学位論文要旨



No 111794
著者(漢字) 永井,英幹
著者(英字)
著者(カナ) ナガイ,ヒデキ
標題(和) 分布適合型乱数を利用した順応型要素再分割による有限要素解析の高精度化に関する研究
標題(洋)
報告番号 111794
報告番号 甲11794
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3592号
研究科 工学系研究科
専攻 機械情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 酒井,信介
 東京大学 教授 中桐,滋
 東京大学 教授 久田,俊明
 東京大学 助教授 吉村,忍
 東京大学 助教授 吉川,暢宏
内容要旨

 近年の計算機能力の飛躍的な向上を背景として,従来は実験的検討しかなし得なかった複雑な工学問題の多くが計算機によって数値的に解明できるようになりつつあり,有限要素法はその中心的な役割を担い非常に幅広い分野で利用されている.しかし,有限要素解析に対しては,従来の研究者の関心は主として計算技法の開発・改良に注がれてきた.ところが,大規模構造物の詳細解析の需要が高まり数十万自由度の解析が必要になるに及び,解析を行う際のかなりの労力が有限要素モデルの生成段階に費やされ,計算技法の研究に加えて効率的なメッシュの自動分割手法の開発なくしては前進が困難な状況になっている.加えて,宇宙構造物・ドームなどの大変形問題では,変形過程でのメッシュのゆがみが許容量を越え,何らかの要素整形がなされない限り精度良い解析は困難である.従って計算手法の開発と平行して,効率的なメッシュ自動生成機構やメッシュ形状の自動改良機構が不可欠となっている.本論文は,このような背景のもと,解析に適したメッシュを生成することができる順応型要素再分割手法を,乱数を用いた技法により,効率的に自動化を行い,メッシュ生成に関する労力の削減を実現するとともに,順応型の要素再分割を行うことによる有限要素解析の高精度化に関する研究を行ったものである.

 本論文は,以下に示すように,全7章にて構成されている.

 第1章「序論」では,研究の背景および目的を明らかにするとともに,有限要素解析における自動要素分割に関する従来の研究について問題点を指摘した.自動要素分割手法には,自動であること,入力データが少量であること,ゆがんだ形状の要素を生成しないこと,総自由度数が制御できること,任意形状に対応可能であること,短時間に終了できること,などに加えて解析の精度を左右する重要な点として,

 ・対象の応力状態に応じてメッシュの粗密が適切に制御されること.

 ・隣り合う要素間において,急激な要素サイズの変動がないこと.

 が求められるが,これらの項目を,二次元問題のみならず三次元問題においても,そのアルゴリズムが複雑になる事なくそのまま対応できる手法はいまだ確立されていない.そこで本研究では,節点発生過程について二次元・三次元を問わず上記要件を満たす手法を確立し,その手法を順応型要素再分割へと適用するという手順で研究を進めることとした.

 第2章「分布適合型乱数を利用した節点発生」では,まず節点発生段階に着目し,モンテカルロ法の適用の定式化を行い,それに基づき,節点密度関数が与えられた場合に,その節点密度に適合した節点を発生させる方法の提案を行っている.メッシュ密度が滑らかに変化する要素を生成するためには,対象領域内部にて連続に分布するメッシュサイズ分布を設定し,その分布に従ったメッシュを生成する必要がある.この際に,与えられた分布どおりに節点を配置する技法が必要とされ,任意の確率密度を持つ乱数列を発生する技法を用いてこの要求を満たす手法の確立を行ったものである.さらに,本手法は二次元問題と三次元問題に同一原理で対応でき,三次元問題への拡張が容易であるという利点を有していることが示されている.

 本章で提案した手法は,以下のすべての章において,各章において開発する手法の根幹となる.

 第3章「二次元弾性問題における順応型自動要素再分割への適用」では,第2章で開発された節点発生技法の二次元問題における自動メッシュ分割への適用を行った.この節点発生手法は,任意に設定された節点密度関数に適合するように節点を発生する方法であり,その応用例として順応型自動要素再分割へと適用したものである.まず,あらかじめ準備された初期メッシュを用いた粗解析の結果に対する誤差評価から節点密度関数を算出する過程を確立し,第2章の節点発生手法と結び付ける.さらに,第2章の手法による節点発生後,計算幾何学の手法の利用により,良好な形状の三角形要素へと節点を連結し,要素生成を行った.順応型の要素再分割を行うことにより,メッシュの粗密は適切に制御されるが,本研究の節点発生原理を利用することにより,滑らかなメッシュサイズ変化が実現される.さらに,本手法によりメッシュ生成を行い,節点数8という極端に粗い初期メッシュから2回の再分割により適切なメッシュへと到達できること,さらに,極端に粗いメッシュでなければどのような初期メッシュを用いても1回の再分割で相対誤差値の小さなメッシュが自動生成されることを示し,その結果,少ない自由度数で高精度な解析が行われることを確認した.

 第4章「三次元弾性問題における順応型要素再分割への拡張」では,第3章で確立した順応型自動要素分割手法を,より現実的な問題への対応をすべく,三次元問題への拡張を行った.第3章と同様に,まず初期メッシュを用いた粗解析結果に対する誤差評価からの節点密度関数算出の過程を確立し,第2章の手法により節点発生を行った.ここで,節点発生手法の三次元への拡張の容易さという利点が生かされる.ただし,境界面上に節点を配置する段階については,二次元問題と比較して複雑になるため,新たに領域内部の節点情報を利用して境界面上に節点を発生させる手法を導入した.さらに,発生した全節点を計算幾何学の手法を利用して四面体要素へと結合する.以上により,三次元の順応型自動要素再分割手法への拡張が行われ,実際に精度が向上していることを確認した.

 このように,いまだ一般的に広く通用する高精度で手間の小さな要素分割手法の確立されていない三次元問題においても,二次元問題時と同様なアルゴリズムで,適切な要素生成が行わることが示された.

 第5章「高次要素を用いた順応型要素再分割への適用」では,第3章で確立した手法の高次要素の要素再分割手法への適用を行った.本研究の節点発生原理は高次要素を扱う問題へ一般化することができるが,具体例としては二次要素を生成する手法を示し,第3章で得られた要素よりも,さらに相対誤差が減少した優れたメッシュが生成されていることを示した.その際,初期メッシュとして一次要素,二次要素両方を用いて比較した結果,ほぼ同様な精度のメッシュが生成され,初期メッシュとして一次要素の単純なメッシュを用意すれば十分であるという結果が示された.

 高次要素による要素再分割をすれば高精度な解析を行うことが可能となるが,望ましい粗密を保ったまま高次要素の生成を行う作業に手間がかかってしまっては,精度良い解析を行うという目的は達成されても,メッシュ生成に費やされる膨大な労力,すなわち有限要素解析のボトルネック解消という根本の目的に反する.本章の提案手法は,第2章の乱数による節点発生方法を利用して,高次要素の生成を手軽に自動で行う手法であり,高速さ,三次元への拡張の容易さ,といった利点は全て受け継いでおり,その有用性が指摘できる.

 第6章「対象領域を部分的に制限したアダブティブ・リメッシング」では,解析対象領域全体をリメッシングの対象とするのではなく,必要な部分に限りリメッシングを実行する手法について検討を行った.対象として三次元問題を念頭に置く場合,たとえ大規模構造物でなくとも,わずかなメッシュ細分化により総自由度数は大幅な上昇をみせる.膨大なデータを対象としてリメッシングを行うことは,決して適切なこととは言えず,データ量を押さえる方向の努力が必要である.また,き裂進展問題のように状況の変化が局所的に限られる問題の場合,リメッシングの必要がない領域まで対象として要素再生成を行うことは無駄な作業を含んでいることになる.

 本章では,リメッシングの対象とする領域を部分的に必要な領域のみに制限した場合でも,第2章の節点発生方法が任意形状に対応可能である利点を生かし,対象領域設定およびそれに引き続く節点密度関数の設定に手間取ることなく節点発生を行うことができることを示した.さらに,第3章において領域全体をリメッシングした事例と比較して,相対誤差値が低下していることを確認し,高精度を与える適切なメッシュが少ない手間で得られることが示されている.

 第7章「総括」では,本研究によって得られた主要な結論を述べるとともに,非線形問題への対応等の今後の展望を示し,本論文のまとめとしている.

 以上,本論文では,任意な分布形に適合した乱数を生成する技法を利用して節点発生を行う手法を提案し,この節点発生法を用いて,適切なメッシュを生成することができる順応型要素再分割手法を,二次元・三次元双方において滑らかなメッシュサイズ変動を実現した上で,自動化を行ったものである.本研究の結果,現在の有限要素解析を行う上でのボトルネックとなっている要素分割段階においてその負担の軽減を実現し,なおかつ,高精度な解析を達成している.

