学位論文要旨



No 111789
著者(漢字) 金,在徹
著者(英字)
著者(カナ) キム,ゼェチョル
標題(和) 機器の加振力によって支持構造物に供給される振動パワーの推定に関する研究
標題(洋)
報告番号 111789
報告番号 甲11789
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3587号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大野,進一
 東京大学 教授 田中,正人
 東京大学 助教授 金子,成彦
 東京大学 助教授 鎌田,実
 東京大学 助教授 須田,義大
内容要旨

 本論文は7章より成る.

 第1章「序論」では,研究の背景及び目的を述べている.機器の加振力によって支持構造物が振動して放射する固体伝搬音の予測手法として,統計的エネルギ法が広く用いられるが,統計的エネルギ法を用いる場合,機器から支持構造物に供給される振動パワーの大きさを知る必要がある.そこで振動パワーの予測に関する従来の研究を調査した上で,新しい予測手法を提案することを目的とすると述べている

 第2章「推定理論」では,本研究で提案する振動パワーの推定方法の理論的裏付けを示している.機器から支持構造物に供給される振動パワーは,機器と支持構造物が結合されている点に作用する力とその方向の速度によって求めることができる.しかし,機器と支持構造物の間に生じる力を測定することは一般に困難なため,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスと速度を用いて,実験的に推定する方法について研究を進めることとしている.ここで,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスを,機器と支持構造物との結合状態に何等の変更も与えないで求める方法を研究するものとしている.2.2節では支持構造物に供給される振動パワーの計算式を示している.まず機器と支持構造物が1点で結合されている場合の計算式を示し,次に機器と支持構造物が多点で結合されている場合の計算式と直交3軸方向についての計算式を示している.2.3節では支持構造物に供給される振動パワーの推定方法について説明している.2.4節では,機器と支持構造物が結合されたまま,両者を分離せずに,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスを推定する方法の理論的裏付けを述べている.支持構造物上の結合点の機械インピーダンスの推定は,機器と支持構造物が結合された状態で,機器上と支持構造物上に加振力を加えるとき,測定できる振動応答を用いて行っている.まず機器と支持構造物をモデル化し,加振実験における力と速度の関係を構造物のモビリティを用いて表現している.つぎに加振実験によって測定できる結合構造物のモビリティを用いて,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスを求める式を導いている.

 第3章「理論計算」では,第2章で提案した支持構造物上の結合点の機械インピーダンスの推定式と振動パワーの推定方法について,理論計算モデルを用いて妥当性を確認している.3.2節では,機器,防振装置及び支持構造物のモデルについて説明している.モデルは二つのはりが2組の並列のばね,ダンパによって,2段に支持されているものである.3.3節では,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスと支持構造物に供給される振動パワーを推定する手順について説明している.本計算では,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスについて,機器と支持構造物が分離された状態での理論値と,機器と支持構造物が結合された状態での推定値を求めることができる.また,振動パワーについて,結合点に生じる力と速度を用いた理論値と,結合点の速度と機械インピーダンスの推定値を用いた推定値を求めることができる.3.4節では,結合構造物のモビリティ,支持構造物上の結合点の機械インピーダンス及び結合点の速度の計算方法について説明している.3.5節では,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスと供給振動パワーの理論値と推定値を比較して,本研究で提案した推定理論の妥当性を確認している.

 第4章「実験」では,本研究で提案した支持構造物上の結合点の機械インピーダンスの推定式と機器から支持構造物に供給される振動パワーの推定方法の有効性を確認するため行った実験について説明している.その際,機器から生じる振動パワーは,一般に直交3軸方向に供給されるので,本実験では,振動パワーが支持構造物上の結合点を通じて垂直方向で供給される場合と,主として水平方向で供給される場合について,供給振動パワーの測定と推定を行うため,2種類の実験装置を製作している.4.2節では,振動パワーが支持構造物上の結合点で垂直方向に供給される場合について行った実験について説明している.4.3節では,振動パワーが支持構造物上の結合点で水平方向に供給される場合について行った実験について説明している.

 第5章の「実験結果を用いた検討」では,第4章で行った実験結果を用いて,本研究で提案した支持構造物上の結合点の機械インピーダンスの推定式と機器から支持構造物に供給される振動パワーの推定方法の有効性を検討している.5.2節では,垂直方向の加振力を考慮した場合の実験の結果を用いて,以下のことを確認している.(1)加振実験から測定した結合構造物のモビリティを用いて,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスが推定できる.(2)機器と支持構造物が結合されている状態で,結合点の速度の測定値と結合点のモビリティの推定値を用いて機器から支持構造物に供給される振動パワーが推定できる.(3)機器と支持構造物が多点で結合されている場合,他結合点の影響を無視する近似的方法を用いて供給振動パワーが推定できる.5.3節では,水平方向の加振力を考慮した場合の実験結果を用いて,以下のことを確認している.(1)加振実験から測定した結合構造物のモビリティを用いて,支持構造物上の結合点の機械インピーダンス推定ができる.(2)機器と支持構造物が結合されている状態で,水平方向の結合点の速度の測定値と結合点のモビリティの推定値を用いて機器から支持構造物に水平方向で供給される振動パワーが推定できる.(3)機器と支持構造物が多点で結合されている場合,他結合点の影響を無視する近似的方法を用いて供給振動パワーが推定できる.

