環境問題の高まりに伴い、衝突、座礁などの事故に対する船体構造強度の研究は数多く行われてきた。しかしながら、衝突、座礁による船体構造の破壊形態は不明な点が多く、事故時の船体強度を評価できる実用的な解析手法はまだない。従って、本研究では次の二点を目的とした。まず、基本的な構造物、つまり板構造の衝突挙動を解明する。研究の結果、新しく特定された崩壊モードも予測できるようになり、衝突時構造物の特性に関する知識をさらに拡大する。次に、合理的かつ簡単な船体構造強度を評価できる簡易計算システムを構築する。妥当な破壊モデルは最も重要であるため、事故データなどを基にして衝突、座礁の破壊モデルを作ることにした。そして、得られた簡易計算式を組み合わせて、衝突、座礁現象を予測できる方法を提案した。 船は複雑な構造システムとなっている。構造部材は板構造と見なしてもよい。さらに、全船の挙動は各板部材のマクロな表現となる。従って、衝突時板構造の挙動を解明するのは衝突座礁研究の原点となる。この部分の研究は被衝突構造の特性を検討するため、構造力学の基本問題でもある。 今までの事故データ、従来の関連実験を参考にして、最も重要な構造崩壊モードをいくつか特定している(tearing of plate,concertina tearing of plate,denting of plate,penetration of plate,stretching of plate,axial crushing of thin-walled structure)。これらの崩壊モードは新しく特定されたモードであるため、従来の研究では充分検討されていない。特定された崩壊モードは理想化することができる。吸収エネルギーに注目して、二次的な影響、つまり弾性、fractureなどを無視することにする。塑性理論を用いた結果、簡易計算式を求めることができた。本論文では、実用性を最も重視するので、力学的な合理性と数学的な簡易性の間のバランスを取るべきで、closed-formな式が一番望ましい。 構造の強度は衝突物の形状に強く依存する。が、今までの研究はこの問題を充分認識されていないので、従来の荷重のケース、集中荷重か分布荷重かに理想化されている。この問題を検討する第一歩として、penetration of plateモードの場合球体衝突物、stretching of plateモードの場合柱体衝突物を設けて解析を行っている。増やされたパラメータは一つだけ(半径)であるが、衝突物の形状は構造の強度に対して大きな影響を持つことが確認できている。この研究は集中荷重、分布荷重と違って、新しい荷重ケースの検討ともなっている。 以上の検討は本研究の基礎で、実験結果と比較してその有効性は確認された。新しく求めた計算式は表1にまとめてある。 表1 全船の強度を評価する一貫した簡易計算法がまだないので、基本的な構造崩壊モードに基づく簡易解析手法を提案する必要がある。船舶の衝突箇所によって衝突座礁現象は座礁、船側衝突、船首衝突の三つの問題(図1参照)に分けられる。それぞれの現象が起きる場合、構造の崩壊形状、破壊の進展は違うので、各ケースに分けて計算手法を提案している。計算手法を簡易化するために、構造は直接圧縮されないうちは変形しないとし、構造破断は平均歪が一定の値になって発生すると仮定している。合理的な崩壊モデルは簡易解析手法にとって最も重要なので、本研究では衝突座礁事故のデータ、或いは関係実験の過程を参考にして、それぞれのシナリオに対して構造破壊のモデルを提案することにしている。そして、各構造部材の崩壊モードの計算式を組み合わせて全船の強度を予測する。 図1 座礁時の荷重は面内荷重と面外荷重の二種類がある。面外荷重の場合は船側横造の破壊と似ている。面内荷重を受ける船底構造はrakingによって破壊される。この問題に対する予測方法が確立されていない。MITの手法ではuni-directionally stiffened double hullに対応しているが、通常のdouble hullに適用しにくい。従って、本研究は簡単な計算手法を提案した。 船底構造が周期性を持つことから見ると、船底の抵抗力にも周期性があると考えられる。よって、計算はフロアから次のフロアまでの一周期の範囲に対して行う。構造崩壊モードはtearing of plate,concertina tearing of plate,denting of plate,strentching of plateの四形態を考慮した。岩の形状は千差万別であるため、全ての可能性を考慮するのは設計上意味がないと考えられ、簡単な形状を設けることにした。 船側衝突も同じく事故と実験のデータを参考にして、船側構造の逐次的な破壊モデルを導入する。従来の簡易手法と違って、衝突物の形状をも考慮している。衝突物の形状がかなりの影響があるからである。幾何学的なパラメータとして、衝突物先端の半径を導入している。外板はpenetrationモデル、girderなど衝撃力と平行である部材はdentingモデルとしている。計算結果を従来の実験結果と比較してその有効性を示した。 船首衝突問題に関する研究は数多くあるが、簡易式に基づく手法はまだない。本研究では、まず構造の傾斜の影響を考慮できる計算手法を提案した。そして、構造の圧壊強度の特性を利用してこの方法から簡易計算式を求めた。つまり、船首の衝突強度は断面積、降伏応力、エネルギー吸収係数と傾斜係数の積となる。実験結果と比較して、両方法が有効であることが分かった。 これらの手法の提案によって、衝突座礁時における全船の構造強度はかなり簡便に予測できるようになった。 |