 したがって,工学的に有用な研究であると結論づけることができる.

審査要旨

 本研究は、有限要素法において精度よく解析を実行するために不可欠な、適切な粗密を有するメッシュ生成手法を,三次元問題においても二次元問題時と同様な手順で実現できる一般性のある手法として開発を行ったものであり、加えて、さらなる高精度化・効率の上昇のための検討も行っている.

 本論文は、以下に示すように、全7章にて構成されている。

 第1章「序論」では、研究の背景および目的を明らかにするとともに、従来の自動要素分割手法について問題点を指摘し、研究の方針を明らかにしている。

 第2章「分布適合型乱数を利用した節点発生」では、まず節点発生段階に着目し、モンテカルロ法の適用の定式化を行い、節点密度関数が与えられた場合に、その節点密度に適合した節点を発生させる方法の提案を行っている。本手法は二次元問題と三次元問題に同一原理で記述できる汎用性のある方法であることが述べられている。従って、一般に困難とされる三次元問題への拡張が容易であるという利点が生まれることが強調されている。

 第3章「二次元弾性問題における順応型自動要素再分割への適用」では、第2章で開発された節点発生技法の二次元問題における順応型要素再分割への適用を行い性能の検証を行なっている。順応型要素再分割において初期メッシュの粗解析の結果に対していかにして正確に誤差評価を行なうかという追求を行なう一方で、誤差評価分布の再分割メッシュへの適切な反映も重要であり、この段階に本研究で開発された乱数を用いた節点発生手法が性能を発揮することが述べられている。まず、あらかじめ準備された初期メッシュを用いた粗解析の結果に対する誤差評価から節点密度関数を算出する過程を確立し、第2章の節点発生手法と結び付ける。さらに、第2章の手法による節点発生後、計算幾何学の手法の利用により、良好な形状の三角形要素へと節点を連結し、要素生成を行っている。本手法によるメッシュ生成の結果、少ない自由度数で高精度な解析が行われることが確認されている。

 第4章「三次元弾性問題における順応型要素再分割への拡張」では、第3章で確立した順応型自動要素分割手法を、より現実的な問題への対応を念頭において、三次元問題への拡張を行っている。本手法の中心となる節点発生段階が二次元・三次元問題に関わらず、同一原理であるため、三次元問題への拡張が容易であることを述べるとともに、実問題への適用を通して、実際に精度が向上していることを示している。このように、いまだ一般的に広く通用する高精度で手間の小さな要素分割手法の確立されていない三次元問題においても、二次元問題時と同様なアルゴリズムで、適切な要素生成が行わることが示された。

 第5章「高次要素を用いた順応型要素再分割への適用」では、第3章で確立した手法の高次要素の要素再分割手法への適用を行い、性能の検証を行なっている。本研究の節点発生原理は高次要素を扱う問題へ一般化することができるが、具体例としては二次要素を取り上げている。その結果、第3章で述べた線形要素よりも、さらに相対誤差が減少した優れたメッシュが生成されていることを示している。その際、初期メッシュとして一次要素・二次要素両方を用いて比較した結果、ほぼ同様な精度のメッシュが生成され、初期メッシュとして一次要素の単純なメッシュを用意すれば十分であるという結果を示している。

 第6章「対象領域を部分的に制限したアダブティブ・リメッシング」では、解析対象領域全体をリメッシングの対象とするのではなく、必要な部分に限りリメッシングを実行する手法について検討を行っている。対象とする領域が複雑な形状になる場合でも、第2章の節点発生方法が任意形状に対応可能である利点を生かし、節点発生を行うことができることを示している。さらに、第3章において領域全体をリメッシングした事例と比較して、相対誤差値が低下していることを確認し、高精度を与える適切なメッシュが少ない手間で得られることを示した。

 第7章「総括」では、本研究によって得られた主要な結論を述べるとともに、今後の展望を示し、本論文のまとめとしている。

 以上、本論文では、任意な分布形に適合した乱数を生成する技法を利用して節点発生を行う手法を提案し、この節点発生法を用いて,適切なメッシュを生成することができる順応型要素再分割手法を、二次元・三次元双方において滑らかなメッシュサイズ変動を実現した上で、自動化を達成したものである。本研究の結果、有限要素法のエキスパート以外の解析者にも、簡単なモデル生成、高精度解析への道を開くとともに、今日重要性を増している、疲労き裂進展自動解析をも可能にした。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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