 第6章「支持構造物上の結合点間の相互影響」では,振動パワーの計算方法とモビリティの定義を用いて,各結合点に作用する力が他の結合点に及ぼす影響を調べることを目的としている.機器と支持構造物が多点で結合されている場合では,機器から支持構造物に供給される振動パワーは,支持構造物上の結合点間の相互影響があり,ある結合点を通じて供給される振動パワーは負になる場合が生じる.しかし,その場合でも,各結合点の振動パワーの合計は正になり,機器から発生した振動パワーは全体的に支持構造物上の結合点を通じて供給されることを示している.6.2節では,ある一つの結合点において,その結合点に作用する力と他の結合点に作用する力による振動パワーを分離して計算する方法を述べている.6.3節では,第3章で使用した支持構造物の理論モデルを用いて,6.2節で導いた振動パワーの計算方法に従って,ある一つの結合点での速度と振動パワーを計算している.6.4節では,理論計算の結果及び考察について述べている.6.5節では,簡単な実験装置を用いて,他結合点の影響によって構造物に供給される振動パワーが負になる結合点が存在することを確認している.

 第7章「結論」では,第2章から第6章までの理論計算と実験より得られた本研究の結論をまとめて述べている.

審査要旨

 本論文は,「機器の加振力によって支持構造物に供給される振動パワーの推定に関する研究」と題し,7章よりなる.

 第1章は, 「序論」と題し,研究の背景及び目的を述べている.機器の加振力によって支持構造物が振動して放射する固体伝搬音の予測手法として,統計的エネルギ法が広く用いられるが,統計的エネルギ法を用いる場合,機器から支持構造物に供給される振動パワーの大きさを知る必要がある.そこで振動パワーの予測に関する従来の研究を調査した上で,新しい予測手法を提案することを目的とすると述べている.

 第2章は, 「推定理論」と題し,本研究で提案する振動パワーの推定方法の理論的裏付けを示している.機器から支持構造物に供給される振動パワーは,機器と支持構造物が結合されている点に作用する力とその方向の速度によって求めることができる.しかし,機器と支持構造物の間に生じる力を測定することは一般に困難なため,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスと振動速度を用いて,実験的に推定する方法について研究を進めることとしている.ここで,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスを,機器と支持構造物との結合状態に何等の変更も与えないで求める方法を研究するものとしている.支持構造物上の結合点の機械インピーダンスの推定は,機器と支持構造物を分離せずに結合したままで,機器上と支持構造物上に加振力を加えるとき測定できる振動応答を用いて行っている.まず機器と支持構造物をモデル化し,加振実験における力と速度の関係を構造物のモビリティを用いて表現している.つぎに加振実験によって測定できる結合構造物のモビリティを用いて,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスを求める式を導いている.

 第3章は,「理論計算」と題し,第2章で提案した支持構造物上の結合点の機械インピーダンスの推定式と振動パワーの推定方法について,理論計算モデルを用いて妥当性を確認している.モデルは二つのはりが2組の並列のばね,ダンパによって,2段に支持されているものである.まず,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスについて,機器と支持構造物が分離された状態での理論値と,機器と支持構造物が結合された状態での推定値を求めている.また,振動パワーについて.結合点に生じる力と速度を用いた理論値と,結合点の速度と機械インピーダンスの推定値を用いた推定値を求めている.この機械インピーダンスと振動パワーの理論値と推定値を比較して,本研究で提案した推定理論の妥当性を確認している.

 第4章は,「実験」と題し,本研究で提案した支持構造物上の結合点の機械インピーダンスの推定式と機器から支持構造物に供給される振動パワーの推定方法の有効性を確認するため行った実験について説明している.その際,機器から支持構造物に供給される振動パワーは,一般に直交3軸方向に供給されるので,本実験では,振動パワーが支持構造物上の結合点を通じて垂直方向で供給される場合と,主として水平方向で供給される場合について,供給振動パワーの測定と推定を行うため,2種類の実験装置を製作している.その実験装置と測定方法について説明している.

 第5章は,「実験結果を用いた検討」と題し,第4章で行った実験結果を用いて,本研究で提案した支持構造物上の結合点の機械インピーダンスの推定式と機器から支持構造物に供給される振動パワーの推定方法の有効性を検討するため,以下のことを確認している.(1)加振実験から測定した結合構造物のモビリティを用いて,支持構造物上の結合点の機械インピーダンスが推定できる.(2)機器と支持構造物が結合されている状態で,結合点の速度の測定値と結合点のモビリティの推定値を用いて機器から支持構造物に供給される振動パワーが推定できる.(3)機器と支持構造物が多点で結合されている場合,他結合点の影響を無視する近似的方法を用いて供給振動パワーが推定できる.

 第6章は,「支持構造物上の結合点間の相互影響」と題し,振動パワーの計算方法とモビリティの定義を用いて,各結合点に作用する力が他の結合点に及ぼす影響を調べることを目的とし,振動パワーについて行った理論計算と実験について説明している.機器と支持構造物が多点で結合されている場合では,機器から支持構造物に供給される振動パワーは,支持構造物上の結合点間の相互影響があり,ある結合点を通じて供給される振動パワーは負になる場合が生じる.しかし,その場合でも,各結合点の振動パワーの合計は正になり,機器から発生した振動パワーは全体的に支持構造物上の結合点を通じて供給されることを示している.

 第7章は、「結論」と題し,本論文の第2章から第6章までの理論計算と実験より,得られた本研究の結論をまとめて述べている.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク