学位論文要旨



No 111812
著者(漢字) 小西,聡
著者(英字)
著者(カナ) コニシ,サトシ
標題(和) マイクロセルアレイによる並列協調運動システムに関する研究
標題(洋)
報告番号 111812
報告番号 甲11812
学位授与日 1996.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第3610号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 原島,文雄
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 教授 鳳,紘一郎
 東京大学 教授 中谷,一郎
 東京大学 助教授 堀,洋一
 東京大学 助教授 平本,俊郎
内容要旨

 半導体エレクトロニクスの驚異的な微細化を実現した技術を機械加工に援用したのがマイクロマシンの研究の始まりである。マイクロマシンは"小さい"という特徴をもつ半面、単体では発生力も小さく、動きも往復、回転といった単純なものに限られている。そこで小さなアリが大勢集まって大きな仕事を実現するように、マイクロマシンを群れとして利用することが有効であると考える。(1)アクチュエータ/センサ/電子回路の集積・一体化、(2)微小デバイスの一括大量生産、といったマイクロマシーニング技術の特徴を用いれば、シリコン基板上に知能を備えた賢いマイクロマシンの群れ(マイクロセルアレイによる並列協調運動システム)を作製することが可能である。本研究ではマイクロセルアレイによる並列協調運動システムとして"面内搬送システム"を取り上げ、制御系(ソフト)・駆動系(ハード)の両面から研究を行なった。

 制御系の研究においては、自律分散型のシステムを構成することを考え、アクチュエータ/センサ/回路により知能化されたマイクロセル(特徴(1)の利用)を多数碁盤目上に配置した(特徴(2)の利用)面内搬送システムを構成することを提案した。設計したシステムの制御・構成手法をシミュレーションにより検証し、さらに制御回路アレイとして実現した。

 駆動系の研究では、流体を利用したエアノズル型アクチュエータを開発し、面内搬送システムを構成した。製作した数百m角の大きさのエアノズル型アクチュエータは、静電引力駆動弁によって面上に吹き出す気流の方向を制御することができる。7x9個のアクチュエータアレイから構成された2mmx3mmの一次元(二方向)搬送システムを製作し、さらに二次元(四方向)搬送タイプ(6x6個のアクチュエータアレイ、大きさ8mmx8mm)の実現に発展させた。

 提案したマイクロセルアレイによる並列協調搬送システムを構成するために、実現した制御系と駆動系の統合を行い、マイクロマシンの特徴を生かしたシステムの"ひとつの形"を実証した。

審査要旨

 本論文は、「マイクロセルアレイによる並列協調運動システムに関する研究」と題し、マイクロマシンのシステム構造に関し、多くのアクチュエータからなる分散形マイクロシステムが最適なものであることを提案し、平面搬送システムを例にその制御系と駆動系を検討したもので8章よりなる。

 第1章は「序論」であり、半導体技術で作るマイクロマシンの特徴を生かすシステム構造として、マイクロセルアレイ型並列協調運動システムを提案し、その実現のための課題について論じている。

 第2章は「搬送システムの機能」であり、マイクロセルアレイ型並列協調運動システムの例として平面内の搬送システムを採り上げ、セルが内蔵するセンサ・情報処理回路・アクチュエータを協調的に用いることで得られる機能について論じている。センサアレイからの情報を処理して物体の形状と位置を認識し、多数のアクチュエータの協調運動で物体を望みの位置と方向に合わせる作業が可能なことが示されている。

 第3章は「搬送システムの情報処理制御手法の設計」であり、上記の作業を行うための情報処理システムを、自律分散システムの概念に基づき設計した結果が述べられている。この情報処理システムの動作を、計算機シミュレーシュンにより検証し、動作を確認した。すなわち、分散情報処理により平面物体の求心を行い、これと指定された位置が異なっていれば、分散アクチュエータに指示して位置決めモードのパターンを形成する。さらに、物体の中心と指定位置が一致した後は、回転モードに切り替えて物体の方向を望みの方向に合致させる。また、このシステムは適当な回路の付加により耐故障性も向上させることが可能である事を示した。

 第4章は「搬送システムの情報処理制御手法の実現」であり、第3章で考案した情報処理系のうち、位置決めモードを発生する分散論理を市販のICを組み合わせた回路で実現した結果と、シリコンチップ上に集積化するASIC回路で設計した結果について述べている。

 第5章は「搬送システムの駆動系の設計」であり、上記の搬送機能を持つアクチュエータアレイを設計している。シリコン基板上に開けた多数のマイクロノズルから吹き出る気流の方向を制御し、その気流の上に物体を浮上させながら搬送する仕組みである。静電界、応力場、流体場の解析を行い、適切な動作を行うアクチュエータを設計した。

 第6章は「搬送システムの駆動系の実現」であり、マイクロノズルアレイによる分散アクチュエータを、半導体マイクロマシーニングで製作した。ノズルを2方向に持つ一次元搬送アクチュエータアレイと、ノズルを4方向に持つ二次元搬送アクチュエータアレイの両者を作り、望みの動作パターンを形成し物体を搬送できることを確認している。

 第7章は「搬送システムの制御系・駆動系の統合」であり、第4章と第6章で製作した、制御系と搬送系を統合するための技術について論じている。両者を別々の基板上に作り、制御系基板の上に駆動系基板を積層し、駆動系基板を貫通する配線により電気的接続を行う手法を開発した。この三次元基板貫通配線を行うためのプロセスの実証を行い、駆動系と制御系の統合手法を確立した。

 第8章は「結論」であり、得られた成果が纏められている。

 以上これを要するに、本論文は半導体マイクロマシーニングで作るマイクロマシンの特徴に基づき、これに最適のシステム構造として、センサ・アクチュエータ・情報処理回路からなる多くのセルをアレイ化したマイクロセルアレイ型並列協調運動システムを提案し、実際のマイクロ搬送システムの設計・製作・動作実験を通じてこの提案の有用性を実証的に示したもので、電気工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク