の比べてよりやすく誘致できることとなったということを意味する。これがテクノポリス計画を打ち立てたときの地域開発のためのねらいである。

 次のようなことを先端産業の地方への立地を進めるための方策として提示したい。

 一番目、物理的な要因は先端産業の立地に与える影響が少ないからインフラストラクチャーなどの整備による先端産業の立地はあまり効果が高くない。

 二番目、立地企業と地域社会との連係を高めるために地域社会と企業をつなげる組織の設置が必要であり、また、工場の誘致に対する地域住民と自治体の協調が裏付ける必要がある。

 三番目、地域開発を図るため創られた地域開発政策はこれまで何度も行われたが、工場の立地を促進するため使われた支援措置は多い。そのため、新しく実施される地域開発政策には以前よりもっと多くの支援措置を提示しなければ企業にはあまり効かなくなり、このような政策の繰り返しは結局政策の効果を失うこととなると言うことである。

審査要旨

 本論文は産業立地政策の評価を、わが国のテクノポリス計画を対象として行ったものである。比較的新しい計画であるため、これまで計画を紹介したり、実態を整理する観点からの論文は多かったものの、定量的な評価まで行った研究は少なかった。この意味で、この分野の研究の先駆けであると同時に、研究で得られた知見も有益なものである。

 この論文は

 (1)テクノポリス計画の推進背景

 (2)テクノポリス計画の成果の評価

 (3)先端産業の立地要因を論ずることを目的としている。

 こうした目的に基づいて本論文は四つの章で構成されている。

 第1章「先端産業とテクノポリス」では、テクノポリス計画の背景を調べることを基本として日本で行われた産業開発政策と地域開発政策の流れとその手段となる支援措置を概観することで、テクノポリス計画が創られるまでの政策を確認している。また、テクノポリス計画の主要対象の一つである先端産業を、指標を用いて定義した。そして、テクノポリス計画の直接的な契機となった70年代の経済環境の変化とそれに対応した企業の行動が地域にどのような影響を与えたかを指標で確認し、これを踏まえてテクノポリス計画の展開を概観している。

 第2章「テクノポリス計画の評価」では、テクノポリス計画の成果を評価している。その評価基準としてまず、テクノポリス地域での通産省の定めた工業出荷額・粗付加価値額・従業員数・付加価値生産性の伸び率を全国とテクノポリス地域の平均を基準として評価した。また、テクノポリス地域だけでなく、そのテクノポリスが属している県の成果をテクノポリスの成果と比較しながらテクノポリス地域指定がもたらした地域の工業発展に対する成果を評価した。

 第3章「先端産業の立地要因」では、先端産業の立地の地域別分布を確認することで先端産業の立地が生産に必要な生産要素の分布とつながっていることを述べている。そして、先端産業の立地地域選定理由と立地地点選定理由の分析を行い、その結果を通産省が先端産業の立地条件として定めたことと比べることを通じて先端産業の地方への立地を促す方策に関して論じている。

 第4章「新潟県の事例研究」では、テクノポリス地域指定の効果を新潟県の事例で確認した。2章と3章での分析結果に基づいて新潟県内の信濃川テクノポリス地域の成果を評価し、それがテクノポリスとしての地域指定によるものか、あるいは他の要因によるものであるかを検証している。

 本論分のデータ分析で用いられた資料は通産省で行われた工場立地動向調査であり、1980年から1992年まで立地した3,764件の先端産業の工場を対象とした分析結果、先端業種か立地地域を選定するのにおいて何よりも地域社会との連携を重視していることを示した。それから付帯施設の利用、工業用水の確保、原材料の確保、製品出荷地への近接の順となっている。また、立地地点選定理由は地域社会との連携、インフラの整備、原材料の確保の順となっている。

 分析結果をテクノポリス計画を打ち立てるとき通産省から指示された地域指定条件と比べた結果、通産省の指示した地域指定基準より労働力の確保、市町村の斡旋、地元であるという理由の割合が大きく、先端産業の地方への誘致のためには何よりも地域の協調が必要であることを示している。

 こうした分析の結果、本論分では結論として、次のことを先端産業の地方への立地を進めるための方策として示した。

 第一に、物理的な要因は先端産業の立地に与える影響が少ないからインフラストラクチャーなどの整備による先端産業の立地はあまり効果が高くない。

 第二に、立地企業と地域社会との連携を高めるために地域社会と企業をつなげる組織の設置が必要であり、また、工場の誘致に対する地域住民と自治体の協調が裏付けられる必要がある。

 第三に、地域開発を図るために創られた地域開発政策はこれまで何度も行われたが、工場の立地を促進するため使われた支援措置は多い。そのため、新しく実施される地域開発政策には以前よりもっと多くの支援措置を提示しなければ企業にはあまり効かなくなり、このような政策の繰り返しは結局政策の効果を失わせる恐れがある。

 以上本論分は、わが国の最新の産業立地政策であるテクノポリス政策を定量的に評価して結論を導くことに成功しており、優れた研究として評価できる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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